みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。
実在する人物及び団体とは一切関係ありません。

ちょっと怖いところあるかもです。


閑話 すすめ!みみのこ探検隊

 

人間には、『欲求』というものがあります。

お腹いっぱい美味しいものを食べ、ぐっすり眠って、笑って過ごす。

そんなことができれば、人生としてこれ以上のことはないでしょう。みんな、そんな生活のために今を頑張っているのですから。

実は みみのこ も、欲求を持ち合わせています。

食べて寝て、楽しく笑って過ごしていたい。生意気にもそんな欲求を持つこの下等生物たちは、下等生物ゆえの危機感と計画性の無さか、宵越しの金を持たなかったりそもそもお金の概念を知らなかったり……あげればキリがないほどの畜生ぶりを見せます。

 

では、そんな耳共は一体どうやって生活をしているのでしょう。

 

「みーっ!」

「あっこら、待てッ!」

 

答えは簡単。

そこここにある食べ物をかっぱらっています。

いや、流石に みみのこ という種族全体がこうだとは言いません。……が、こうして盗みを働く耳がいるのもまた事実。

難儀なことに、彼らは妙にすばしっこいので、なかなか捕まえることができません。どれくらいかと言うと、近所のイタズラっぽいガキンチョ、と言えばだいたいは伝わるでしょうか。

 

「『閃光耳(せんこうみみ)』っ!」

「ぐわっ!?」

 

ぱちっ! バチバチバチッ!!!

 

もぎ落とされた耳から光が溢れ出し、爆竹のように激しく明滅します。

そう、みみのこ の中にはこういった特殊な技を持った者も存在するのです。

軽やかに建物と建物の壁を蹴り、屋上までたどり着いた彼───彼女かもしれませんが───。光る耳を持ちますし、()()()()()()()()()()()、耳とピカピカでミミカとでも呼びましょう。

ミミカは みみのこ にしては知能が比較的高く、悪知恵を悪知恵と理解した上でそれを振るいます。

 

「おい、降りてこい!」

「やーだよっ! ここまでおいで!」

 

シャツにくっついている謎の尻尾のような丸いものをふりふりとさせ、おじさんを煽るミミカ。

おじさんは憤りながらも、普段からこの辺に棲みついているミミカが今日も元気なことを確認して、少し安堵の息を漏らすのでした。

 

と、いうのがミミカが捕まる前のお話です。

 

「み、みぃ……」

 

暗く寒い牢の扉が、重苦しい音を建てて開きます。

変わり映えのない風景の中に、久方ぶりに人間を見つけたミミカは己の耳をぎゅっと抑えふるふるとその場で震えました。

 

「おい、光るやつ。出てこい」

「みぃ……」

「……ったく。来いって言ってんだよ!」

「み゛ィッ……!?」

 

両耳を乱暴に掴まれ、牢から引き摺り出されるミミカ。

小さく軽いミミカの体は簡単に宙に浮き、足がつかないことはわかっているはずなのに、ジタバタともがいています。

ミミカの足が地面についたのは、頬より後のことです。

耳を除いた自分の身長よりも高い位置から、勢いよく投げられ顔から着地することになったミミカはしばらく痛みで動けませんでしたが、それでも立たなければ次に何をされるのか分かったものではありません。即座に飛び起き、壁を背にして周囲を見渡しました。

 

「この子が光る耳……かね?」

「はい。目印としてはちょうど良いかと」

「……!?」

 

今日二人目の人間です。

柔らかそうなソファに腰掛けパイプをふかす人間に目が釘付けになり、ミミカの喉が可愛らしくこくりと鳴りました。

 

「交頭接耳の洞穴……通称、『ないしょばなしの洞窟』。君には、今からそこに潜ってもらう」

「どうくつ……?」

「聞いたことはあるだろう。巣食う生物の素材も優秀、そして奥底には金銀財宝……飼い耳なら飼い主から聞いたこともあるだろうが……そうか、君は知らないんだね」

「知らないから、なんなの」

「お前ッ! なんて口ききやがるッ!」

「みげふッ……!?」

「まーまー、よしてくれ。行く前に再起不能になったらどうする」

 

