みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。
実在する人物、及び団体とは一切関係ありません。

また、今回はかじPENYO様の企画の『みみのこオークション』をモデルにしていますが、筆者が体験したイベントレポも兼ねております。実際のセリフや構図とは多少異なる場合がございますが、ご了承ください。



閑話 みみのこオークション

 

どこぞとも知れぬ地下。高級感のあるカーペットの敷かれた階段を下る。

その先にある扉の先にあるホール───の、右の扉の奥へ造られた待合室で、一人の男が柱にもたれかかり、その時を待っていた。

男は自らが男であるという認識を持ったまま女性の体を有しており、最も、彼からすれば体付きや衣服は二の次であるのだが、良く手入れ()()()()()ブロンドの髪を後ろに流し、笠の奥から機械的な面を通して周囲を観察していた。

 

一つ一つが丁寧な職人技で彩られた装飾のついたソファや机が並び、そこへ集い談笑する者たちは獣の体を持つ者、美貌をマスクで隠す者、首の長い者、鼻の長い者……。

あまりにもバラバラで特徴的な外面を持つ者達に類似点や共通点があるとするならば、二つ。

 

一つは、彼らがこの場に集うに相応しい財を持ち、ここが何処なのかを理解して来ているということ。

 

そしてもう一つは。

 

『皆様、お待たせいたしました。これより皆様を、商品保管室にご案内いたします。始まる前に、品定めはいかがでしょうか』

 

ここにいる全員が、みみのこ()()()()()、ということである。

 

みみのこ とは。

すばしっこく、逃げ足だけは早いのに、やたら好戦的で、自らが相手に敵わないと理解していても───否、理解できずに突っかかってくる害獣のような生き物。

その生態はまだ詳しく明かされておらず、独自のコミュニティや文化を持ち、中には言語を解し学問に励む者すらいるという。

『不思議な生き物』、一般的にそう認知されている彼ら みみのこ はその愚かさや愛くるしいルックスから好むものが多く、しかし保護法には引っかかる知能の低さを誇るため、みみのこを飼うことは法律で禁止されている。

しかし、禁止されているが故に───このような場が存在するのだ。

 

今、他の参加者に紛れてゆったりと歩き、別室へと移動するこの男も、みみのこ を求めてやって来ていた。

赤く光る五つの目を隠すように笠を持ち会釈をし、他の貴族に続いて扉の先へ進む。

ホールから左、つまり待合室と真逆の方向にある別室には、大小いくつかの檻が用意されていた。

嗜虐心をくすぐるその姿に色めき立つ貴族達はすぐさま檻の横へ駆けつけ、もしも自分が手に入れたら、という妄想に浸る。

労働力。愛玩。兵士。

自身がまだどうしてここにいるのか分かっておらず怯える みみのこ 達を囲み、それぞれがにんまりと笑っていた。

 

「な、なんですか……あの……出してください……」

「いい話があると言うからついて来たのに、いったいここはどこなんですの!」

「お嬢様、落ち着いてください……!」

 

冷たく、硬い檻の中、みみのこ 達が声を上げる。

無論として、この場にいる者はそのような声が気に触るような器をしていないのだが、それでもうるさいことには代わりは無かった。

 

「黙れ」

 

スーツに身を包んだスタッフの一人が、手に持つ杖で床を叩く。

牢の中で一体どのような()()を受けたのか、みみのこ 達はその硬質的な音に酷く怯え、肩を振るわせその場に座り込んだ。

一気に静まり返る檻の中に対比して、囲む貴族達はその姿に思わず笑みを溢す。

紛れて、男も機械的な面の奥でクツクツと笑った。

怯える みみのこ の姿に、ではない。

 

「(ほう……竜種までいるとは……)」

 

彼の視線の先には、青い みみのこ がいた。

頭部からは二本のツノが生えており、その小さな体の中に詰まっているエネルギーは計り知れない。みみのこ ではあるので強さに限界はあるだろうが、間違いなく、この場で最も頑丈である。

 

「おい、起きろ!」

「ぴぃっ……!」

 

スタッフに殴られたツノを持つ みみのこ が、喉の奥から苦痛の声を上げながら立つ。

勢いからしてかなりのダメージのはずだが、苦痛に顔を歪めながらも立つことはできている。男にとって及第点……どころか、肉体の頑丈さだけで言うなら至上のものである。

 

