名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様、絡まれる

……………………

 

 ──邪神様、絡まれる

 

 

 金色祭が1日、1日と近づいてきています。

 

「金色祭で交換するプレゼントを準備しないといけないね」

 

 そして、ある日フリーダがそう言った。

 

「そうですね。私もフリーダたちに贈るプレゼントを準備しないとです」

 

「今度の週末一緒に買いに行こうか?」

 

「いいですね!」

 

 クリスマスに友達とプレゼントを交換するなんて楽しみですよ~。この手の行事は前世では全く縁がなかったのもので……ぐすん……。

 

 私が大親友のフリーダとそんな予定を立てながら過ごし、またいつものように生徒会室に向かっていたときである。

 

「よう、イリス嬢。それともイ=スリ・リスって呼んだ方がいいのかね」

 

「マティアス先生。イリスで結構ですよ」

 

 マティアス先生だ。この人、見るからにガラが悪いから苦手なんだよな~。

 

「見るからに邪悪な神格なんかじゃございませんって澄ました顔してるもんな。ええ? ()()()()()はそんなに楽しいか?」

 

 マティアス先生はそういって嘲るように笑いながら私に近づいてきた。

 

「何か仰りたいことでも?」

 

「ああ。お前みたいな化け物が、人間面してうろついているのは気に入らない。化け物ならもっと化け物らしくしたらどうだ? それとも人間の振りをして周りを誑かすってのがお前の狙いか?」

 

「そんなつもりはありませんよ。ただ私も人間と同じように生きたいだけです。学園生活を経験して、友達を作って……」

 

「はん。それが気持ち悪いって言ってるんだよ」

 

 マティアス先生はいつの間にか私を壁際に追い詰めて、加えていたタバコの煙を私の顔に向けて吐きかける。けほっと私は煙たくて小さく咳をした。

 

「存在するだけで危険な化け物が人間の振りをしている。俺たちからすれば身長10メートルの気味の悪い害虫が、人間の言葉を話して、人間のやるようなことをしているようなものだ。おぞましいったらありゃしない」

 

 そう言い本当に不快そうに私を見下ろすマティアス先生。

 

「もっと醜い化け物らしくしろよ、神格」

 

 マティアス先生はそう言って私の方を睨む。

 

「残念ですが、ご期待に添えそうにはありませんね」

 

「そうかい。どうすればその化けの皮をはがせるんだろうな? 多少、痛めつければ本性を剥き出しにするのか?」

 

 そこでマティアス先生がサディスティックな笑みを浮かべた。

 

「……警告しますが、やめておいた方がいいですよ。私も自衛のためならば()()()()()をやめて、化け物としての力を使うつもりですから」

 

「やってみろよ」

 

 そういうとマティアス先生は右手に握っていたタバコを捨てて、右手に炎を浮かべると私の方に近づけてきた。

 

 邪神様である私はこの程度の炎で死にはしないが、一応痛くはあるだろう。それに炎で焼かれれば制服はダメになってしまう。

 

 どうにかしないとと思い、私が手袋を外そうとしたときだ。

 

「何をしている!」

 

 声が響いた。この声はフェリクスだ。

 

「おやおや。白馬に乗った王子様のご登場か? ええ?」

 

「マティアス先生。見損なったぞ。あなたは大人としての自覚はないのか?」

 

 マティアス先生が茶化すのにフェリクスが今にもマティアス先生を殺さんばかりに睨みつけて、そう言い放つ。

 

「そっちこそ流石はこんな化け物に惚れてるだけはある残念な脳みそをしているな、ガキんちょ。俺がこいつの醜い本性を暴いても、まだこいつに惚れていられるか、楽しみじゃないか」

 

「黙れ。イリス嬢から離れろ。今すぐに」

 

「王子様気取りなら剣でも抜いたらどうだ?」

 

 フェリクスが言うのにマティアス先生はそう言って嘲る。

 

「そちらがそのつもりなら」

 

 フェリクスは次の瞬間、マティアス先生を殴り倒した!

