名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様と困った話

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 ──邪神様と困った話

 

 

 マリーは警備員さんたちによって、空き教室に連れてこられた。それからマティアス先生が手慣れた様子で取り押さえ、椅子にマリーを縛り付けた。

 

「さあ、やってくれ、イ=スリ・リス」

 

 マティアス先生は私にそう言う。

 

「では、始めますね」

 

 私は手袋を外し、狂犬病の犬みたいに涎を垂らして唸るマリーの両耳に手を置いた。すぐさま触手がうねって、マリーの脳に入り込んだ。それによってマリーが唸るのをやめて、口から短く言葉を吐き始めた。

 

「マリーさん。あなたに起きたことを整理しながら、元に戻していきましょう」

 

「は、は、は、はい……」

 

 マリーは私に呼び掛けに応じる。

 

「まずあなたはどうしてエミリアさんを刺しましたか?」

 

「あ、あ、あの女は殺さなければならなかった! あの女は戸棚の陰に隠れた害虫の群れ! 忌まわしき悪魔! 殺さなければ、殺さなければ! 刺して、引き裂き、八つ裂きにしてしまわなければ!」

 

「落ち着いてください。そのようにあなたに思わせた人がいるはずです。それを思い出してください」

 

「わ、わ、私は、私は……」

 

「思い出して、思い出して」

 

「く、くろ、く、黒髪の少女。あ、あ、あ、赤い瞳をした少女。は、灰色の、外套を羽織っていて……黒いワンピースを着ていた……」

 

 やーっぱりクラウディアさんじゃないですか。あの人はもーっ!

 

「その人の言っていたことは嘘ですよ。エミリアさんは普通の人で、何の害もありません。あなたを傷つけることも、他の人を傷つけることもないんです。だから、彼女には何もしなくていいんですよ」

 

「は、は、はい」

 

「全て忘れてしまいましょう。あなたは今年4月以降の記憶を5秒後に失う。では、カウントを始めますよ」

 

 こういうときはフォーマットしてしまうのが確実だ。

 

「5、4、3、2、1、ゼロ」

 

 私はそうカウントしたのちに触手を脳から引き抜き、マリーの耳から手を外した。

 

「あ、あれ? 私はどうしてここに……? なんで縛られているの……!?」

 

 マリーは先ほどまでの狂犬のような姿が嘘のように目に正気を宿した。

 

「正気に戻ったようですね」

 

「ええ。これでいいですか?」

 

「あとは国家憲兵隊に任せておきましょう。洗脳されていたとしても、彼女が人を刺したという事実は変わりません」

 

 酷い話だ。同情はしないけど。

 

 それから国家憲兵隊がやってきてマリーを連行していった。

 

「私は何もやってない!」

 

 記憶を消したせいでエミリアさんを刺したときの記憶もなくなっており、そのせいでマリーはどうして自分が国家憲兵隊に連行されるのか、最後まで分からない様子だった。

 

「さて、これで容疑者が判明しました。真犯人は魔女協会の協会長クラウディア・フォン・ヴィンターシュタインです」

 

 はい。ご存じの通りでしたね。

 

「そのクラウディアとは何者なんだ?」

 

「古い魔女のひとり。カーマーゼンの魔女と呼ばれる古代の魔女たちの生き残りです。魔女たちの中でももっとも冒涜的で、強力な存在。過去にも様々な事件を引き起こし、我々ローゼンクロイツ協会と敵対してきました」

 

 フェリクスが尋ね、エリザベスさんがそう言う。

 

 あの人、ローゼンクロイツ協会とどんぱちやっていたのか。とんでもない人だな~。

 

「俺はシンプルに尋ねるが、そのクラウディアという魔女と戦うことになるのか? そして、その魔女に勝てるのか?」

 

「その魔女もイ=スリ・リスの信仰者であり、イ=スリ・リス崇拝者のカルトを叩くのであれば、戦うことになるでしょう。勝てるかどうかは、正直に言って分かりません」

 

