みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。


みみは負けると強くなる

 

『勝負あり! 賭けに負けた方は自害せよ〜!』

「あ〜、ちくしょ〜!」

「いやいや、さすがだわ……速い……」

『自分で抜けないよって人はこっち来てくれればもぎますからねー』

 

ばったばったと自ら進んでみみをもぎ、倒れていくみみのこ。

その異様な光景にぎょっとしつつも、写真を撮るというのでシロは離れた。

 

「今日のトーナメント銅バッジはあの人に行ったか」

「いや、しょうがねえよ。居合速すぎるって」

「あそこで勝ててればもう少し進めたのになァ〜」

「(銅バッジ……? それに()()って……?)」

 

天に向けて拳を上げる赤いリボンのみみのこ。

その先にあるカメラがパシャパシャと音を立て、柱の上に仰向けで倒れているみみのこと、そのみみのこに賭けた愚かな耳共の情けない姿をフォルダに焼き付けていた。

 

『次はバトルロイヤルです! 5分後にやりま〜す』

 

その言葉を皮切りに倒れていたみみのこ達は次々と起き上がり、傍に逸れてそれぞれが集まって会話をしている。

あの時が惜しかった、だとか。

その改変が可愛くて良い、だとか。

みみのこバトルに関するものから関係のないものまで、それは様々。

 

そして中には、合間の時間にすらみみのこバトルをする者も。

 

「あれは……さっきの優勝者? もうフリーバトルを……?」

 

みみのこファイトクラブに入って左側にある、一際大きなミラー。

その前に置いてある黒い柱の上で、赤いリボンのみみのこが挑戦者のみみをもぎ飛ばしている姿が見えた。

 

「いやぁ、流石だわ。もう見えん」

「おいおいおい、さっきはよくもやってくれたなァ!? 銅バッジの味はうめぇかよおい!!」

「うわぁ、やかましいのが来た!」

「おい『うわぁ』言うな」

 

鬼の瞳にマスクのみみのこ……とはまた違うスカジャンを纏い、ニット帽を被ったみみのこが赤いリボンのみみのこにガンを飛ばしている。

そういえば、とシロは思い出した。ニット帽のみみのこは先ほどのトーナメントの準決勝戦で、赤いリボンのみみのこに敗退している。その因縁……と言うと聞こえは悪いが、要はリベンジマッチがしたいのだろう。

少し首を動かして他のバトルに大きく長い耳を澄ませてみれば、他のみみのこ達もリベンジや敗因探しのためにエクストラバトルを展開しているらしい。

 

ルルルルェファルィ(レフェリー)〜〜〜〜〜〜〜!」

「お、じゃあ俺がやります。両者見合って〜、構えて〜」

「…………」

「始めっ」

「ぐわああああああ!?」

「はっや、瞬殺じゃん……」

 

瞬きの間に、みみが吹き飛ぶ。

側から見ていたシロにも、今何をしたのか、なぜ赤いリボンのみみのこの耳は一本ももげていないのか、目で追うことはできても理解することはできなかった。

なにせ、勝負は一瞬。1秒で決まればまだ平均的な方であった。

 

「(パブリックでするみみのこバトルとは全然違うな……)」

 

このみみのこファイトクラブでみみのこバトルをするには、ルールがある。

それがまず、みみの再生をしないこと。

みみのこは『両方同時にもげると死ぬ』という性質を持つが故に、片方さえ残っていれば再生できるという考えを持つみみのこが多い。

特にいつどこで、誰にもがれるかわからないパブリックでは、一本もがれた時点で逃げ出せばすぐに再生できるため、反撃のチャンスがあるのだ。

最も、もぐみみも無いみみ無し族……『人間さん』だの、『みみなしのこ』だのと呼ばれている彼らはちっぽけでか弱き命であるみみのこ達から反撃を受けたところで痛くも痒くも無く、逆に接近戦を挑んで来るためにもう一度みみをもぐチャンスが回ってくるというご無体という他に無い状況になっているのだが、それを伝えられるみみのこはいない。耳無しと戦って生き残ったみみのこはいないのだから納得である。

 

次に、みみを自分でもぎおとすことが出来ること。

みみのこには『耳ペン』というものがある。自らの耳を握り、QVペンとして使用ができる。その間はもちろん耳は片方、いわゆる『片耳』になるのだが、問題なのはその間、QVペンとして握っているみみはもぎおとす事ができない事。

この耳ペンは使用後、頭に戻す事ができ、タイミング次第では残機の一つになりかねない。

パブリックにいるみみのこの技量がどれほどの物かは知らないが……少なくとも、5強やそれに準ずる強耳(つわみみ)*1達ならば、相手にもがれるタイミングで耳ペンを自らに刺して復活するなど、造作もないことだろう。

