名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様と政治家

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 ──邪神様と政治家

 

 

「イリス嬢、フェリクス。今週末、暇か?」

 

 クラウスが生徒会室でそのように尋ねてきたのは、フリーダたちの作品を読ませてもらった次の日のことであった。

 

「特に予定はないが」

 

「ええ。空いていますよ」

 

 なんだろう? どこかに遊びに行くお誘いかな?

 

「迷惑な話かもしれないが、今度親父がパーティを開くんだ。俺を議員たちにしっかりと紹介しておくことも兼ねてな。そこで、親父が学園で世話になっている友人を招待しろと言っている。できたらふたりにはパーティに参加してほしい」

 

 クラウスはそう頼んできた。

 

「政治家のパーティか……。私はいいのだが、イリス嬢は招待して大丈夫なのか?」

 

 そうである。既に人間ではなく、異端の邪神様であることが分かっており、さらには4月以降の発狂事件にもかかわっている私を政治家というVIPが集まるパーティに招いて、本当にいいのかい?

 

「イリス嬢だって悪意があって周囲の人間を発狂させたわけじゃないんだろう? それにお前のパートナーじゃないか。パートナーなしでフォーマルなパーティにでるわけにはいかないだろう。多少のリスクには目をつぶるさ」

 

 俺に有力者の友達がおらず、人望がないと思われるよりマシとクラウス。

 

「それならいいが。イリス嬢、どうする?」

 

「クラウス様にはお世話になっていますし、参加させていただけるなら、ぜひ」

 

「では、私も出席しよう」

 

 私とフェリクスはそれぞれそう言う。

 

「ありがとう! では、招待状を渡しておくから、忘れずに来てくれよ」

 

 クラウスから私たちは招待状を受け取り、クラウスの父アレクサンダーのパーティに出席することになった。

 

 

 * * * *

 

 

 パーティ当日。

 

 私とフェリクスはばっちりフォーマルな恰好に整えて、クラウスに招かれたパーティ会場へとやってきた。そこは帝都にある高級ホテルで、今日は何台もの馬車や車が停められている。

 

 私たちもシュタルクブルク公爵家の馬車で会場を訪れた。

 

「ようこそ、フェリクス・フォン・シュタルクブルク様、イリス・ツー・ラウエンシュタイン様。どうぞこちらへ」

 

 受付で招待状を見せると私たちはホテルの大きなレセプションルームに通される。既にそこでは大勢の人々が談笑に興じていた。

 

「フェリクス、イリス嬢!」

 

「クラウス様」

 

 そこでクラウスが私たちを出迎えにやってきました。

 

「よく来てくれた。早速親父を紹介しよう。来てくれ」

 

 私たちはそういうクラウスに案内されて帝国宰相アレクサンダー閣下のところへ。

 

「父上。友人のフェリクス・フォン・シュタルクブルクとイリス・ツー・ラウエンシュタインです」

 

 そのようにクラウスが紹介した相手は立派なカイゼル髭を生やした初老の男性だった。人のよさそうな顔立ちをしており、私たちがクラウスによって紹介されると、にっとワイルドに笑って見せる。

 

「初めまして、フェリクス君、イリス君。アレクサンダーだ」

 

「初めまして、閣下」

 

 私とフェリクスは頭を下げ、それからアレクサンダー閣下と握手した。

 

「君たちは同じ生徒会の仲間だと聞いている。有能な仲間だと常々。しかし、うちの倅はちゃんと会長が務まっているかね?」

 

 それからアレクサンダー閣下はそう尋ねてくる。

 

「はい。クラウス様は素晴らしい会長ですよ。物事をまとめる能力に長けていますし、いつもみんなを導くリーダーシップを発揮されております」

 

「クラウスは人を使うのが上手な人間ですよ」

 

 私とフェリクスは苦笑しながらもそう述べた。

 

「ははっ! 人を使うのが上手いか。それはいい。いい政治家になるだろう」

 

 そう言えば政治家なら人を使えという教えをクラウスに与えていたのは、このアレクサンダー閣下でしたね~。政治家ってそんなので本当にいいのかい~?

