みみのこ・ファイト・クラブ 作:アキ
「5つのバッジ戦の内容が決まった……ですか?」
「うん。待たせてごめんね」
「い、いえ」
5つのバッジ。シロにのみ収集が許された、特別なバッジ。五強が所有しているそれは残り2つ。ソウエンとシアンのものだったが、その
先のミタマバッジ戦によって痛めた右肩を左手で押さえ、今日は療養ということで観戦していたシロはソウエンからそんな言葉を聞いた。
「シロさんはチーム戦って知ってる?」
「えっと……話に聞く程度には?」
チーム戦。
みみのこFCで開催されたイベントの一つであり、参加者は5耳1組のチームとなって戦うもの。戦い自体は個人戦なのだが勝利によるスコアはそのチームに与えられ、1耳の勝利がチーム全員の勝利に繋がる人気を博したイベントである。チームの起源は まてら が強さ等で気に入った みみのこ 達を集め練習するグループを作ったところから始まり、そういった文化の派生もあり、稽古耳や放課後練習部といったグループが生み出されている。
もちろんソウエンも参加し、自身のチームを組んでいる。
「そのチームを倒せば、バッジ獲得。どう?」
「ひ、
「あー、5対5を考えてたけどそれでもいいよ? そうする?」
シロは奥歯を噛んだ。なるべく誰かに迷惑はかけたくないが、右肩がまだ痛む。無理な動きが祟ったのか、今までの蓄積だったのか、筋肉痛やそれらに近い痛みが絶えないのだ。
そんな調子では5耳どころかソウエンを倒せるかも怪しい。断腸の思いで、シロはチームでお願いしますと口から絞り出した。
バトルのシステムは、当時行われたチーム戦と同じ。
3対3のバトルロイヤルと、1対1を2ブロック。
勝敗は点数制。バトロワは決着がついた時の人数分。1対1は勝者に1ポイント。1対1で2点取られたとしても、バトロワで2人以上生き残れば引き分けかそれより上になる計算である。
「じゃあチームが決まったらおいでよ。ウチのチームは、ほぼずっとFCにいるからさ」
「あ……はい」
ソウエンに押されたシロがFCを歩く。ソウエンと話している間にその日の最後の種目が終わったため、チーム探しにはもってこいであった。
しかし、どう切り出せば良いものか。どこまで話せば良いものか。
いっそ肩の回復に専念して、一耳で戦うのも視野に入れるべきか、とも。
残酷な話、シロの視界に黄色い名前は一つたりとも無い。元より誰かと密接な関係を持つことをあまりしてこなかったたちである。
それ故の、弊害。
悩んで悩んで、ペンが設置されている場所の近く。ミラーをオンにするボタンのすぐそばである。
大きな画面の前に集まりゲームをする みみのこ 達の姿を眺めていたその みみのこ が、シロの傍に駆け寄ってきた。
「シロさんじゃ~ん、どしたの」
「ミルさん……実は……」
かなり言葉を選んでいた。
ソウエンと戦うためにチームを探していること。まだ一耳たりとも集まっていないこと。伝えられたのは、それくらいである。しどろもどろになりながらなんとか説明するシロに何を思ったのか、ミルはそれでもへぇふぅんと相槌を打って見せた。
と同時に、シロに電流が走る。
「ミルさん、一緒に戦っていただけませんか!」
「えぇっ、無理だよぉ。誰と相手でも勝てない」
「そ、そこを何とか……」
そもそもシロ一耳、単独で戦うことも視野に入れえばならなかったもの。人数不利のデメリットが大きい分、ミル一耳がいるだけでかなりのアドバンテージである。
そしてそれ以上に、シロにはミルにかける戦力以上の期待があった。
「ミルさんはいろんな
「えー……。うーん……適任が他にいるような……」
「というか……僕が頼めそうな人が他にあんまり……」
「あっ……」
「…………」
「そ、そういうことなら……やってみようかな」
「ほんとですか!?」
「あ! あのっ、本当に勝てないから期待しないでね。他に適任が見つかればすぐ抜けられるから」
「ありがとうございます!!!!」
んんん、と何か言いたげなミルをよそに、シロはもう一度あごに手を当て考える。
チームでのバトル経験は1度たりともない。しいて言うならゲームワールドで唯一のフレンドと共にタッグを組んだくらいのものである。
みみのこ で、複数人でのバトルに経験がある者を集めねばならない。
