みみのこ・ファイト・クラブ 作:アキ
VRChat。
VRCとも略されるそれは、メタバースを利用した超先進的SNS。
それぞれがアバターを持ち、それぞれの姿で今日も気ままに喋ったり、メタバースならではの景色を楽しむなどしている。
そんなVRCのワールドの中の一つ。白く質素な大地の上にぽつねんとある一つの入り口。重い扉の先に、小さく……いや、
「…………」
一人。
ぴょこんと揺れる二つの大きな耳を揺らし、首を傾げてそこを覗く者がいた。
その髪は白く、先端は赤い。同じく白いジャケットにぶら下がる青色の『なにか』のキーホルダーが、その耳と同じように少し揺れた。
「ここが……みみのこファイトクラブ……?」
その みみのこ の頭の上、ユーザーネームの上部に表示されるトラストランクは青。VRCを始めて間も無く……平均一週間程度、早い人なら3日で上がるようなランク。
つまるところ、その みみのこ は最近流行りのVRCを始め、そのVRCでさらに最近流行りの『みみのこ』というものに触れてみようと思ったわけだが。
「……見たことない名前だ。こんばんは!」
そんな小さくか弱い生命体に声をかけたのは、煌びやかなコートを纏い王子様のような格好をした、ショートカットの みみのこ。
未だ衣装に着られている感のあるその みみのこ は、トーナメントで敗退し、汗を拭いつつ水分補給をしていたところのようだった。
その襟には金色に輝くバッジがついており、コートのボタンの位置にも三つ、銅色のバッジがついている。まだ幼さを残していそうな人懐こい笑みは、まだ電脳世界に来て間もない初心者が信用するのも無理はなかった。
「なるほど、噂を聞きつけて……ようこそ、みみのこファイトクラブへ」
両手を広げ歓迎の意を見せる みみのこ。
慌てた新耳が、今は諸事情により手が動かず耳がもげないことを伝えると、ショートカットの みみのこ は観戦をする際の簡単なルールを教えた。
一通り観戦の
絵や文、写真などから得た特徴を伝えると、灰色のグローブに包まれた手でぽんと手のひらを叩き、
「でしたら案内しますよ。ちょうど、結構な人数がいそうです」
と言った。
新耳が最初に案内されたのは、トーナメントも終了し、側からぼーっと試合を眺めていた、車椅子の みみのこ だった。
柳色の髪を持ち、リーディンググラスの奥に糸目を飼っている みみのこ である。
「この
「んー……? なぁに、
「です。SNSで騒がれている みみのこ に会ってみたいらしくて」
「ほー。えっ、レフェリーより先にあてなの?」
「あっ……そうですね、レフェリーも紹介しないと」
見送るキドリーに手を振り───手が振れないので頭を振ったが───、コートの裾についた金の鎖が引き摺られて鳴る音を追い、新耳は舞台装置へと向かった。
そこにいたのは
今回のレフェリー、そしてサブレフェリーとして呼ばれた みみのこ だった。
「……ん? どしたの」
「ちょっと初耳案内を。ええと、今メガホンを持っているのが
「いいえー」
「そして後ろにいるのがエリテマ*3さん。レフェリーも選手もできるすごい
「はーい、どうもー」
どちらも褐色肌だ……と新耳が思っていると、その視線に気付いたのかエリテマがアクロバティックにサムズアップする。
レフェリーはシフト制で複数人いることや、また、当日のレフェリーには自治権が与えられたり、そも文句があっても試合を管理するレフェリーには逆らえなかったりなど試合の仕組みを教えられ、新耳はさらなる地へ。
「あの人がヤーレン*4さん! バトロワでは孤島にいるのをよく見かけますが……1対1の実力もすごいんですよ……」
トーナメントのレフェリーに合わせて練習試合をしていたヤーレン。
バトルの強さ凄さがわからない新耳は首を傾げるが、対面していた みみのこ が慌てた様子でヤーレンに指を刺す。
「いや、マジで! マジで強いからこの人!」
「……と言っているのは
「ちょっ、いやっ、ええ……。それアンタが言います?」
「僕なんかまだまだですよぉ」
「はーい。まだまだ弱耳でーす」
「ヤーレンさんは絶対違う!!!!」
そして案内耳はといえば、戦っている
「惜しかったですねぇ、もう少しで本日のハイスコアでしたよ」
「ダメでした……。っと、こほん。この
「いやいや、自分なんてそんな」
「あっそうだ。覚えておいて欲しいんですけど、強い耳はよく謙遜をします」
「……………………。……自分もまだまだですから」
「ほら。よく、謙遜を、します。覚えておいてくださいね」
固まるソラニンを耳でぺしりと叩き、案内耳はペンの横へ。
向こうにはペデスタルも見える足場で延々と戦いを繰り返している
「こちらの方が
「負けてない。FCの時間に間に合わなかったんだよ」