「(……欲しい……)」

 

いざ実物を目にし、このどれかが手に入る妄想をすると、この男でもにやけが止まらなくなる。

様々な檻を眺め、男はじっくりと品定めをしていった。

 

「(この子はところどころ欠損していますね……代わりの腕や足を作っても良いですが、そんなことをするくらいなら最初から全て一から作った方が早い気もします。適正では無さそうですが……考慮しても良いかもですね)」

 

高揚した男がもう一つの檻へ近づくと、気づいた みみのこ が恐る恐る男を見上げた。

 

「ここは……どこなの……?」

「……ふむ」

 

隣に目をやると、緑色の みみのこ が倒れている。

髪の毛は薄く焦げ煙が上がっており、何かの装飾が燃えた跡があった。

 

「耐久力はあまり期待できませんが……」

「こちらの みみのこ は、耳立(じりつ)みみのこ学院の生徒です」

「なるほど。知能面では期待できそうですね」

「うう……お父さん……お母さん……」

「おやおや……メンタルはやや劣っていますね。まぁ、関係ありませんが」

「ど、どういうこと……?」

「貴方が知る必要はありません。少なくとも、私に買われるまでは」

「ひっ……!」

 

覗き込んでくる五つの赤い目に恐怖し、思わず後ずさる みみのこ。

足がもつれて転んでしまい、その場にへたり込んでしまう姿を眺め、男は興味深そうに眺めた後で隣で気絶している緑髪の みみのこ を指差す。

 

「彼は?」

「かしこまりました。おい、起きろ!」

「え゛う゛っ……。な、なに───」

『みなさまお楽しみのところ申し訳ありません。そろそろ準備のお時間となりますので、一度ホールまでご移動願います』

「おや、時間のようですね。それでは」

「うう……殴られ損じゃん……」

 

支配人の言葉に反応しうずくまる みみのこ を見て男は微笑む。

この みみのこ は、自身の身に何が起こっているのか理解をしている。

全てを分かっているとまでは言うまいが、スーツのスタッフとそれらがうやうやしくエスコートしている『人』や『人ならざる者たち』は別である、と。

 

「(彼は……案外、賢いのかもしれませんね)」

 

男がそんなことをなんとはなしに考えながら他の参加者についていくと、やがてホールへ出る。

床も、机も、壁も、全てが朱く染まっているホールの椅子に座り、男は顎に手を当て、その時を待っていた。

 

「お気に入りの みみのこ はいらっしゃいましたか?」

「おや……」

 

スタッフの一人が、男のいるテーブルにつき声をかける。

テーブルにワイングラスを並べていくスタッフの頭には有刺鉄線が巻かれており、ふと周りを見渡せば、先ほど杖で床を叩いていた男の腰には拳銃が、他のスタッフもかなりの手練れであることが服の上からでも伺えた。

これはこれは、()()()()()()()安心できそうですね、と男はため息にも似た声を漏らす。

 

「頭にツノの生えた竜種の子と……あとは、耳立……なんでしたか」

「耳立みみのこ学院でございます」

「ええ、ええ。その学院の生徒の子。今はそれらが気になっています」

「あの二耳も競争率が激しいですからね。最後まで油断は禁物ですよ」

「重々。他の子にも期待していますよ」

「お待ちくださいませ。……お客様はいかがですか?」

「えー、私? 私はー……あのメイドの子! あとは白いエルフの子も好きだなー!」

 

ワインを口に含もうとして、そもそも顔全体が文字通りの鉄面皮で覆われている男は肩を落としながらグラスを置く。

もうしばらく食事をとっていないと言うのに、生物本来の動きには逆らえないものである。次は食べ物を口に入れる機能でもつければ、生命維持も容易になるのだろうか……と男は思案するが、それでも今は自分のことなど考えている暇では無い。否、みみのこ の事も大きく見れば()()()()()ではあるのだが。

 

『皆様、大変お待たせいたしました。改めて、当オークションの支配人を務めさせていただいています。以後よしなに……。さて、商品の準備が整いましたので、当オークションの『ルール』を説明させていただきます』

「(ルール……事前に特殊なルールがあるとは言われていていましたが、これですか)」

 