 

シロは少なくとも、QVペンは邪魔だからという理由で自分でもぎおとせる様にしていた。フレンドからみみのこアバターを貰って、体を慣らすためにパブリックにいるみみのこに勝負を挑み……そして、10秒以上の格闘の末『再生勝ち』を収めて来た。

故に、再生しないことを義務付けられた時、すんなりと受け入れる事ができた。

 

あまりにも、()()()()()勝負だったから。

 

「(こんな泥試合にしかならないバトルを、君が好むはずないもんね)」

 

しかしそれはそれとして、シロは訝しんだ。

あの赤いリボンのみみのこの技術はなんなのだろう。

構え自体は何か特徴があるわけでもない。構えの奇抜さや派手さなら、すぐそこでグレーでロングコートのみみのこの後ろに着いて回っているフルトラッキングのみみのこの方が遥かに上だった。

だからこそ、ただそこに立ち、軽く手を上げるだけの構えに、強さの理屈を見出せない。

 

「いや、居合(つえ)ぇ〜」

「……あの、先ほどから言っていた、()()ってなんなんですか?」

「ぁ? なんだお前、居合知らねえの?」

「刀を使う時の技術、ということ以外は」

「しゃぁ〜ねェなァ〜!! 教えてやるよ、居合ってのはなァ」

 

スカジャンのみみのこが、ニット帽のみみのこの横を通過した。

 

「ぐわああああああ!!」

「辻もぎ……これも居合の一つじゃ、若耳(わこうど)よ」

「……あなたは?」

「通りすがりの一般耳だよ」

 

キコキコ、と車椅子のみみのこがひょっこりと姿を現す。

座ったままではアドバンテージ的に不利ではなかろうか。そう思って耳に手を伸ばした瞬間、車椅子のみみのこが車椅子から飛び出してシロの頭に手をかけた。

 

「相手よりも早く動いて抜く。単純単純」

「……これが……居合……」

「いや、これ()居合。もっと速い居合使いいるし。例えば」

 

車椅子のみみのこが言い終わる前に、シロは自身の体が他に伏していることに気付いた。

咄嗟に振り返ってみると、もいだ姿勢のままこちらに親指を立てる赤いリボンのみみのこが。

 

「……この(ひと)、とか」

「しかし、単なる居合の速さだけでは今日のトーナメント戦のようにぶつかり合いが発生して結局泥試合になるのでは?」

「いや、それがそうでも無いんだな〜!!」

「おおびっくりした。聞いてたの?」

「あ、さっきフルトラッキングの人と戦ってた……」

「トラッキングはワシもしてんだけどね。まぁとにかく、居合の対抗策が知りたいんでしょう? 教えてあげよう」

 

前科一犯、不死。輝かしく無い文字を輝かせる、褐色肌のみみのこ。

前科……?と身構えるシロだが、周りが何も言わないのでそのまま聞くことにした。どうやらこの場において、『前科』というのは馴染み深い物らしい。決してそういうわけではないのだが。

 

「『居合』に対する対抗策は……ズバリ『回避』だよ!!」

「かい……ひ?」

「そ。ちょっとさ、こっちのみみに手を伸ばしてみて」

「こうですか?」

「そう、そうきたら……こう!!」

 

シロが手を伸ばした動きに合わせて、大きく体を動かして避ける褐色のみみのこ。

そのまま返す刀でシロのみみを跳ね飛ばし、得意げに頷いた。

 

「相手がまっすぐ来るんだから、避けちゃえばいいよねって話」

「おお……」

「ちなみにこの『回避』を生み出したのはあの人ね」

「ああ、5強のグレーの……」

 

指差した方向にいる、コートを着たみみのこ。

『始め』の掛け声が聞こえた瞬間、相手の背後を取って無防備なみみをもいでいた。

 

「くぅ〜! カッ……いい……!」

「さすが……。……様〜!」

「…………!」

「お? やる? いいよ来な、避けるから」

 

赤いリボンのみみのこが、青髪褐色のみみのこに指を向ける。

挑発的に笑った青髪のみみのこは、意気揚々と回避の構えを取った。

 

「では、お互い見合って……構え……」

「…………!」

「ふふん」

「始めッ」

「ッ!!」

「ふぎゃァァン!?!?!?!?」

「えっ回避……」

「……こういうこともある!!!! 運が悪かったり、回避以上に居合のほうが早かったりするとね!!!!」

「なるほど……」

「己に合った戦い方を見つけよう!」

 

となると、どちらがいいのか。シロは顎に手を当て考えた。

居合と、回避。

動きの単純さで言えば居合が最もシンプルだろう。やられる前にやる、というのも自身の気質に合っているような気もする。

ただ、パブリックでは常に人の手を避け続けて来た。体に馴染んだ動きといえば、回避だろう。

 

