名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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楽しいはずだった金色祭

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 ──楽しいはずだった金色祭

 

 

 金色祭が当日の早朝のことだ。

 

 お父様とお母様が私が居候しているシュタルクブルク公爵家の屋敷にやってきた。

 

 というのも、私が金色祭で着るドレスを持ってきてもらうように頼んでいたからである。その私の要望をお父様とお母様は快諾してくれた。

 

「イリス、またはイリリースよ。汝に相応しい祭事のための装いを用意した。汝が異教の宴であろうとその存在感を損なわぬようにするための装いだ。これを纏い、大勢にその偉大さを示すといいであろう……ふふひっひひ!」

 

 お父様たちはいつものように不気味な笑みを浮かべていたが、ちゃんと私のためのドレスを準備してくれていた。

 

「ありがとうございます、お父様、お母様」

 

「イリス、またはイリリースよ。できることならば、そのドレスを纏っている姿を私たちに見せてはくれないだろうか?」

 

「ええ。いいですよ。着替えてきますね」

 

 私はお父様たちから受け取ったドレスに着替えてくる。

 

 本当に立派なドレスだった。私のことを考えて露出は少ないが、決して地味ではなく、綺麗なドレスだ。私のせっかく女の子になったんだから着飾りたい欲求を満たしてくれるものでした。

 

「どうですか、お父様、お母様」

 

 私はドレスを身に着けて、ふたりの前に立つ。

 

「おお、おお! 素晴らしい、イリス、またはイリリースよ。汝はどこまでも美しく、そしてどこまでも偉大である。そのことを再び認識できたことを、私たちはどこまでも続く喜びで示そうではないか」

 

「素敵よ、イリス。素晴らしいわ。あなたが美しいことは、私たちにとっても望外の喜びになる。ふふふ……」

 

 お父様とお母様はそう満足げに笑い、私も笑っていた。

 

「では、お父様、お母様。私はこの金色祭が終わったら、帝都を離れます。おふたりとも離れることになるでしょうが、いつかは3人で再び一緒に暮らしましょう」

 

「ああ。その日をいつまでもどこまでも待ち望んでいるよ、イリス」

 

 私は今日が終われば、帝都を出てローゼンクロイツ協会に頼るか、または自力で暮らしていくことになる。お父様とお母様とも当然離れることになるのだ。

 

「私たちはいつまでも家族よ。辛いことがあったら帰って来なさい」

 

「はい」

 

 そして、お母様がそう言ってからお父様とお母様は屋敷に戻っていった。

 

「イリス嬢。終わったか?」

 

 と、ここでフェリクスが姿を見せる。

 

「ええ。どうですか、このドレス?」

 

「……美しいぞ、イリス嬢。本当に綺麗だ」

 

「ありがとうございます、フェリクス様」

 

 フェリクスは少し頬を染めて頷いていた。

 

「では、そろそろ学園に向かおう」

 

「ええ。準備はできていますよ」

 

 プレゼントも準備したし、今日は楽しい金色祭だ~! 遊び惚けるぞ~!

 

 

 * * * *

 

 

 ラウエンシュタイン家当主のカールとその妻アンネリーゼはメイドを連れて馬車で屋敷に向かっていた。

 

「イリス、またはイリリースは美しかったな、アンネリーゼ。これもまた彼の存在が偉大であることの証であろう」

 

「ええ。彼の存在を讃える声はきっとやむことはない……ふふふ……」

 

 馬車の中ではカールとアンネリーゼがそのように不気味に笑い合っていたが、話している内容な親馬鹿のそれである。

 

「旦那様、奥方様」

 

 しかし、そこでメイドが素早く反応した。

 

「……この気配はクラウディアか」

 

 馬車の周囲に淀んだ空気が流れ、腐った果実のように甘い臭いが漂う。

 

 それは高位魔女であるクラウディアが近くにいることを示す証であった。

 

「どうしますか、あなた?」

 