ミミカは人間の放つ言葉の大半がわかりません。

聞いた程度。教えてもらった程度。ついこの間ご飯を盗んだおじさんからも教えてもらっていました。

 

「返して……おうちに返して……」

「おや、家があるのか?」

「……っ……」

「無いから()()にいるんだろう。まったく、みみのこというものはふてぶてしくて困るね」

「みぃ……」

「君の使命は洞窟の中にあるお宝を持ち帰ってくることだ。そうだね、今判明している第3層……そこまで行ったら帰ってきていいよ」

「み……!?」

「じゃあこの子を洞窟へ連れて行ってくれ。装備もその時支給する」

「はっ。……おいお前、来い!」

「み、みぃっ……」

 

また耳を掴まれて手提げカバンになってはたまりません。

ミミカはふるふると震える足で男についていき、扉を潜る前に振り返り……。

 

「……ん?」

「…………」

 

パイプをふかしこちらを一瞥する男に怯え、逃げるようについていくのでした。

 

『ないしょばなしの洞窟』。

世界各地に現れた洞窟の内の一つであり、奥に何があるのかはまだ不明。ただ、下に続いているのは確かなようで……現在は三層まであることが判明しています。

戻る際に上昇負荷が……なんてことは決してないので安心してください。

 

「み゛っ……み゛っ」

 

車から放り投げられ、再び足よりも先に頬で着地したミミカの頭にヘルメットが投げられます。

ガツン、と自分の頭に響く音を聴きつつ、ミミカは土を握り締めました。

 

「ほれ、お前が隊長だ。飯もやる。死んでも良いけど、ヘルメットとこの鞄だけは持って帰れよ。帰ってこないやつがいるから、出費が嵩むんだ」

「…………」

「じゃな」

 

愛想なくそっけなく手を振り車を出す男を睨みつけ手を振り上げるミミカでしたが、握っているただの土がいったい何ができるのでしょう。思いとどまったミミカは握った手の力の行き場を、土を下に投げつけることでなんとかしました。

 

「あ、あの……」

「んぁ!?」

「ひっ、ひぃ……! すみません、すみません……」

「なに、なんだ……え? なんなのお前?」

「あのっ、私たちもあなたと一緒に洞窟に潜る みみのこ です……」

「…………。お前らも?」

「2号だ!」

「……3号」

「あ、私は1号です」

 

胸にそれぞれ、1、2、3と彫られたバッジをつけたみみのこがミミカの周りに集まってきます。

ヘルメットを被ったミミカはとりあえず荷物を2号に持たせ、顔を見比べます。

 

「全く同じだ……」

「ご、ごめんなさい……」

「おれら似てるー!」

「ねえ、待って。門番がこっちを見てる……早く行かないと撃たれちゃうよ」

「やばいじゃーん! いくぞー!」

「ああっ、ねえ、待ってよ! ……あぁもうっ!」

 

人間の視線に気づいた3号が走り出したのを見て一斉に洞窟内へ駆け出す耳共。土だった足場は岩肌になり、明るかった視界はすぐに暗くなります。

ぱちぱち。ミミカの双眸が二、三度瞬きをしますが前は見えません。

 

「なにか……見えるものは……?」

「あ、ランタンがあります……!」

「ありがとう、えっと」

「1号です、隊長!」

「いやその、隊長ってやつなんなの?」

「人間さんが、今からお前らの隊長が来るから迎えるように、って」

「そのニンゲンって、偉そうになんかぷかぷかしてる人?」

「ぷか……?」

 

つまり、自分とは違うところから来た、と。

パイプを知らないミミカはそう表現するしかなく、その表現から1号2号3号全員が辺りをぷかぷか浮いて漂っている人間を想像して否定しましたが……奇跡的にも1耳と3耳の出身は違うのでよしとしましょう。

 

「人間さんたち優しいですよね〜! 洞窟の奥からきらきらしたものを持ってくれば、美味しいご飯を食べさせてくれるなんて!」

「どういうこと?」

「この前見かけた みみのこ さんが、ご飯をお腹いっぱい食べてたんです! 羨ましくって聞いてみたら、洞窟からきらきらしたものを持って帰れば考えてやる、って!」

 

