みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。実在の人物及び団体とは一切関係ありません。


その手で()ぎとれ、勝利と耳

 

「上がってきたね、ルーキー」

 

シロの心臓が早鐘を打つ。

決勝戦という緊張と、金バッジ戦というプレッシャー。そして、圧倒的に戦闘データが少ない相手との戦い。

早まる鼓動を抑えるため浅く早く呼吸を繰り返すシロだったが、その手の震えは止まらない。

他の足場よりもはるかに高く感じる赤の足場、無意識のうちにぴくりと揺れた大きな耳が、シロの背中に刺さる無数の視線を感じとる。

 

こくり、とシロの小さな喉が鳴る。

目の前がぼんやりと白み、恐怖に押しつぶされそうになるシロだったが、そんなシロの背中に声をかける耳がいた。

 

「シロさん」

「…………っ、シアンさん」

 

───『負けるって、ダメなことじゃないんじゃない?』───

 

シロの名前以外、何も語らず。

語らずして、シロの曇天は振り払われていた。

ニッ、と笑うシアンに背中を押され、絶対的王者に向かって無理矢理にでも口角を上げて見せるシロ。このトーナメント戦でどちらかが勝てば、どちらかは本日行われるここから先の戦いに出られない。またとないチャンスを楽しむために、シロは歯を食いしばった。

 

レフェリーである大罪葱が、睨み合った二耳の高さを入念にチェックする。言わずと知れた覇者と、快進撃を続ける超新星という対戦カードにおいて、なにより大罪葱本人が胸に熱いものを覚えていたからであった。

 

「すー……はー……」

 

しかし、恐怖が振り払われても、畏怖が消えたわけではない。

深呼吸を繰り返すシロを不敵に見つめるソウエンは、組んでいたその手を解き、コートの袖を掴む。

 

『では、高さのチェックが完了しましたので、耳の確認を』

「……両耳、生えてます」

「うん、生えてるよ」

『では、参ります。金バッジ戦トーナメント!!』

 

シロの耳がぴくりと震え、視線を、熱を感知する。

そして、風を孕んだコートが鳴らす、バサリという音を。

コートに包まれていた身体が顕になり、ベルトにつけていた栄光という冠を外し、王は剣を持ち一耳(ひとり)の戦士となる。

握られたその拳の指先に力が込められた。

 

『お互い見合って、礼!!』

「「よろしくお願いします」」

『構えて───!!』

「(『極耳(きわみ)』……『居合』(プラス)『回避』……!)」

 

その一手。その足運び。耳の先まで見逃さない、シロの瞳。

眼前に構えられたソウエンの手は、今のシロと同じように震えていた。

震えている。そのことを理解できても、その意味まではシロにはわからなかった。

わかるのはただ、この悠久にも等しい静寂の中、インスタンスにいる全ての耳が、シロとソウエンの戦いを固唾を飲んで見守っているということのみ。

そしてシロの耳は確かに聞いた。

レフェリーが息を吸ったのを。

 

「(片耳(かたみみ))───」

 

みみのこFCの合図がはじめの () でなければ、半ばフライング気味とも言える速度だった。

三つある型の中から『居合』と『回避』を選び合わせたスタンダードでシンプルな、速度の出しやすいシロの得意技、『片耳渡し』。

『極耳』による研ぎ澄まされた第六感により、合図を聞いてから動くまでの誤差を極限まで減らすことができる。

 

まさしく、今のシロに出せる最速の動き。

 

『───はじめっ!!』

「((わた)───)」

『相打ち!!!!』

 

そのはずだった。

 

「なっ……なんでっ……!」

「……へえ」

 

若干の卑怯を以ってしても、王座に手は届かず。

許されたのは、戦うことのみ。シロは両の拳を握り、その身体を起こした。

 