 今度はクラウスの問いにエリザベスさんが険しい表情でそう答える。

 

「勝てるかって? そいつは間違いなく無理だな。相手は正真正銘の化け物だ。ローゼンクロイツ協会がこれまで全力で相手をしてきたのに、やつがくたばっていないのが何よりの証拠だ」

 

 マティアス先生は皮肉げに笑ってそう言った。

 

「しかし、だ。こっちには人に非ざるものがいる。それがカギになるかもな」

 

 そうマティアス先生が言うと全員が私の方を見る。ええ~?

 

「わ、私が頑張らないとダメです?」

 

「ダメだな。お前の信仰者だぞ。ちょっとは自分で何とかしろよ」

 

 そんなこと言われてもな~。

 

「もちろん、我々も援護します。ですが、クラウディアのような魔女を相手にするならば、あなたの協力が不可欠です、イリスさん」

 

「分かりました……」

 

 エリザベスさんの言われて私は渋々と頷く。

 

「しかし、イリス嬢は戦闘経験、というものがあるのか?」

 

 クラウスがここでもっともな疑問を呈する。

 

「えっとですね。ないわけではないんですよ。学生寮の地下で実はカルトの化け物と戦ったことがあるんです」

 

「ああ。あれはネコを探していたらカルトの拠点を見つけたと言ってたが、やっぱりそうではなかったんだな」

 

「やっぱりというと分かってたんですか?」

 

「ネコを追いかけたらカルトの拠点を見つけたというのは怪しすぎる。そっちこそ気づいていなかったのか?」

 

「はい……」

 

 何ですか~。信じてなかったんですか~?

 

「では、我々は魔女協会の動きを探っておきます。イリスさん、くれぐれも用心を」

 

「ええ」

 

 というわけで、解散した。

 

「イリス」

 

「フリーダ。どうしましたか?」

 

 私たちが生徒会室を出ると、フリーダが外で待っていた。

 

「あのね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど……。イリスは学生寮の地下でカルトと戦ったんだよね?」

 

「その、まあ、そういうことになりますね」

 

「そのときあたしのことを助けてくれたんじゃない?」

 

 フリーダはそう私に尋ねてきた。

 

「ふふ。どうしてそう思ったんですか?」

 

「学生寮の地下でカルトの拠点が発見された日とあたしが学園で倒れた日は同じだし、怪しい司書の女性が姿を消したのもその日。ねえ、教えてくれない? イリスが私のことを助けてくれたんだよね?」

 

 う~む。ここは正直に言うべきでしょうか?

 

「一応、そういうことになります。けど、あまり気にしないでください。大したことではなかったのですから」

 

「でも、お礼を言わなくちゃ。ありがとう、イリス」

 

 いいってことよ~という風に私は超美少女スマイルを浮かべておいた。

 

 しかし、フリーダが全てを思い出していないようでよかったです。人間知らない方がいいこともいっぱいあるのですから。

 

 けど、伝えておかないといけないこともある。

 

「フリーダ。まだ内密にしておいてほしいのですが、私は恐らく12月の金色祭までで学園を辞めると思います」

 

「え!? ど、どうして……?」

 

「いろいろと事情があって、皆さんに迷惑をかけてしまいそうなのです」

 

 驚き、動揺するフリーダに私はゆっくりとそう言った。

 

「そっか……。じゃあ、それまでは楽しく過ごさなきゃね!」

 

 フリーダはすぐに気分を入れ替えて笑顔でそう言ってくれた。

 

「今度、一緒に遊びに行こうか? あ! その前にエミリアのお見舞いに行かないと! 一緒に行こうよ、イリス!」

 

「ええ。一緒にお見舞いに行きましょう。エミリアさんが早く元気になってくれればいいのですが」

 

 こうして私はフリーダとお見舞いに行くことにした。

 

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