ああ、こいつはバカなんだ。ミミカは思いました。

宝を持ち帰るだけでご飯を食べさせてくれるような人間は、そもそも みみのこ を洞窟なんかに向かわせたりしません。

見かけた みみのこ も恐らく、飼い耳か何かなのでしょう。言うべきか言うまいかミミカが悩んでいると、それまでずっと黙っていた3号が口を開きます。

 

「にんげんは……信用できない」

「……3号?」

「やさしい笑顔でわたしたちを騙して、ひどいことをするから」

「えー! そんなことないよー! おれ、人間さんにたくさんご飯もらったよー!」

「2号……全てのにんげんが()()じゃ無いことを覚えたほうがいいよ。わたしは……もう、騙されたくないの」

「んー……?????? わかった!!!!!!」

「でっかい声だな本当に……」

 

長い耳の奥まで響く声に顔を顰めるミミカでしたが、しかし、洞窟の奥に何かを感じて立ち止まります。野生の勘、というものです。

背中にぶつかり「わぷっ」と声を上げ不思議そうにミミカを見る2号ですが、顔を出してミミカの奥をじっと見つめて……。

 

「なにかいる!?」

「……見えるの!? この暗さとこの距離で!?」

「見えるよ!! なんか……鳥? みたいな?」

「鳥さん、ですか……? でしたら、あんまり怖くなさそうですね! 行きましょう!」

 

意気揚々と一歩を踏み出そうとする1号の足を掴む2号。

 

「ふぎゃっ!?」

「なんか、なんかでっかい! やめようよ!」

「でっ……ええ……?」

「今から戻っても、門番に撃たれるだけ……どうするの、隊長」

「えっ」

 

3耳の視線がミミカに突き刺さります。

ぐるぐると目を回すミミカですが、それでも時間は刻一刻と過ぎていきます。

じっと見つめる3耳の視線を受け、ミミカは土だらけの頬をパチンと叩き、3耳を見つめ返しました。

 

「時間を稼ぐ」

「…………?」

「隙を作るから、先に進んで」

「た、隊長は?」

「大丈夫、逃げられるから」

 

洞窟の奥、ミミカが足を止めた少し先。

開けた空間に、何か羽ばたくような音が聞こえます。

ランタンをすこし高めに掲げれば、その背中のシルエットだけがぼんやりと浮かび上がりました。

大きさからして猛禽の類のもの。爪は大きく鋭く、みみのこ の頭など人間がボウリング球を持つようなサイズ感で掴まれてしまうでしょう。持ち上げられれば最後、逃げることは不可能。ミミカはゾッとしました。

 

「でっかい!」

「シッ、声が大きい! えっと、あれは……たしか、洞窟に生息する生物で……名前が……」

「荷物にあったメモ帳に書いてありました……。名前は『大耳喰(おおみみぐ)らい』」

「おおみみ、ぐらい? というか、文字読めるの?」

「はい……えっと読み上げます。『大耳喰らいは、第1層に生息する生物。暗闇でも見える目を持ち、常に進行方向を向いているので誰かが気を引かないと進むのは困難。大きな爪で相手を持ち上げ、高いところから落下させて獲物を仕留めた後、耳を引きちぎり耳ペンのインクを啜る』……ひっ」

「ッ…………」

「そんな相手に、隙をつくるの?」

「ここで戻っても撃たれるだけなんでしょ? だったら、やるしかないよ……」

 

ミミカは岩陰から身を乗り出し、いつでも走れる体勢を取りました。

この先も暗いため、ランタンは2号が持っています。

暗く広い空間でランタンの頼りない光を背に受け、ミミカはこくりと唾を飲みました。

 

ばさり、ばさり。

大きな翼で空を叩く音が否が応でも聞こえます。

 

「……行くよ」

「「「…………!」」」

「走れッ!!!!」

 

3耳とは反対方向に走り出すミミカ。

羽ばたく音が少し変わるのを感じました。

 

「───ッ!!!!」

「……っ、うるさいな……!」

 

