みみのこ・ファイト・クラブ 作:アキ
実在する人物及び団体とは一切関係ありません。
「こんばん……は……?」
「ぉ! シロさん、こんばんは〜」
「なんか今日、人が多くないですか……?」
夜の22時。
みみのこFCのインスタンスにjoinしたシロの視界には、大量のみみのこが集まっていた。
「そりゃあもちろん、今日が銀バッジ戦だからですよ」
「ぎっ……!? そうか、3のつく日……!」
慌ててランチパッドからメニューを確認すると、みみのこFCのインスタンスは55人。
最大収容
「(まだ22時より十数分前なのに……銀でこれなら金はどうなってしまうんだろう……)」
「今月最後の銀バッジ戦ですからね、頑張りましょう!」
「は、はい……!」
両手の親指を立てシロに笑いかけるソラニンだったが、シロは確かにソラニンがいつもよりも気合いに満ちていることを見抜いた。
何より、語尾が伸びていない。
『はーい、本日のレフェリーをさせていただきますよろしくお願いしまーす。開始前に、リアルコライダーのチェック、水分をお手元に、それから柔軟、してくださいねー』
「うおおおおお」「勝つぞー!」「今日こそ銀バッジを……!」
温度などないはずのVRC上に溢れかえる熱気。
各々が今日こそは、そして今日もと息まき、己が銀色の栄光を手にすることを願ってストレッチなどのアップをしていた。
「その、確認なんですけど……金バッジ戦に出るのに銀バッジが必要……ってことはないんですよね?」
「? はい。どうしてですか?」
「風の噂というか……小耳に挟みまして」
「んー。全くそう言うことはないんですけどね」
銅バッジをまだ持っていない者のみが参加できる『銅バッジ未所持者戦』というものがあるから広まってしまったのか、銅、銀、金バッジ戦に出るには1クラス前のバッジを持っていないと参加できない、ということがまことしやかに囁かれている。
全くそんなことはない。
ぜんぜん出放題である。
金バッジ戦に出るのに銀バッジは必要ないし、銀バッジ戦に出るのに銅バッジは必要ない。
なんなら初めて取得したバッジが金バッジの みみのこ もいるくらいである。
もちろんのこと、だからといって普段の銅バッジ戦をサボっていると普通にボコボコにされて涙を飲む羽目になる。なので普段からFCにいる ファイター 達は研鑽を欠かさないし、ほぼ毎夜、地下闘技場に集まるのだった。
ホッと胸を撫で下ろしたシロは、それはそれとして銀バッジは欲しいと頬を叩いた。
銀バッジ戦は1月に3回、一日に5戦程度。
持っている者は周りから一目置かれ、金バッジともなると……。
故に、銀は欲しい。銀バッジを持っていなくとも金バッジ戦には出場できるが、それはそれとしてその手に握る銀バッジが、金バッジ戦に挑む自分の勇気の源になるのは確かなのだ。
「銀バッジを手に入れたら……見直してくれるかな」
「? どうしました?」
「いえ、何も。銀バッジは、僕がもらいます」
「おぉ、勝利宣言。負けませんよ!」
両の親指を立てたソラニンに笑みを返したところで、シロは気配に振り返る。
ちょうど、十六夜がシロの耳に手を伸ばそうとしている最中であった。
その隣には八重桜と、八重桜の耳を後ろからもごうとしているミタマ。
「うおっ」
「すごいな、今イジャヨの気配で振り向いぐあーっ!?」
もがれた。
「シロぉ……今日はボコボコにしてやるからな……」
「(ぜ、前回のことを根に持たれてる……!)」
「言っとくけど、
「……が、頑張ります!」
「いや、シロさんとは当たりたくねーなぁ……」
「なんだお前」
「うぎゃあっ!!」
ひょこりと顔を覗かせた特攻服を見に纏う みみのこ の耳を吹き飛ばし、ミタマはびしっとシロを指差し、その場を後にした。その背中を見ていたシロは、「いづれあの人も倒さなきゃならないんだよな……」と苦笑いを溢す。
油断を突いた一撃の勝利。相手が油断しなくなるだけで、これがどれだけ通用するだろうか。
「シロさん」
「八重桜さん、技の取得ではお世話になりました!」
「だいぶ夜遅くまでやってましたからね。
「コンディションはバッチリだと思います。あとはどれだけ通用するか……」
「お、新技かい?」
「この前、八重桜さんと練習しまして」
「シロさんには負け越しだったと思うし、そろそろ勝ちたい、ね」
「イジャヨの本気か……荒れるぞこれは……」
「もしかして、さっき気配に気づいて避けてたのと何か関係があるのかい?」
「あー……どうだろシロさん」
「あるような……ないような……?」
「ま、楽しみにしておこう」
「あ、2人ともソウエンさん来たよ」
「「ソウエン様〜〜〜♡♡♡」」
目の色を変えて挨拶に向かう二耳を見送り、餌を撒いた張本人がゆっくりと長い耳をふよらせて歩いてくる。
水色の髪と耳を靡かせたまま、ニットを纏い自身ありげに笑みを浮かべる。
その首元には夥しい量のキルバッジが取り付けられており、
「うわぁ……ヤーレンさんとも戦いたくないなぁ……」
「誰とも戦いたくないじゃん!? ……とまぁ、シロさんは最近の注目株だからね。シロさんは逃げないでよね」
「えっあっ、はい!」
注目株……? とシロは首を傾げるも、そこにレフェリーから時間を告げるアナウンスが響く。
沸き立つ者、緊張に目を泳がせる者、辺りに同期ズレで片耳になっている者がいないかどうか確認するもの、寝る者。
……寝る者?