「居合だったら、次のバトルロイヤルでも生き残れますか?」

「あー……どうだろう。居合って割と1対1を想定しているから、最終エリアまで生き残れていれば、ワンチャンって感じかな?」

「……なるほど、そういう感じですか」

『時間になりましたのでそろそろバトルロイヤル初めて行きます〜。参加するみみのこはガラスの上までお集まりくださ〜い』

「お、来た来た。やるぞー」

「今度こそ勝ーつ!」

「あ、片耳ですよ」

「え、ほんと? ……これでどう?」

「バッチリです」

 

アナウンスに反応して、わらわらと中央へ集まるみみのこ達。

駆け出していくみみのこを見送る赤いリボンのみみのこに振り返り、シロは首を傾げた。

 

「あれ……参加しないんです?」

「…………。…………」

 

無言のまま、自身の腰のベルトについた銅色のバッジを指差す赤いリボンのみみのこ。

 

「今日のバッジ戦でバッジ貰ったみみのこはそれ以降の試合に参加できないんだよね」

「…………あなたも……みみのこなんですか? すごい、その……」

「ん、どうした? 何か変か?」

「……ローポリというか、バグってませんか?」

「大丈夫大丈夫、そういうアバターだし開始前には戻しとくから」

 

緑と白の四角だけで構成されたみみのこ(?)が腕のような何かを組み、頷いている……ように、見える。

扱い上は一応みみのこらしいそれは柱の影に隠れた後、何食わぬ顔で戻り他のみみのこと談笑を始めた。

 

『初耳の人がいたらルール説明をします。初耳の人いますかー?』

「(バトルロイヤルに参加するのは初めてだし、聞いておこう)」

「はーい!」「俺初耳でーす!」「───……」

『ええい貴様らは初耳じゃなかろうが! 散れ散れ!』

「あ……」

『お、初耳? じゃあルール説明しまーす』

 

舞台装置……いくつものボタンがついた台の上に立つみみのこは、拡声器を持ったままもう片方の手でシロの足元を指差した。

 

『まず最初に、一番外側、青の足場から消えていきます。その後、続いて緑、黄色、オレンジと消えていって、最終的に残された赤の足場の上で生き残った一人が勝者です』

「なるほど、単純」

『ではまずガラスを消してバトロワ開始致します。5、4、3、2、1……始めッ!』

 

フッ、とシロの足元にあった透明の足場が消え、落下する。

着地した瞬間、周りにいたみみのこ達は円を描くように青の足場を走り出す。

いや、よく見れば対角線上に動いたり、ステージの上にある出っ張りに乗って高所アドバンテージを取ろうとする者も。

 

「(なるほど、だからバトルロイヤル……)」

 

ここで安全をとるならば無策に動かず真ん中の赤い柱にある出っ張りの上や、緑の足場に聳え立つ柱の影で過ごすことだろうが……。

先ほどからレフェリーが柱の影のみみのこの存在を拡散し、周囲を煽っている。下手に隠れれば、上位者のみみのこの餌食になるだろう。

と、シロが端の方で画策をしていたその時。

 

「隙ありィ!!!!」

「(……ッ、一本やられた!)」

 

バトルロイヤル……生き残り戦において、序盤の動きで最も安全なのは『何もしないこと』である。

ただひたすらに逃げ、隠れ、相手を挑発せずに最終円に残る。そうすれば、生き残る確率はぐんとあがる。

 

「オラァ!」

『いいぞー! もげー!』

「(まずい……避けるのも精一杯だ……!)」

 

だが、ここはみみのこFCのバトルロイヤル。

みみのこからすれば広めといえど、走り回り、隠れるには狭い。

右を向いても左を向いても(みみのこ)は存在し、そしてその中には辻もぎや居合などに長けた猛者耳もいる。

故に、先手必勝。

 

『強いみみのこはみんなで協力し合って先にもいでおくと良いぞー!』

「きゃああああ!」

「また一人やられた……!」

『そろそろ青の足場を消しまーす! 3、2、1……』

 

慌てて緑の足場に飛び乗れば、外周にあった青の足場が丸々消え去る。

 

「あっ……」

『一人脱落ぅ!』

 

シロの目の前で、移動のタイミングを間違えたみみのこが落下した。

揺れる2本のみみが下へ落下していくのを見てしまったシロは本能的に恐怖を覚え、後ずさる。

 

「───……!」

「あぶなっ……!!!!」

 

そんなことを考えている暇などなかった。

後ろから迫る影がシロのもう片方の耳を掴む。

青の足場の時点で片耳になってしまったのは手痛い。シロは奥歯で空を噛み、姿勢を低くした。

 

「……いや、ダメだ、姿勢を低くしたら!」

 

ぎらり、とみみのこたちの目がこちらに向いたのを察してすぐに立ち上がる。

あくまで、これはみみもぎバトル。中途半端に姿勢を低くすればみみがもぎやすい位置に来て、格好の的である。

どうする。どうすれば生き残れる?

