名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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みんなの思い

……………………

 

 ──みんなの思い

 

 

『帝都にお住いの皆さん。現在、避難命令が発令されました。繰り返します……』

 

 ラジオから、そして街中を走る軍の車両のスピーカーから避難を求める声が響く。

 

 その声は当然ながら、アーカム学園においても響いていた。

 

「避難の準備を! 急いで!」

 

 教師たちが素早く指示し、金色祭を楽しむはずだった生徒たちは慌ただしく学園を出て、軍に指定された帝都郊外の避難所を目指した。

 

 しかし、誰もどうして避難しなければならないのかは理解していない。

 

「クラウス! 何があったんだ?」

 

 フェリクスは避難所となった公園でクラウスを見つけてそう尋ねる。

 

「俺にも分からない。何がなにやらで……」

 

 クラウスも首を傾げる中、フリーダが慌ててふたりのところにやってきた。

 

「フェリクス様、クラウス様! イリスを見てないですか!?」

 

「イリス嬢がいないのか!?」

 

「は、はい! ちょっと前にエーミール先生に呼び出されてから姿を見てなくて。ちゃんと避難できてればいいんですけど……」

 

「エーミール先生が……」

 

 はっとしたフェリクスはいきなり駆けだした。

 

「エーミール先生!」

 

「どうしました、フェリクス君?」

 

「イリス嬢はどこに?」

 

「イリス嬢は……ご両親が事故で重症を負われたということで、帝都中央病院に向かいました。あちらでも避難が行われているはずです」

 

「両親が、事故……」

 

 そのエーミールの答えを聞いて、フェリクスは無性に嫌な予感がしてきた。

 

「フェリクス。何か分かったか?」

 

「イリスは無事ですか?」

 

 フェリクスのあとを追いかけてきたクラウスとフリーダが尋ねる。

 

「今から帝都中央病院に行ってくる」

 

「何を言っているんだ! 帝都には避難命令が……」

 

「それでもだ! イリス嬢に何かあったのかもしれない……!」

 

「だが……」

 

 フェリクスが決意を込めて告げるのにクラウスたちは困惑の表情を示す。

 

「クラウス・フォン・フロイデンタールさん! クラウス・フォン・フロイデンタールさん! いませんか!?」

 

 そこでクラウスを呼ぶ男の声が聞こえてきた。皆が聞き覚えのない声だ。

 

「ここにいる!」

 

「ああ。よかった。私は政府のものです。アレクサンダー・フォン・フロイデンタール閣下のことについてお話ししたいことがあります。ご同行いただけますか?」

 

「親父の……?」

 

 政府の人間だというスーツ姿の男の言葉にクラウスは険しい表情を浮かべた。

 

「フェリクス、フリーダ嬢。帝都で起きていることについて、何か事情が分かるかもしれない。一緒に来るか?」

 

「ああ。一緒に行こう」

 

 ここでクラウスが誘い、フェリクスたちは避難所から移動すことに。

 

 移動には馬車ではなく自動車が準備されており、速やかに帝都郊外にある陸軍駐屯地へとフェリクスたちは移動した。

 

「エミリア!」

 

「ああ。フリーダ。どうしてここに?」

 

「あたしたちはクラウス様についてきたの。イリスが心配で……」

 

「イリスさんが……」

 

 フリーダの言葉を聞いたエミリアが深刻そうな表情を浮かべた。

 

「私はレオンハルト殿下と避難してきたのですが、もしかするとこの騒動にはイリスさんがかかわっているのかもしれません」

 

「イリス嬢が……? どういうことなんだ、エミリア嬢?」

 

 フェリクスはエミリアに問い詰めるように尋ねるが、エミリアはすぐには答えない。

 

「フェリクス。俺は親父の話を聞いてくる。お前たちも一緒に来るか?」

 

「いや。今はエミリア嬢から話を聞きたい。それにお前の父親の話は部外者である私たちが聞いていいものでもないだろう?」

 