 

「やるじゃねえか、クソガキ!」

 

 しかし、マティアス先生の方もフェリクスの腹部に拳を叩き込んだ!?

 

 そしてからは殴り合いである。フェリクスとマティアス先生がお互いをぶん殴って、血まで流れ始めた~! もう滅茶苦茶だ~!

 

「ちょ、ちょっと! やめてください! ふたりとも何してるんですか!?」

 

 私が慌てて止めようとするが、ふたりは止まらない。

 

「マティアス! 何をしているのですか!」

 

 そこでエリザベスさんがやってきてマティアスに向けて言葉を放った。

 

「このクソガキに社会常識ってやつを教育してやってるだけだ」

 

「やめなさい。すぐに」

 

「はいはい」

 

 マティアス先生はそう言って肩をすくめると、エリザベスさんの方に向かった。

 

「じゃあな、クソガキ。夢見るのもいい加減にしておけよ」

 

 そう吐き捨ててマティアス先生はエリザベスさんと去っていく。

 

「大丈夫ですか、フェリクス様」

 

「ああ。大丈夫だ」

 

「しかし、血が……」

 

 フェリクスは唇を切って血が流れている。

 

「気にするな。それより何もされなかったか?」

 

「え、ええ。私は何もされていませんよ。ですが、フェリクス様は一応救護室に行きましょう?」

 

「そうだな」

 

 マティアス先生も殴られてたけど、やっぱり成人男性の方が腕力はデカい。フェリクスは思った以上にぼこぼこにされてしまっています。

 

 でも、私を庇ってくれたと思うと感謝しかなかった。

 

 私はフェリクスを救護室に連れていき、校医の先生は切れた唇などを消毒して手当てしてくれた。ガーゼや包帯が巻かれたフェリクスはちょっと痛々しい。

 

「まだ前に渡した魔道具は持っているな?」

 

「はい。お返しした方がいいでしょうか?」

 

「いや。そのまま持っていてくれ。そして、何かあれば遠慮なく使え」

 

「は、はい」

 

 フェリクスはそう言って立ち去っていた。

 

 よし。じゃあ、今度マティアス先生に絡まれたら遠慮なく鳴らそう。あの人は正直、とても苦手です!

 

 

 * * * *

 

 

 クラウスは金色祭前の仕事を片付けるために生徒会室にいたとき、フェリクスが部屋に戻ってきた。

 

「おい。どうした、フェリクス? その顔は……」

 

「マティアス先生と殴り合った」

 

 包帯を巻き、青あざも付けたフェリクスの顔を見てクラウスが目を開き驚くのに、フェリクスはそう平然と言った。

 

「殴り合った? どうして?」

 

「イリス嬢に手を出そうとしていたからだ。それだけだ」

 

「はあ……。優等生だったお前が殴り合いまでするようになるとはな」

 

 クラウスは何だか感じ入った様子でそう呟く。

 

「優等生だったつもりはないが」

 

「嘘つけよ。公爵の期待に応えようと必死だったろ。そのときの生きにくそうなお前からすると、今のお前はよっぽどいいよ」

 

「そういうお前は何か変わったのか?」

 

「俺は俺さ。政治家になり、やがては親父のあとに帝国宰相になる男。それは変わらん。はははっ!」

 

「お前の方がよっぽど生きやすそうだ」

 

 クラウスが笑うのにフェリクスも苦笑した。

 

「それよりまだ本気なのか。イリス嬢の件。あれだけやめろって言われたのに」

 

「……私も私だからな」

 

「そうか。じゃあ、周りがどう言おうと俺はお前を応援する。それが友情ってやつだ」

 

「ありがとう、クラウス」

 

 クラウスの頼もしい言葉にフェリクスは小さな笑みを浮かべて頷いた。

 

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