無限の系統樹における可能性の多寡について   作:深夜テンションの鮎

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In Legendaria, the perverted country.

 森の中を一人の人間が歩いていた。

 ばき、ばき、と嫌な音を森に響かせながら、鬱蒼とした奥へと進んでいる。

 

 身長は二メテルにも達するその人間。重く黒光りする全身鎧に身を包み、背には異様なオーラを放つ塔盾を背負っていた。

 その他にも様々な装飾品を身につけており、余人が見ればおよそ只者ではないと思うであろうその人物は、どこか怯えるように辺りを見渡している。

 

 枝を折る音を幾重にも奏でながら、森の更なる奥へと進む。

 奥に行くほどに、その人間の怯えようは激しくなっていた。

 

 やがて鎧の人間は大きな茂みに潜り込むと、全身の装備を一瞬にして()()。明らかに人間業ではなく物理法則にも反しているその早脱ぎは、しかしその人間にとっても世界にとっても正常な技術(スキル)だった。

 そうして全裸になったその姿は強面の男性であり、そのまま何事かを呟くと、茂みの中からゆっくりと脱出する。

 ———全裸のまま。

 

 その左手には、「服を脱ぐ人間」に見える紋章があった。

 

 男は<マスター>だった。

 

「ああ、もう……どうしたってこんな<エンブリオ>になっちまったんだよ……」

 

 <マスター>。

 

 それはこの世界において少々特別な意味を持ち、同時に非常に強力な人種を指し示す言葉である。

 

 <エンブリオ>と呼ばれる特異な可能性(ちから)を振るい、死しても()()世界で三日もすれば生き返る人間範疇生物(外見又は内面(もし)くはその両方が人間とかけ離れた者は存在するが)。

 人間(ティアン)にとって適性のあるものしか就くことが不可能である、ジョブと呼ばれる力。<マスター>はそれに対する万能の適性も持っていた。

 

 とある<マスター>が表現した、<マスター>とティアンの差を引用するならば。

 ———ティアンが石を手積みし塔を建てようとするのに対し、<マスター>は重機持ち込みで塔を建てているようなモノ。

 <マスター>とティアンには、それ程の差が存在していた。

 

 故にこそ、新人以外の<マスター>は例外なく強者である。

 そして男が着ていた装備は、新人<マスター>には到底扱えぬようなモノだった。

 

 では、なぜ男は尋常でないほどに怯えているのか?

 

 無論のことながら、<マスター>も人間。故に千差万別のパーソナルを持ち、その中には怯えやすい性質の者もいるだろうが……それにしても、その男の怯えようは奇妙だった。

 まるで()()に見られでもしたら人生が終わるような、或いは羞恥心を押し殺すような、そんな怯え方。

 いや、全裸だから当然なのだが……それでも、その姿になることは故意にやっているはずであった。

 

「早くモンスター狩ろ……」

 

 男は、男自身がその巨躯で折る枝の音に、誰かが近づいてきたのかと怯える。それほどまでに男は神経質になっていた。

 辺りに人気はなく、男の持つスキルからしても周囲に人間()存在しないことは理解していたが、やはり羞恥心と恐怖心は存在していた。

 自分から全裸になったのに。

 

 そうやって男は、鎧姿の時と同じような様子で森の奥へと進んでいた。

 時折自分が折る枝の音に怯えながら。

 

 

 

 ———<マスター>の持つ唯一にして絶後の力。

 ———無限の可能性の“化身”。

 ———<マスター>の現し身であり、共生者。

 

 ———即ち、<エンブリオ>。

 

 十人十色、百人百様、千差万別の能力を持ち、大きく六つのTYPEと七つの階梯に分かれるモノ。

 <マスター>のパーソナルによって変化するソレは、当然のことながら怯える巨漢にも備わっていた。

 

 その銘を、【堕津威王 ハリー・フーディーニ】。

 到達形態は第五に位する、TYPE:テリトリーの派生———TYPE:ルールの<エンブリオ>である。

 そして、その能力こそが男が怯えさせる要因のひとつだった。

 

