名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様と友人たち

……………………

 

 ──邪神様と友人たち

 

 

「イリス。気にしないで」

 

 頭を下げる私にそう言うのはフリーダだ。

 

「イリスには前に助けてもらった恩があるしさ。イリスのことを迷惑だなんて思わないよ。イリスが何であれあたしたちは友達。でしょ?」

 

「フリーダ……」

 

 フリーダがにこやかに笑ってそう言ってくれた。

 

「そうですよ。イリスさんは、その、人間ではないかもしれませんが、下手な人間よりよっぽど人間らしいです! 気にしたりしませんよ!」

 

「エミリアさんも……」

 

 うう。今世では友達に恵まれたなあ、私。

 

「俺もイリス嬢のことを迷惑だなどとは思いはしない。イリス嬢は悪意があってやっているわけではないと信じているからな」

 

「うむ! 私もそう思うぞ。イリス嬢から悪意は感じられない」

 

 クラウスとレオンハルトもそう言ってくれる。

 

「ともあれ、魔女には備えなければならない。エリザベス嬢、何か手はないのか?」

 

 しかし、と言う具合にクラウスがエリザベスさんにそう尋ねる。

 

「ローゼンクロイツ協会としても魔女と正面から戦うのは得策ではありません。関係する人間にはこれから国家憲兵隊の護衛を付けますので、それで魔女たちの動きを把握することが先決です」

 

「分かった。ここにいる人間は何かしら政治的地位にある人間の関係者だ。それがカバーストーリーにはなるだろう」

 

「ええ。他についても犯罪に巻き込まれる恐れありとして、表向きの理由は伏せておきます。今は魔女だ、神格だと騒いでことを大げさにしたくありませんので」

 

 確かに魔女とか邪神様とかそういうのが公に騒がれるようになると大変だ。具体的にいうと私が大変です。これまでの事件の元凶として司法に追われる身になってしまう。牢屋で臭い飯は食べたくないよ~。

 

「あの、私がさっき話した事件で知ったお守りも試してみませんか?」

 

 そこでエミリアさんがそう提案。

 

「お守り、ですか」

 

「はい。これがあったおかげで私はまだ生きているのだと思いますから」

 

「ふむ。見せていただけますか?」

 

「どうぞ」

 

 そう言ってエミリアさんがエリザベスさんに首にかけていたお守りを見せる。

 

「これは何かの紋様……? しかし、このパターンは私も見たことがありません。マティアス、これに見覚えはありませんか?」

 

「いいや。ねえな。しかし、何やらまともなものではなさそうだ。完全に効果がないお守りってわけでもなさそうだぞ」

 

「そうですか。では、これも頼ってみましょう」

 

 お守りには何やら意味不明な紋様が刻まれていた。私にも分かりません。

 

「改めて言いますが、各自用心されてください。魔女は神出鬼没です。可能な限りひとりにならないようにし、怪しく思ったときは護衛に当たる国家憲兵の将兵に報告を。ここにいる誰もが犠牲にならないことを望んでいます」

 

 エリザベスさんはそう言ってこの場を閉めた。

 

 それから私たちは解散となったものの、エリザベスさんの言葉もあって、すぐには別々にならず一緒に行動することにした。フリーダは私と一緒に教室に戻ると言って、一緒に廊下を進む。

 

「ねえ、イリス。フェリクス様はいつからイリスの正体を知っていたの?」

 

「えっと。あのフリーダの実家のホテルに泊まった日です」

 

「あの日!? フェリクス様に告白された日じゃん!」

 

「え、ええ。実は正体を前から感づかれていたみたいでして」

 

「そうかー。フェリクス様はイリスの正体を知ったうえで、イリスに愛を伝えたのか。それって凄くロマンチックじゃない?」

 

「そうでしょうか?」

 

「そうだよ、そうだよ。自分の愛する人がたとえ人間じゃなくても愛せるなんて、よっぽどのことがないとありえないよ。イリスはとても愛されているんだね。ちょっと羨ましくなるぐらいだな」

 

 確かに私は化け物で、人間に非ざる生命なのにフェリクスが気にしないというのは、とても凄いことのような気がします。

 

「でも、イリスはフェリクス様の思いには応えられないんだよね?」

 

「そうなりますね。私はもう存在するだけで害をまき散らす、迷惑な存在だと分かってしまいましたから……」

 

 私も能力がコントロールできれば、もっと長く学園にいられたんでしょうけど。

 

「あたしはさっきも言ったけどイリスのことを迷惑だなんて思わないよ。フェリクス様も同じじゃないかな?」

 

「いえ。他でもなく私自身が私を迷惑な存在だと思っています。だから、他の人に我慢してもらうようなことはしたくないのです」

 

 自殺者や発狂者が出たのも、カルトが事件を起こしたのも、クラウディアさんが良からぬことを企んでいるのも、元を正せば私のせいだ。これ以上、みんなの親切心に甘えて、ここにいつづけることはできない。私自身がそれを認められない。

 

「それがイリスの意志なんだね」

 

「はい」

 

 これは私の意志で、私が決めたこと。

 

「でも、本当にフェリクス様に思いを伝えなくて大丈夫? あとになって後悔したりしない? 気持ちを伝えるだけなら、帝都を離れる前にもできるでしょ?」

 

「私の気持ちを伝える、ですか」

 

「そう。後悔がないようにね」

 

 私の気持ちですか……。

 

 それはフェリクスに助けてもらったことはたくさんあるし、フェリクスと危険な冒険をしたことも楽しかった。今思えば彼はこれまでできた友人として、とてもいい人だったと思う。

 

 恋人にはなれないかもしれないけど、友人としてならこれからもずっと仲良くしていたかったというのが私の気持ちです。

 

「そうですね。伝えるべきかもしれません」

 

「うんうん。応援するよ、イリス!」

 

 フリーダも最高の友人だ。今世では私は友人に恵まれたな~。

 

 それだけにそれらを全て捨てて、この帝都から出ていかなければならないというのは、ちょっと辛いです。いや、かなり辛いです……。

 

「イリス。泣きそうな顔をしているけど、大丈夫……?」

 

「はい。大丈夫ですよ。ちょっとこれからのことを思うと心配でして」

 

「そっか。イリスがどこに行っても私たちは友人だからね。これから辛いことがあったときはそれを思い出して」

 

「ありがとう、フリーダ」

 

 フリーダの友情が今は嬉しいです。

 

「フリーダはアルブレヒト様と最近どうなのですか?」

 

「ばっちりだよ。今度発表する作品についても感想を言い合ったりしてるしね。あたしたち文芸部は次の週に帝国青年文化祭に作品を出すんだ」

 

「ああ。そうでしたね。予算会議でもそんな話をしていました」

 

「そうそう。入賞出来たらいいなって思ってるんだ。自信作だから!」

 

「いいですね。私も応援しますよ」

 

「それなら、今度文芸部に来てくれる? 感想を言ってほしい作品がいろいろあるんだ。今は文芸部員の数が減ってて、感想を述べ合うのも低調な感じでさ……」

 

「ぜひ読ませてください。いつ行けばいいですか?」

 

「今日の放課後でもいいよ」

 

「では、今日の放課後に伺いますね」

 

「うん!」

 

 12月までは私もまだ学園にいられるし、楽しい楽しい()()()()()を続けられる。人類の敵ではなく、みんなの友人でいられる。

 

 しかし、12月が終わったあと、私はどうなるんだろう?

 

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