スタッフがそれぞれの席に立ち、一枚のボードを卓上に置く。

1000、2000、3000……1000単位で下に行くほど数字は大きくなり、最も大きいものは8000。

 

『今回のオークションでは特殊な形式を採用しており、入札額は()()()()()()()()、スタッフのみにお伝えいただきます』

「(……となると、普通のオークションのように値段の競り合いが始まるわけではないのですね)」

『その後に集計を行い落札者を発表する形となります。では、落札者はどう決めるのか、ですが。『入札額が一番高い方』が落札となります。……ただし。()()()()()()()()()()()()()()場合、どちらも無効となりますので、ご注意ください』

 

例えば、3000と3000と2000と1000の4人で競り合った場合、3000の二人が無効となり、その時点で最も高い2000の入札者が落札となる。

もちろん高い金額を出せば、落札する確率は高くなるのだが、それは全員が同じこと。

「流石に最高額を全ブッパする奴はいないだろう」と最高額である8000を出すものが9人いて、残りの1人が1000での入札だった場合、9人が無効になり残りの1人が落札となってしまう。

だが、それ狙いで1000を出す者が何人いるか……という、心理戦にも似たルール。

それが、今回のオークションの特殊なルールであった。

 

『また、皆様方の所持金は一律で10000となっており、所持金が残っている限り、何度でもご参加いただけます』

 

先ほどアイツは8000で落札したから残りの所持金は2000。ここで3000以上を出せばアイツよりは上になる……と、そんな考えを巡らせることもできる。

 

『また、一つの商品にご参加いただける数は10人までとさせていただいています。それ以上となった場合、運営側にて、抽選を行わせていただきます』

「(困りましたね。運は悪い方です)」

『ルール説明は以上となります。何かご質問があれば、(わたくし)かスタッフまでお申し付けください』

 

そうしてお辞儀をし、隅へ移動する支配人。

それを見計らってか、壇上に1人、舞台袖から出てくる陰が。

ペストマスクで顔が隠れてはいるが、体格や立ち姿、仕草からして男。シルクハットを被り、燕尾服に身を包んでいた。

 

『大変長らくお待たせいたしました。当オークションでの司会進行を務めさせていただきます。どうぞお見知り置きを。……それでは早速、記念すべき1耳目。こちらになります。ぜひともお近くでご覧ください』

 

ペストマスクの男が、自分のいる位置とは反対方向の舞台袖に合図を送る。

すると、その奥から先ほど杖で床を叩いていた───スタッフの中でも特に屈強な───灰色の髪のスタッフが、鎖を引いて壇上へやってくる。

鎖の先には首輪に繋がれた みみのこ が本人の意思を無視して引き摺られており、勢いよく、しかひ傷はつかないように壇上の檻の中へ入れられた。

 

「ほう……先ほどの」

『そう。こちらはかの名門校、耳立みみのこ学院の生徒にございます。……入手経路につきましては……『お察し』ください』

 

現状を理解できていない困惑の感情。怯える姿。制服。

十中八九……()()()()、というものだろう。

というよりも、みみのこ の入手経路なぞ大抵そのようなものである。

 

『情報によりますと、真面目で勘弁。将来有望で、卒業後にはきっと……フフッ。今となっては、もう関係の無い話ですが。……ともかく、その勤勉さは、お客様方の役に立つことでしょう。駒使いとしてはもちろん、愛でるもよし、()()()()……』

「「「…………」」」

『フフッ。野暮、でしたね。……さて、こちらの商品に入札されるお客様は、床の線よりも前に出て、挙手をお願いします』

「さて、どうしましょうか」

「行こうかな」「が、頑張ってくださいね!? 考えて!! 考えて入れてくださいよ!? 後があるんですから!!」「自分は……降りようかな」

「(手を挙げている者は……8名ですか。ここはルールの確認も兼ねて、参加してみるとしましょう)」

『現在の参加者は8名でございます。他にご参加をご希望のお客様は……』

 

男は手を挙げ、じっとペストマスクを見つめる。

その視線に気づいたのか、ペストマスクは改めて参加希望者を数えた。

 

『失礼いたしました。9名でございましたね。他にご希望のお客様は……』

「「「…………」」」

『いらっしゃらないようですね。では、こちらで締め切らせていただきます』

 

この商品の入札上限は、現在の参加希望者から−2000。10人であれば8000、今回は9人ということで、上限は7000と定められた。

 