ソウエンと相打ち。できる耳こそ少なくないものの、この戦いにおける『相打ち』がどれほど奇跡的なものだったか、側から見てもわかるものだったらしい。その証拠に、シロの全身に突き刺さる視線が数を増している。ソウエンの勝利に耳を賭けていた者も、シアンやエリテマなど最初からシロの勝利に賭けていた者も、ほんの少し───()()()()()()

 

「ソウエン様と相打ち……!」

「やるねぇ……。今のはなかなかお互い早かったですよ」

『さあファンボーイも見守る試合、相打ちの仕切り直しです! 礼省略、お互い見合って───ッ!!!!』

「(揺れるな。揺さぶられるな。パフォーマンスを維持するんだ)」

 

構えて。そのコールを聞き半身を前にして軽く距離をとったソウエンに、シロは首を傾げる。

この距離では、『居合』は当たらない。十六夜や八重桜の『瞬歩』とも、また違う。だが何かがおかしいと、『極耳』が訴え続けている。

 

「(……『回避』……)」

 

戦士の勘などという、たいそうな物ではない。

ただ、恐れていた。嫌な予感がした。故に構えを変えた。

『居合』の構えではあるが距離が足りない。しかしソウエンから注がれる殺気が、『回避型』のそれではなかったから。今のシロにそれを言葉にできるほどの時間はない。

本能的に、避ける事を意識していた。

 

『始めッ!』

「──────」

「(消え……っ!)」

 

風が吹き抜けた。

体を小さく丸め『回避』に全てを割り振ったシロを通り抜け、ソウエンがその背中を取った。

見えていた。見えていたが、シロには反応できなかった。

後ろを取られた事を認識して振り返るも、その先にソウエンはいない。代わりに、背中から殺気。

 

「(あぁ、マズイ……!)」

 

ソウエンの技の一つ、『ダッキング』。

巧みな足技によって相手の背中へ回り、常に有利をとる。

今、シロは自身の背中を追うために足場の真ん中でくるくると回っている。ソウエンにとってそれがどれだけ滑稽に映ったかどうか、それは不明である。

『不動』を習った時に一度だけ見せてもらったこの技に、なす術は無く。

 

「(…………『不動』?)」

 

なぜ『不動』を教えるために、『ダッキング』を見せたのか。

視界の端を通り過ぎる灰色の髪を追いながら、シロは記憶を辿る。

 

「(時間が欲しい。時間が。時間が……!)」

 

もし、もっと時間があれば───。

 

シロの呼吸が深くなる。

深く、深く、深く。

漏れ出る息が、シロを思考の海へと運ぶ。

 

 

 

 

 

世界は色と速度を失っていた。

 

 

 

 

 

「…………?」

 

時が止まったわけではない。

今も、動き続けている。視線だって殺気だって、未だに感じる。

極度のプレッシャーによる極限状態が、シロにのみ許された世界を甦らせたのだった。

 

「(……『不動』は、『回避』のメタ)」

 

 

 

……───「『不動』ってのは、言っちゃえば相手の動きの予測みたいなものなんだよね」

「…………」

「こう来るならこうもぐ。こう来るなら相手は『回避』できない。それを突き詰めて戦うのが『不動』だよ」

「なるほど……」───……

 

 

 

『ダッキング』は、『回避型』の技である。

 

「(相手の背中に回り込むのが『ダッキング』なら……)」

 

背中を足場の外へ向け、後ろへ回り込むと落ちてしまうようにすれば良い。

教わった時、他でもないソウエン自身がそうしていたように。

 

「(バックステップで……!)」

「…………!」

 

回り込もうとしたソウエンがその動きを止め、シロの目の前で止まる───()()()()()()()()

左足で一歩、前へ。

後ろへ下げていた右足を、力強く蹴る。

 

「(これで……ッ!)」

「ッ…………」

「とどめぇッ!!!!」

 

刹那。

 

『相打ちっ!!!!』

 

走る鋭い痛み。

極耳を通じてやってきたそれが自身が両耳をもがれたことによるものと、シロは自覚する。

 

「かっ、こふ……っ!?」

「……ふうん?」

「なん、でッ……! 今のは確実に、()ったはず……!」

 

