チョコレートに溶ける心 作:kame
それから私たちは、とにかく部屋の掃除を始めた。散らばったチョコの破片や溶けた塊を拭き取りながら、互いに謝り合ったり、改めて「日記に書いてあった知識って、どんな感じなの?」などと会話をしたり。自然と笑みがこぼれてくる。
「それじゃあ、今からでも温度を戻して、もう一回やってみようか?」
清夏ちゃんが提案してくれたとき、時計の針はすでに夜の十時を回っていた。本来なら消灯の時間も近い。だけど私たちはちょっとだけ無理をして、再チャレンジすることにした。――せめて今夜、一度は一緒にチョコを作りたい。その思いに駆り立てられたのだ。
「とはいえ、本格的にはできないよ。設備がないし、騒ぎすぎると周りに迷惑だから……簡易版でいい?」
「うん、いいよ。……でも、その工程を教えてくれると嬉しい」
こうして始まった“夜のチョコ作り”は、きっと寮生活の規則ではややグレーゾーンだろう。けれど清夏ちゃんは「気をつけてやれば大丈夫」と笑っている。私も今なら、あの頃の「恥ずかしい」と怯えていた自分を乗り越えられる気がする。
湯せんでチョコを溶かし、多少は雑でも温度を測る。台代わりにアルミ製の大きなトレーを使い、少しずつ冷やしては混ぜ、また温め直す。狭いテーブルに二人で向き合い、ヘラを交互に握る。
「うん、いい感じ……もう少しだけ冷やそう」
「わかった。よいしょ、っと……」
ぎこちない作業ではあるが、お互いに声を掛け合ううちに、少しずつチョコの感触が変わっていくのがわかる。息を合わせるような不思議な一体感。まるでバレエのペアダンスをしているみたいだ、と私は心の中で思った。
やがて、二人で流し込んだチョコが冷えて固まり始めるころ、もう消灯時間が迫っていた。それでも型を外してみると、カパッときれいに剥がれ、ツヤのあるチョコレートが姿を見せる。完璧な仕上がりとは言えないかもしれないが、今の私たちには十分すぎるほど綺麗に見えた。
「すごい……ちゃんとできてるね……」
「あはは、本当だ……。ちょっと感動」
私たちは顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれる。こんな時間に甘い匂いに包まれて、つい「やったね」と言い合えることが幸せだった。
「味見……したいけど、夜遅いから太っちゃうかな」
「少しだけなら……明日、運動するから大丈夫だよ」
そう言って、私たちは小さな欠片をかじる。パキッという心地よい割れる音。舌の上でほどける甘さとコク。――まるで、長いあいだ緊張しあっていた心の糸が解けていくようだ。
「……美味しい」
「うん、ほんと。なんだか嬉しいね……」
二人で作ったチョコは格別だった。完成度がどうこうじゃなくて、この瞬間を共有できたことが何よりのごちそうだ。私は心からそう思った。