みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。実在する人物及び団体とは一切関係ありません。


難攻不落の道場破り

 

日夜バトルに明け暮れているみみのこ・ファイト・クラブと言えど、集う みみのこ 達の性格は様々である。戦いに熱を持つ者はもちろん、かっこいい、かわいい みみのこ 達の『今』を切り取るために写真や動画を撮る者や、自分のみたい景色の実現のためにイベントの企画を練る者などがいる。

それらは狭くも広い地下闘技場で少しずつコミュニティを拡大させ、ある程度までいくとグループとして確立される。

そんなグループの中でも一際古く、みみのこ達の間で知名度を誇るものがある。

 

「たのもーっ!」

 

それが、稽古耳(けいこみみ)

師範としてミタマを始めとする()()()()()()()が集まり、みみのこFCワールドのミラー前で修行を重ねているという。

出席率もあるので成長速度に差はあれど、最もと言って良いほど特徴的なのが、

 

「おや、シロさん。お待ちしておりました」

「ソラニンさん!? 稽古耳だったんですか!?」

「はい、そうですよ」

 

そのほとんどが、古耳もしくは強耳だということ。

 

「もしかして、ソラニンさんと……!?」

「メンバーには、選ばれてますね。なにやらシロさん専用のバッジ戦だとか」

「そう……ですね。今日はよろしくお願いします」

「稽古耳から、レフェリーも呼んでます。安心してくださいね」

 

ソラニンがそういうと、シロの隣にいかにも寿司職人な風貌の黒髪の みみのこ が現れる。

突然の出現に身構えるシロだったが、その みみのこ は意に介さずといった様子でぺこりとお辞儀をした。

 

「今日はレフェリーとして呼ばれてます。よろしくお願いします」

「えっ、あっ、はい……いつもお世話になっています……」

「本日のアポイントメントは?」

「えっ」

 

複数人が絡む都合上あらかじめ挑む日は伝えて欲しいと言われていたので事前連絡はしていた───道場破りでアポというのもいかがなものか───シロだったが、そう言われるとたじろいでしまう。

レフェリーとして呼ばれているということは事情を知らないわけがないのでたじろぐ必要もないのだが、そんな様子をくすくすと笑っていたソラニンがぱんと手を叩いた。

 

(ひと)も集まりましたし、そろそろ始めましょうか」

「ミタマ、特殊バッジ戦。ルールは通常。特殊ルールとして、稽古耳3耳を倒した後、ミタマとの一騎打ち。間違いないですね?」

「っ、はい!」

「ではシロさん、足場に乗ってください」

 

緊張した面持ちでシロが足場に乗る。

レフェリーとして柱の横に立つ寿司職人の みみのこ が声高らかに告げた。

 

「第一陣! 前へ!」

「第一陣、武蔵! よろしくお願いします!」

「む、武蔵さん!? 稽古耳だったんですか!? というか、ソラニンさんじゃ……?」

「一番槍ってコトで! まずは小手調べ!」

「ぐっ……とにかく、勝つしかないってことですね!」

「そのとおり!」

 

デフォルトのスニーカーで足場を擦り、ニヤリと笑みを浮かべる武蔵。

対してシロは、解れぬ緊張を顔に出したまま、指先で襟の金バッジをピンと弾き、構えた。

 

「……では。お互い見合って! お互いに、礼ッ!」

「シロさんとはもう一度()りたかったんですよ。前は調子悪かったみたいなんで。よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」

「構えて!」

「(『極耳(きわみ)』……『居合』(プラス)『回避』……!)」

 

ぐっ、と深く腰を落とす武蔵に対して、シロは軽めに半身を引き、左足と左腕を前に出す。度重なる強敵との戦いで身に染み付いた構え。

レフェリーの隣で目を細めながらじっとシロを見つめるソラニンが、姿勢を変えた時。

 

「始めッ!」

片耳───」

飛破攻(とっぱこう)っ!!!!」

「うぐっ……!?」

 

シロの動きが終わるよりも早く、武蔵が飛び込む。

『極耳』によって極度に底上げされたシロのVR感覚が、腹部にタックルをされたような吐き気にも近いそれを鳴らした。

期せずして体勢が崩れたために武蔵の手がシロの両耳にかかることはなかったが、それでも片耳は失っている。

込み上げるものをきゅっと堪え、シロは歯を食いしばって手を伸ばした。

 

レフェリーから決着を告げる声が聞こえなかったことに一瞬、反応の遅れた武蔵はまだシロが生き残っていることを感じ取り後ろを振り向き、その瞳でシロの両腕を捉える。

 

「あぶねっ!」

「(避けられっ……!?)」

 

咄嗟。

しゃがみを支えていた右足から力を抜き、『飛破攻』の勢いを止めていた左足で地面を蹴り後方へ転がり込む武蔵。

位置としてシロの足元を抜け元の場所へ戻ってきたことになるが、それによってシロのもぎは空振り、さらに背後を取った。

 

