みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。実在の人物及び団体とは一切関係ありません。


地獄の特訓

 

みみのこアフター。

残る者も帰る者もちらほらという中、決勝戦に使う赤い柱の上だけが、周囲と違う張り詰めた空気に満ちていた。

シロの目の前には、まてらが軽く伸びをしている。しばらくの間みみのこFCに来ていなかったにも関わらずその小さな体から放たれる威圧感がシロの体を震わせる。

 

「じゃあ、高さのチェックするよ」

 

赤の柱の隣に立つシアンが二人のあごの位置を見比べ、よさそうかな、と声を漏らす。

その後、普段のレフェリー業と同じようにレギュレーションのチェックをする旨を読み上げた。

とっくのとうに確認を済ませていたシロは緊張した面持ちで構えを取るが、まてらはそんな姿を見て思わず吹き出す。

 

「そんな警戒しなくても大丈夫だよ。いつものバトルと同じなんだからさ」

「でも……」

「大丈夫だって! 明日も挑戦できるから」

「……!」

 

それではまるで、シロが今日は負けることが決まっているかのような言い方である。

ムッとするシロにくつくつ笑うまてらは、ふぅと深呼吸するとシアンに目配せした。

あ、もういいの? と首を傾げるシアンに頷き、まてらはつま先で軽く床を叩いた。とん、とん、とボクサーが体をほぐすが如く、首、足首、そして手首をジャンプに合わせて動かしていく。

 

「じゃあ、行くよ。お互い見合って~、礼!」

「「よろしくおねがいします」」

「構えて!」

「(『極耳(きわみ)』……『居合』(プラス)『回避』……)」

 

現状で最も勝率の高く得意な技である『片耳渡し』。それを選択し、まてらの前で構えるシロ。

だがその瞬間、シロは違和感を覚えた。まてらの構えに、違和感が()()()()()ことに。

あまりにも見たことのある構えだったから。

まるで鏡写しのように、足の位置から腕の高さに至るまで、全てが同じだったのである。

 

「始めッ!!!!」

「片耳───」

 

構えが同じなのなら。

 

片耳渡(かたみみわた)

「───わ、た───」

「勝負あり! まてら勝利!」

 

あとは、積み重ねた経験と実力がものを言う。

驚愕し、倒れたまま目を見開くシロの前に立ち、まてらは勝利の余韻を楽しむように閉じていたその目を開いた。

 

「『片耳渡し』はもともと、()()()の技だよ」

「…………!!」

「通用すると、思わないことだね」

「そん、な……ッ!!」

 

両手に力を込め立ち上がるシロ。

しかしその時にはすでに、まてらは舞台から降りてしまっていた。

待って、と言いかけるシロにまてらは振り返り、人差し指をシロに向ける。そうして、にぃと笑って見せた。

 

「今日のチャレンジはここでおしまい。また他の日に挑戦してよね」

「ぁ……ぐっ……。ありがとう、ございました……」

「いやー、惜しかったね」

「どこがですかっ!! あんなっ、あんな……っ!!」

 

たった1試合。それだけでシロには充分にわかった。

自身とまてらとの、圧倒的なレベルの差を。

眼前に構えた両腕を振るい、身体を逸らす。やっていることは同じである。

だというのに、シロが倒れた後に見たまてらの耳は、両耳とも生え揃っていた。

 

「(なにが同じ技だ……。一耳たりとも、もがせてくれなかったじゃないか……!!)」

「まぁ、また明日だね。金バッジよりは楽なんじゃない?」

「そうでしょうか……。今の一回で、嫌と言うほど実力差があることがわかったんですけど……」

 

シロの手は、耳に届いていたはずである。

だと言うのに片耳すらももげていなかったということは、シロがまてらの耳をもぐよりも速く、シロの耳がもがれたということ。

ソラニンの助言から正確さを重点的に伸ばしていたシロだったが、なによりソウエン相手に相打ちができていたことから油断が生まれていたのだった。

 

「まてらさんはねー、『居合』一筋だから……」

「さすが5強……」

「5強の中でも特に素早い方だからね。『居合』だけで対策するのは厳しいかもよ」

「しかし、あのスピードに『回避』が間に合うとは到底思えません……」

 

