名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様と大事な話

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 ──邪神様と大事な話

 

 

 私たちは海をエンジョイしたのちに、ホテルに戻った。

 

 シャワーを浴びて身を清めると、次は夕食だ。

 

「フォーマルなレストランになるから、ドレスコードはしっかりね」

 

 ドレスコードのあるレストランとか初めてですが、一応侯爵令嬢なのでちゃんと準備してあります。

 

 私たちはあまり派手でない色合いのワンピースに揃って身を包み、男性陣が迎えに来てくれるのを部屋で待った。

 

 それからドアがトントンとノックされ、男性陣が姿を見せる。

 

「お待たせしました。では、行きましょう」

 

 アルブレヒトはフリーダを、レオンハルトはエミリアさんを、そしてフェリクスは一応私をエスコートすることに。

 

 しかし、エスコートされるというのは変な気分です。別に手を握っておいてもらわなくても迷子にはならないし、誰かに襲われるというわけでもないでしょうにと。

 

 しかし、この時代の社交界というのは古い価値観の場ですから、男女がペアなのは当たり前で、ぼっちは社交界に出る権利なしという鬼のような常識がまかり通っている。私も超美少女に転生していなければ死んでいるところだった。

 

「イリス嬢。食事の後で話がある」

 

「は、はい」

 

 なんだろう。これから美味しい料理を思う存分味わうぞ~という気分でいたのに、プレッシャーをかけられてしまった。胃が重たくなる……。

 

 しかし、夕食はとても美味しかったです。

 

 コース料理で前菜からデザートまで綺麗に平らげてしまった。満腹、満腹。我らがエスタシア帝国は自国の料理が、その、いまいちなので、コース料理などは西方の美食の国のそれを模している。ぶっちゃければフレンチだ。

 

 ただ、フォーマルな場ということもあってパートナーであるフェリクスがずっと隣に居るのが困りもの。嫌いじゃないんだけどプレッシャーを受けるのです。

 

 そして、食事が終わると──。

 

「イリス嬢。来てくれ」

 

 そのままフェリクスに連れ出された。

 

 何だよ~。何の用事か先に言っておくれよ~。

 

 私はフェリクスについていくまま、ホテルの外に出て、そのまま砂浜に。今日は夜空に月が輝き、星々が輝き、灯りがいらないくらいにうっすらと明るい。

 

 海はそんな月と星々を映していて、とても綺麗だ。

 

「綺麗だろう?」

 

「ええ。そうですね」

 

「故郷の海はここよりも冷たく、寂れているが、この光景だけは同じだ」

 

 そうか。私がフェリクスの故郷に興味を示していたから、同じような光景を見せに連れて来てくれたのか。意外にいい人、なのでしょうか?

 

「イリス嬢。ひとつ聞かせてくれ」

 

 私が海を眺める中でフェリクスがそう言ってきた。

 

「お前は人間ではない。そうだろう」

 

 それは問いかけと言うよりも、確信を持った言葉であって、確認の意味合いが強かった。もうほとんどフェリクスは私が人間ではないと確信を持っているというわけだ。

 

「ふふ。どうしてそう思われました?」

 

「理由はいろいろとある」

 

 私が冗談を聞いたみたいに笑って返すのにフェリクスは真剣な表情で続ける。

 

「お前からは奇妙な気配をずっと感じていた。あの異端の地下神殿から感じたような、海から流れてきた不気味なものから感じていたような、そんな気配を感じていた。出会ったときからずっと」

 

 フェリクスは続ける。

 

「それに学園内のカルトについて調べたときもだ。あの旧校舎の地下神殿は何かがあった。間違いなく危険な何かが存在していた。私はその記憶を失ったが、お前はあのあとも平然としていた」

 

 わー。記憶が戻りかけているようだ。困った。

 

「それから学生寮の地下神殿を見つけたのも偶然ではない。そうだろう?」

 

