名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様とお祭りの前日

……………………

 

 ──邪神様とお祭りの前日

 

 

 いよいよ金色祭の前日となった。

 

 明日は夜遅くまで友達と学園で過ごすのです。美味しいものを食べて、お喋りして、一応ダンスもして、学園生活最後の思い出を作るのですよ!

 

 今から楽しみで今の私は浮かれています。

 

「イリス。もう金色祭が楽しみで仕方ないって顔しているね!」

 

「ええ、フリーダ。もう楽しみでならないです」

 

 学園の教室でフリーダがそう話しかけてくるのに、私は超美少女スマイルで頷く。

 

「準備の方はできてるの?」

 

「プレゼントはちゃんと渡せるようにしてありますよ」

 

「じゃあ、ドレスは?」

 

「あ」

 

 ドレスが今はなかったのでした!

 

 フェリクスの家に居候しているから、ドレスがない。ドレスがあるのはラウエンシュタイン家の実家なのです。せっかく超絶美少女に生まれ変わったのだから、着飾れるだけ着飾りたいのですが……。

 

「ドレスがないの?」

 

「今はフェリクス様の家に居候の身でして。ドレスは実家に置いてあるんです」

 

「取りに行けば? イリスの実家は帝都内だったでしょ?」

 

「う~ん」

 

 お父様とお母様にはもう会って大丈夫かな~? あれからカルトはすっかり静かだし、理解してくれたみたいなんですけどね。まだちょっと心配というか……。

 

「あとで連絡してみます」

 

 私は今はそういうにとどめた。

 

「けど、イリスってかなり長い時間、フェリクス様の家にいるよね」

 

「そうですね……。思ってみれば結構居候してしまっているような……」

 

「事情はよく分からないけど、お礼は言っておいた方がいいよ。イリスは明日までしか学園にいられないんだし……」

 

 フリーダはそう言って少し悲しそうな顔をしていた。

 

 確かにフェリクスには迷惑をかけっぱなしだった。過去問をくれたり勉強を手伝ってもらったり、カルトから助けてもらったり……。

 

 金色祭でプレゼントを渡すときにしっかりお礼を言わないといけませんね。

 

「でさ。イリスはやっぱりフェリクス様とダンスするんだよね?」

 

「ええ。約束していますから。フェリクス様には思い出作りにとお願いして」

 

「思い出作りか~。イリスって本当に罪な女だよね~」

 

「ええー!? どうしてですかー!?」

 

 呆れたようにフリーダが言うが私が何故フリーダが呆れているのか理解できず。

 

「フェリクス様が作りたいのは思い出だけじゃないってこと。というか、イリスはまだ夏にフェリクス様に告白されたときの返事だってしてないでしょ? 学園を去る前にちゃんと返事しないと!」

 

「そう言われましても……」

 

「フェリクス様が苦手と言うより、イリスの事情のせい?」

 

「そっちですね」

 

 私はとても迷惑な邪神様で、フェリクスは公爵家の推定相続人。どう考えてもこれは釣り合うような気がしない。主に私の負の側面のせいで。

 

 仮にゴールインしたとしても、そのあとは絶対に大変だ。カルトはうようよで、私は触手がうねうねで、周囲の正気はピンチですから。

 

 フェリクスが思いを寄せてくれるのは嬉しいが、ここは断らなければならない。

 

「残念ですが、フェリクス様の思いには応えられません。私だってできるならば応えてみたいとも思いますが、私にはそういうことは許されないのです」

 

「じゃあ、それも伝えておかないとね。生殺しのまま放置しちゃだめだよ?」

 

「ええ。金色祭でダンスのあとに伝えておきます」

 

 フェリクスとの大変だったり、楽しかったりした関係もこれで終わりになってしまうのだから、区切りはしっかりつけておきたい。お礼とともに別れを伝えよう。

 

 あとはそれをフェリクスが受け入れてくれるかですけど……。

 

 

 * * * *

 

 

 フェリクスは生徒会副会長兼会計として、金色祭の最後の仕事を終えた。

 

「クラウス。あとはこれを提出しておくだけだ」

 

「おお。助かった! これで年末の仕事は全て片付いたな!」

 

 フェリクスがクラウスに書類を渡し、それにクラウスがサインする。しかし、それを見ずにフェリクスは何か考え込んでいた。

 

「……まだ悩んでいるのか?」

 

 クラウスがそうフェリクスに問いかける。

 

「実を言えば、そうだ。思いは前にも伝えたが、返事はなかった。だが、それをずっと待つこともできない。イリス嬢は明後日には帝都を去り、私たちの傍からいなくなってしまうのだから」

 

「そうだな。返事を催促しないといけないな。だが、どういう返事が来ても、お前は納得できるのか?」

 

「分からない。拒否されたとすれば、恐らくすぐには納得できないだろう。時間がかかるはずだ。簡単に諦められるようであれば、ここまで悩んではいない」

 

「だが、イリス嬢にはお前の思いに応えられない事情もある」

 

「彼女が邪神イ=スリ・リスだからか? 私にはそんなものはハードルにならない」

 

「お前が気にしなくても、向こうは気にするだろうさ」

 

 フェリクスの言葉にクラウスは肩をすくめてそう言った。

 

「しかし、そこまで本気ならばお前は本当にイリス嬢を追う気か?」

 

 クラウスは冗談を言うわけではなく、真剣にそう尋ねる。

 

「可能であれば。少なくとも彼女が私を受け入れてくれるならば、彼女とともに帝都を去るかもしれない。だが、そうなるといろいろなところに迷惑をかけるということも、同時に理解はしている」

 

「公爵家の跡取りがいきなり失踪すればな。それは迷惑になるだろう。俺としてもお前には残ってほしいと思っている。友人としてな」

 

「そうか……」

 

 フェリクスはクラウスの言葉に視線を落とす。

 

「だが、男としては惚れた女をあっさり逃がすのは許しがたい。イリス嬢を愛しているならばとことんやってやれ。後始末は俺の方でもやっておいてやる。後悔するような選択肢は決して選ぶな、フェリクス」

 

「ありがとう、クラウス。お前は本当にいい友人だ」

 

 友人の言葉にフェリクスは小さく笑った。

 

 思いを伝えようとフェリクスは改めて思った。イリスに自分が彼女を愛していることを伝えようと、彼は心の中でしっかりと決意した。

 

 イリスの少しおっちょこちょいなところ、ときおり見せるミステリアスなところも、性根は友人思いの優しいところも、フェリクスは全てが好きであった。イリスという女性を愛していた。

 

 だからこそ、思いを伝えなければとフェリクスはそう決意していたのだ。

 

 イリスは明日の金色祭が終われば、帝都を去ってしまう。彼女はこの学園からいなくなってしまう。その前に、絶対にこの思いを伝え、あとになって後悔に襲われないようにしておきたい。

 

「私はイリス嬢に愛していると、そう伝える」

 

 フェリクスは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

 

 

 * * * *

 

 

 金色祭は明日に迫り、イリスにとっての最後の学園での日とフェリクスにとって最後の思いを伝えられるときが迫っている。

 

 しかし、同時に迫った異端のカルトが信仰するユールの日の裏の一面もまた同時に迫っているのだ。

 

 4月始まった事件が全て終わるはずだったときに、何が起きるのだろうか?

 

 今はまだ誰もそのことを知らないでいる……。

 

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