『それでは、スタッフに入札額をお伝えください。……それと、くれぐれもその場から動かないように……お願いいたします』

「失礼いたします」

「…………」

 

男の前に、スタッフが先ほどのボードを持って現れる。

 

「こちらの入札額を、指差しで……お願いいたします」

「なるほど、声に出さないために。……今回の上限は」

「7000でございます」

「(9人で7000。人気がありますし、高い金額を入れる者は多いでしょう。となれば被りは避けたいところですが……初めから飛ばしすぎるのも後から苦しくなりますし、少なめにしておきましょうか)」

 

男は無言で、3000を指差した。

落札できなかった者は、入札に使った額は返されるのだが、用意された商品はまだ後がある。これが、男にとって先を見据えた選択であった。

 

手渡された『入札』の札を物珍しそうに眺め、男は少し弱気過ぎましたか、と自嘲気味に笑う。

が、既に入札は済んでいる。もう変えることはできない。

 

「(今回はお勉強、ということで)」

『……入札額が出揃いました! 今回、落札された金額は……5000でございます! 前へお上がりください!』

「(……やはり)」

 

しかし、5000で落札されたということは、6000は被りが出たということ。

かといって自分が5000で入れても無効となり、5000以下の入札額を持つ者に取られるだけ。一度選択したら、あとはもう他人任せなのである。

 

壇上に上がった1人の令嬢が、無邪気に札を支配人に手渡す。

そのまま鎖を掴み、おめでとうございますと言葉を送る支配人と司会進行(ペストマスク)に手を振り、制服の みみのこ を引き摺っていった。

 

「すみません、入札札(にゅうさつふだ)をお預かりしても……」

「ええ、どうぞ。……残念です」

「まだまだ商品はございます。是非とも……」

 

そうして、オークションは続いていった。

2耳目も落札できず、3耳目。男が、「ここで手に入れられなくとも、どこかで手に入れましょう」と半ば諦めていた頃であった。

 

『貴族の皆様、そろそろルールには慣れて来た頃合いでしょうか。相手の心理の裏をかく……皆様の、得意分野でございましょう。それでは、3耳目はこちらでございます』

「み゛ぃ〜っ……み゛ぃ〜っ……。痛い……」

 

立つ事もできず、体ごと引き摺られて来たのは、緑色の みみのこ。

先ほど焦げていた、やたらと元気で……しかし、男からすれば勘の強い みみのこ であった。

キラキラとした瞳で興味深そうに辺りをきょろきょろと見渡している。

 

「あの子、頭は良いんだがな……」

「賢そう……では、ありましたね」

『牧場生まれ、牧場育ちの、良血の みみのこ でございます。将来を期待されていましたが……運動能力が低く、肉体労働には向いていません。ですが、知能は比較的高く、ちょっとした小物であれば作ることが可能です。それゆえに自尊心が哀れなまでに高いのが残念ですが……それをへし折るのも一興でしょう。……さあ、こちらの商品に入札をご希望のお客様は、線よりも前に───』

「……今回は降りるとしましょう。運動能力の低さはある程度までなら許容できたのですが……こうも念押しされるとあまり良くありません。少なくとも、私の求めた肉体ではないですね」

「だな。アイツの話だと、バッジを持っていると言っていたが……危うく騙されかけた」

「ほう……?」

「スタッフが燃やしてた」

「燃やしていた……? バッジは金属で出来ているのではないのですか?」

「アレは自作したモンだな、おそらくは」

 

たまたま隣り合った、帽子を被った貴族が馴れ馴れしく話す。

男はそんな貴族を一瞥し、視線を戻そうとしたところで、はたと気づいた。

 

「バッジを制作……運動能力の低さ……まさか……」

 

自身の商品価値があまり無いことを知っている上でバッジを自作し、バッジについて知らない貴族から見た自分の価値を上げようとしている……?