 フェリクスはそう問いかけてくる。

 

「もし私が人間でなかったとしたら、どうされますか?」

 

 私はその問いかけに超美少女スマイルを浮かべて尋ね返す。

 

「お前は人間ではないのかもしれない。だが、邪悪な存在だとは思えない。本当に邪悪な存在ならば私たちを襲う機会はいくらでもあった。私たちを始末して、こうして正体を探らせないこともできただろう」

 

 フェリクスはそう語る。

 

「それに、だ。邪悪な存在が友人のためにと行動するはずもない。だろう」

 

「そう思わせるために演技しているだけかもしれませんよ」

 

「そこまで演技ができるようには見えない」

 

 私がごまかそうとするのに、フェリクスはそう言いきった。

 

「さあ、教えてくれ、イリス嬢。お前は人間なのか、そうではないのか」

 

 フェリクスがそう要求してくるが、どう答えたらいいのだろうか……。

 

 実は私、邪神様で~す、と素直に答えるのはリスキーな気がするが、ここまで分かっているのに嘘をついても正体を隠しているのはやはり悪いことをしているのか? と思われそうで。

 

 この場を躱す一番手っ取り早い手段は、フェリクスの脳をこねこねして記憶を完全に消してしまうことだ。だが、私にはどうもその選択肢は選べそうにない。

 

 何だかんだフリーダとアルブレヒトのデートに付き合ってくれたり、悪い人間じゃないのだ。レオンハルトやマリーのときとは事情が違う。悪いのはどちらかと言えば、正体を隠して人間社会に潜入した私の方。

 

「私はイリス。それ以上でもそれ以外でもありませんよ。人間かどうかは、そこまで重要なことでしょうか? 私が私である以上に重要なのでしょうか?」

 

 私は再び超美少女スマイルでそう言った。

 

 嘘は言っていないし、正体を隠しているわけでもない。言い方を考えだけです。

 

「そうだな。重要ではないな」

 

 フェリクスは小さく笑ってそう言い、海の方を眺めた。

 

「イリス嬢。こんなことを尋ねたあとに変な話になるが、聞いてくれるか」

 

「なんでしょう?」

 

「私と付き合ってくれないか」

 

 フェリクスがそういうのに私が大混乱に陥った。

 

「????」

 

「凄い変な顔になってるぞ。確かにこの流れで持ち出す話ではなかったが」

 

「え、ええ。フェリクス様は、その、私が人間ではないと思っていながら、私と付き合いたいと仰っているのですか?」

 

 い、意味が分からない。そういうフェチの人なの? 大混乱なのですけど!

 

「お前が自分で言っただろう。人間かどうかが、イリス嬢がイリス嬢である以上に重要なことなのかと。私はそうではないと思う。イリス嬢が、お前がお前であるならば、私はそれで構わないし、好意を伝えておきたい」

 

「そうですか……」

 

 フェリクスが今までぶっきらぼうだったのは、好きな女の子の前だと恥ずかしくなっちゃう思春期特有の話だったのかな? そう考えると可愛い人です。

 

「フェリクス様。お気持ちは嬉しいのですが、私の本当の姿を見たらきっとその気持ちはすっかり消えてしまいますよ。私は見た目ほど清らかな女というわけではないのです。あなたを落胆させたくはありません」

 

「落胆などしない。どれだけおぞましい化け物であったとしても、今喋っているお前はそれがお前なのだろう?」

 

「フェリクス様……」

 

 そこまで言うのですか。少し心が揺らいできてしまいました……。

 

「本当に、本当に、本当に落胆しませんか?」

 

「しない。受け入れよう」

 

 これは美女と野獣ではなく美男子と邪神って感じです。本当に私の正体を見ても大丈夫なのだとフェリクスは言ってくれるのだろうか?

 

「少しだけ考えさせてください」

 

「ああ。答えは急がない」

 

 私はそう言って砂浜を去った。

 

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