「うーん、いつも誰かと一緒にいる方」
「そか、あと
「うーん……あっ! 八重桜さんはどうでしょう? ミルさんは八重桜さんと仲もいいですよね」
「八重桜さんってソウエンさんとチームじゃなかった?」
「えっ」
「えっ」
不覚。シロは膝をついた。
戦う相手をチームに誘おうと思うなど言語道断。それ以上に、シロ自身に他の みみのこ の交友関係について無知すぎる。なにより戦うことしか頭になかったクチである。自身のコミュ障っぷりにシロは辟易した。
内向的なのは自覚していたがこれほどとは。
バッジ戦で勝てずに悩んでいたころよりも頭を悩ませるシロ。その目の前に、
「いま、ソウエンさんのチームと戦うって聞こえたんだけど」
「武蔵さん。はい、そのためのチームを探してまして……武蔵さん、誰か良さげな
「…………そのチーム、俺も入れてください」
「えっ」
その神妙な面持ちにたじろぐシロ。
まさか自分のチームに入りたいと言う者がいるとは、微塵も思わなかった。
「勝ちたいヤツが、いるんです」
「…………! でしたら、ぜひ! お願いします!」
闘志は十分。むしろ、明確に戦いたい相手がいることがわかって安心である。
これで集まったのはシロ、ミル、武蔵の3耳。バトロワに出られる人数は揃った。最悪の話、1対1をシロが2回出ることだってできる。
とりあえずの人数が埋まって安堵するシロだったが、最悪の話はあくまで最悪の話である。できれば5耳集め、万全な状態で戦いたい。そう思っていた。
「……そういうことなら、
「あー! 銀貨さん!」
「聞いてみましょうか」
みみのこFC入口あたり、本日のレギュレーションが書いてあった看板の上に座り、ぽやぽやと宙を見つめていた銀貨。
大きな
「実は、ソウエンさんのチームと戦うことになりまして」
「ほう」
「チームメンバーを探しているんです」
「ほー! ほうほう」
「銀貨さんに、お願いできないかと」
「シャッ、やるしかねえよなぁ!!!!」
「あはは、元気いっぱい」
即断即決であった。
肩をぐるぐると回し「やるぞー」と息巻く銀貨に苦笑を返し、シロは辺りを見渡す。
全ての種目が終わった今、FCインスタンスにいるのは練習をしている者のみ。バラバラに帰り始めている者もいるため、今日だけで3人も誘えただけまだマシかと、今日のところはもう諦めようかと思ったその時であった。
「くぁーッ!! やっぱネヴィスさん
「どうやったらあの動きできるんだ……!?」
そんな声が、聞こえてきた。
不思議に思ったシロがそちらを向くと、視線の先の舞台には倒れ伏す みみのこ と、フンスと胸を張る みみのこ がいた。
黒めの衣装に、ウェーブのかかった銀白の髪が映える。ヘッドホンやサンバイザーから受けるスポーティな印象は白と黒の組み合わせによるゴシックな雰囲気と妙にマッチし、一見無機質にも見える瞳も、みみのこ特有の何を考えているのかわからない表情に合っていた。
「ネヴィスさん……ですか」
「あ、もちもちの子だ」
「アリだね」
「そうと決まれば声かけろ〜!! ネヴィっさ〜ん!!!」
「…………!?」
わらわらと集まってきた4耳に困惑し一歩下がるネヴィス。
誰を見れば良いのかわからず迷っているのか、シロ、ミル、武蔵、銀貨に視線が右へ左へ泳いだ。
言葉を待つネヴィスに、代表してシロが前に出る。
「実は、ソウエンさんのチームを倒さなければならない状況でして」
「〜……?」
「そのメンバーを集めているんです。ネヴィスさん、あなたの力を貸していただけませんか?」
「〜〜〜…………」
こてんと首を傾げ、何かを考え込むネヴィス。
その姿を見てシロの首がごくりと鳴る。今までこそ上手く行ったが、都合よくチームに入ってくれるとは限らない。
やがてネヴィスの頭上に、チャットボックスが浮かぶ。
『い』
了承の意だった。
「「「おおおお!!!!」」」
「ありがとうございます!」
「〜♪」
これで5耳。チーム対抗の人数は揃った。
次にシロが考えるべきは、役割の振り分けである。
誰が1対1に出て、誰がバトロワに出るのか。ミルは自身の戦闘スキルに自信がないので除いたとしても、他4耳はバトロワも対面もそこそこに自信がある。どちらかと言えば、好みの問題。
「シロさんは1対1が良いんじゃないの?」
