名状しがたき触手でホラーなTS悪役令嬢   作:第616特別情報大隊

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邪神様とヒロイン

……………………

 

 ──邪神様とヒロイン

 

 

 というわけで、私は生徒会に入ってしまったのだ。

 

 クラウスとフェリクスに解放されて外に出るとフリーダが待っていた。

 

「待っててくれたんですね、フリーダ」

 

「うん。まだ紹介したい場所があるからね」

 

 フリーダはそう言ってにこりと笑った。可愛い。

 

「次はどこに?」

 

「まだ内緒だよ」

 

 何だろう。

 

 元のゲームはヴィジュアルノベルだったから、学園内を探検などはしていないのだ。あくまで選択肢を選ぶとそこに飛ぶということになっている。

 

 なので、フリーダが私をどこに案内しているかは分からない。

 

「ここ! 図書館です!」

 

「図書館」

 

 フリーダが嬉しそうに指さすのは図書館だ。

 

 図書室ではない。図書館だ。

 

 ひとつの独立した建物が校内に存在し、古風な屋敷のように存在している。校舎も洋風でお洒落だったが、これはまた立派です。

 

「凄い。立派な図書館です」

 

「えへへ。あたし、文芸部だからここに入り浸ってるんだ」

 

 そう言ってフリーダが図書館の中に進み、私も続く。

 

 図書館の中は外観と同じくらい立派だった。4階建ての建物の中は吹き抜けになっており、無数の本棚がずらりと並んでいる。恐らくお高い木材を使ったイスとテーブルが添えられ、そこでは学生たちが読書や自習に励んでいた。

 

「アルブレヒト様がいるはずなんだけど……」

 

 アルブレヒト? 誰ですか?

 

「あ。いたいた」

 

 私が首を傾げる中でフリーダは目的の人物を見つけたようで、静寂に包まれている図書館内を静かに進んでいく。

 

「アルブレヒト様」

 

「ああ。フリーダさん。どうしました?」

 

 笑顔を隠しきれないフリーダが話しかけるのは、黒髪をオールバックにして、フリーダとは異なるスクエア型の眼鏡をかけた男子生徒だ。

 

 何というか、いかにも勉強ができます! って見た目の男性キャラである。

 

「イリスに図書館を案内しに来たんです。アルブレヒト様は今も執筆を?」

 

「ええ。まだまだ下手の横好きですが、一作品は仕上げたいので」

 

 どうやらアルブレヒトは小説か何かを書いているらしい。彼の手元にはいろいろと書き込まれた紙があり、彼の手には万年筆が握られている。

 

「この前の発表会で仰られていた幻獣の物語ですよね」

 

「そうです。今はそれについて調べ物をしているところです。幻獣の伝説について記された本を何冊か」

 

 フリーダは目に見えてワクワクしており、アルブレヒトも楽しそうにしていた。

 

「今度ぜひ読ませてください」

 

「もちろんです。今度の発表会までには完成させます」

 

 フリーダはもっとアルブレヒトと話をしたがっているようだったが、場所が静かな図書館だったせいか、惜しみながらも会話はそこまでにしていた。

 

「イリスは小説読むの好き?」

 

「ええ。とはいっても娯楽小説ばかりですが」

 

「それでもいいんだよ。難しい本だけがためになるわけじゃないから。小説には食べ物と同じで好き嫌いがあるものだし。それに作者との相性もあたしはあると思うんだ」

 

「相性?」

 

「その人の経験してきたこと。その人が経験から得た思想。その人が本来持ち合わせている価値観。そういういろいろなものが作品には反映されている。だから、そういう点で合う合わないは絶対にある」

 

 そうなのか。あまり考えたことがなかったです。前世の私は流行りの本を読んでは、次の本が出ると前に読んだ本の内容を忘れる鳥頭だったので……。

 

「でね。アルブレヒト様の書く小説、凄くあたしの感性に合うんだ。単語選びのひとつまで共感できて、ストーリーには心を揺さぶられ、キャラクターには感情移入できる。そういう小説をアルブレヒト様は書いてるんだよ」

 

「へえ。フリーダはアルブレヒト様が好きなのですか?」

 

 私がそう尋ねるのにフリーダは瞬く間に顔を真っ赤にした。

 

「あ、その、えっと……。うう、そうです……」

 

 そして、フリーダは赤面したままそう認めた。

 

「恥ずかしがることではないですよ。私も応援します」

 

「ありがとう、イリス」

 

 私、人の恋愛見るの大好き!

