みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。実在する人物及び団体とは一切関係ありません。


第三の構え『不動』

 

「銅バッジ2個目か……モデルはもう持ってるわけだし、後でつけようかな……」

「この短期間で2つも取るってすごいなシロさん」

「シアンさん」

 

みみのこFCアフター。

キルバッジ戦をしていたりポータルを開いたりする耳共を横目に水を飲んでいたシロに話しかけるシアン。

鞄には変わらず金銀銅のバッジが取り付けられており、通りがかる初耳らしき みみのこ がギョッとしていた。

 

「特に最後、3人抜き? それ以上してなかった?」

「そうっ!! そうなんですよっ!!」

「うおっ、八重桜さんじゃん」

 

にゅっと下から割り込んできた八重桜の頭突きを躱し、シアンはそういえば最後にシロと戦ったのは八重桜だったな、と苦笑いを溢す。

怒り心頭……というよりは悔しさMAX。ハンカチがその場にあれば思い切り噛みちぎっていただろう八重桜は、勢いそのままにシロに詰め寄った。

 

「今日の最後、『見えてる』って言ってましたよね!」

「えっ、ああ、はい……たぶん……?」

「いつ、いつ『不動』を覚えたんですかシロさん!!!!」

「ふ、『不動』ってあの、もう一つの型の……?」

 

『不動』。

『居合』『回避』の他にもう一つ存在する型。

 

「そうッ……なんだけど、そうじゃなくって、アレは完全にちゃんとした『不動』だった! それを何故シロさんが知ってる……!?」

「えっと、ちゃんとしたってのがわかりませんし……『不動』を習ってもなくって……」

「……んな……ばかな……」

「あの、もしよろしければなんですが……八重桜さん、『不動』を教えていただけませんか?」

「えっ私?」

「八重桜さんは『不動』にも心得があるようですし、僕も強くなりたかって」

「うぐ……確かに()()()あるなぁ……」

 

言いたいことがあるのに言えない、そんなもどかしさを抱えたまま八重桜は近くの足場へ歩く。

同じように足場に乗ったシロを見て、八重桜は構えを取った。

 

「今から教える『不動』は、私もまだ完璧にできているとは言えません。なので、『不動』とはなんたるかを教えようと思います」

「以前、エリテマさんとキドリーさんとFUJIYAMAで出会った時には、『回避』のメタだと」

「その通りです。相手が『回避』をする時に限り刺さる型……限定的すぎるので使い手がいませんが。ではまず、この足場を見てください」

 

言われた通りにシロは足場を見る。

みみのこ 二耳が並ぶと埋まる、人間にとっては小さすぎる台。

寝転がってしまえば耳と足がはみ出てしまうそれの上を、八重桜が歩く。

およそ3〜4歩。八重桜は端から端まで歩き、シロの自身の間を指差した。

 

「バトルの足場は確かに狭いですが、幅は みみのこ 用になっていますよね。みみのこ の腕は短いので、実はお互い端っこに立つと腕が届かないんです」

「は、はい」

「つまり、距離を詰めなければいけない『居合』に対して、自ら距離を取る『回避』はかなり強いわけです。距離的有利も取れますから」

 

実はこれが応用されたのが……と言いかけ、八重桜は口を滑らせかけたことに気づいて慌ててごほごほと咳き込んだ。

 

「そして、その『回避』にメタを張るべく生み出されたのが『不動』なんですね。シロさん、ちょっと『回避』し続けてみてください。あのー、ヘドバンするような感じで」

「えっ……。こ、こうですか……っ!?」

「そうですそうです」

 

縦に横に、足場の上を転がりヘドバンをするシロをしばらく眺め、八重桜は一歩引き、その隙を見極めた。

そうして、たった一撃、八重桜が腕を伸ばし。

 

「終わり、と」

「あれっ!?」

「このように、相手の『回避』に合わせて動く。これが『不動』なんですよ」

「な、なるほど……!」

「だ、か、ら、こ、そ! シロさんのさっきの動きはすごく『不動』っぽかったんです!」

 

