名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様は交渉する

……………………

 

 ──邪神様は交渉する

 

 

 フェリクスの家で一夜を過ごした私は、次の日にフェリクスとともに学園へ。

 

 一緒に学園に行くので当然同じ馬車で通うことになる。

 

「まあ、見て。イリスさんがフェリクス様と一緒に……!」

 

「ほ、本当だ! 何があったんだろう?」

 

 そして、当然のことながらふたりで一緒に馬車で学園に乗り着ければ噂になります。ひそひそと大勢の生徒たちがささやくのが聞こえてくるようだ。

 

 それは超絶美少女の私とイケメンのフェリクスが一緒の馬車で来ましたらね。『昨日はお楽しみでしたね』と一夜のにゃんにゃんだって疑われてしまうわけですよ。

 

「う、噂になりそうですね……」

 

「私は気にしない。お前も気にするな。やましいことがあるわけじゃないんだ」

 

 気軽に言いやがって~! イケメンの余裕ですか~?

 

「早速だがエリザベス嬢に接触する。クラウスを交えて」

 

「はい。しかし、クラウス様もですか?」

 

「ああ。誰かが仲介しないとな。これは一種の停戦交渉だ」

 

 確かにローゼンクロイツ協会は私が一連の事件の元凶だと追っていて、私はローゼンクロイツ協会が問題視している自殺及び発狂事件の元凶だ。

 

 私とローゼンクロイツ協会が話し合うのは停戦交渉と称して問題ないだろう。

 

 私たちは早速生徒会室へ向かい、そこでエリザベスさんたちと会うことに。だが、その前にクラウスに事情を伝える必要がある。

 

「クラウス。ちょっといいか?」

 

「どーした、フェリクス。えらく改まって?」

 

 クラウスがいつものように生徒会長の椅子に座って尋ねるのにフェリクスがついに私についての事情を伝える。

 

「落ち着いて聞いてくれ。イリス嬢は人間ではない」

 

「……いや。お前こそ落ち着けよ、フェリクス。何があった?」

 

 クラウスは正気を疑うような目でフェリクスと私を見てくる。

 

「彼女は一連の事件に少なからずかかわっている。私たちが見つけたイ=スリ・リス異本は覚えているな? あの本に記されていた邪神イ=スリ・リスこそ、イリス嬢なんだ。そうだな、イリス嬢?」

 

「そういうことになります」

 

 何だか自首したような気分。実際、自首したようなものですけど。

 

「待ってくれ。本当なのか? イリス嬢が邪神だと?」

 

 クラウスは酷く困惑した様子で私とフェリクスの顔を交互に見る。

 

「クソ。なんてこった。イリス嬢、これまで全部分かっていながら俺たちが学園を調査するのを眺めてたのか? そいつはかなり性格悪いぞ」

 

「い、いえいえ! 決してそういうわけでは……! もしかしたら私以外にも原因があるんじゃないかなーって思ってたりしてて、それで……」

 

「まあ、あの時点でイリス嬢が邪神だなんて言われても信じなかっただろうが……」

 

 クラウスは釈然としない様子ながらも怒らないでいてくれた。

 

「クラウス。イリス嬢が全て悪いわけではない。彼女を崇拝するカルトは彼女の意志とは別に動いている。こうしてイリス嬢が協力的な今はそのカルトの方をどうにかしなければいけない」

 

「そうか。カルトは別に行動しているわけか。どうするつもりだ? 国家憲兵隊に報告することもできるが……。いや、それともお前が俺に頼んでいたローゼンクロイツ協会との接触というのが本命の選択肢か?」

 

「そうだ。ローゼンクロイツ協会を頼る」

 

 既にフェリクスはクラウスにローゼンクロイツ協会と接触したいと頼んでいたのです。ただどうして彼らと接触する必要があるかまでは明かしてなかったらしい。

 

「分かった。エリザベス嬢とマティアス先生を呼び出そう。しかし、ことがことだけに用心はしろよ。相手はかなり胡散臭いぞ。特にマティアス先生は調べたが、アドラー探偵社に雇用されていた経歴がある」

 

「傭兵か。確かに用心した方がよさそうだ」

 

 クラウスが警告するのにフェリクスが頷く。

 

「そして、一応確認するがその選択肢にはイリス嬢も納得してるんだな?」

 

 そう言ってクラウスは私の方を見る。

 