 

 自分で恋愛するのは想像できなくても、人が恋愛するのを見るのは本当に好き。これからはフリーダの恋を応援しよう。

 

 ……待てよ。何か忘れているような……?

 

「あ。エミリアだ」

 

 !?

 

 フリーダが発した言葉に私の背筋に寒気が走った。

 

「フリーダさん。こんにちは」

 

「こんにちは、エミリア」

 

 目の前に現れたのは綺麗なブロンドの髪をミディアムボブに整えた同年代の少女。透き通るように綺麗な緑色の瞳が印象に残る、とても健康的で、知的そうで、優しそうな人物であった。

 

「イリス、紹介するね。こっちは同じA組のエミリア・フォン・リッターバッハ」

 

「は、はい。その、私はイリス・ツー・ラウエンシュタインです、はい……」

 

 忘れていた。主人公の存在を。

 

 そう、このエミリアさんこそ、このゲームの主人公である。

 

 皇室の血筋に連なり、それに加えて聖女の血筋を有する人物。彼女は私が転入してきてから始まる事件に巻き込まれ、それを解決するために奮闘することに。

 

 その過程で攻略対象と親しくなるのだが……。

 

 フリーダが思いを寄せるアルブレヒトも攻略対象のひとりなのだ。

 

 私は人の恋愛を見るのが好きだと言ったが、ひとつ訂正しよう。私は人の恋愛を見るのは好きだが、修羅場は大嫌いです!

 

 私自身が封印される云々は邪神ムーヴをしないことで回避するとして、我が友人フリーダの恋に横入りしないでほしいよ、エミリアさん。お願いだよ~。

 

「エミリアさんはどうして図書館に?」

 

 私はさりげなく探りを入れることにした。

 

 このゲームは乙女ゲーという割に攻略対象が少ない。

 

 生徒会に入ってクラウスと仲良くなるクラウスルート。文芸部に入ってアルブレヒトと仲良くなるアルブレヒトルート。そして、もうひとつの男性キャラのルートと誰とも仲良くできず、事件も解決できないバッドエンドルート。

 

 恐らくゲームは始まったばかりで、ルートは確定しないだろう。

 

 なので、どのルートに興味があるのか探っておくのである。それでアルブレヒトルートを狙っていると分かったならば……。

 

「あ。今日は調べ物です。今期の授業の予習を兼ねて。今期からまた授業が難しくなると聞いていますから」

 

「そうでしたか」

 

 ふう。一応まだアルブレヒト狙いではないのかな。それならばよいです。よいです、よいです。

 

「エミリアは凄く勉強ができるんだよ。あたしもいろいろと勉強のコツを教わっているんだ。何か分からないことがあったら、彼女に教わるといいよ、イリス」

 

「お邪魔になってしまうのでは……」

 

 主人公周りを下手にうろつくと、不味いことになりそうな気がするのです。邪神ムーヴをしないとしても、リスクヘッジはしておくべきかと。

 

「大丈夫ですよ。人に教えるのもまた勉強ですから。仲良くしましょう、イリスさん」

 

 エミリアさんはそうにこりと笑って握手を求めるように手を差し出した。

 

「ありがとうございます。では、何かあったら頼らせていただきますね」

 

 将来、敵になるかもしれないけど、いい子であるのは間違いないんですよ。人間としても魅力がなければ主人公は務まらないからね。

 

 私はそう思って握手に応じた。

 

「……!」

 

 次の瞬間、エミリアさんがよろめき、ふらつくと地面に倒れた。

 

「エミリア!」

 

 図書館がざわりとざわめき、フリーダがエミリアさんに駆け寄る。

 

「す、すいません、貧血だったみたいで……」

 

「念のために救護室まで一緒に行こう」

 

「そんな、大丈夫です」

 

「念のためだって。今期はいろいろな人が体調を崩しているから心配なんだよ……」

 

「分かりました……」

 

 そう言ってフリーダがエミリアさんを救護室に連れていく。

 

「ごめんね、イリス。残りの案内はまた今度で」

 

「ええ」

 

 ここでフリーダとはお別れ。

 

 さて、これ以上やることも特にないので、そろそろ家に帰ろう。

 

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