若干、肩で息をするソウエン。

ダッキングの連続使用による疲労か、浅い息遣いが極耳を通じてシロに伝わる。

超集中の復活を喜ぶ間もなく突きつけられた刃に背中に寒いものを覚え、震えるシロの膝から力が抜けた。

あまりにも大きすぎる壁。掴んだと思っていた頂点は壁の綻びでしかなく、その上はまだ計り知れず。

 

全身に酸素を行き渡らせるべく、シロの呼吸がより深いものへと変わっていく。目はくわと見開かれ、今にもその場に崩れ落ちそうなところを倒れまいと小さな身体で堪えている。

その姿を見たソウエンが言った。

 

「俺、疲れれば疲れるほど、本気出せるんだよね」

「…………っ……」

 

闘争本の中とも呼ぶべき、戦闘に特化したソウエンの特質。

限りある体力を消耗すれば、当然、試合できる回数が減る。

よって、ソウエンの身体が叫ぶ。ここで終わらせる、と。

背水の陣。窮鼠猫を噛む。該当する言葉こそ数あれど、それは紛れもなくソウエンが一番の武器にしてきた、言葉で表すことのできない生存本能の現れであった。

ソウエンは確信している。機は熱していると。

 

「ねえシロさん」

 

そして、問いかけた。

 

「休憩、要る?」

 

ソウエンは、疲れれば疲れるほど本気を出せる。

当然、休憩を挟めば───……。

 

「……ッ、舐めないで、くださいよ……!!」

 

ぎり、と握られたシロの拳が、床から己の体を強く押し返す。

小さく震える身体が、徐々に起き上がっていく。

もちろんソウエンが本気でなければ、そしてシロの体力が回復すれば、ソウエンに勝てる確率はぐんと上がる。ここで勝てば、金バッジを得ることができ、フレンドに会う足掛かりになる。

だが。

だが、()()()()()より。

 

「誉を賭けて───僕と『本気』で戦えっ、ソウエンッ!!!!」

『シロさん立った!』

「ふふ……そうこなくちゃね!」

 

礼省略。

見合うまでもなく、合図よりも早く両者が構える。

 

『お互い見合って……構えて!!』

「…………」

「(『超集中』、『極耳』……!!)」

 

息が漏れる。大きな耳がぴくりと揺れる。

世界は色を失い、あるはずのない熱や、音や、視線が伝わる。

耳の先まで見逃さない。シロの瞳は、ソウエンの全てを視ていた。

そして、レフェリーである大罪葱の息遣いまでも。

 

『始めッ!!!!』

「「───……!!!!」」

 

静寂。

それは周囲から綻んだ。

何故。

何が起きた?

どうして、あの2人は。

 

「動……かない?」

 

両者、見合ったままなのか。

 

「(気づかれた……『極耳』の弱点……!)」

「……ふ」

 

シロの頬を汗が伝う。それは冷や汗なのか、プレッシャーから来るものなのか、シロですらわからなかった。

 

『超集中』、そして『極耳』は、相手の動きを少しも見逃さない。やっていることは違えど、それがもたらす結果は、どちらも超的な反射神経である。

であれば、動かなければ良い。

 

「(なんで……なんで気づかれた!? いつから……!?)」

 

相手が先手でもいで来ないのならば、そもそも動かない。

『不動』。シロの頭に、それがよぎる。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

そしてシロにはタイムリミットがある。

ただでさえ、長く使用したり連続で使うと激しい頭痛や眩暈を引き起こす『超集中』に加えて、戦場の空気をダイレクトに感じることのできる、否、感じてしまう『極耳』を併用している。

いくら動きがゆっくりに見えても、腹を空かせた虎と同じ檻に入れられたらいつ襲われるかというプレッシャーで頭も狂うと言うもの。

ソウエンは、それを看破していた。

 

誰が言ったか。

王者に、同じ技は二度通用しない、と。

 

