チョコレートに溶ける心   作:kame

18 / 20
第18話 二人で作るチョコ

 それから私たちは、とにかく部屋の掃除を始めた。散らばったチョコの破片や溶けた塊を拭き取りながら、互いに謝り合ったり、改めて「日記に書いてあった知識って、どんな感じなの?」などと会話をしたり。自然と笑みがこぼれてくる。

 

 「それじゃあ、今からでも温度を戻して、もう一回やってみようか?」

 清夏ちゃんが提案してくれたとき、時計の針はすでに夜の十時を回っていた。本来なら消灯の時間も近い。だけど私たちはちょっとだけ無理をして、再チャレンジすることにした。――せめて今夜、一度は一緒にチョコを作りたい。その思いに駆り立てられたのだ。

 

 「とはいえ、本格的にはできないよ。設備がないし、騒ぎすぎると周りに迷惑だから……簡易版でいい?」

 「うん、いいよ。……でも、その工程を教えてくれると嬉しい」

 

 こうして始まった“夜のチョコ作り”は、きっと寮生活の規則ではややグレーゾーンだろう。けれど清夏ちゃんは「気をつけてやれば大丈夫」と笑っている。私も今なら、あの頃の「恥ずかしい」と怯えていた自分を乗り越えられる気がする。

 

 湯せんでチョコを溶かし、多少は雑でも温度を測る。台代わりにアルミ製の大きなトレーを使い、少しずつ冷やしては混ぜ、また温め直す。狭いテーブルに二人で向き合い、ヘラを交互に握る。

 

 「うん、いい感じ……もう少しだけ冷やそう」

 「わかった。よいしょ、っと……」

 

 ぎこちない作業ではあるが、お互いに声を掛け合ううちに、少しずつチョコの感触が変わっていくのがわかる。息を合わせるような不思議な一体感。まるでバレエのペアダンスをしているみたいだ、と私は心の中で思った。

 

 やがて、二人で流し込んだチョコが冷えて固まり始めるころ、もう消灯時間が迫っていた。それでも型を外してみると、カパッときれいに剥がれ、ツヤのあるチョコレートが姿を見せる。完璧な仕上がりとは言えないかもしれないが、今の私たちには十分すぎるほど綺麗に見えた。

 

 「すごい……ちゃんとできてるね……」

 「あはは、本当だ……。ちょっと感動」

 

 私たちは顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれる。こんな時間に甘い匂いに包まれて、つい「やったね」と言い合えることが幸せだった。

 

 「味見……したいけど、夜遅いから太っちゃうかな」

 「少しだけなら……明日、運動するから大丈夫だよ」

 

 そう言って、私たちは小さな欠片をかじる。パキッという心地よい割れる音。舌の上でほどける甘さとコク。――まるで、長いあいだ緊張しあっていた心の糸が解けていくようだ。

 

 「……美味しい」

 「うん、ほんと。なんだか嬉しいね……」

 

 二人で作ったチョコは格別だった。完成度がどうこうじゃなくて、この瞬間を共有できたことが何よりのごちそうだ。私は心からそう思った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。