みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。実在する人物及び団体とは一切関係ありません。


全力の向こうで

 

それから先のシロの戦績はそれはもう酷いものであった。

 

「……あ、シロさんだ」

「初戦から十六夜さん……」

「今度は油断しませんよ、というか、した覚えもないケド……」

 

───『はじめっ!』───

 

「よおし、勝った勝った! fooooo!!!!」

「(踊ってる……)」

 

銀バッジ戦、1回目のトーナメント。

初戦から十六夜と当たり、片耳ももげずに倒れ伏したシロは決勝戦まで進む十六夜を眺めながら考えた。

 

「(さっきのやつ、絶対に当たらないと思ってたのに……)」

 

『超集中』状態で『不動』を構えることで発言する『絶対勘覚(ぜったいかんかく)』は、相手の位置と自分の位置から相手ができる動きを予測し、間合いを測る技である。

『超集中』は思考の速度だけを加速させるため自身の動きの速度は変わらず、頭で避けなければいけないことを理解しても身体が追いつかない。

故に思考で理解し、一度『超集中』をオフにして体を追いつかせてからもう一度『超集中』で領域(ゾーン)へ入る。それこそが技としての『超集中』なのだが……。

 

だからこそ、見せつけられてしまった。

 

「(あの動き……人体ではありえない……)」

 

絶対勘覚によって導き出された、「避けなくてもよい」という結論は十六夜の動きによって一刀両断された。

 

「(まるで、体にジェットでもついてるみたいな……()()()()()()()()……。あれは一体……?)」

 

その動き、稲妻を描くが如く。

シロの目の前で右へ左へ、耳の先だけを残すその動きは、以前シロにソウエンが見せた『ダッキング』のようで、しかし死角へ入ることはなかったために全く違う動きであった。

シロの目線がつられて左右を往復した瞬間に十六夜は動きを止め両の耳をもぎ、勝利を掴み取ったのだった。

 

『勝者決定ーッ!!!! 十六夜ーッ!!!!』

「ハイッ、ハイッ、ハイッ、ハイッ、ハイィー!」

「くっそぉ、勝てると思ったのに……!」

 

そして2回目のバトロワでも、シロに与えられた『期待のルーキー』という称号が仇となる。

 

「(体調がすこぶる良い時は孤島で何人も倒してたんだ……今度こそ生き残れるはず!)」

『さぁ、シロさんが黄色の孤島で一休みしている! だれか行くやつはいないのか!?』

「……休めそうにない……!」

 

黄色の孤島。

青の足場が消された時点で出現するその柱は、FCの入り口を背にした場合、右手に緑の柱ゾーンが来る。

視界のほぼほぼを埋め尽くし、どこに誰がいるのかわからない、そんな柱側を警戒するよりも左手側からの刺客を警戒した方がいい。本能でそう思ってしまう者は多く、柱側の警戒はおろそかになりがちである。

故に、柱側から……背後から襲いかかる影にも気付けない。

 

「あっ、シロさん後ろ!」

「(その手には乗らない……!)」

「はい隙〜」

「なぁっ、ミタマさん!?」

「ああっ、だから後ろって言ったのにぎゃああ!?

「シロ、本気でやるってわたし言ったからね」

『はーい、もがれた耳は下に降りて坂から観戦席に上がってくださーい』

「ぅぐ……!」

 

そして、2回目のトーナメント。

 

「(油断しない油断しない油断しない油断しない油断しない)」

『さぁ準決勝! シロさんが勝ち進んでるぞ! いや、このメンツでシロさんいるのすごいな……』

「げえっ、シロさんだぁ……調子良いと思ってたのに……!」

『お互い見合って! 構えて!』

「っし……!」

「(あの構え……おそらく瞬歩とやら……。十六夜さんと同じなら、前の銅バッジ戦みたいに……!)」

『はじめっ!』

「(見様見真似で、こちらも瞬歩で!)」

「でぇいっ!」

『あッ、シロさん敗北ーッ!』

「んぉ? えっ、勝った! ヨッシャ!」

 

真っ黒な髪をざんばらに切り、膝下まで丈のある特攻服を纏った みみのこ の突進をするような動きによってシロの手は空振り、その代わりにシロの両耳がもがれていた。

 

