名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様とお出かけ

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 ──邪神様とお出かけ

 

 

 私とフリーダは救急搬送されたエミリアさんのお見舞いに向かった。

 

 エミリアさんが搬送されたのは帝都中央病院で、学園からはちょっと離れた位置にある。しかし、私は家出しているので、家の馬車は使えないし、フリーダは学生寮で暮らしているので馬車はない。

 

 というわけで、私たちは乗合馬車で病院まで向かった。

 

 ごとごとと揺れる馬車で30分ほど進めば病院だ。

 

「売店でお花を買ってくるね」

 

「私は面会可能か聞いてきます」

 

 フリーダは病院に併設されている売店に向かい、私は受け付けにエミリアさんの状態を尋ねに向かう。

 

 幸い、私が処置したおかげもあって、エミリアさんの容体は安定しているようであり、今はレオンハルトが付き添っているそうだ。面会もできるということであった。

 

 お花を買ってきたフリーダと私はエミリアさんの病室へ。

 

「エミリア!」

 

「ああ。フリーダにイリスさん!」

 

 私たちが姿を見せると、エミリアさんは笑って迎えてくれた。

 

 病室は個室で、清潔感のある白い壁と白いカーテンがあり、置かれているベッドの上にエミリアさんはいた。

 

「大丈夫? もう痛くはない?」

 

「大丈夫ですよ。無事に傷は縫ってもらったので」

 

「そっか。なら、よかったよ。みんな、心配してたから」

 

 エミリアさんはもう本当に何ともなさそうだった。眷属を使って救急処置を行った私のおかげでもあるでしょう! 同時に私のせいでもありますけど……。

 

「しかし、あのあとマリー嬢はどうなったのかね?」

 

 そこでレオンハルトが私たちにそう尋ねた。彼はエミリアに付き添って病院に行ったから、あのあとのことを知らないのだ。

 

「あのあと国家憲兵隊が来て、彼女は連行されました」

 

「そうか。これは私が招いたことかもしれない。エミリア嬢への真の愛を捧げるに当たって、彼女たちには私のことを諦めてもらわなければならなかったからな……」

 

 レオンハルトはそう悔しそうに言う。

 

「しかし、刺すのならば私を刺せばよかったものを! 何故、エミリアを……!」

 

「殿下。殿下のせいではありませんよ」

 

 いえいえ。エミリアのせいでもないです。大体私のせいです。

 

 レオンハルトの脳をコネコネしたのも私だし、クラウディアさんの知り合いなのも私ですから~。でも、7割ぐらいクラウディアさんが悪いって言っていいですよね? いいですよね?

 

「いつ頃退院できるかは分かる?」

 

「様子を見るのに1週間弱は入院だそうです。深く刺されていたので」

 

「じゃあ、毎日お見舞いに来るよ」

 

「ありがとう、フリーダ、それにイリスさんも」

 

 入院すると寂しくなるからね。私も前世では何度もひとりで入院したことがあるから分かるよ~。

 

「じゃあ、またね、エミリア」

 

「よくなるように祈っています」

 

 フリーダと私はそう言ってエミリアの病室を出た。

 

「エミリア。思ったより酷くなくてよかったね、イリス」

 

「ええ。大丈夫そうで安心しました」

 

 病室を出た私たちはそう言葉を交わしながら病院を出る。

 

「せっかくだから、ちょっと遊んで行かない?」

 

 そこでフリーダがそう提案してきました。

 

「ええ。もちろんいいですよ。けど、どこを見て回りますか?」

 

「本屋さんとか見て回って、それから喫茶店でお茶をして帰ろう」

 

「楽しそうですね!」

 

 前に街に出たときはダブルデートだったので、フリーダはアルブレヒトと私はフェリクス一緒に回っていたけれど、今回はふたりで回れる。

 

「じゃあ、行こう。こっちだよ」

 

「はい」

 

 私はフリーダについて回って、帝都のお店を覗いていく。

 

 最初はやはり本屋さんで、前の本屋とは別の本屋でフリーダと一緒に本を見て回った。さほど大きくはない本屋さんだが、品揃えは充実している。

 