「僕はどちらでも……銀貨さんは?」
「ワ、タ、シは〜……私もどっちでも良いかな」
「俺はトーナメントがやりたいです。向こうの
「自分はトナメ自信ないからバトロワが良いな〜」
「ネヴィスさんはどっちもできるよね。どっちが良いとかある?」
「〜〜〜……」
頭五つ合わせ捻るが答えは出ず。
シロの考える懸念点と言えば、やはりソウエンであった。ソウエンはバトロワ、トナメ共に実力が高い。バッジ獲得数で言っても、この場の全員を合わせても足りない。無策に戦っても敗北は確定であった。
王者に同じ技は二度通用しない───とは、シロが金バッジを手に入れた戦いでも一泡吹いてしまった特性。あれから特段、新しい技というものが生み出されていないシロは、どうにもソウエンと1対1で勝てる未来が見えなかった。
むむむ、と唸っていた銀貨がポンと手を打つ。
「みんなさ、ちょっと時間ある?」
「僕は、えっと、はい」
「あるけど……」
「大丈夫!」
「〜〜〜?」
「ちょっと特訓がてら、全員の実力を試してみない?」
それは提案であった。
一朝一夕のチームでソウエン率いるチームに打撃が与えられるかと言われればそうではないはず。故にこの提案。
みみのこ全体ではなくこのメンバーで比較し、それぞれが比較的得意な分野を割り出す。ついでにそれぞれの苦手分野の克服ができれば万歳。
銀貨が「他の人の邪魔になるから」と作り出した新しいFCインスタンスのポータルに次々に入っていくメンバーを見送った後、シロもそのポータルに手を当てる。
「チームが……仲間ができた」
そうして、飛び込んだ。
◇
ポータルに飛び込んだ先には、何があるのか。
シロにはわからなかった。ただ眺めていただけだったから。
インスタンスの隅で、何をするでもなく、ただぼうっと、人と人が話すのを見ていただけだった。
寂しくはなかった。
電脳世界は綺麗で、1人で放浪しているだけでもとても楽しかった。
1人でできるゲームワールドもあったし、フレンドにこそならなかったがその場に隣り合わせた人と会話もできた。
だからこそ。
「つまんな」
「(……すごい……)」
シロが頑張っても攻略できなかったボスを───その場にシロがいる分体力が増え難易度が上がっているであろうものをいとも簡単にクリアしてのけたその才能が、シロにはとても輝いて見えた。
だから、声をかけてしまった。
「あ、あのっ!」
「ン?」
「今の動き、どうやったんですか!?」
「ァ……?」
意外にも、丁寧であった。
口調は粗暴だが、それはわかりやすく、教える才能もあるのかと目を丸くした。
同時に、楽しかった。
天才の見る視点は常に自身と違い、その場に直面した問題を即座に解決するスタイルの自分とは違い、二手三手先を呼んでいるということがわかった。
シロが後に聞けば、珍しかったという。
ゲームワールドにある称号システムの解放などのために利用しようとする連中が多い中、シロが技術を盗みたい方向で話しかけてきたことが。
「おい、遅いぞ!」
「今日は何をするの?」
「ゾンビ系」
「えぇ……できるかなぁ」
「生き残り方は説明してやるヨ」
シロにとって初めてと言っても良い、明確な『仲間』だった。
隣は、心地のいい居場所だった。
だからこそ、帰る場所が見当たらなくなった時、とてつもない絶望感に襲われた。あの天才の身に何かあったのではないか。祈る以外にできることはないのか。与えられたものを取り上げられた子どもの気分であった。
セソンに問われたこと。そのフレンドに会うことができたとして───目標を達成したとして、その次に何がしたいか。
シロにはわからない。だが、迷ってもいない。
前に進むことを決めただけである。
こうしてチームができ、競う相手から肩を並べる仲間ができた。
一歩を踏み出したのはシロ自身。だが、そのきっかけは明らかに。
……キミがいたからだ。
みみのこユーザーの『いおくず はまち』さんに、下半身が鯱でもちもちほっぺが特徴的な銀髪のみみのこの名前を付けていただきました。
さらにもう一つ、『Tethys_As_Mythe』さんに、ヘッドホンとバイザーともちもちほっぺが特徴的な黒と白のゴシックなみみのこの名前を付けていただきました。
ネヴィスさん/ちゃん/くんです。