 【堕津威王 ハリー・フーディーニ】。能力特性———()()()()

 

「クソ! どんなパーソナルだと思われるか……!!」

 

 <エンブリオ>は、<マスター>のパーソナルを読み取って生まれる。

 そこに例外はなく、故に<エンブリオ>から<マスター>の人格を逆算して連想することも可能だった。

 

 一般的にその行為はマナー違反とされているが、やはり行う者は存在する。

 そうでなくとも、「脱衣による身体強化」なんて能力特性はすぐに「露出狂」というパーソナルを連想させるもの。

 実際に<マスター>がそうでなかったとしても……やはり先入観は生まれるのだ。

 

 そしてパーソナル問題を抜きにしても、そもそもが「脱衣」という行為を必然とさせる強化。

 往来で他者に全裸を見られでもしたら、男は羞恥心に殺されかねない。

 

 勿論、<エンブリオ>を使わずにモンスターの狩りを楽しむという選択肢も存在している。

 

 だが合計500レベルがカンストとされるこの世界において、男の合計ジョブレベルはおよそ200。

 男自身の技量が高くないことや、近郊にある人気のないモンスター出現場所では例外なく強力なモンスターが徘徊していたことも相まって、「脱衣強化」という<エンブリオ>に頼らなくては狩りをすることは不可能だった。

 とはいえ、男はこのエンブリオが脱衣を要さないものだとしても、絶対に人気(ひとけ)のない狩場を選んでいただろう。

 

 ……なぜ絶対に人気のない場所を選ばなければいけないかは、まぁ……彼のトラウマに起因している、とだけ言っておこう。

 

「———GYA !!」

 

 無防備に呟きながら歩いている男の横にある茂みから、虎型のモンスターが勢いよく飛び出す。

 

 【亜竜猛虎(デミドラグタイガー)】。

 亜竜級と呼ばれる、100レベル(下級職)たちの6人パーティで相手取るのがやっとと言われるクラスに、その虎は位置していた。

 男のレベルが200だとしても、そんな亜竜級の奇襲に耐えることは難しい。よほどの技量があれば例えレベル0だとしても勝利する規格外もいるだろうが……男はソレに当てはまらない凡夫だった。

 

 そうして虎は亜音速という脅威のスピードで男に飛びかかり、

 

 

 

「———知ってんだよ雑魚!!」

「GUAAAAA !!?」

 

 ———全裸の裏拳で吹き飛んだ。

 

 

 

 裏拳が直撃した虎は、木々を薙ぎ倒しながら奥に奥にと飛ばされ———その進行が終わった時には、(なめ)された毛皮と牙が転がっていた。

 

 男のレベルは、たかたが200。この世界の超越者からすれば吹けば飛ぶような数値。そしてそのレベルから発揮されるステータスでは、どう足掻いても格上たる虎をそこまで吹き飛ばすことは不可能だった。

 

 だが大前提として、男は<マスター>———<エンブリオ>との共生者である。

 

 【堕津威王 ハリー・フーディーニ】。能力特性、脱衣強化。

 その<エンブリオ>の銘を冠する、最大にして必殺のスキル。

 《あらゆる束縛からの脱出(ハリー・フーディーニ)》。

 

 その効果は———()()()()()()()()()()()()()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふははははは、大漁じゃァい!!」

「「「GYAAAAAAA !!!??」」」

 

 仮に防御力1000の装備ならば、全ステータスに3000の。

 防御力2000ならば、6000にも及ぶバフが男にかかる。

 

 この世界に住む大半の人間のステータスが四桁よりも少なく、多い者でも大抵は1000から2000程度。

 それをいとも簡単に覆す男の<エンブリオ>は、狩られるモンスターにとって紛れもない脅威だった。

 

 男はそのまま音速にも届きかねない速度で森の中を走り続け、<エンブリオ>のスキルの一つ《追跡者への追跡(ストーキング・ストーカー)》を駆使してモンスターの位置を把握、近いものから撃滅していく。