「この本、最近の流行りなんだよ。イリスはもう読んだ?」

 

「いえ。まだです。こっちの本なら読んだのですが」

 

 フリーダが一冊の本を取って尋ねるのに私はもう既に読んだ本を指した。フリーダが示したのは恋愛の本で、私が指さしたのは冒険物語だ。

 

「それならあたしからこれをプレゼントするね」

 

「なら、私はこれをフリーダに贈りますよ」

 

 おおー。友達とプレゼントを交換し合うなんて実に青春だな~! こういうことをやってみたかったんですよ~! 満足、満足~。

 

 私たちはそれぞれの本をラッピングしてもらい、書店の外で交換した。

 

「ありがとう、イリス」

 

「こちらこそありがとうございます、フリーダ」

 

 そんな青春の一幕を経たのちに私たちが次に向かったのは文房具屋さん。

 

「この万年筆、評判がいいんだよ」

 

「ほうほう。見た目もカッコいいですね!」

 

 流石は文芸部員ということもあって、フリーダは文房具の知識が豊富だった。私は彼女のアドバイスでいくつかのペンや鉛筆、消しゴムなどを新調した。

 

 フリーダ自身も次の作品発表に備えて万年筆を買っていた。

 

 私たちはそれからアクセサリーなども購入し、物欲を満足させると、フリーダがおすすめするお洒落な喫茶店に入った。

 

「このお店のコーヒーは美味しいんだよ。イリスはコーヒーはよく飲む?」

 

「あまり飲みませんね。女性は紅茶を飲むものという暗黙の了解がある気がして」

 

「そうだよね。けど、たまにはコーヒーもいいものだよ。それからこのお店のレアチーズケーキは絶対に食べるべし。頼んでおくね」

 

「はい」

 

 ラジオから静かなクラシック音楽が流れる喫茶店。とてもいい感じです。

 

「……イリスは12月の金色祭には出るんだよね?」

 

「ええ。そのつもりです。最後の思い出作りに、と」

 

「そっか。楽しめるといいね。あたしも金色祭は楽しみだから。金色祭ではダンスパーティがあって、もうアルブレヒト様と一緒に踊るって決めてるんだ」

 

「そういうのもあるのですか」

 

「むしろ、それが目玉だよ」

 

 いやあ。そう言われても、私ダンスなんてできないですし……。

 

「ねえ。12月の金色祭が終わったら、イリスはどこに行くの?」

 

「そうですね。帝都は離れることになるかと思います。今はまだ具体的に決まっているわけではないのです」

 

「なら、どこかに行くのはやめて、ここに残ることは絶対にできないの?」

 

「それだけは無理そうですね……。私もいろいろと問題を抱えていまして」

 

 私だって友達ができた学園を離れたくはないが、そういうわけにもいかないのだ。もう既にローゼンクロイツ協会には私が邪神様であることを明かしているし、4月の事件では大勢の発狂者が出ている。それとカルトの問題もある。

 

 私が人口密集地である帝都に留まり続けるのはリスクでしかない。

 

「……せっかくイリスと仲良くなれたのに、もうお別れだなんて……」

 

 そう言うフリーダは表情を暗くして、目には涙を浮かべていた。

 

「すみません。突然こんなことになってしまって。だけど、こうするしかないんです。私もできれば学園に通い続けたかったのですが、それが許される環境ではなくなってしまい、やむなく……」

 

「分かってるよ。イリスにいろいろと事情があることも。イリスには不思議な力があって、そのせいで帝都を離れないといけないんでしょう?」

 

「そうですね。そういうことになります」

 

 フリーダは理解してくれているが、理解はしても納得はできないという様子だった。

 

「だけど、それでもイリスがいなくなったら寂しくなるよ……。まだ一緒にやりたいことだっていっぱいあったのに……」

 

「フリーダ……」

 

 涙を拭うフリーダの、彼女の手を私はそっと握った。

 

 本当に学園生活を続けたかったなあ……。

 

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