名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様、小説を読む

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 ──邪神様、小説を読む

 

 

 フリーダに誘われたので、放課後に文芸部を覗いてみることにした。

 

「失礼します」

 

「あ。イリス! 来てくれたんだね!」

 

 私がドアをノックしたのちに文芸部の部室に顔を出すと、フリーダがぱあっと明るい笑顔を浮かべて出迎えてくれた。

 

「ええ。約束しましたから。しかし……」

 

 文芸部の部室はその広さの割に人がいない。がらんとしている。

 

「分かってるよ。人が少ないって思ったんでしょ?」

 

「ええ。ここまで深刻だったとは思いもせず……」

 

「仕方ないよ。何人かは復学の予定はあるみたいだけど、ね」

 

 う~ん。これって半分以上は私のせいですし、責任を感じる。

 

「それより読んでほしいものがいくつもあるんだ。来て、来て!」

 

 フリーダに連れられて私は部室の中にある大きなテーブルの前に腰かけた。

 

「これ、今度の帝国青年文化祭に出す作品だよ。読んでみてくれる? 感想も言ってくれると嬉しいな!」

 

「はい。まずはフリーダの作品が読みたいですね」

 

「それならこれだよ」

 

 私が言うのにフリーダが一冊の冊子を渡してきた。

 

 タイトルは『カタリナの夢の中の冒険』とあり、表紙にはそのカタリナと思しき女性のイラストがある。おお、本格的だ~。

 

 私は冊子をめくって読み始めた。

 

 ほうほう。内容はカタリナという女性が夢の世界を冒険するものらしい。夢の中には幻想的な光景が広がっていて、さらには月に自由にいくこともできるとある。そんな世界で起きる不思議な事件を解決ながら旅をする物語だった。5万字程度の中編だ。

 

 私はじっくりと読みふけってしまった。

 

「面白いですよ、フリーダ。私たちが見たことのない世界を見事に描写していますね。今にも夢の中の世界が浮かんでくるようでした。こんな世界があったらわたしも行ってみたいです!」

 

「ありがとう、イリス。情景描写には力を入れたから、伝わってよかった!」

 

 夢の世界は幻想的で、美しくもあり、同時に危険でもあった。それが見事に描写されていて、そこで起きることが現実の出来事のように感じられるいい作品でしたね。

 

「他にはありますか?」

 

「こっちは他の部員の人が書いた作品で、ちょっと個性的だよ」

 

「ふむふむ」

 

 私は次に渡された冊子を開く。

 

 

 * * * *

 

 

 *文芸部員の作品

 

 

 空に煌めく星々は、ただ美しいだけ光ではない。その星々は確かに存在して、そこには何かが存在しているのだ。

 

 私は夜空の星々を見るたびに我々の知る世界はちっぽけだと思わされる。私たちは知的生命体としてこの世界の全てを知っているように振る舞うが、実際のところは私たちは視野狭窄で、矮小な価値観しか持ち合わせていないのだ。

 

 私は空想する。もしも、この世界に我々より遥かに高度な存在がいたとしたら? その存在から我々はどう見えるだろうか、と。

 

 それは我々が太古に栄え、そして滅んだ文明を見るようなものになるだろうか。奴隷制を支持し、専制君主による圧政が行われ、暴力こそが全てであった時代を見るようなものとなるであろうか?

 

 いいや。恐らくは違うであろう。

 

 本当に高度な文明が存在するとすれば、我々の存在は知的生命とすら見られないかもしれない。単純な知性しか有さない、下等な生き物に見えるかもしれない。それこそ我々が動物や虫を見て、彼らがどれだけ愚かかを感じるように。

 

 もし、そんな存在がいたとすれば、彼らから慈悲を与えられるだろうか? 彼らが我々を知性ある存在であり、貴重な存在だとみなさなければ?

 

 そうなれば我々がネズミや害虫を駆除するように、我々も駆除されるのではないか?