だとするのならば、自ら商品となっていることを最初から知っていて……。

 

「(……おや。おやおやおや。みみのこ はそのほとんどが知能が低く、この場で怯えていないのはただイカれてしまっただけなのかと思っていましたが……なるほど。なるほど、なるほど)」

『現在の入札希望者は9名でございます。では、ここで参加を締め切らせていただきます……おや。参加をご希望ですか?』

「お前、行くのか? アイツ嘘つくぞ」

「少々、気が変わりまして」

『かしこまりました。では、10名で締め切らせていただきます』

 

自分を商品だと認識した上であの胆力。誰に買われるかもわかっていないのに、隙あらば自らを売り込む横柄な態度。

その狡猾さが、男の琴線に触れた。

 

「(それに、どうせ()()()()()関係ありませんし)」

「失礼します。入札額の方を、指差しで……」

「では、こちらでお願いします」

「かしこまりました」

 

男が指定した金額は7000。理由は二つ。

まずは、相打ち無効表狙い。7000で無効になれば、結果的に落札できるのは現状最高額の8000か、もしくは7000より下か。

だが、男が最初は降りていたように。そもそも男が出るまで参加希望者が9人しか居なかったように、この みみのこ はその生意気な態度からかあまりよく思われていない。つまりこの場にいる男を含めた10人は、それを承知の上で……さらに言うなら、それを望んで立っているものだけ、ということである。

であるならば、高い金額に入れる者の方が比較的多いはず。男の見て来たどの時代でも、物好きと言う物はそういうものであった。

そしてもう一つは……()()()()()()()

 

『入札額が出揃いました。今回、この みみのこ の落札額は……』

 

男は笠で顔を隠そうとしたが、それよりも前に自身にさした陰に気づく。

支配人が男の前に立っていた。

 

『7000でございます。おめでとうございます! 壇上にお上がりください』

「おや……落とせてしまいました」

「おめでとうございます。どうぞこちらへ」

「あの方……最後に」「えぇ、最後に飛び入りで参加された方ですわね。素晴らしいですわ」「慧眼、というものでしょうか……」

「この度は落札おめでとうございます。こちらの商品は、今すぐ檻から出してお連れになりますか? それとも、後でお渡しいたしましょうか?」

 

壇上に上がった男にゆっくりと頭を下げ、支配人は男に問う。

男は一度考えるような素振りを見せた後、誰にも見られないというのに仮面の奥で微笑んだ。

 

「では、檻から出していただけますか?」

「かしこまりました。……入札札をお預かりします」

「ええ」

 

札と交換で手に入れた鎖を引っ張れば、みみのこ は躓き転ぶ。

興が乗ってしまっている男はそのまま鎖をずるずると引っ張り、壇を降りるのだった。

 

「いたた……」

「今日から貴方は私のものです。これからよろしくお願いしますね」

「よろしくー!」

「ふふっ。貴方は可愛いですね」

 

そんなやりとりをしている間にもオークションは進んでいく。

 

みみのこ という命を物のように扱い、落札できたことを喜び、できなかったことを悔しがる。

この場に誰も、落札された みみのこ を可哀想と思う者はいない。

もちろん、この男も。

 

男には従順な部下がいた。

常に軍服に身を包み、端正な顔立ちで周囲から羨望の目を受けていた。

だが、彼女のその明るい笑顔も、仕事中の引き締まった眼差しも、日の目を浴びることはもう無い。

男の命令で()()()()()を被って以降、彼女は人が変わってしまったように……否、実際に変わっている。

 

「ごしゅじんさま、指がピースのままだよ」

「おや……そろそろこの身体も使い物にならなくなってきましたね」

「そうなの?」

「ええ」

 

動かなくなった人差し指と中指をもう片方の手で強制的に握り込ませ、男は自身の美しい手を見る。

以前まで、自身の後ろについてまわりファイルを持っていた手である。

 

「お世話になりましたね」

「?」

「いえ、なんでもありません。貴方は本当に可愛いですね」

「えへ、そうでしょ! ごしゅじんの仮面もカッコいいよ!」

「おや、そうですか?」

「うん! つけたい!」

「いいでしょう。希望がなくても、じきにお渡しますよ」

「本当!? やったあ!」

「貴方は本当に……かわいいですね」

 

みみのこオークション。

ここで売られる みみのこ に、何か物を言う権利などない。

落札されたのならば、全ては落札者次第。

労働力。愛玩。兵士。

 

そして、新しい身体。

 

多額の金と、歪んだ愛が交差するオークション会場で、支配人がどこへともなくお辞儀をした。

 

 

 

 

 

「次回のご参加をお待ちしております。……お客様

 

 

 

 

 

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