「俺の()()、瞬歩対策なんで……!」

『さぁ、続く相手は……ソウエンさんだー!』

「えっ嘘でしょォ!?」

 

そうして、銀バッジ戦は進んでいく。

 

非情にも、本日3回目のバトルロイヤルまで。

この時、時刻は23時前。バトロワの途中で23時を跨ぐだろうというこの今、シロを含む みみのこ 達の息は絶え絶えであった。

初耳、もしくはそれに近いまだ経験の少ない耳は慣れない動きに全身が悲鳴をあげ、経験を積んでいる耳は一戦ごとに全てを注ぎ込んでいるために膨大な体力を消耗する。

普段の銅バッジ戦であれば3戦のところを5戦。集中力も切れ、レフェリーもしきりに水分の補給を勧めていた。

 

「はぁっ……。はぁっ……!」

 

粗い呼吸を繰り返すシロはハッとしてヘッドセットディスプレイの下へ手を伸ばすが、そこに想像していた生ぬるい感覚はない。

どうやら血は出ていないようである、というのはわかるが、それでも度重なる戦闘によってガンガンと痛む頭が、『超集中』がほぼほぼ使用限界であることを訴えていた。

 

「(……最後のバトロワ、『超集中』はなるべく使わないようにしないと……)」

 

睡眠不足の状態でフルマラソン、もしくはフラッシュ暗算でもさせられていたと例えればまだわかりやすいような前後不覚。

銅バッジ戦や普段の戦闘では慣れてきていたが、5戦全てフルで『超集中』を使ってきたことによって、その代償が訪れていた。

 

「ヨッシャ! 行くぞ!」

「よく体力が持つなー……」

「そりゃペース配分考えてたからねぇ! みんなが疲弊しているところを体力フルの俺が無双するってワケ!」

「(なるほど、体力配分……そりゃそうか、スポーツの試合みたいなものなんだし……)」

 

シロの周囲でまだピンピンしている者は、普段からFCに入り浸っている者ばかり。

ペースを考え、体力を温存していた者。

そもそも本気で戦っていない者。

普段から鍛えていて、そもそも体力が他よりも多い者。

 

「(次回からは水分を用意しておこう……スポーツドリンクとか……)」

 

そろそろ声を出すのもしんどくなってきたシロが全身から放熱してぼーっとしていると、喉を張り続けてこちらも限界が近づいてきたレフェリーが気力を振り絞りメガホンの拡声スイッチを押した。

 

『はいみなさん、本日銀バッジ戦、最後のバトロワを始めます! ガラスの足場を消すから降りれない人はre join(リジョイン)してください!』

「(これで最後……? 負けたら次の銀バッジ戦はまた10日後……?)」

「あぁまずい、今日こそ銀バッジを取りたい……!」「負けるわけにはいかない……本当に……」「やばいよー、また勝てないよー……」

 

本日最後。

全ての力を使い果たしてフラフラしながらも立ち上がり、いの一番にガラスの足場の消えたステージへ降りる みみのこ 達。

その場にいる全員の焦燥がネットを通してシロにも伝わってきていた。

 

銀バッジ。

持つ者は少なく、しかし金バッジよりも所有している耳が多い。

銅バッジと同じくただ勝利するだけで貰えるバッジではあるが、その配布頻度からして銅バッジとは確実に一線を画す。勝利の数で言ってしまえば他と変わりないが、銀バッジを持たない耳やそもそもバッジを持っていない耳からすれば、喉から耳が出るほど欲しい称号にも似たものである。

 

「(……大丈夫……僕なら勝てる)」

『よし、じゃあ時間にもなりましたので、そろそろ始めたいと思います! ステージは旧バトロワステージ! 新ステージはもう少し待って! それではガラスを消します!』

「(勝てる……のか?)」

『それでは本日最後のバトロワ───』

「はっ……!」

『───スタート!』

 

足場が消え去り、シロの小さな身体が落下する。

黄色の足場に着地したシロは、ぐるぐると円を描くように青の足場を走り始める みみのこ 達を一瞥し、自身は緑と黄色の足場にある山の方へ移動した。

今のこの場で最も注意すべきは誰なのか。青の足場の時点ですでに相手をもごうとしている耳も存在する。来るなら返り討ちにする。たったそれだけ。

それだけのことなのに。

 

『シロさんは……山の上で傍観かー?』

「(ッ……レフェリーが休ませてくれない……!)」

 

