名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様と秘密結社

……………………

 

 ──邪神様と秘密結社

 

 

 この世界が元はゲームであったことを忘れかけていたが、それを思い出すような出来事が起きました。それは夏休みが終わって9月が始まった時のことです。

 

「諸君に転入生を紹介する」

 

 エーミール先生がそう言って紹介したのは、ひとりの小柄な少女。

 

「エリザベス・フォン・エンゲルハルトです」

 

 その少女はプラチナブロンドの髪をミディアムボブに整えており、その人形のようにあどけない顔には真っ赤な瞳が輝いていた。

 

 そんな少女を『おお~! なかなかの美少女だな~!』と私はぼんやりそれを眺めていたが、不意に記憶が蘇ってはっとした。

 

「ま、不味い」

 

 そうだ。思い出した。彼女は危険人物です!

 

「好きな席に座りたまえ、エリザベス嬢」

 

「はい」

 

 そう言われて一番後ろの列に座るエリザベスさん。

 

 ゲームではこの時期になると本来は自殺者や発狂者がさらに増えて、学園がどんよりとしたムードに包まれているのです。主人公のエミリアさんは手掛かりを探すも、なかなか私の正体は掴めず……。

 

 そこに現れるのがエリザベスさん。彼女は秘密結社のエージェントで、一連の事件の黒幕が学園に潜んでいると考えて、この学園にやってきたのです。

 

 そしてエミリアさんとともに私を追い詰め……というのがゲームのストーリー。

 

 というわけで、不味いキャラクターのエントリーです。

 

 ゲームと違って私がそこまで邪神ムーヴしてないため、学園はそこまで暗い雰囲気にはなっていない。ただ、既に発生した自殺者・発狂者はどうにもならないため『私は悪い邪神様じゃないよ』は通用しないです。

 

 カルト調査という点ではエミリアさんも学園調査隊に参加しているけど、まだ背後に何かがあるとまでは気づいてないし、このまま放置していても何も起きないんじゃないかな~などと思う私でした。

 

 だが、そう甘くはなかった。

 

 

 * * * *

 

 

「紹介する。エリザベス嬢だ。既に彼女のことは知っているな」

 

 生徒会室でクラウスがそうエリザベスさんを紹介した。

 

「お前たちだけには教えておく。彼女は秘密政府組織の捜査官だ。この学園に、4月以降頻発する怪事件の原因があるとして、調査に来た。学園内のカルトについて調べている我々の力にもなってくれると言っている。だな?」

 

 クラウスはそうエリザベスさんに確認した。

 

「ええ。我々ローゼンクロイツ協会は今年4月以降に発生した大量の自殺や精神失調の原因が、この学園に存在すると考えています」

 

 エリザベスさんはそう言って私たちを見渡した。

 

 生徒会室にはクラウスやフェリクスと私という政界メンバーの他に、エミリアさんとレオンハルトもいた。学園調査隊が再び結集しているのです。

 

「その根拠は?」

 

「国家憲兵隊から報告を受けていますが、この学園で大規模なカルトの礼拝施設が見つかっています。帝都内でそれらが確認できたのは、今のところはこの学園のみ。そして、あとは……」

 

「あとは?」

 

 フェリクスが尋ねるのにエリザベスさんがゆっくりと答える。

 

「私の長年の勘、というものです」

 

 エリザベスさんはそう言って笑いもせず、無表情に私たちを見渡した。

 

「しかし、長年の勘というが、君は私たちと同年代だろう。そこまでキャリアがあるようには見えないが?」

 

 レオンハルトがそう疑問を呈する。

 

「見た目で人を判断するものではありませんよ、殿下」

 

 そうなのだ。恐らくはエリザベスさんは見た目よりずっと年上です。彼女は魔術師の秘密結社であるローゼンクロイツ協会のエージェントなのですから。

 

 正直、ゲームでも謎が多いローゼンクロイツ協会。彼らは魔術が人道に外れて行使されることのないように監視し、それを破るものを秘密裏に始末するという役割があるようなのです。

 

 私のような邪神絡みの事件もこれまで解決してきており、彼らは今回も諸悪の根源を倒して、帝国と世界に平和をもたらそうとしている、わけなのだと思う。恐らく。

 

「しかし、それでも派遣されてきたのはお前だけなのか、エリザベス嬢?」

 

「いえ。もうひとり協力者が潜伏しております。そろそろこちらに来る頃です」

 

 フェリクスが再び尋ね、エリザベスさんが答えたとき、生徒会室のドアががらがらっと大きな音を立てて開かれた。

 

「よう。少年少女探偵団の拠点はここか?」

 

 そう言って現れたのは黒髪をぼさぼさに伸ばし、学園内なのにタバコを咥えた胡乱な見た目をした20代後半ほどの男性だった。

 

 服装こそ教師に見えるような立派なグレーのスーツ姿だが、着こなしは滅茶苦茶。ネクタイはよじれているし、スーツのボタンもシャツのボタンも開けているしで、完全な不審者にしか見えない。

 

「来ましたか、マティアス。紹介します。我々の協力者であるマティアス・フォン・エーレンベルクです」

 

「よろしくな、ガキども」

 

 エリザベスが何事もないかのように紹介するとマティアスと呼ばれた不審者はタバコの煙をふうっと吐いた。

 

 当然ながら私たちは渋い顔。どう見てもただの不審者である。怪しいカルトを探しに来た人そのものが怪しいのでは話にならないのではという顔をしていた。

 

「ご安心を。彼は魔術のエキスパートとして来てもらっています。社会常識や礼儀作法の教師ではありません」

 

「そういうこった。そう不審者を見るような目で見るなよ、ガキんちょ諸君。ちょっと魔術が好きなだけだったんだが、いくつかの法を犯しちまってな。そのせいでこの若作りババアの組織に捕まっちまっただけだ」

 

 うええ~。怪しい見た目の上に犯罪者~! もっと人材はいなかったのですか~?

 

「調査はいつから?」

 

「すぐにでも。できればあなた方にも協力をお願いしたいと思います。尊敬を集めている生徒であるあなた方とともに行動することは、スムーズな調査を可能にしますので。お願いできますか?」

 

「もちろんだ。俺たちも原因をさっさと見つけ出したい」

 

 エリザベスさんがそう頼むのにクラウスは即答。

 

 まあ、原因が分からないとまた4月のように大量の自殺や自殺未遂が起きちゃいますからね。とは言え、原因は他ならぬ私なのですが……。

 

「では、再び調査開始だ、諸君。エリザベス嬢とマティアス氏に協力してやってくれ」

 

「はい」

 

 クラウスの求めにエミリアさんたちが頷く。

 

「まずは既に発見されているカルトの礼拝施設を調査したいと思います。案内を願えますか?」

 

 調査開始となり、早速エリザベスさんがそう求めた。

 

「私が案内しますよ。レオンハルト殿下も一緒にお願いできますか?」

 

「ああ。エミリア、君のことは私が守る!」

 

「お願いしますね、殿下」

 

 ひとまずエリザベスさんたちはエミリアさんたちと行動することになった。

 

「イリス嬢。少しいいか?」

 

「は、はい」

 

「来てくれ」

 

 そして、私はどういうわけかフェリクスに呼び出された。

 

 だんだんと私を取り囲む人が増えていき、四面楚歌になっていく中、これで大丈夫なのだろうか~? 不安だよ~。

 

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