みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。実在の人物及び団体とは一切関係ありません。


乾坤一擲(けんこんいってき)
壁に耳あり障子に耳あり、ついでに上にも下にも、そしてあなたの後ろにも。


 

革命が終わり、シロには見事、このFCの公式バッジの中で最も名誉ある金色のバッジが送られることとなった。

それから時計の針が進み、登った朝日も沈んで月が耳を照らす*1頃、つまり翌日の夜である。

未だ届いていないものの、地下に降り立ち一月やそこらで金バッジを取った超新星がいるという噂は瞬く間に広まり、強耳から一目置かれていることを流石に自覚したその日のシロは。

 

『相打ちなし! 進んでください!』

「初戦で負けちゃいました!」

「あ、ありがとうございます……?」

「やっぱり武蔵さんは強いなぁ〜」

「(シロさんってこんなに弱かったっけ……?)」

 

腑抜けていた───!

 

トーナメントで早々に退場し、その場に寝転がってバトルの行末を見守る始末。あの頃の熱意はどこへ行ってしまったのか。

無論シロとてやる気を無くしているわけでは無い。

というのも、金バッジを獲得してから1日中DM欄を眺めていたが、それでもフレンドからの連絡は無かったのだ。

 

そもそも、金バッジを取ったという事実を確認しているのかすらまだ未確定である。今シロにできるのは、確認した上でトーナメントが5強と被ることを願うのみ。

しかし現状、五耳いるうちの三耳には勝利を収めている。もちろん、フレンドから送られたDMは『金バッジを取った上で』とあるので、金バッジを取ってからでなくては意味がない、というのはシロでもわかっているが。

 

度重なるプレッシャーと安堵のジェットコースター、もしくは金バッジ戦で全てを出し切ってしまったのか、シロは『超集中』や『極耳』を積極的に使おうとしていなかった。

両方ともとんでもなく疲れるので、むしろ使いたくないまであった。

 

休憩時間などとうに終わり、本日最後のバトロワが始まる。

魂が抜けたように動く気力もなくシロはその場に腰を下ろす。

 

「どーしたもんかなぁぁぁ……?」

「?」

「あ、いえ、なんでもないです……」

 

床に大の字になりぼそりと呟くシロだが、その声は思ったよりも大きかったらしく隣に座ってバトロワを見守っていた煌びやかなドレスの みみのこ が首を傾げる。

蝶をあしらった(おうぎ)でぱたぱたとシロを涼ませる献身的な様子に癒されながらも、シロの悩みは尽きることは無かった。

 

そもそもの問題として、『五強を倒す』というのはどこで判定されるのか。トーナメントやバトロワなどでの戦いは『倒した』に含まれるのかどうか。自己申告をすれば良いのか。

頭を抱えてうんうんと唸るシロの前に立ったのは、ソウエンだった。

 

「シロさんシロさん」

「……? はい、なんでしょう……?」

「これ知ってる?」

 

ソウエンが見せた手のひらの上には、小さな何かのパーツだった。

それ単体では何かのパズルピースのようにも見える全く見覚えのないそれに首を傾げ、シロはソウエンの次の言葉を待つ。

 

「これ、昨日DMが送られてきて。シロさんが俺に勝ったら渡してくれって」

「……!! 名前は!!」

「匿名希望さん。アカウントの名前が匿名希望、ね」

 

遡って、DM欄を眺め続けていたシロが疲れて眠りについたころであった。

深く暗く、星も瞬き己を主張する空もやがては(みどり)色へと変わりそこから丑三つ時を越え虎の時になろうかというあたり。

5人の耳のDMに、それぞれ形の違う3Dモデルが送られた。

『シロがあなたに勝利したとき、このバッジを与えて欲しい。バトルの条件はお任せする。』という文を添えて。

 

5つのバッジ戦だって」

「5つのバッジ……」

「怪しいとか聞く道理はないとか、色々思ったけど……シロさんが知ってるなら、まぁお願いされたしやった方がいいよね」

 

渡されたバッジのクオリティも提示された報酬も、生半可なイタズラとは思えない程。だから、個人でチャレンジしているイベント戦のようなものだとソウエン自身は思っていた。自身がキルバッジというものを持ってい