みみのこバトルは、メンタルスポーツの側面が強い。

勝てないと思った相手には勝てないし、勝てると思った相手には油断しやすい。故に必要なのは、己を信じる力。

突出した己の強みを相手にぶつけ、それを押し通し耳をもぎきる(したた)かさである。

パラメーターにすれば、現在のシロはそのほとんどがバランスよく育っている。悪く言えば、突出した部分が無い。『超集中』も『極耳』も、なまじ全ての『型』と『技』に使える汎用性があるだけに、強みと言える部分が育たないのである。

 

うーーーん、とシロは天井を見上げた。

思えば、シアンもエリテマもソウエンも、ミタマも武蔵もソラニンも、その強さのベースとなっている『型』が決まっている。

己の身体がどの『型』に適性があるのか。自分の得意とする『技』はなんなのか。まずは己を知ることが大事、とシロは考えた。

 

「……シアンさんって、『居合』使いなんですよね」

「ん? そうだね。キルバッジのルールも『居合』限定で戦ってもらうってやつだし」

「『回避』を使うことは?」

「なくはないけどあんまり使わないなー」

 

『居合』はみみのこバトルにおける基礎中の基礎であり、実際に『型』の起源である。そのシンプルでわかりやすいスタイルなため使用者も多く、また、使用者が多いと言うことは教えることができる者も多い。

『片耳渡し』ももちろんのこと、様々な技に使われるため、シロが得意とする動きである。

 

『回避』はその動きの派手さから、バトルにおける華麗さ、美麗さを求める者に人気がちであり、しかしそれだけが全てではない。

生き残る、ということが目的であるバトルにおいて、相手の動きから先を読み、反撃のチャンスを狙う。避けることに成功することができれば、一撃目を避けた後、()()とも呼ばれる二撃目に、大きなアドバンテージができる。『超集中』で相手の動きを細部までじっくりと視ることのできるシロにとっては、最も適正がある『型』であった。

 

しかし、『不動』も、また一つの『型』であるが故に、一定の強さを持つ。生み出したミタマこそ「あれは居合だ」と発言しているものの、もともと『技』であったと推測される『居合』が時を経て『型』となっているように、『不動』もまた本来の意味を超えて『型』として昇格されている。相手の動きに惑わされることなく相手をもぎに行く様は、視線や殺気を感知できるシロの『極耳(きわみ)』と相性が良い。

最も、今回のまてら戦においては、『不動』は『居合』の的でしかないために活躍こそしなかったが。

 

「どこを伸ばせば勝てるんだろう……」

 

己が最も得意とする『型』か。

己が使い続け意識することに馴染んだ『型』か。

己が生み出した身体的に負担のかからない、スタイルと相性の良い『型』か。

 

みみのこFCにおいて、全ての『型』をある程度使える者は少なくない。

だが、それは()()()()の話であり、やはりそれぞれに突出している部分や得意とする『型』は存在する。

オールラウンダーはいても、オールマイティは存在しない。

なんとなくオールマイティを目指して戦ってきたシロの、成長の限界であった。

 

「シロさんさ」

「はっ。えっと、はい。なんでしょう?」

「せっかく金バッジ持ってるんだから、武者修行してみたら?」

「武者修行?」

「そうそう、隻耳(せきみみ)チャレンジ……聞いたことない?」

「聞いたことは、あります。たしか、試合開始前にあらかじめ片耳をもいでおいてバッジ戦に挑むもの、ですよね?」

「そ。その状態で優勝したら、ソウエンからバッジとはまた違う、アイテムが貰えんのよ」

「なるほど、そんなものだったんですね」

 

確かに、バッジやアイテム自体にはそこまで執着のないシロにとっては、またとない武者修行である。

次回のバッジ戦は片耳で挑むということを心に決めつつ、しかしそれだけではレベルアップの糸口がまだ掴めていないことに唸り始めた。

そんな姿を見たシアンはくすりと笑い、徐に拡声器を持った。

 