耳をつんざく、金属を擦り合わせたかのような高い鳴き声。

ミミカは長い耳を押さえ、しかしそれでも走り続けます。

ふと、背後に何かが通過したような感覚がありました。

直後に、大きな振動が洞窟中に響き渡ります。

振り返れば、自分の何倍もの大きさを持つシルエットが、地面に激突してうごうごと……。

 

「ひっ……!」

 

もう少し遅ければ死んでいた。本能的にそう感じたミミカはぶわっと汗が噴き出すのを感じながら走り続けました。

再び聞こえる羽ばたきの音。必死になって辺りを見渡し、この暗い空間にぼんやりとした灯りが見えなくなっていることに気付きました。

 

「───ッ!!」

 

大きな翼で作られる激しい風が、ミミカの頬を撫でました。

見えないけれど、前にいる。大耳喰らいの息遣いが聞こえる。後退りしようとしたミミカの踵を阻むのは、洞窟の壁。

 

「───ッ!!!!」

「せ、閃光耳(せんこうみみ)ぃっ!!!!」

 

ぱちっ! バチバチバチッ!!!

 

「───ッ!?!?!?!?」

「う、うわああああああッ!!!!!!」

 

爆竹のように激しく明滅する耳が辺りを照らします。

慣れない激しい光に苦しみ悶える大耳喰らい。洞窟の壁。そして、床。

大耳喰らいの股下を抜けながら、ミミカは見てしまいました。

 

「あっ、ああっ、あああ……ッ!?」

 

今まで自らが踏んでいた床は、床では無かったのです。

 

「あああああああッ……!?!?!?」

 

それは骨と皮、衣服でした。

人に似た頭蓋と、その頭部についたやたらと長い何かの皮。

その中には、2号が持っていたリュックやランタンだったろうものまで。

恐る恐る振り返る大耳喰らいのクチバシには。

 

「……ぁ……ぅ……」

 

大量のインクがこびりついていました。

 

「隊長っ!!!!」

「ッ!?」

「こっちに! ここなら大耳喰らいは入れません!」

「2号、ランタンを……! 明かりが、消える……!」

 

閃光耳がその輝きを失い、辺りを闇が支配した頃。

ミミカは遠くに、小さな灯火が揺らいでいるのを見つけました。

ぎゅむ、と()()を踏みつけ、ミミカは走ります。

遠くにある希望に縋るように。

 

「隊長っ!」

「跳んで! わたしが、必ず受け止める……!」

「ッ!!!!」

 

足に関心の力を込め、跳躍するミミカ。

その手を肩が外れそうなくらい、限界まで伸ばして。

 

「───ッ!!」

「2号さん、3号さんごと引き上げてください!」

「まかせろー!」

 

その手が。

 

「っ、掴んだ!」

「2号さん、せぇーのっ!」

「おーーー!!!!」

「───ッッッ!!!!!!」

 

つんざく鳴き声。

ミミカは壁面にある小さな穴に転がり込みました。

鋭いクチバシが穴を突きますが、それは届きません。

 

「に、逃げようっ!」

「はい!」

「おー!」

「…………!」

 

ミミカ達は進みます。

いずれ自由になることを求めて。

その先に、未知が広がっていることを承知で。

 




プロフィール

ミミカ
盗人をしていたところ捕まり、『ないしょばなしの洞窟』に放り込まれた。『閃光耳』を持ち、目眩しができる。

1号
路地裏生まれ研究所育ち。持ち前の好奇心と野心から、研究所内の本や資料を読み漁り育ってきたので字が読める。先人、否、先耳たちの残したメモ読み上げ担当。

2号
研究所生まれ研究所育ち。聴覚、視覚、嗅覚共にメンバー内トップレベル。類稀なるフィジカルを持ち、荷物+みみのこ1耳分なら軽々と持ち上げられるパワーを持つ。腕や足の長さは普通のみみのこと同じなので攻撃が相手に届くことはほとんどない。

3号
出身不明、研究所育ち。字は読めるし書けるが、2号が読み上げてくれるので話していない。過去に人間に騙されて研究所に放り込まれ、耳体(じ(ん)たい)実験をされたことがあり人間不信。日記を持ち歩いており、研究所では毎日つけていた。恐らく自由になったとしても、日記は書き続けるのだろう。
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