 

 星空を見上げてこのような不安を抱くのは、少数の人間だけであろうが、我々はただ空を美しいと思うだけではあってならないのだ。

 

 美しいものの陰に潜む、冒涜的な存在を知らなければならないのだ。

 

 

 文芸部作品『星空を見上げて』より。

 

 

 * * * *

 

 

「ど、独特ですね……」

 

 何というかこれまで見てきた発狂した人の手記みたいです。怖い!

 

「一応エッセイなんだけど、エッセイっていう割には体験した話じゃないし。微妙だよね。けど、体調不良から回復して凄く熱心に書いてたから、アルブレヒト様がこの作品も提出しようって決めたんだ」

 

「そうだったのですか」

 

 この作者の人も私の影響で悪夢を見たのではとちょっと心配になった。

 

「そのアルブレヒト様はどのような作品を?」

 

「アルブレヒト様の作品は、これ!」

 

 そして、フリーダからアルブレヒト様の作品が渡された。

 

 タイトルは『幻獣たちの楽園』とある。表紙には前世でゲームやアニメなどで見たグリフォンのシルエットだ。

 

 さっそく読んでみると、これがなかなか面白い。

 

 内容はグリフォンなどの幻獣たちが暮らす未知の大陸を冒険する話で、全く未知であるはずの世界が実現するかのように生き生きと描かれている。幻獣の生態系も実によく練られており『おお!』と感動させられた。

 

「凄いですね、これは。そして、フリーダがアルブレヒト様と気が合う理由もわかりました。お互いに人々が全く体験したことがないはずの幻想を、真に迫って描ける。あるいはそういう作品を好んでいるからですね」

 

「そうなんだよ。イリスには分かってもらえると思ってた!」

 

「当たってよかったです」

 

 前々からフリーダはアルブレヒトと感性が合うって言ってましたもんね。実際にフリーダとアルブレヒトの作品を読んで、彼女たちが好む作品の傾向ってものが分かった気がします。

 

「私もこういう幻想的な作品を書くことができたらいいのですが」

 

「イリスも挑戦してみなよ。きっとイリスだって何かが書けるよ」

 

「う~ん」

 

 どうなんでしょう? 小説なんて一度も書いたことがないので挑戦してみたくはあるのですが、やっぱり難しそうで。

 

「おや? イリス嬢?」

 

 と、ここでアルブレヒトが姿を見せた。

 

「お邪魔しております、アルブレヒト様」

 

「見学ですか?」

 

「フリーダに誘われて、文芸部の方の作品を読ませていただいていました」

 

「ああ。それはありがたいことです。やはり感想がなければなりませんから」

 

 私がそういうとアルブレヒトは嬉しそうに笑った。

 

「どの作品が気に入られました?」

 

「私はフリーダの作品ですね。夢の世界の景色が思い浮かぶようで。アルブレヒト様の作品にも感動しましたよ」

 

「そうですね。フリーダ嬢の情景描写は素晴らしいと僕も思います」

 

 私の感想にアルブレヒトも頷いていた。

 

「今日はありがとうね、イリス。まだ12月まで時間はあるからいつでも遊びに来てくれていいよ!」

 

「12月まで?」

 

 フリーダが言うのに事情を知らないアルブレヒトが首を傾げる。

 

「12月の金色祭までで私は学園を辞めることになっていまして」

 

「そうだったのですか……。残念です。フリーダ嬢からはとても仲がいいと聞いていましたから」

 

「私も残念です」

 

 いろいろやりたいこともあったんだけどな~。

 

「フリーダ嬢。思い出の品というわけではありませんが、前の部誌をプレゼントしてはどうでしょう?」

 

「いいですね! イリス、前に発行した部誌を上げるね。あたしの作品も載っているから、よければ読んで!」

 

 そう言ってフリーダは本棚から一冊の本を取り出して渡してくれた。

 

「ありがとうございます、フリーダ、アルブレヒト様。それでは」

 

 私もフリーダみたいなファンタジーが書いてみたいな~。

 

 ……いや、私の今の人生がファンタジーそのものでは……?

 

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