「そうだな。待っていてくれ」

 

 クラウスはそう言い、フェリクスたちを残して政府の人間と駐屯地内の別の建物に向かう。そして、フェリクスは改めてエミリアの方を見た。

 

「教えてくれ、エミリア嬢。何があったんだ?」

 

「……イリスさんは帝都中央病院に向かったのですよね?」

 

「そう聞いている」

 

「その帝都中央病院で事件が起きたそうなのです。病院が化け物によって制圧されてしまい、中にいる人間の安否は分からない、と……」

 

「何だと……!?」

 

 エミリアの告げた言葉にフェリクスの表情が硬くなり、青ざめる。

 

「帝都中央病院が今起きている事件の最初の異変であることは間違いないようなのです。そして、私はイリスさんに何かが起きているのを強く感じるのです」

 

「イリスのことを感じるって……?」

 

「ええ。前にマリーさんに刺されたあとで、何か私の中に奇妙な感触を感じるようになったのです。その感触はイリスさんが近ければ大きくなるもので、今も強くイリスさんから伝わる感覚を感じています」

 

 フリーダが尋ね、エミリアがそう語った。

 

「やはり帝都中央病院にいかなければ……」

 

「ダメです、フェリクス様! 帝都はテロリストによる攻撃を受けているとも報告されています。それがイリスさんに関係するものなら、テロリストの正体は以前話してした魔女である可能性も……!」

 

「クソ。それならばなおのことイリス嬢を助けに行かなければならない」

 

 エミリアが制止するのにフェリクスはどうにかしなければいけないという焦燥感にかられ続けていた。

 

「フェリクス様、クラウス様が戻ってこられましたよ。話を聞きましょう」

 

 と、ここでフリーダが言うようにクラウスが戻ってきた。

 

「クラウス。どうなっているんだ? エミリア嬢が言うのは帝都中央病院が襲われたらしいが……」

 

「親父が死んだ」

 

 クラウスはフェリクスに呟くようにぼそりとそう伝えた。

 

「それはどうして……」

 

「魔女に襲撃されたそうだ。政府首脳部は一部の大臣を除き、襲撃によって死亡している。皇帝陛下は無事らしいが、今はフェルディナンド元帥が帝国全土に戒厳令を布き、対応に当たっている」

 

 クラウスは険しい表情のままにそう言った。

 

「何故こんなことが……」

 

「言えるのは親父を殺した魔女を俺は許すつもりはないということだけだ。これから先、何があっても俺は魔女を、カルトどもを許さない……!」

 

「クラウス……」

 

 呻くフェリクスにクラウスはそう確かな決意を示した。

 

「フェリクス。お前は今でもイリス嬢を助けに行くつもりか?」

 

「そうしたい。だが、お前が今のような状況では……」

 

「俺のことは気にするな。大丈夫だ。それにこの状況ではお前が助けに行くのが唯一の解決策かもしれない。帝都中央病院で発生した異変は今や帝都全域に拡大しており、1日も経てば帝都が呑み込まれる」

 

 クラウスはそう言ってフェリクスの方を掴んだ。

 

「惚れた女なら助けに行け。俺もできる限りの援護はしてやる」

 

「クラウス。ありがとう」

 

 クラウスの言葉にフェリクスはしっかりと頷いた。

 

「今、ローゼンクロイツ協会が対策に乗り出している。エリザベス嬢とマティアス先生も動員されたそうだ。彼らに会いに行くぞ。そして、同行させてもらうんだ。原因がイリス嬢ならお前がイリス嬢を救って、事件を解決しろ」

 

「ああ。そうしよう」

 

「じゃあ、行くぞ、フェリクス」

 

 クラウスはフェリクスにそう言い、フェリクスは友人とともに帝都へと戻る。

 

 神格と魔女がもたらした混乱と腐肉が蠢く帝都へと、彼らは戻っていく。未だその先に何が待つのか分からないままに……。

 

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