『………………このままどちらも動かなければ、勝者無しになります』

「ぅ……っ!」

「…………」

『……では、勝者無しと言うことで───』

「うああああああッ!!!!」

 

シロの焦る心が、揺らぎを生んだ。

動けば負ける(死ぬ)。それをわかっていながら、動かないと言う選択肢を取らなかった。

 

だから負ける。

その手は空振り、シロの頭に痛みが走り───。

 

 

 

 

……───「ウッシャ! 俺について来い!」

「ま、待ってよぉ!」

「アバターの速さは同じだからコーナーで差をつけるしかないぜェ!」

 

ゲームワールドを一緒に巡ったあの日を鮮明に思い出す。それだけじゃない、一緒に過ごした日々の全て、ちゃんと覚えてる。

 

僕はやっぱり、君に勝てない。

対決する物でも、協力する物でも、何をするにも君は僕よりも上手い。

 

でも、君がたまに僕を褒めるとき。

あの一撃は焦った、とか。ナイスフォロー、とか。

仲間って感じがして、嬉しかったんだ。

だから怒ってるんだ。会って話したいんだ。

君にとって僕は、たくさんいる有象無象のうちの1人かもしれないけど。

僕にとって、君は。

 

ちくしょう。

次があるって言ったって、勝てるかどうかわからない。

こんなチャンス、滅多にないんだ。

なんで僕がこんな悔しい思いをしなければならないんだ。

君のせいだ。

君が、金バッジを取った上で5強を倒して欲しいとか言うから。

また、君から遠のいてしまう。

悔しい。

 

やっぱり、悔しいよ。

 

「ふう。次は何する?」

「じゃあ、さっきおすすめに出てきたあのワールドに」───……

 

 

 

 

『仕切り直しッ!!!!』

「ッ…………!?」

 

突然の覚醒。

振り返るとそこにソウエンはおらず、シロだけが残っていた。

呆然とただ赤い柱を見上げるソウエンに駆け寄る十六夜と八重桜を上から眺め、シロは何が起きたかわからないといった様子で周囲を見渡した。

 

「……まさか、ソウエンさんが場外なんて」

「んね、珍しいよね」

 

側で見ていた銀髪に赤いメッシュを入れた軍服の みみのこ が呟き、その隣で口を抑えて目を見開いていた魚のヒレを持つ みみのこ がそれにこくこくと頷く。

周囲の みみのこ は、ソウエンがわざと落ちただの、スティックの誤作動、つまりドリフトによる落下だのと騒ぐが、ソウエンは確信していた。

自身は、シロとの距離を間違え、正真正銘落下したのだと。

 

あの時シロは、その勢いのままであればソウエンが反撃をせずとも空ぶっていた。体の動きに型や技の気配は無く、ただの突進とも言ってしまえる無造作なものであった。

だがソウエンは反撃をした。してしまった。

無理な動きは位置を狂わせ、動きに余計に盛り込んだ『回避』によって、ソウエンは落下。片方は両耳を無くし、もう片方が場外ならば、両者敗北で仕切り直しとなる。

 

あの精神状態のシロが計算で己を落下させたとは考えにくい。であるならば、間違いなく己のミスである。

 

『では、お互い蘇生と……台に登ってください』

「ふぅ───……」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

先ほどの一撃にほぼ全ての体力を注いだ。残っているのは今自分が立っていられるだけのちっぽけな力のみ。

 

「……ふは」

 

ソウエンの口から、息が漏れる。

『本気』を越し、研ぎ澄まされた感覚はソウエンの視界から余計な色を奪う。

かかって来い、と、目が訴えていた。

 

「ソウエンさんの落下……。今後あるかないかわからないチャンス……ここで終わらせるしかない。絶対に、金バッジを獲って見せる」

 

沸き立つ力が、シロを大きく見せる。

大きく張った耳がぴくりと震え、シロの感覚をより鋭敏にする。

『超集中』は、使わない。

 

「『極耳』……!!」

「さて……()ろうか」

『では、参ります。お互い見合って!!!!』

 