オレンジの足場の上で窮地に追い込まれ、自力で超集中を『超集中』という技として振るえるようになったシロ。

咄嗟や反射といった概念を無くし、常に冷静にどこに誰がいて今自分が何をすべきかを考えることができる『超集中』は、八重桜から見れば確かに『不動』そのものだった。

『不動』はあくまで『回避』の()()であるために、『居合』にめっぽう弱い。相手が『回避』で動き続けることを前提とした型であるため、棒立ちの『不動』は『居合』の的でしかないのだ。

エリテマやキドリーが言っていたように、そんな特性を持つ『不動』は使い手がほぼいない。

結果的に『不動』を使う者はいても、意識的に『不動』を使う者は稀有であった。

 

「えっとつまり『不動』って、相手が『回避』をした後でもぐ……感覚で言って、一拍遅らせて動く、みたいなのであっていますか?」

「んー、大体あっていると思います。『不動』に『居合』を混ぜた戦い方は、またそれぞれとは違った感覚のプレイスタイルに、なるんですけども」

「なるほど」

「せっかくですし練習しますか? 私はもがずに『回避』し続けるので、もいでみてください」

「はっ、はい!」

「……ま、わざわざレフェリーを呼ぶこともないでしょう。それでは、はじめっ!」

「(早っ!?)」

 

唐突に目の前から消えた八重桜に対してバッと後ろを振り向くと、シロの視界の端に先ほどまで目の前にあったはずの長い髪の毛がフェードアウトしていく様が見えた。

その進行方向は角度的にシロの後ろ。それに釣られてまた後ろを振り返るも、もうそこに八重桜の姿は無かった。

 

「後ろ、取られてますよ」

「っ!!」

「よっと、っと」

「ぐっ、早ッ……」

 

視界に捉えることはできる。だが、その時にはすでにシロの前から逃げ始めているので、腕を伸ばしても間に合わないのだ。

いっそのこと『超集中』を使い移動先を予測するかと考えたシロだったが、それでは練習にならないと首を振る。

 

「っ、また後ろに……!」

「ふぅ、ふぅ……どうした、ぜんぜん後ろを取られているぞ……!」

「(八重桜さんの息が上がってる。その分『回避』をさせていることになる。ここまでに僕は何回後ろを取られた……?)」

 

右へ、左へ。

小さな足場でくるくると踊るようにシロの後ろを取り続ける八重桜がもし()()()なら、シロはとっくのとうに敗北している。

 

「それじゃ、ソウエン様には追いつかないぞっ!」

「……ッ……!」

 

五強の一耳、ソウエン。

『回避』を作り出した張本人にして、されど『回避』のみならず『居合』、そして『不動』までも使いこなすオールラウンダー。

シロがフレンドに会うためには、金バッジを取った上で、ソウエンを含む五強を倒さなければならないのだ。

 

「(っ、こんなところで……!)」

「終わらないんで、次後ろ取ったらもぎますからね!」

「(躓くわけには……!)」

 

それは、ただの勘だったのか、計算によるものだったのか。

 

目の前に一度捉えた八重桜がまた視界から消えるのと全く同時に、シロは後ろを向いた。

後ろを取られたらもぐ。ならば敵は後ろにいる。言葉にすればこんなにも簡単で、しかしそれを実行するのは難しい。

踵を点としもう片方の足で地面を蹴り、驚異的なスピードでぐるりと振り向いたシロ。視界の先には、シロへ腕を伸ばす八重桜の姿があった。

 

「(『居合』(プラス)『回避』!)」

「うおっ」

片耳渡しッ!!!!」

「ッ……お〜……やるなぁ……」

「ぜぇ……ぜぇ……!」

 

シロなら頭の上で、片耳が揺れる。

荒い息を繰り返すシロよりもはるかに深く長い息をして地面に倒れ伏す八重桜に一礼をし、シロは自身の手のひらを見つめた。

 

「(今のは『不動』じゃない)」

「ひぃ〜……疲れた……」

「(反射神経でゴリ押しした『居合』と『回避』だ)」

「……ぁ、ソウエンさま……」

「(『不動』を『不動』として使えるようにならないと)」

「頑張ってるようだねシロさん」

「(でも、『不動』ってなんだ……『居合』と『回避』に比べ、わかりにくすぎる……)」

「シロさん?」

「(あの動きを思い出してみよう)」

「おーい、もしも───」

「(『超集中』)」

「し───」

 