「(…………来る!)」

 

その視線を、殺気を、背中から『極耳』で感じていたシロ。

踵を点としてくるりと回ると、シロのコートがばさりと音を立てた。

 

「……ッ!?」

カウンターッ!!」

「シロさん勝利!」

「〜〜〜っ、かー!! 負けた〜!!」

「び、びっくりしたぁ……」

「やっぱり強いよシロさん! ありがとうございました!」

「……武蔵さんも!」

 

武蔵がその場から退いたのを見送り、エクスプレッションメニューを操作し耳を再生するシロ。

一息付く間も無く、レフェリーが声を張り上げた。

 

「第二陣! 前へ!」

「は〜い、第二陣ソラニンで〜す」

「……ここでソラニンさん……!」

「ソラニンさん、どうだった? ()()()?」

「ええ、ばっちり」

 

足場の下から二耳(ふたり)を見上げる武蔵。ソラニンが武蔵にサムズアップしたのを見て、シロは青ざめた。

()()()()。シロの『片耳渡し』と『カウンター』を。

ソラニンは元より、対策を練る力に特化している。新しく一つの技が生み出された際に、その観察眼と知的好奇心をフル稼働させ新技のメタを張る力に優れており、ネタが割れれば新耳が強耳を倒すこともあり得なくはない みみのこバトル においてその力は絶大。

 

「最近はシロさんとあまり戦えてなかったですからね〜。たっぷり、()()()()もらいましたよ」

「まずい……」

「相手に行動を予測させ、相手が回避するなりもぎに掛かろうとするなりしたところを狩る『カウンター』……恐ろしい技ですね。しかし、陽動に引っ掛からなければ……ということです。相手依存なのがちょっと心許ない技ですね」

 

まさしく、小手調べ。

第一陣の武蔵がシロの『技』を引き出し、それを目に焼き付け対策を練ったソラニンが叩く。まんまとしてやられた。シロは歯噛みした。

 

「(だったら、『カウンター』狙いはやめよう……ソウエンさんと同じだ。2回同じ技が通用するとは思わない方がいいかも)」

「では参ります。お互い見合って、お互いに礼!」

「よろしくお願いします〜」

「よろしくお願いします」

「構えて!」

「(『超集中』『極耳』……『回避』……!)」

 

今度は一変して、心臓側の半身を引き、ファイティングポーズを取るシロ。その姿を見たソラニンは先ほどとは違う構えに眉をひそめるも、悩む事は解決に繋がらないのでそのまま構える。

やる事は一つ。自身の強みを押し付け、相手を葬るのみ。

 

「始めッ!」

フェイント避けッ!!」

「おっとなるほど!!」

 

小さく首を傾けた直後、耳の先でVの字を描くシロ。

培った経験と動体視力故に最初のフェイントに騙されたソラニンは、即座にその場でしゃがみ、シロの死角へ入り込んだ。

しかしその視線は、常にシロの大きな耳から伝わっている。

ばさりとコートを翻しソラニンを見下ろしたシロが一歩引く。

その手は大きく振りかぶられ、一見隙だらけ。

 

「その手には乗りませんよ!」

カウンターッ!」

 

隙だらけのシロを見て、逆に一歩後ろへ。

シロの大振りは避けられ、体勢が崩れた。

無防備になった頭に、ソラニンは手を伸ばし───

 

片耳渡しッ!」

「相打ちっ!」

「おぉー……? 今の体勢でよくソレができましたね」

「はぁっ、はぁっ、はぁーっ……!!」

 

上から下に振り下ろされた腕を、アッパーのように振り上げた。

これが当たらなければ敗北、運試しも良いところな苦し紛れの一撃であった。

 

「(あ、当たった……! なんとか!)」

「『カウンター』から繋げられるんですねぇ……なるほどこれは……対策が必要そうです」

「ば、化け物……っ」

「あはは」

 

シロが本気で恐怖を覚えているのに対し、ソラニンは笑って流した。

ソラニンにとって化け物かどうかはどうでもいい事である。まずは目の前の勝利を。対策を。

その乾いたような笑いがさらにシロを震えさせ、額から冷や汗がつうと垂れた。

 

「では、次に行きましょう」

「…………っ……!」

「礼省略! お互い見合って……構えて!」

「(『フェイント避け』が通用するかわからない。けど、かと言って他の『技』で戦えるとも思えない……! どうする、どうする……!)」

「始めッ!」

「───っ」

 

シロの思考が纏まるよりも早く、ソラニンが動いた。

深緑の光がシロの横を通り過ぎ、その軌道に沿うように褐色の腕が迫る。

『超集中』で色を失った世界であるにも関わらずその速度はシロの感知能力を超え、焦ったシロは咄嗟に首を振る。

 

フェイント避けっ」

「読んでましたよっ!!」

「ッ……!!」

 