辺りが静寂に包まれる。

稲穂の一つでも揺れようものなら、それを皮切りに戦い始めてしまいそうなほどの緊張感が地下闘技場を支配する。

 

『構えてッ!!!!』

「(『居合』(プラス)『回避』……!)」

「…………」

 

その静寂は、瞬きの合間に切り裂かれる。

 

『始めェッ!!!!』

片耳渡(かたみみわた)ッ!!!!」

「……ッ!」

『避けたッ! さあもげ! 倒せ!』

 

即座に背中に回るソウエンの耳を掴むことは叶わず、しかし『回避』に全て振っていたために、シロの耳も2本。

避けられた事を自覚したシロだが、ソウエンが背後にいることは視線と熱で分かっていた。だがバックステップは同じ結末になるだけである。

 

「(打開策を!)」

 

だから、一歩前へ。

振り返らず、そのまま前へ進み、ソウエンの立っていた位置へ。

背中から伸ばされたソウエンの手は空振り、振り返ったシロと一瞬、視線がぶつかる。

初動の位置がスワップしたお互いが次に繰り出すのは、シロの二撃目とソウエンの回避であった。

シロの極耳から伝わる、視線と殺気。

ソウエンは背後を取り、その視線を上へ。

 

「(……は、()()()()!!)」

 

シロの耳へ注がれていたのは、視線のみ。

シロが背後にいても気配を感じ取れる事を見越し、ソウエンは背後から耳をもぐ()()をした。

だがそれは、殺気のないただの視線。

 

「(こっちも……振り返るフリを!!)」

 

首の向きだけ後ろを向くような動作をし、そしてすぐさま元の方向へ向き直るシロ。

シロが振り向きそうであることを、色のない緩慢とした視界で見ていたソウエンが取ったのは、回避行動だった。

シロの目の前に、ソウエンの身体が曝け出される。

 

「(『居合』(プラス)『回避』───)」

 

自身が嵌められたことに気づいたソウエンは、居合の構えを取り直し、シロへと向き直る。

シロが耳をもぐために一歩踏み込めば、それより早いタイミングで繰り出されたソウエンの『居合』が返り討ちにする。

加速する思考の中で、ソウエンはシロの右足が踏み込まれたのをしっかりとその目で追い、シロが()()()()()()()()へその手を伸ばし。

 

「(───(プラス)『不動』……ッ!!!!)」

 

その手は、空を切った。

色を失い時間の流れがゆったりとした視界の中で、ソウエンが見たのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カウンターッッッ!!!!」

 

その腕を大きく振りかぶった、白い獣の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ、ああ……!!」

「なっ……えぇっ……!?」

「なん、すごッ……!?」

 

誰もが目の前の光景を疑った。

言葉に詰まった大罪葱が、震える声を精一杯張って拡声器に乗せる。

 

『革命ッ、成功───ッ!!!!』

「「「「──────ッ!!!!」」」」

 

声にならない歓声が響き渡る。

肩で息をするシロは、自分でも今何が起きたのか信じられないといった様子で、自身の手のひらを眺めていた。

 

「やったの、か……僕が?」

「うん」

「勝ったのか……僕がっ???」

「うん」

「ソウエンさんに!?!?!?」

「うん。俺に、勝った」

 

降り止まない紙幣のエフェクトの中、その場に倒れ伏したソウエンが天井を見上げ悔しそうに呟く。

 

「あの時なー……。落ちてなければ勝ったのになぁー……」

「あれは……たしかに、そうですね」

「次は落ちないから、また戦ってよ」

「はいっ! 是非!」

「うん。じゃあ、そろそろ」

「はい! 権利を、行使します!」

『賭けに負けた耳はソウエン側に集まって自害せよ〜!』

 

カメラを持つその手は震えている。

しかしそれはもう、恐怖からくる物では無い。

 

「では、撮ります! はい、チーズっ!!!!」

 

栄光は、その小さく頼りない手に。

 

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