「いずれこうなるとは思っていた。ならば、ここで決着を付けようではないか」

 

 アンネリーゼが尋ねるのにカールはそう言い、馬車を降りる。

 

「カール。お前はついに知識の追求をやめてしまったそうだな」

 

 馬車の前方にはクラウディアがおり、彼女は怪しげな笑みを浮かべて、カールたちを見ている。彼女からは異様な圧力が強く感じられるが、カールたちがそれに屈する様子はなかった。

 

「私たちはイリス、またはイリリースの信仰者だ。神が望むのであれば、一時的に追求はやめにしようではないか。だが、無分別に知識を貪るお前たちはそうではないようだな、魔女協会の長クラウディアよ?」

 

「然り。我々魔女協会は追求を決してやめはしない。たとえ神格が何と言おうとな。我々は真理の果てを明かすまで絶対に足を止めはしない。もはやお前たちとは相いれないようだ、カール」

 

 カールが言い、クラウディアがそう返す。

 

「ならば、どうする?」

 

「お前たちにはイリス、またはイリリースが目を覚ますための生贄になってもらおう。悪くは思うな。これも我々が真実を得るための、より高次元の知識を手にするために必要なことなのだ」

 

 クラウディアがそう言ったと同時に魔法陣が地面に浮かび、そこから粘着質な音を立てながら不気味な姿をした召喚生物が4体現れた。

 

「ひははは! いいだろう、いいだろう。我々もお前をイリス、またはイリリースのために生贄にしてくれる。我々を、純粋なイリス、またはイリリースの崇拝者を見くびるでないぞ、魔女クラウディア!」

 

 カールもそう言って召喚生物を呼び出し、召喚生物同士が激突。

 

 平和で、楽しく過ぎるはずだった年末は破綻しようとしている。

 

 

 * * * *

 

 

 私はドレスで着飾ってフェリクスとともに学園へ。

 

 今日は授業などはなく、一日中金色祭! 料理を食べて、お喋りして、遊んで、踊って、楽しく過ごすのですよ~!

 

「フェリクス様。あとでプレゼントをお渡ししますね」

 

「ああ。私からもプレゼントがある。楽しみにしていてくれ」

 

「はい」

 

 プレゼント交換も楽しみだな~。みんなどんなプレゼントを贈ってくれるんだろう?

 

 というわけで、学園に到着するとまずは教室へ。

 

「イリス! そのドレス、素敵だね!」

 

「ありがとう、フリーダ。あなたのドレスも可愛らしいですよ」

 

「ふふ。ありがとう」

 

 フリーダは今日はばっちりおめかししている。

 

「そう言えばフリーダはダンスはアルブレヒト様と躍るのですよね?」

 

「もちろん! 今日を楽しみにしていたんだから!」

 

 フリーダは無事にアルブレヒトと結ばれてとても嬉しそうだ。

 

「では、まずはフリーダにプレゼントを──」

 

「イリス・ツー・ラウエンシュタイン嬢!」

 

 私がフリーダに準備したプレゼントを渡そうとしたとき、担当のエーミール先生が教室に飛び込むように入ってきて叫んだ。

 

「ど、どうしました、先生?」

 

「大事な話がある。すぐ職員室へ来なさい」

 

「は、はい」

 

 なんだろう? もしかして、私の影響でまた何か起きちゃった?

 

 私はエーミール先生とともに職員室に向かった。

 

「イリス嬢。まずは落ち着いて聞いてほしい。君のご両親が重傷を負って、帝都中央病院に運ばれた。命の危険があるそうだ」

 

「え……」

 

 なんで? 朝に会った時は普通にしていたのに。何もなかったのに。

 

「病院からは家族である君に来てほしいということだった。学園で馬車を準備したからすぐに向かいなさい。いいね?」

 

「はい……」

 

 何が起きたんですか? どうしてこんなことに……?

 

 私が疑問を多く抱えたまま、馬車に乗って帝都中央病院に急いだ。

 

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