「ええ。しています。納得の上です」

 

「それならいいが……」

 

 他に選択肢があるわけでもありませんしね。

 

「では、エリザベス嬢たちを呼び出そう」

 

 

 * * * *

 

 

 それからエリザベスさんとマティアス先生がやってきた。

 

「どうされましたか、クラウスさん?」

 

 生徒会室にやってきたエリザベスさんは、すぐにそうクラウスに尋ねる。

 

「フェリクスとイリス嬢から伝えたいことがある。その前にここでは物騒な行動が起こさないことを約束してもらいたい」

 

「ええ。我々も野蛮人ではありません。暴力は時と場所を選びますよ」

 

「結構だ。フェリクス、イリス嬢。エリザベス嬢たちに伝えるといい」

 

 クラウスはまずエリザベスさんたちが問答無用で殴ってこないことを確かめてから、私たちに真実を告げるように促した。

 

「冗談だと思わないで聞いてくれ。イリス嬢こそが、4月からの事件の引き金になった超常的な存在だと分かった」

 

「……つまり、彼女は神格であり、イ=スリ・リスであると?」

 

「そうなる」

 

 フェリクスがそう告げた次の瞬間、マティアス先生が鋭く私の方を見て、指先で五芒星を描こうとする。フェリクスもそれに反応して魔術を行使できる姿勢に入った。

 

「やめなさい、マティアス。いきなり暴力で応じないと約束したばかりです」

 

「けっ! こいつは殺すしかない相手だぞ。他にどうするんだ? お茶でもしながら話し合えば、こいつが無害になるってか? 今すぐにぶち殺すか、あとでぶち殺すかだ。そして、時間が経てば経つほど被害は拡大する」

 

 エリザベスさんに制止されたマティアス先生は肩をすくめてそう言った。だが、彼の眼には殺気と言うよりも、面倒に巻き込まれたという色の方が濃くある。

 

「イリスさん。我々にその事実を伝えたということは、話し合うつもりがあるということなのですね?」

 

「は、はい。いろいろと事情がありまして、そちらに協力する代わりにカルトからの保護をお願いしたいのですが」

 

「カルトからの保護を……?」

 

 カルトの崇拝対象の邪神様が、崇拝者であるカルトたちから保護してくれとはどういうことだとばかりにエリザベスさんが首を傾げる。

 

 そこで私はカルトの目的について語った。

 

 カルトは私の血を持つ子供を作りたがっており、さらには近親相姦でその血を濃くしたがっているということ。私はそういう行為は絶対にいやだということ。それらをまとめてエリザベスさんたちに伝えた。

 

「なるほど。そうなのですか。確かにイ=スリ・リス信仰は知識の追求と邪神イ=スリ・リスの血を受けることを重視している信仰です。子供を作り、さらにその子供と近親相姦するという要求が出されても不思議ではありません」

 

「イ=スリ・リスは一種の地母神でもあるしな。そして、地母神って産めよ増やせよの神様だ。その神様が子作りが嫌だとはな。はっ。実に笑える」

 

 エリザベスさんがそう言い、マティアス先生は苦笑していた。

 

 けど、やっぱり頭のおかしい狂信者に強制集団にゃんにゃんされるのは嫌だよ~。

 

「だが、どうにも怪しい。人々に狂気を蔓延させるイカレた邪神にしては、お前の反応がまともすぎる。お前は本当にあの伝承で語られてるイ=スリ・リスなのか? 証拠になるものを見せてくれ」

 

 マティアス先生はそう要求してきた。

 

「私としても一応証拠になるものを見ておきたいですが、可能ですか、イリスさん?」

 

 エリザベスさんもそう頼んでくる。

 

「ううーん。一応証拠にはなると思うんですけど……」

 

 私はそう言って手袋を外す。すると人差し指の指先からにゅるりと触手が出てきた。

 

「ほう?」

 

「マジか……」

 

 マティアス先生は興味深そうに触手を見ていたが、クラウスは顔面蒼白だ。

 

「ふん。眷属や召喚生物にしては人間の擬態があまりにもうますぎる。こいつは本当に神格であり、イ=スリ・リスかもな、ベス」

 

「そう考えるべきでしょう。彼女こそがイ=スリ・リスであると」

 

 よかった~。納得してもらえた~。

 

 しかし、問題はここからです。

 

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