話しかけられていたことを知ってか知らずか、脳の片隅に全てを追いやって思考に耽るシロ。

ほぼ静止画の状態でシロに手を振るソウエンを視界の端に、シロは先ほどの八重桜の姿を思い出した。

といっても自身はヘドバンをしていたのでほぼほぼ見えなかったのだが、それでも自分が何をすべきだったのかはわかるはず。

 

まずシロは、がむしゃらに頭を振っていた。

ただ目の前にいるだけで、動き続ける2本の耳を同時にもぎ切るのは至難の業である。

となれば、どこかにからくりは存在する。お互いに みみのこ 、身体能力に差はあれど、基本的なスペック条件は同じなのである。

ならば。

 

「(足……か……?)」

「シロさーん?」

「はっ!!!!」

「あっ、帰ってきた。落ちた?」

「ああえっと、そんな感じです。何か?」

「ん? いや、シロさんが『不動』の練習をしてるってシアンさんから聞いてさ。ちょっとやってみない?」

「えっ。良いんですか?」

「最近『回避』やってなかったからな〜、できるかな〜」

 

自信なさげに構えるソウエンだったが、その動きには迷いは一つもなかった。

積み重ねられ洗練された、『居合』の対抗策を名乗るに相応しい威圧感。

相手が避けることはわかっている。そのはずなのに、シロの手が震えていた。

 

「ソウエン様の()()が見れるってことか……いや、これは激アツだなぁ」

「アレ?」

「そう、アレ……いや、これはちょっと初見の反応がみたいところですね」

 

つまり、何かのからくりがある。

どうしようもなければ『超集中』を使うことも覚悟し、シロは構えた。

 

「3回。3回完全に後ろを取ったらもぐからね」

「っ、はい……!」

「では、お互いよろしいでしょうか……お互い見合ってっ」

「「…………」」

「構えっ」

「(……『不動』……)」

「始めっ!」

「(見極めろ……ッ!)」

 

シロから見て右側へ回り込むソウエン。

どちらから追うかをまず考えていたシロは、それに釣られて右から背後を向いた。

だがその時にはソウエンはおらず、代わりに背後から、

 

「まずは1回」

「…………ッ!?」

 

余裕そうな声で、カウントが告げられた。

ソウエンが今いる場所は、振り向いたシロの背後。つまり、もともとソウエンが構えていた位置。

振り向いた時にはすでにシロの視界から外れていたので、シロに合わせたわけではない。シロが後ろを振り向いて来ると予測し、シロが振り向くのと全く同じタイミングで元の位置に戻ってきたのだ。

 

「目で追うだけが『不動』じゃないよ」

「……ッ!?」

「2回。感覚と足運びで追うと良いね」

「かんかく……あしはこび……!?」

「はい、3回。次からもぐよ」

「シロさんっ、真ん中でぐるぐる回ってるだけだぞそれは!」

「今やえ(八重桜)さんがイイこと言ったねえ」

「(って言われても……意識できない……!)」

 

そうして、グレーの耳がたった一瞬だけシロの視界に映ったかと思うと、それはすぐに掻き消えた。

 

「よっ」

「なっ……もう後ろに……」

「いやーっ、久しぶりに見たなソウエン様の『ダッキング』……! やっぱすごいな……」

「ダッキング……?」

「あぁ、シロさんは知らないっけ。ダッキングってのは、『回避』の技の一つだよ」

「巧みな足捌きによって瞬時に相手の背後へ……お見事です、ソウエン様」

「ふふふ……しかしアレだね。シロさんやっぱり、見てから『居合』しようとしてるよね」

 

痛いところを突かれたシロはうめき声をあげる。

現状、シロには『不動』の感覚が何一つわかっていない。

相手の隙を見定めてもぐのは、『居合』と何が違うのか。

『超集中』で『不動』もどきの動きをしていたが故に陥ったジレンマであった。

 