「あらら……」
「バトロワは勝つ」
ならバトロワの練習をした方が良いのでは? と思う新耳だが、トーナメント中はバトロワの練習などできない上にPunkはどちらかというと
「あっ、やほやほ」
「ミル*9さん。すみません、負けちゃいました」
「あら〜」
「この衣装で負けてしまって……悔しいです」
「んー、大丈夫だよぉ! 負けがあるから勝ちが輝くんじゃないかな」
「……はい!」
「頑張ってねえ」
そんな会話を新耳が聞き流していると、レフェリーが声高に決着を告げた。
『準決勝ッ、決まりィ!』
「おっ、決勝戦がこれから始まりますよ。決勝戦はですね、自分の耳を勝つと思う方に賭けて、賭けに負けたらもいで死ぬんです。どちらに賭けますか?」
そう言う みみのこ に対して、新耳は何となくで片方を指す。手が動かないので顔を下に向けて耳で指した。
そちらに目を向けた案内耳は目を凝らして姿を確認すると、ぎょっとした様子で目を見開き、そして苦笑した。
「なるほど、あっちですか……いきましょうか」
そうして、赤い柱を取り囲む複数耳の一部となり、その成り行きを見守る。
「ソウエン様のバトルが始まりますわ〜!!」
「早く行かないと、遅れてしまいますわよ〜!!」
「あっ」
「「あっ」」
「……このお二人が、
「おっ、初耳かい」
「戦えるのをお待ちしております」
「そして、この
「そう! 5強とは みみのこFCにおいてさまざまな功績を残し誰かが呼び始めて以降語られるようになった称号!そのメンツは豪華にも、ソウエン様、シア───」
『そこ! ファンは話が長くなる前に黙っててくださーい』
「「ちぇー」」
あはは……と苦笑いする案内耳を見上げる新耳。
5強というからにはあと4耳いるのだろうという視線を感じた案内耳は、辺りを見渡して都合よく見つけた みみのこ を指さした。
『構えて!』
「………………」
『始めッ!』
「「「「おー!? おっ!? おおおお!?」」」」
『相打ちッ!』
「それでですね。あそこで腕を組んでいるのがミタマ*13さんです。辻もぎのミタマと言う名前でも通っていて……」
「フンッ」
「こんなふうに。さっきまで向こうにいたのに何故か後ろにいて気づかないうちにもぐ技術を持っています」
ミタマは案内耳をもいだその手を新耳に向ける。
まさか、もがれる? じりじりとにじりよるミタマに、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう新耳だが、以外にもその手は優しく新耳を撫で、ミタマはどこかへいった。
『始めッ!』
「「…………ッ!!」」
『相打ちッ!』
「「ソウエン様〜!!」」
「えっと、それでそのミタマさんの横にいるのがセソン*14さん。この前戦ったんですけどとっても強かったです。その隣がまてら*15さん。まてら さんも強かったな……」
しみじみと遠い目をする案内耳にをよそに、ソウエン、ミタマ、セソン、まてら と並べ、ではあと
その問いに案内耳は答えず、ただ、「シッ」と人差し指を立てた。
「相打ち続くなぁ……!」
「頑張って〜!」「「ソウエン様〜!! きゃ〜!!」」
『もう一度行きます。 お互い見合って! 構えて!』
「「…………」」
『始めッ!』
ソウエンが合図と同時に両腕を振りかぶり───と見せかけて、そこで急ブレーキ。一拍ズラして再び動き出そうとするソウエンに、その相手は隙を見逃さずに腕を振るった。
ソウエンの両耳がもげ、その場にソウエンが倒れ込む。
勝ち残ったのは……。
「勝者ッ、シアン! 賭けに負けたものは自害せよ!」
「あの人がシアン*16さん。油断ならない……僕たちは賭けに負けましたね」
両の耳をもぎその場に倒れ伏す案内耳を見下ろし、手が動かない新耳はおろおろする。すかさずミタマが耳をぶちもぐ。甲斐あって、新耳はシアンの勝利者権限である写真撮影に、背景として入ることができた。
「……今日、FCに来ている人ですとこんな感じでしょうか? まだまだいますが、結構紹介したと思います」
ぶんぶんと首を縦に振る みみのこ。
そんな姿に苦笑したショートカットの みみのこ は、新耳の、あなたの名前は?という問いに驚いた様子を見せた。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕はシロ*17。手が動けるようになったらいつでもお相手しますよ」
くるりと身を翻したシロは、新耳に手を差し伸べた。
手が動かない新耳はどうにか握手をしようと困惑したが、シロはその視線から全てわかっているとでも言いたげに、何もないその手を握り、握手のジェスチャーをする。
「改めて……ようこそ、みみのこファイトクラブへ!」