るが故に、それらに対して抵抗は無かった。

そしてそれ以上に。

面白そうだったのだ。

 

「(タイミング的に、間違いなく()()だ……! )」

「それで、どうする? このバッジ戦、する?」

「えっ」

「俺は別にいいよ? すぐでも後でも」

「えっえっ」

「あっでも、勝利条件を決めなきゃならないのか……シロさんなんか良いやつある?」

「えっえっえっ!! そういうのってそちらで決めていただくものじゃ……???」

「んーーー……!! わかった、ちょっと考えるから時間ちょうだい! また今度挑んで!」

 

けろりと切り替えバッジを仕舞うソウエン。怒涛の展開に目を回すシロだが、はたと気づく。

ソウエンの元にバッジが届いているということは。

 

「……? どうかした?」

「せ、セソンさん、昨日とかにバッジって……貰ってますか……?」

「あぁ、あれ? うん、貰ってるよ。あの匿名希望ってシロさん?」

「ち、違います……!」

「まあそりゃそうかあ。まぁ欲しくなったらいつでも言ってよ。なんか条件を決めてシロさんがそれに勝ったらいいんだよね」

「あ、はい……」

 

シロの予想通り、セソンも既にバッジを持っている。

おそらく、先ほどから何かを言いたげにシロをちらちら見ているシアンも持っている。残りの二耳(ふたり)もきっと。

 

「(5強に勝利する……。っていうわかりやすい目印が、あのバッジ……)」

 

現時点でシロが5強と戦えるのは、FCインスタンスのみである。シロは納得した。

()()()F()C()。あの耳に伝えたいことや見せたいものがあるのだがフレンドではない。だが、どうせFCに行けば大体いつもの面子(めんつ)が揃っているのでわざわざ会いにいく必要が無くなる、という現象から生まれた言葉。

 

このバッジを5つ集めれば、なんぞの手掛かりになる。逆に言うなら、そのバッジを所有していないと、()()()()とはカウントされない───。

そして、取得条件は5強にゆだねられている。

 

と言うことはつまり。

 

「え? やだよぉ、めんどくさい」

「そ、そこを何とか……!」

「だって一言もやるとは言ってないじゃん」

 

ミタマのように、そもそも挑戦を受け付けない者もいるということ。

シロは確信した。5強にバッジを渡したのは十中八九、ほぼ確実にシロのフレンドである。

だが、FCについては()()()()()───ミタマやセソンが、金バッジ戦やイベント戦でもない限り前線を退いているいことを、知らない。

どこから見ているのか、どこで情報を仕入れているのかはわからないが、少なくとも近くで潜伏しているというわけではなさそうである。

現行のFCを知らなければ、いつクリアされるかわからないバッジ戦の条件を当人にゆだねるなんてことは、しないはずなのだから。

 

いづれ5つのバッジ戦を挑むということをあらかじめ報告して回ろうとしたシロだったがいきなり躓き、シロは頭を抱える。

その様子を見たミタマは少し躊躇うような、考えるような仕草を見せた後、小さくため息をついた。

 

「……けいこ」

「?」

稽古耳(けいこみみ)。3人くらい選んでおくから弟子を倒したら、やってあげてもいいよ」

 

稽古耳

前線を退いたミタマが、後進の育成のためにバッジ関係なく、みみのこバトルの試合を行っている場所、または時間のこと。主にFCワールドのミラーの前にあるバトル用舞台で行われ、ただひたすらもいではもがれを繰り返している狂気の集団だとまことしやかにささやかれている。

最も、地下闘技場であるFCに集まり毎日のように殺し合いをしている みみのこ は、傍から見ればそれだけで狂気の集団であるが。

 

「稽古耳……。ハイっ、わかりました! 道場破りですね!」

「ちなみに稽古耳に来た時点でお前も弟子だから」

「アッハイ」

 

5つのバッジ、『ミタマ』の獲得条件。

3人の弟子をそれぞれ倒した後、ミタマに1V1(タイマン)で勝利する。

 