 

「うちのクラウスには私のあとを継いでもらわなければならない。そのためには友人が大勢必要だ。シュタルクブルク公爵家やラウエンシュタイン侯爵家のような有力な家と結びつくのは大事だろう。未だに家柄というのは無視できない力がある」

 

 シャンパンを片手にそうアレクサンダー閣下は述べた。

 

 確かに貴族の力はどんどん減っているけれど、未だに貴族というのは尊敬の対象で、爵位と言うのは社交界では無視できないステータスです。将来、クラウスが政治家になるなら、爵位のある友人はいくらいても困らないでしょう。

 

「もちろん我々は他人から借りてばかりではない。ちゃんと借りは返す。君たちが将来クラウスの力になってくれれば、クラウスは必ず借りを返すだろう」

 

「ああ。俺も政治家を目指す以上、貸し借りの取引は覚えておくつもりだ」

 

 アレクサンダー閣下とクラウスがそれぞれそう言う。似たもの親子ですね~。

 

「閣下」

 

 と、ここでスーツの男性がやってきてアレクサンダー閣下に耳打ちする。

 

「おっと。そろそろ私はいかなければ。パーティを楽しんでいってくれ」

 

 そう言って足早にアレクサンダー閣下は去った。

 

「何といいますか、クラウス様は本当にお父様似なのですね」

 

「ああ。影響は受けている。昔からな」

 

 私がそう感想を述べるのに、クラウスはにやりと笑っていた。

 

「昔から頼りがいのあるいい親父だった。何度もああいう大人になりたいと思わされたものさ。だから、もっと親父から学べることは学んでおきたい」

 

 そういうクラウスは本当に強い憧れを持っている表情をしていた。

 

「それから今日のパーティで紹介したい人がいる。フェリクスはもう知ってるだろうが、イリス嬢は初めて知るはずだ」

 

 そう言ってクラウスはある人物を私たちに紹介した。

 

「アーデルハイド・ツー・オルデンシュタイン嬢だ。俺の婚約者になる」

 

 そう言って紹介されたのは私たちより2、3歳ほど年上の綺麗な女性だった。彼女はクラウスに紹介されるとにこりと微笑み、私たちに頭を下げたので、私とフェリクスも自己紹介したのちにお辞儀を返す。

 

「クラウス様に婚約者がいらっしゃるとは噂で聞いていましたが、お会いするのは初めてですね」

 

「ええ。初めまして、イリスさん。あなたの噂も常々クラウスから聞いていますよ。フェリクス様ととても仲が良いとか。おふたりもご婚約などを?」

 

「い、い、いえいえ! そのようなことはない、です、はい」

 

「そうだったのですか。失礼を」

 

 ちょっと強く否定しすぎたのか、謝られてしまった。フェリクスも何だか悲しげな顔をしている。ちょっと不味いです。

 

「婚約者ではありませんが、フェリクス様にはとても親切にしていただいており、仲良くさせていただいております」

 

 すかさずフォローです。

 

「アーデルハイド。イリス嬢にはいろいろと事情があってな。12月の金色祭までで帝都を離れなければならないんだ」

 

「そうなのですか」

 

 クラウスがそう説明し、アーデルハイドさんは納得していた。

 

「ま、フェリクスが逃がすかどうかは分からないがな」

 

 え? フェリクスが逃がす気がないって……?

 

「じゃあ、有力者と顔合わせと行くからついて来てくれ。まずは元老院議長からだ」

 

「は、はい」

 

 それよりもさっきの意味深な発言について説明しておくれよ~! フェリクスは私が帝都を出るのについてくるつもりなのかい~!?

 

「フェリクス様は帝都に残りますよね? ね?」

 

「…………」

 

 フェリクスは何も答えてくれなかった。心配だ~!

 

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