『おい、始める前から誉無いことすんなー!!』
「おいもうアイツもげ!」「囲め囲め!」「一旦停戦しよう! ヤツからしとめよう!」
「ぐっ、おいやめっ……やめろッ……」
必死に抵抗するも寝そべった状態のままではうまく反撃できず、もがれ死ぬクリーミーピンクの髪の毛の みみのこ。ラーメン店のカスタムオーダーのようなヘイローごとブチもがれ、その場に倒れ伏すことになった。
「(……寝転がるのはダメ……。だったらこれは!?)」
『おい耳埋めてんじゃねーぞ! 始まる前から試合放棄すんなー!』
「あっ、はい」
『なんだァ? 誉無いやつしかいねえのか今日は!』
誇りやスポーツマンシップといった、戦う物たちの中にある暗黙のルール、マナーのようなもの。
みみのこFCでそれを違反すると、BANされたり優勝を取り消されたりすることこそ無いものの、周りから『誉無し』と罵られ、数の暴力で捥ぐ蹴るなどの耳共式の
もちろん誉が無い者はレフェリーが積極的にアナウンスする。見つけ次第レフェリーに報告し、一旦協力し、誉のない みみのこ を勝たせまいと全員で襲いかかるのも一つの手である。
なお、今し方もがれたクリーミーピンクの みみのこ は、土下座し耳を地面に埋めることでバッジをゲットしている。しかも初バッジ。本人は早いところ2枚目のバッジを手に入れて誉を払拭したいと考えているそうだが、それは本人以外に誰も知らない。
直、現段階の みみのこ FCにおける『誉無い行為』とは……。
『耳を埋めるな! もげないとこに置くな!』
「うぐ……」
『で、長時間その場で寝っぱなしにしない! せめて動け!』
おもにこれらである。
土下座、および柱の中に耳を埋め、判定を無くそうとすること。
そして、長時間その場に低い姿勢で留まり続けること。
これらをまとめて明記するのなら、『極端に自身が有利となる行為』となる。己だけがその利益を取得でき、相手に一方的なデバフを与える。正々堂々もぎ殺し合うを往く みみのこ FCでは、それらが誉無い行為とされていた。
尚、お互いに足を踏み外しやすいという条件がある他、先んじて柱に乗った方が利は取れるものの標的にされやすい柱や、足元でタイミングを合わせれば簡単にやられてしまうメタがあるジャンプ行為も、得る優位性をリスクやデバフで差し引きゼロにする戦法であるため、現段階では誉無いとは明記されていない。
『全くもう……ほら、始めるから! 耳共! 銀バッジくらいしゃんとしろ!』
「は〜い」「鬼〜!」「こわーい!」「ミミィ……」
「真っ直ぐ行ってぶちもぐ。右ストレートでぶちもぐ……」
『変なこと言ってるやつは全員キック投票しまーす』
「「「さぁ〜てがんばるぞ〜!」」」
『ったく、じゃあ本当に始めますよ! 銀バッジ戦1回目! まずガラスが消えます!』
カウントダウン。
やがて小さくなっていくその数字がゼロになったとき、シロが立っていた床が唐突に消える。重力に従って落ちた勢いをそのままに、シロは青い足場を走り始めた。
近くでは先ほどまで寝ていた みみのこ を追いかけ回している者もいれば、大きな山の上に立ち戦況を見極めようとする者もいる。
「(相手がもげない位置に耳があるのは誉無い行為……。どうしよう)」
「ヤーレンさん!! ヤーレンさん!!」
「なんだよソウエンさんッ、ちょっ、来んなよぉ!!」
「(まだ青の足場なのにもぎあってる人たちもちらほらいる。僕がすべきは、最終円まで気配を消すこと……)」
『柱の影にシロさんが隠れてんなぁ!』
「「「なんだって!?!?!?」」」
「(ちょっ!? コレもダメ!?)」
コレはレフェリーによって変わる。
だが運が味方しなかったシロは無慈悲にもアナウンスされてしまい、かなり目立つ状態になってしまっている。
一度柱を離れ、青い足場を再び走り始めるシロだが……。
『じゃあ青消しますよー!』
「(今、青に乗ったばかりなのに……!)」
現在のシロがいる位置は、柱から出て坂道側に進んだところ。