『シロさんと戦える奴〜〜〜!!!!』

「おっ」「なんだなんだ」「百人組手?」「道場破りだ」

「アッ、早い! 思ったよりもレスポンスが早い!」

 

強さ求める者()れば、応えてやるのが耳共である。

 

『シロさん』

「は、はい!」「ぅぉ声でか」「拡声器持ったまま普通に会話してる」「拡声器好きだよねえシアンさん」

『うるせえうるせえ! ……こほん。答えを言っちゃうと、シロさんに足りないのは速さだよ。速さ。それを手に入れるためには、こうした方が手っ取り早いでしょ』

 

ぱちりとウィンクをするシアン。その場に集まった耳の1人が元気よく手を振り、せんせー!と声を上げた。

 

「シロさんに勝ったらバッジ貰えますかー!」

『いや、無いけど。……んー、そうだな。シロさんに1回勝つごとに、こっちが片耳の状態でシアンキルバッジに挑む権利を与えます!』

「「「「おおおお!?!?!?」」」」

 

キルバッジ。個人バッジとも呼ばれることのあるそれは、それぞれみみのこ達が自分自身に持つ、プライドや誇りを結晶化したものである。

その者のキルバッジを持てば、所有者はその耳に勝利した、ということになるのだから、一目置かれるのは当然。

その大事なキルバッジ戦に、自身にデバフをかけて行うということは、『シアンに勝利した耳』が増えるリスクが伴われるということ。

 

「すみませんシアンさん。ここまでしてもらうなんて」

『なるべくこっちに回さないでよね。じゃ、こっちに来るまではレフェリーやりますんで、ファーストチャレンジャー、カモン!』

「シアンさんバッジ欲しいよ〜! シロさん、悪いけど負けて!」

「……そういうわけには、いきませんので!」

『お互い見合って!』

 

それから、列ができた。

数をこなせばこなすほど、シロの動きが洗練されていく。

一撃目を終えた後のターンはより小さく、構えた時に脚に溜めるパワーはより強く、大きく。

 

銀髪に赤いメッシュを入れた軍服の みみのこ───勝利。

金のインナーカラーを入れた赤髪の みみのこ───勝利。

耳がタコの触手のようになっているみみのこ───勝利。

中には敗北もあったがそれでも試合を重ね、息も絶え絶えになったシロは胸の奥にある何かが疼いているのを感じた。

心臓が早鐘を打っているのか、高揚感から来る勘違いか。わからないながらも、シロの中には確信があった。

 

「(もう少し……もう少しで何かが掴めそう……)」

『ネクスト! 前へ!』

「は〜い」

 

それは、星の意匠があしらわれたバンドを巻いた みみのこ だった。

軽く構えるその姿に、シロは頬をぱちんと叩き、気合いを入れ直す。

 

『お互い見合って、構えて!』

 

とっくに交代し、レフェリーを代わった みみのこ が拡声器越しに息を吸う。

 

『はじめっ!』

「───ッ!!」

「(速いッ!!)」

『お、シロさんの方は相打ち。シアンさんの方は挑戦者が敗北、と』

「(もう少し……もう少し、早ければ……)」

 

みみのこバトルをする間、ずっと感じていたもどかしさ。

もう少し早ければ。手を伸ばすのが早ければ。

そればかり、シロは考えていた。

 

「(……違う)」

 

それは、無意識に出た小さな一歩。

みみのこ の足の半分の半分ほど。つまり、本当に少しだけ、前に出た。

 

『構えて!』

 

その瞬間、シロの中で、何かがハマる。

この距離なら。

この、間合いなら。

 

『始めッ!』

片耳渡(かたみみ渡)ッ!!!!」

『シロさん勝利!』

 

獲れる、と。

 

「わかった! わかった! 今、ようやく! 『絶対勘覚』の応用で、間合いが測れるんだ!」

「お、なにか掴んだ?」

「はい! ……でも、もう少し、この感覚を馴染ませたいです!」

「よっしゃ! 次だ、次! どんどんいこう!」

『ね、ネクストチャレンジャー!』

 

来たる明日。

まてらバッジ戦への挑戦権が復活する時に向け、シロはもう一度、構え直した。

 

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