みみのこFCにおいて、注目度が高いというのは基本的に不利になる。

出る杭は打たれるというわけではない。それは、みみのこFCの根幹に関わることで、至極、簡単なことであった。

 

みみのこバトルは、メタを張る戦い。

 

相手の型、技、構え、そして癖。

ありとあらゆるプレイスタイルに対応し、常に相手にメタを貼り続ける。

インスタンスにいる1人の みみのこ に勝つために、残りの59人がメタを研究、開発する。故に、必ず勝つ型や構えなど存在しないのだ。

 

『さて、青の足場を消しますよ! 聞こえない人もいるかもなので共有してください! 消します、3、2、1……!』

「(この瞬間、青の足場にいた みみのこ 達が一切に緑の足場に来る。警戒すべきはこのすぐ後)」

 

ステージに、『端』という概念ができる。

青の足場の時点では穴にすっぽりとハマってしまう以外無かった『落下死』が、『端』の存在によってより身近になる。

心理として、窮地に立たされた者は自らの命を優先する。しかし、ことこの戦いの場においては、命の優先というのはキャラコンのみでどうにかなるものではない。

窮鼠猫を噛む。生きたくば、戦うこと。それこそが、みみのこ というアバターの遺伝子に刻まれた使命である。

崖側に追い込まれた みみのこ が生きるために何をするか、火を見るより明らかであった。

 

「今日こそ銀バッジを貰うんだぁっ!」

「(ッ、『超集中』! よし、この距離なら当たらない!)」

 

ズキリと頭が痛み、シロの身体が呼吸を思い出す。

たった一瞬、時間にして5秒にも満たないその瞬間を限界まで引き延ばしたシロの身体がが悲鳴をあげ、半ば強制的に世界に色が戻った。

 

絶対勘覚(ぜったいかんかく)……!」

「うっ、外した! 逃げろ!」

「ああもうっ、すぐ逃げる!」

 

当たらないことを確信して反撃のために振り下ろした腕は空を切り、攻撃を仕掛けたばかりのはずの みみのこ はシロからフォーカスを外して別のところへ。

 

「(かといって、あの(ひと)だけを警戒してたら!)」

「わああああ!」

「(ドツボにはまる……!)」

 

目の前を大量の耳が通過し、混乱した みみのこ が闇雲に腕を振るう。

呑気に隣にいれば、誰が誰かもわかっていない攻撃に巻き込まれて終わってしまう。そしておそらく、その みみのこ はシロを倒したという自覚も無いまま、誰かにもがれて終わるのだろう。

 

「そんな不名誉な死に方、あってたまるか……!」

「うわっ、うへっ、へ!?」

片耳渡しッ!」

「うわぁっ!? ああっ、負けてる!」

「(やっぱり見えてなかったんだ……)」

『1耳脱落ーッ!』

 

どうする。シロは考えた。

このまま奇襲する形で耳を減らしていくのは容易い。しかし、それはヘイトを集める行為に他ならず、緑の足場の時点で他の みみのこ から狙われるのはあまりにも不利。

であれば、孤島。

 

「(……いや、ダメだ!)」

 

2回目のバトロワで、孤島にいたところをミタマに狩られている。

現在のシロの実力では、ヘイトの集まっている状況でほぼ全方位に注意を配るなど不可能。

 

であれば、柱側に隠れるか。否、レフェリーがそれを許さない。

中央で姿勢を低くして反撃を狙うか。否、それでは己がもがれるリスクが高すぎる。

『超集中』を使っていないのに、シロの頭に思考が閃いては消え去っていく。幾重にも長考を重ね、そうしてハッと気がついた頃にシロが覚えていたのは、()()()()()()()()()()()()()()のみ。

 

緑の足場が消える。

シロの頭に、それがよぎった。

 

「(まずい!)」

 

緑の足場から突進するように転がり、リアルコライダー側の移動で緑の足場から黄色の足場へ移動するシロ。

そしてすぐさま起き上がり中央を警戒するが、そこにいるのはまだわちゃわちゃと跳ね回る みみのこ がいるだけだった。

 

『では緑の足場を消しますね〜、共有してくださ〜い』

「(……しくじった……!)」

 