ソラニンの狙いは、最初からシロの耳の位置からズレていた。

それは、シロが『フェイント避け』を使った際に戻ってくる位置に合わせていたから。

その動きがフェイントと分かっていれば、つられることは無い。

相手の動きの予測。そして、相手の動きへの冷静な対処。

 

「(これもしかしてっ、『不動』なんじゃ───!?)」

 

であれば、『回避』の型である『フェイント避け』は相性が悪い。

ネタも割れている。

ここから避けられる手段が、思いつかない。

 

詰み。

 

シロの頭に、その2文字が浮かんだ。

『極耳』を通じ流れてくるであろく、もがれる痛みに耐えるべく目をきゅっとつむるシロ。

その瞬間、瞼の裏に走馬灯のように景色が流れ出した。

 

「(───違う───)」

 

シロの頭の中で、何かが巡る。

 

「(何か───見落としている)」

 

みみのこバトルは、諦めてはならない。

常に状況を分析し、打開策を考え続ける。

最後のその一瞬まで。

それができるから、考えることができるから。

 

「(だから───ソラニンさんは強いんじゃないか?)」

 

シロは真っ暗な世界で考えた。

自分に何ができるのか。

自身の強みはなんなのか。気づいていなかったものはないか。

そうして、シロはたどり着いた。先ほどの一戦、シロは『カウンター』から『片耳渡し』へ技を繋いでいたことを。

基本的にシロの扱える『技』は、その一撃で体勢を崩してしまい、再度扱うには短いバトルの最中に立て直す必要があった。

しかし、あの苦し紛れの一撃。

()()()()()()()()()()()()()()があったことで、全てが変わる。

 

「(できると思っていなかったけど……今の僕なら、もしかして?)」

 

度重なる『極耳』の使用により、馴染んだ みみのこ の身体。

それがシロが自分で設定していた限界を、打ち破った。

 

そうしてシロは、目を開く。

 

フェイント避けッ!!」

「おっ!?」

 

2回目のフェイントは想定していなかったであろうソラニンの腕が、シロの片耳を掴む。

上等とばかりに、シロは自ら耳を引きちぎった。

そしてシロの耳が地面にはらりと落ち───面食らったソラニンに、隙ができる。

もがれたという事は、相手が耳を手離すまで時間がかかるということ。

 

秘伝───!」

「ああ、これは……」

片耳渡しッ!」

「……お見事です」

「勝負ありっ! シロさん勝利!」

 

その場で片膝をつき、深く息をするシロ。

『技』と『技』が繋がることを知って、即座に2回も『技』を繋げている。

流石に、負担が強かった。無理な動きをした肩は痙攣を起こし、もがれた耳からもズキズキと幻肢痛が走る。シロが右肩を抑えながら立ち上がると、ソラニンが立ち上がり様子を伺うようにシロの顔を覗き込んだ。

 

「大丈夫ですか? 休憩とか……」

「大丈夫です……と言いたいところですけど、正直……」

「休憩にしましょうか。……すみません、シロさんがちょっと肩を痛めてしまったみたいで……」

「えっ。残りは後日にしますか?」

「いえ、この程度、すぐに治りますから。ちょっとお時間いただければ……」

 

ホッと安堵した表情を浮かべるレフェリー。ソラニンはその場に座り、シロにも座るように促した。

 

「いやー、さっきのすごかったですね。避けられると思っていませんでした」

「正直、僕自身が驚いてます……」

「どうやったんですか? 見てから避けられるスピードじゃなかったような気がして」

 

見てから避けられるスピードではない自覚はあったのか、というツッコミは置いておき、シロは自分の手を見つめた。

ぶっつけ本番で繋げただけである。正直、シロにもわからない。

感覚でしかなかったことをシロが伝えると、ソラニンは顎に手を当て何かを思案しているようだった。まだ成長する気かと薄寒いものを覚えるシロは、ふと、武蔵とソラニンを倒したことで第三陣に進めることを思い出す。

 

「そういえば、次の相手は誰なんですか?」

「あ、次ですか? 次は……じゃあ、例に乗っ取ってレフェリーから伝えてもらいましょう」

「あっ、はい。……こほん。第三陣、前へ!」

 

声に反応して前に出たのは、一耳(ひとり)の みみのこ。

 

「えっ」

 

その髪は天を覆う空が如く透き通る水色。

同じ色をしたセーターを身につけ、肩からかけたポシェットがキュート。

一見すれば可愛らしい みみのこ であった。実際に可愛い。

 

「そん……な……」

 

シロは全身の力が抜けるのを感じた。

なぜならその みみのこ は。

5強の一耳(ひとり)、ミタマを倒すために倒さなければならない みみのこ は。

 

「第三陣、ヤーレン。よろしくお願いします」

「ヤーレンさんが……第三陣……?」

 

5強全員を連続で、たった一耳(ひとり)で、倒したことのある みみのこ だったのだから。

 

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