実際はアナウンスが始まってから全力でどちらかへ進めば間に合うが、誉無いと指摘され動揺していたシロには緑の足場へ繋がる道は遠くに感じた。
故に。
「(せいっ!!!!)」
『あっ、ええっ!? そこから乗れるの!?』
シロは今、黄色の柱に立っている。
青い足場が消えた時に同時に解放される黄色の柱に、シロは足をつけていた。
「……!? どうやって!?」
「(ぶっつけ本番でもなんとなかった……!)」
黄色の柱───孤島と呼ばれるそれは、その上に青い柱が立っており、青い足場が消えると同時に青い柱も消え解放される。
シロはレフェリーが足場を消すほんの数拍前に柱に向かって飛び、シロが空中にいるタイミングで青の足場が消え孤島が解放。
少しでもタイミングが早ければ青の柱にぶつかり落下。遅ければジャンプする前に足場がなくなり落下してしまうというリスクしかない移動方だが、シロは理論上できるとしかされていなかったそれを成し遂げていた。
緑の足場から黄色の孤島へ移動をしようとしていたヤーレンは目を剥き、そういえば舞台装置側でシロを見ていないなとぼんやり思っていた みみのこ たちがぎょっとしてシロを見る。
『き、気を取り直して、柱はシロさんが取った! さぁ、誰か横取りに行くやつはいないのか!?』
「えぇ、シロさん……?」「シロさんは……ねぇ?」
『こらこら、諦めんな! がんばれ! ……っと、シアンさん行った!』
「シロさんお覚悟!」
「(……『超集中』……!!)」
アナウンスを耳に入れたシロが深く息を吐く。
口から漏れ出る息が吸われることは無く、ただシロの視界から色と速度が消えていく。
そのままシロは、飛びかかってくるシアンの態勢をじっと見つめ、そこからシアンがどう襲ってくるかを考えた。
「(……よし、これで行こう)」
ゆっくりと、シアンが孤島に着地する。
そのままシロの両耳を狙う視線から、シロは頭の中でつぶやいた。
「(『超集中』
シアンは手を伸ばす。
シロが避けるだろう、もしくは一歩踏み出して返り討ちにするだろうという、今までの経験からの予測。
その予測を。
「
シロが上回った。
『……ッ、なんだ!? お見合いしてるぞ!?』
「……はぁ!?」
「動いてくるって、思ってたんじゃないですか!!」
「ぐっ……!?」
相手がこう動くなら、こう動く。
本来なら、回避のメタである『不動』。
だが、『超集中』を日常で使うがあまり『不動』の習得に手間取ったシロのように、『不動』を知っているからこそ無意識のうちに使っている みみのこ は多い。
普段トーナメントで戦う時も、二の矢……一撃で油断せず、相手が生きていると考えて構え直すという心得がある。これができている みみのこ ほど、陥ってしまうのだ。
相手が、避けるかカウンターを狙う
故に、動かず。
「これが僕の『不動』だッ!!!!」
『だぁぁぁ、シアンさんもがれたー!!!!』
「クッソッ、最近こんなのばっかだな!!」
故に、不動。
「だけど片耳!」
「(この位置なら当たらない! 信じろ、経験を!)」
『ヤーレンさん行った!』
「
「いーや、動かなければただの的だ!」
「片耳渡しッ!」
「あぶねっ!?」
「(ッ、避けられた!)」
「トドメっ!」
『ああああっと!! シロさん撃沈ーッ!! ヤーレンさんが孤島を奪取しました! ああっ、踊っております! 踊っておりますヤーレン!』
柱から離れ、見上げたその先でヤーレンは踊っている。
その横で、復活したシアンが同じくヤーレンを見上げていた。
「ま、まだ銀バッジ戦はあるからドンマイ。強くなったねシロさん」
「いえいえ……まだまだこれからですよ……!」
まだ強くなれる。
まだ高みを目指せる。
人知れず、シロはまだ見ぬ自分の可能性に笑みを溢すのだった。
みみのこユーザーの『koi203』さんに、青い髪で青いニットを着ていて北海道のニシン漁が起源とされている伝統的な踊りをいつも踊っているみみのこの名前をつけていただきました。
ヤーレンさん/ちゃん/くんです。