「バッジの条件? んぅ、キルバッジ持ってないから感覚がわかんないんだけど……そうだね、最近流行りの『スーパークラシック』でやってみない?」

「すーぱー……?」

「大罪葱さんとかはクラシックって呼んでるけどね*2。いわゆる、『再生あり戦』ってやつだよ」

「よくわかりませんが、やります!」

「元気だねぇ」

 

5つのバッジ、『セソン』の獲得条件。

『レギュレーション:再生あり』でセソンに勝利する。

 

「まだ決まってないよ」

「ですよね……」

 

5つのバッジ、『ソウエン』 の獲得条件。

未確定。

 

「あぁバッジ? そうだなー、もうちょっと待ってほしいかも」

「……わかりました。 決まったら是非教えてください!」

「なんか面白いことしてんね。5つのバッジ戦、挑戦する側になりたかったなー」

「あはは……」

 

5つのバッジ、『シアン』の獲得条件。

未確定。

 

そして。

 

「残るは、一耳(ひとり)なんだけど……」

 

シロは首を傾げた。

今まで、5強のうちの4耳には会ったことがある。戦ったこともある。

しかしシロの記憶の中で5強として認知している耳はそれだけなのである。

名前も知らない、姿もわからない最後の一人にどうやって会えというのか。

その姿を見たシアンも首を傾げた。

 

「あれ、会ってなかったっけ?」

「え?」

まてらさんでしょ?」

「まてら……さん」

「ちょっと待ってね呼ぶよ」

「あぁ、そこまでしていただかなくても大丈夫です!?」

「もう呼んじゃった」

「あぁ……!?」

 

ぺろりと舌を出しあざとくポーズをとるシアンに呼ばれ、やがてFCの入り口に一耳(ひとり)の みみのこ がやってくる。

最初、シロはまてらが来たことに気づいていなかった。

それは単純にフレンドではなかったから、ということだけではない。

既にその姿を()()()()()ので、5強の一耳(ひとり)、まてらであると気づかなかったのだ。

 

空色のショートカットに一房だけある桃色のメッシュ。

髪と同じ突き抜けるような空色の瞳がシロを見据えた。

ロビンフッドハットの位置を直したその みみのこ は。

 

「あ、シロさんじゃん。金バッジおめでと〜」

「まっ、まてらさん……!!!!」

 

シロが、何一つ持っていなかった時。

強くなりたいと心から願ってFCで誰かを出待ちしていた時、最初に被害に遭った耳。

 

その名をまてら。

5強の中でもシアンと競り合うほどの居合の速さを持ち、【龍】の異名をその身に宿していた みみのこ である。

 

「そうだ、シロさんに聞きたいことがあってさ。5つのバッジって───」

「呼んだのはソレについてだよ。シロさんが挑みたいって」

「なるほどなるほど、理解した。実はもう条件を考えているんだ。やるかい?」

「えっ」

 

目を細めたまてらの手にきらりと光るは、奇妙な形をしたバッジ。

 

「仮にもバッジ戦だから、今日負けても明日挑めるし、別に今日やらなくてもいいよ」

「いえっ、やります! やらせてください!」

「おっけー、じゃあちょっと後で舞台を借りようか」

 

 

 

5つのバッジ『まてら』の獲得条件。

 

 

 

「ルールは1対1。レギュレーションもいつものでオッケー」

 

 

 

1戦1先、まてらとの一発勝負。

 

 

 

「ただし」

 

 

 

ただし。

 

 

 

「そう簡単に、負けるつもりはないよ」

 

 

 

相手は、5強である。

 

*1
(地下に月の光は届かないが)

*2
当作品では、1V1におけるレギュレーションを『スーパークラシック』、『クラシック』(現行ルール)、『新ルール』と分けることとする。




みみのこユーザーの『大和AA』さんに、黒髪で特攻服を纏っているみみのこの名前をつけていただきました。
武蔵さん/ちゃん/くんです。

さらに、みみのこユーザーの『しらとん』さんに、水色の髪の毛に桃のメッシュがあるみみのこの名前をつけていただきました。まてらさん/ちゃん/くんです。
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