中央にいた みみのこ たちが口々に「緑が消えるって!」などと言う。

アナウンス含めそれを聞いた みみのこ 達は、緑の足場から一切に黄色の足場へ向かう。そして、その通り道にいるシロは屈んでおり耳の位置が低い。非常にもぎやすい位置であった。

 

「(『超集ちゅ───っ……)」

 

『絶対勘覚』を発動すべく、時の流れをゆるやかにしたシロが見たのは、己の耳へ伸びてくる手。

緑の足場から黄色の足場へ移動する際、たまたま目の前にあったからもいでおく、そんな手。

手の主はシロを見ていなかった。その目は中央へ向いており、しかし手は確実に、シロの耳の根元へ伸びている。

 

「(……これ、無理だ……)」

 

あの時、考えに夢中にならなければ。

もっと早く、起き上がっていれば。

タイミングが、ズレていなければ。

 

『超集中』は、思考の速度を加速させる技。

決して、シロの動きを速くしてくれるわけでは無い。

 

「(デジャブだ)」

 

十六夜に敗北した、1回目のトーナメント。

ただ自分が死ぬ様を、じっくりと見せつけられた。

もしシロが、才能の溢れる耳だったら、ここからスティック移動で避けるなりできたのだろう。

 

だが、シロにはできなかった。

 

「(ッ───……)」

 

襲い来るその手に対し、立ち向かうことも最後まで避けようとすることも無く。

 

「(終わった)」

 

 

ただ、諦めた。

 

 

『さぁ黄色の足場になりまして、おっとシロさんがやられている! 中央では……踊り狂っている みみのこ もいます! ダンシング耳もいるぞ!』

 

レフェリーの声が、やけに大きくシロの頭に響く。

両耳のない頭で上を見上げながら、ただずっと、呆けていた。

両手をぐーにすればすぐ蘇生できると言うのに、そんな気力ももう残っていない。

 

「ぁ……ぁぁ……」

「(…………?)」

 

脱力し、横たわるシロ。

その隣で、ただ上を見上げている みみのこ がいた。

 

「負けた……」

「(……この(ひと)、さっき混乱して腕を振り回してた……?)」

「銀バッジ……欲しかった……」

「(………………)」

 

シロの中で、何かがきゅうっと締め付けられた。

震えるその声に、考えまいとしていたことが、呼び起こされてしまう。

 

「頑張ったのに……」

「(全力で戦ったのに)」

「そんなっ……いつ負けたかも、わからなかった……っ!」

「(たった一個のミスで、台無しになった……)」

「トーナメントもッ……最初からソウエンさんとソラニンさんとか……勝てるわけないじゃん……っ」

「(………………)」

 

悔しい。

 

一つのミスも、悪かったトーナメント運も、経験が少ない己も。

理不尽にも、それら全ては己に降りかかる。

 

「あのとき……」

「(あの時……)」

「もっと、対策を考えておけば……っ!!」

「(もっと冷静に対処できていれば……)」

 

悔しいから、なんだというのか。

現実は非情で、負けた事実は変わらない。

 

「みみのこって……こんなに難しいんだ……」

 

それは、どっちから出た言葉だったのか。

勝利し、札束のエフェクトをその身に受ける自身を想像した。

勝ちたい意志は誰にも負けないと、このファイトクラブにいる全員がそう考えていた。

 

「(思えば一瞬で終わったな……大した戦果もなく)」

「嫌だ……負けっぱなしで銀バッジ戦終わっちゃうの……? 嫌だぁ……」

『後ろからッ、あっ、決まった! あれは……セソンさんだ! セソンさんが持って行った! 最後のバトロワの優勝はセソンさんだーッ!!!!』

「…………! あの人、僕の耳をもいだ人……!」

 

青い髪に、青い瞳。その右目には、クリスタル状の花が咲いている。

その瞳を、その強さを、シロは知っている。

 

「あの人も……超えなきゃダメなのか……」

『おめでとうございますセソンさんー!』

 

みみのこFCにある、銅、銀、金バッジ。

それら全てを、誰よりも速く集めた みみのこ。

 

五強が1耳(ひとり) セソンのみが、赤い足場の上で笑顔を咲かせていた。

 




みみのこユーザーの『白木 shiraki』さんに、青い髪で片目が花になっている、5強の1耳であるみみのこの名前をつけていただきました。
セソンさん/ちゃん/くんです。
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