「んー……じゃあシロさんさ、見ててくれる? やえさんちょっとこっちへ」

「おっ、かしこまりましたッ」

「『回避』で来て。後ろ取ったらすぐもいで良いからね」

「はいッ」

「あ、じゃあ僕がレフェリーを……お互い見合って……構え!」

 

構えをとる八重桜に対して、肩をすくめて棒立ちになるソウエン。

わざと『回避』が刺さりやすいように、ステージの真ん中へ移動した。

 

「はじめっ!」

 

シロの合図に合わせ、思い切り腰を深く落とす八重桜。

そのまま右足で地面を蹴り、ソウエンの背後に向かって跳躍し、対するソウエンは一歩だけ下がった。

 

「……えっ」

 

ソウエンの目の前に、二つの耳。

先ほどソウエンの背後に飛びつこうとしていた、八重桜の耳であった。

目の前に着地した八重桜に対し、ソウエンは赤子の頭を撫でるかのように緩やかな動きで耳を掴む。

 

そして、ただその時を待った。

 

着地したあと首を上げた八重桜が、ソウエンがいないことに気づく。

もぎを警戒して、バックステップで飛び退いた。

その瞬間、

 

「ぐえーっ!」

「と、これが『不動』」

「しょ、勝者ソウエン……」

 

シロは自分の目を疑った。VRのやりすぎて目が悪くなったのではないかと錯覚するほどに、それは魔法と言っても差し支えなかった。

八重桜が動いたと思ったらソウエンは八重桜の背後を取っており、八重桜がソウエンから逃げようとした瞬間、八重桜の耳がもげた。

 

「今の見てた?」

「えっと、一瞬すぎて……」

「そっか。やえさん起きれる?」

「あっ、はい」

「ちょっとここ座ってくれる? ……そうそう、そんでちょっと待って……はい、『回避』して」

「よっ、ぐえー!

「……こういうこと」

 

合図をしたソウエンの両手には、八重桜の耳が握られていた。

掴んだ状態でソウエンから離れようと『回避』を試みた八重桜はその勢いを利用され、腕を動かさずとも耳をもぎ取ることを成功させてしまったのである。

 

「『不動』ってのは、言っちゃえば相手の動きの予測みたいなものなんだよね」

「…………」

「こう来るならこうもぐ。こう来るなら相手は『回避』できない。それを突き詰めて戦うのが『不動』だよ」

「なるほど……」

「実際、さっきも一歩引いてやえさんの『回避』の範囲から外れてたし……『回避』できなかったでしょ? やえさん」

「はい……足場の端っこまでいかれると、後ろの取りようがないですから……落ちちゃうし」

 

もしもソウエンが、ステージの真ん中に位置したまま動かなかったら。

八重桜の選択肢は、後ろに下がるかソウエン側に転がるかの二択があった。

ソウエン側に転がっていれば座標のズレもすくなく、腕を動かす気がなかったソウエンの懐に入り込み、もがれないギリギリをキープしてソウエンの耳をもげていたのかもしれない。

だが、ソウエンは後ろに下がった。

ステージの限界ギリギリ、ここを過ぎれば落ちてしまうという部分を背にし、八重桜に後退以外の選択肢を与えなかった。

 

「冷静になってよーく考えて、そして相手を追い詰める。わかった?」

「た、たぶん……!」

「お、じゃあ練習相手になりますよ」

「ソウエンさーん! バッジ戦お願いしまーす!」

「はーい。じゃあ俺はここで。2人とも頑張ってね」

 

舞台から飛び降りたソウエンは、あっと何かを思い出して振り返る。

 

 

 

「上がって来るの、まだ待ってるからね」

 

 

 

「…………! はい!」

「おぉ……なんだ今のやりとりかっこいい」

「八重桜さん! ちょっとお時間いいですか!?」

「おおうっ、えっ、はい、なんでしょう」

 

急に大声を出され狼狽える八重桜の肩をシロが掴む。

その瞳は、新しい型と技を知ったが故に、好奇心に満ちた少年のようにらんらんと輝いていた。

 

「ちょっと、やってみたい技がありまして!!」

 

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