そうだ、地面に頭を埋めれば……?

 

『柱に耳を埋めてる奴もいるぞー! 誇りは無いのかー!』

「……ッ」

 

土下座をしていたみみのこが大ブーイングを受けていたことを思い出し、顔を(しか)めながら迫り来る手を躱すシロ。

避けるだけなら容易い。パブリックにて散々避け続けた。

だがしかし、避ける経験しかしていなかったが故に、相手のみみをもぐ事ができない。反撃のチャンスが全く無い。

せまりくる耳共はやはりというか、走った先にみみのこがいたらとりあえず腕を伸ばすといった動きをしている。もげればラッキー、といったふうに。

 

『緑の足場を消しまーす! 3、2、1……!』

「(考えている暇がない……!)」

 

とにかく動かねば落ちる。すんでのところで黄色い足場に乗ることができたシロ。その隣を、青いリボンのみみのこが……そのポニーテールが通過した。

 

『さぁー孤島はシアンさんが取ったぞ!』

「(孤島……?)」

 

言われて振り返れば、今シロ自身がいる黄色い足場より少し離れたところに、小さな足場が立っている。

一つは黄色。もう一つはオレンジの足場。

 

「(コントロール次第では安全圏になるわけか……)」

 

シアンと呼ばれた青リボンのみみのこがいるのは一番外側の黄色の柱。

オレンジの方はまだ空きがあるが、足を踏み外せば落ちてしまうその位置のせいで他のみみのこも躊躇っている様子。

だったら。

 

「(まだ銅バッジが何かも分かってないけど……!)」

 

───金バッジを手に入れた上で───

フレンドから送られた『金バッジ』とやらと、何か関係があるはず。

こんなところで負けてはいられない。

大きく踏み出し、オレンジの足場に飛び乗るシロ。

 

『オレンジの柱の方には……シロ! シロさんいるぞー!』

「(……バレた……!)」

 

だが、先ほどと同じようにほかのみみのこはこちらに構っている暇は無い様子。柱に飛び乗るために狙いと助走をつけようものなら、その隙にもがれて終わる。シロが孤島を狙えたのは先ほどまでノーマークだったからである。

 

しかし。

 

「……この場所……忙しい……!」

 

前方にはオレンジの柱を乗っ取ろうとするみみのこ達が。そして、後ろには5強の一耳(ひとり)であるシアンがいる。

次に消えるのは黄色の足場であるため、依然として足場によるアドバンテージはあるものの、片耳であることを含めてプレッシャーは普段のみみのこバトルよりも数倍。

 

「はぁっ……! はぁっ……!」

 

荒い息を吐き出しつつ、シロは案ずる。

自身がここにいれば、シアンはこちらにちょっかいをかけられない。

ジャンプのタイミングを(たが)えてしまえば落下するこの状況で、こちらの耳に注意を割いている暇などないのではないか。

 

『それでは、黄色の足場を消します! 3、2、1……』

 

故に、シアンを見張っていればこちらに来れないのではないか。

 

 

 

 

 

「考えは悪くないんだけどね」

 

 

 

 

ボソリと聞こえた言葉。

足場が消える数拍前、シアンは跳んだ。

顔色ひとつ変えることなく、しかしその視線はシロの頭上、たった一本の耳から離れず。

 

「くっ……!」

「あまいっ」

 

気づいて上体を逸らすも、その動きすらわかっていたように合わせられる。

子供と遊ぶ時のように冗談めかされたまま、シロの頭上に手が伸ばされ。

 

「ッ、次は……!!!!」

「期待してるよ」

 

負けない。

その言葉が喉から搾り出される前に、シアンは孤島を離れ今まさに戦火が上がっている本島へと跳んでいったのだった。

 

いずれ、あのみみのこにも勝たなければならないのかとシロは頭が痛くなる思いだった。

正確さと余裕を兼ね備えた、5強のうちの一人。

 

 

 

 

 

シアンを。

 

*1
5強及び、それらに肩を並べる上位ランカーみみのこの事。5強よりも強いみみのこがいるというウワサもある。




みみのこユーザーの『マーダー提督』さんに、青いリボンのみみのこの名前を付けていただきました。
シアンさん/ちゃん/くん です。

シアン及び、この小説に登場するみみのこたちは実在の人物、団体とは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
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