 一騎当千、万夫不当。無双という言葉がよく似合うその姿は、<マスター>ならではの光景だ。

 

 ただし全裸である。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!! 亜竜がなんぼのもんじゃぁい!!」

「「「GUGYAAAAA !!!?」」」

 

 そうして数多の木々が折れた森の中、最早小さな広場となった場所であらかたのモンスターを殲滅し終えた男が勝利のスタンディングをしていた。片腕を空にやる、某ヒーローな学校(アカデミア)のアレだ。

 

 ただし全裸である。

 

 もう一度言おう———

 

 陰茎から脇の下まで全てを晒し。

 

 かけらも恥じらう様子を見せず。

 

 その状態で勝利のスタンディングをしている。

 

 その姿は、ある意味では勇者(ヒーロー)だったが———、

 

 

 

 ——————ただし全裸である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな男の住む国は、()()()()()()()

 

 妖精と、幻想と、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ところで。

 

 レジェンダリアという国には、魔力暴走によって生み出されるひとつの災害が存在する。

 

 その名も<アクシデント・サークル>。

 

 転移魔法に代表される魔法が、土地に蓄積された魔力が暴走することによって発生するその現象。

 

 ……転移魔法。()()()()である。

 

 尤も、「土地に蓄積された魔力の暴走」によって発生するが故に。

 

 魔力の薄い地域ではゼロに等しい確率で存在するその災害。

 

 しかし、レジェンダリアはその国の性質によって魔力が色濃い。

 

 故に。

 

 巻き込んだ者を世界のどこかに転移させるその災害は、そこそこの確率で発生する。

 

 

 

 ———勝利のスタンディングをしている、全裸の下にも。

 

 

 

「あっ? えっ、せめて服を着る時か」

 

 ———こうして、レジェンダリアにかつて存在した何処かの森林に、生物はほとんど居なくなった。

 

 その後、その<マスター>がどうなったかを知るものは殆どいない。

 今も精力的に活動しているかもしれないし、羞恥心とトラウマを忘れながらモンスターを殲滅しているかもしれない。もしかすると監獄で元気にやっているのかもしれないし、この世界で新たにお相手を見つけたのかもしれない。

 

 ……ただ、【ハリー・フーディーニ】の必殺スキルには「発動後一定時間着衣禁止」というデメリットが存在し。

 

 その日のレジェンダリアに、野太い悲鳴と乙女の悲鳴の二重奏が響いたことは、確かであった。




◯【堕津威王 ハリー・フーディーニ】
脱衣王。
やたら中2チックな銘をした<エンブリオ>。
作中で能力特性:脱衣強化と書いているが、その本質は「束縛からの脱出」。
仮に第七形態に達したならば、「時間制限とデメリットありの法則逸脱」のスキルが生える。
「束縛」と書いている時点で、そのパーソナル……というかトラウマは推して知るべしである。

◯《あらゆる束縛からの脱出》
デメリット:「発動中装備禁止」「発動終了後一定時間装備禁止」「SP十割喪失、発動中回復不可」を代償に時間制限がないスキルと化している。
ぶっちゃけステータスがちょっと弱い超級職なだけのため、発動されたとしても熟練した準<超級>なら普通に倒せる。そこそこいい勝負はする。
……まあ、この<マスター>が対人戦で<エンブリオ>を使うかということは置いておいて、の話だが。

◯《追跡者への追跡》
この世界にいてもトラウマが発症しかけた頃、第三形態になった<エンブリオ>が獲得した探知スキル。
名前から分かる通り本来は生命探知ではなく、自身の追跡者を探知するスキルである。
……え? 生命探知だけじゃダメなのか、って?
いや、ドローンカメラとか発信機とか衛星写真とかあるじゃないですか。最近の技術の進歩は著しいんですよ……?

◯勝利のスタンディング
ステインさんもUターンするレベルで絵面が酷い。

◯乙女の悲鳴
……。
流石に【妖精女王】じゃない。
———はず。
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