名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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本日2回目の更新です。


恐らくひとつだけの冴えたやり方

……………………

 

 ──恐らくひとつだけの冴えたやり方

 

 

 混乱は急速に静まりつつありました。

 

 私は帝都全域に広げていた眷属たちを回収し始め、その代わりにこの帝都中央病院に異界に繋がる門を作成し始めている。

 

 この門の向こうに渡れば、もうここには戻ってこれない。誰かが再び私を召喚しようとしない限りは。

 

「行くのか、イリス嬢……」

 

「ええ、フェリクス様」

 

 私に尋ねるフェリクスに私は超美少女スマイルでそう返しておいた。

 

「両親はどうする?」

 

「お父様とお母様は人間に戻しておきました。私に関する知識も消して。また召喚されてしまっては大変ですからね」

 

「ひとりになるのか?」

 

「私はひとりでいるのが当たり前なのです。他の存在に与える影響が大きすぎて、他の種族とは共存できないでしょうから……」

 

「そうか……」

 

 フェリクスは視線を落としたが、納得してくれたものと思いたい。

 

「では、そろそろ門が形成されますので、フェリクス様は下がっていてください」

 

「……ダメだ」

 

「え?」

 

 突然フェリクスが私を見据えて言うのに私は困惑。

 

「お前をひとりにするわけにはいかない。私も一緒に行く」

 

「ええーっ!? そ、そう言われましても……。私は地球じゃない場所に行くんですよ? そして、もうここには戻ってこれないんですよ? それなのにフェリクス様を連れていくわけには……」

 

「いや。私は決めていたんだ。お前を絶対にひとりにはさせない。どこに行こうと必ず追いかけていくと。だから、私も一緒に行く。行く先が異界であろうと、元に戻れなかろうと、お前が何と言おうとだ!」

 

 う~む。私自身、異界というものをあまりよく理解していないのだが、フェリクスを連れていって大丈夫なんだろうか?

 

 けど、本当に私だけで異界に行ったら、ひとりぼっちになる。それは絶対に寂しい。

 

「本当に、本当にいいんですか?」

 

「ああ。構わない。そして、私からも贈るものがある」

 

 そう言うとフェリクスはポケットから綺麗な箱を取り出した。これはもしかして?

 

「私と結婚してくれ、イリス嬢」

 

 指輪だー! そうじゃないかなと思ってたけど!

 

「えっと……その……本当にいいんですか……? 私が知らないうちに発狂してたりしませんよね、フェリクス様? 魔女とかに脳をコネコネされてないですよね?」

 

「ああ。正気だ。前にもはっきりと言っただろう。イリス嬢がどんな存在であっても、私にとってイリス嬢はイリス嬢なのだと」

 

「フェリクス様……」

 

 どうやら彼は本気で、本気で、本気らしい。

 

 そこまで言われると私の心も揺らいでしまう。本当は誰にも迷惑をかけないように、静かに立ち去るつもりだったのだけれど……。

 

「分かりました。一緒でいいですよ」

 

「ありがとう、イリス嬢」

 

 私もひとりぼっちは寂しいのです。

 

「では、行きましょう、フェリクス様。私たちの世界へ!」

 

「ああ」

 

 私はフェリクスの手を取り、フェリクスは私の薬指に指輪をはめた。

 

 そして、門が形成され、私たちは異界へと去っていく。

 

 

 * * * *

 

 

 それから15年後。

 

「こらーっ! ソフィア、ノア! 待ちなさい!」

 

 そう言ってふたりの子供を追いかけるのは、30歳になったフリーダだ。彼女には元気に屋敷を駆けまわるふたりの子供がいた。

 

「お父さん! 本を読んで!」

 

「ええ。いいよ」

 

 もちろん彼らはアルブレヒトとの間にできた子供だ。フリーダとアルブレヒトは学園を卒業してから、すぐに結婚していた。

 

「もー。お父さんは仕事があるのだからあまり邪魔しちゃだめよ?」

 

「はーい」

 

 フリーダは専業主婦をしながら作品を作り、アルブレヒトも作家を続けている。

 

『──帝都動乱から今年でちょうど15年が経ち、第二皇子レオンハルト殿下とエミリア妃殿下は犠牲者を追悼するセレモニーに参加され、ともに慰霊碑に献花を──』

 

 ラジオからはそのようなニュースが流れてきている。

 

「今年で15年、か」

 

「早かったですね……」

 

「そうですね……。イリスとフェリクス様がいなくなってから15年か……」

 

 イリスとフェリクスか帝都中央病院でいなくなってから15年が過ぎていた。

 

 

 * * * *

 

「内務大臣への就任おめでとうございます、フロイデンタール閣下」

 

「どうもありがとう、エリザベス嬢」

 

 クラウスは帝国議会議員となり、今の政権で最年少の閣僚に選ばれていた。

 

 そんなクラウスの下に15年が本当に過ぎたのか怪しいまでに幼い姿のままのエリザベスが姿を見せ、就任に対する祝辞を述べていた。

 

「総裁からも閣下の就任に祝いの言葉を預かっております」

 

「ああ。ローゼンクロイツ協会との協力は続ける。この帝国からカルトと魔女を一掃するまでは、俺は戦うつもりだ」

 

「それは何よりです」

 

 エリザベスがすました顔で言うのにクラウスが彼女をじっと見る。

 

「……それで、分かったことは? イリス嬢とフェリクスについて、だ」

 

「依然、調査は進めておりますが、恐らくは異界へと去ったのでしょう。あれからローゼンクロイツ協会にはいかなるイ=スリ・リス信仰の形跡も発見できていません」

 

「そうか……」

 

 エリザベスに言われてクラウスは首を軽く振った。

 

「フェリクスは、やつは自分の信念を貫いたんだな」

 

「ええ。そのおかげで帝都は、私たちの世界は救われました」

 

「ああ。やつのおかげだ。決して忘れはしない」

 

 友を帝都に突入させたのはクラウス自身だ。彼にはフェリクスの犠牲を忘れるということはできなかった。それは自分の罪でもあるのだ。

 

「それでは閣下。そろそろ失礼いたします」

 

 エリザベスはそう言ってクラウスの執務室を出た。

 

「よう。内務大臣閣下は何だって、ベス?」

 

 そう呼びかけるのはマティアスだ。隻腕になった彼が片手でタバコを咥えながらエリザベスに問いかける。彼は15年という年月を感じさせるほどに外見にも年齢を重ねており、頭髪には白髪が見え始めていた。

 

「ローゼンクロイツ協会への協力は続けるそうです。それからカルトと魔女の一掃を目指すと。現状に変更はないということです」

 

「そうかい。魔女協会はあれからじわじわと立て直し始めている。既にクラウディアの後釜は決まって、そいつが組織の拡大を始めている。一掃するのは時間がたつごとに難しくなるぞ」

 

「では、急がねばなりませんね」

 

 エリザベスがそう言って急ぎ早に立ち去るのに、マティアスは肩をすくめてタバコをふかすと彼女に続いた。

 

 

 * * * *

 

 

 これで私の物語はおしまい。

 

 結局、私は異界に行くことになってしまったけれど、バッドエンドではない。

 

 だって、私は今もひとりではないから!

 

 

……………………




これにて本作品は完結です。お付き合いいただきありがとうございました。

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