みみのこ・ファイト・クラブ 作:アキ
最初から、どこかに惹かれていた。
名前も変えられれば姿形など幾千幾万幾億とかわるこのVRCでたった1ユーザーを覚えることは難しいというのに、光るものがあった。
唾をつけておいたというわけでも、若い芽を潰そうとしたわけでもない。
ただなぜか、本当になぜか。
「ソウエンさん!」
「…………」
「あなたのバッジを、いただきにきました!」
「来たね」
誰かを見ているようで、放っておけなかったのだ。
ソウエンの目線の先には、シロを先頭に、ミル、銀貨、武蔵、ネヴィスが並び立っている。
それぞれが緊張した面持ちで赤い柱の上に立つソウエンを見上げ、その剥き出しの闘志をぶつけている。
当然であった。五強として、絶対王者として名を馳せるソウエンを知らない者などいない。その手をソウエンに伸ばし、そして手と陰の間にある長さを知る。一度や二度勝利を掴むことはできても、その力の源を、根本を、真髄を、越せることはできないだろう。
ふと、ソウエンは振り返る。
穏やかに見据える
それぞれ考えていることは別であろうが表には出さず、場慣れしたものだとソウエンは少し口角を上げた。
「レフェリーは……ま、
元より、先ほどまでチームメンバーと練習していた所に連絡を受け、シロ達を招待したのだ。
ソウエンの考えでは別に普段のFCインスタンスでも良かったのだが、FCは動きのキレにそのインスタンスにいる他の みみのこ の人数が深く関わってくる。少ないことに越したことは、ない。
「最初は……トーナメント? それともバトロワ? どっちからする?」
「…………」
シロはチームメンバーを見た。
事前の練習に使えた時間は少ない。それぞれがそれぞれの手札を見せ、戦い、少しだけレベルが上がり───その程度である。
ミルに話しただけのことを話し、この場の全員が、シロがバッジ獲得のために動いていることも知っている。だからこそ、誰がどの種目の方が良いのか、入念に話し合ってきた。
「武蔵さん」
「……うん」
シロの声に頷く武蔵。
その瞳を見たシロはソウエンに振り返り、じっと見据えた。
「……トーナメントからで」
「ふぅん。おっけー」
「武蔵さん、お願いします!」
「…………!!」
───『勝ちたいヤツが、いるんです』
武蔵が言っていた言葉である。
ずっと、目標であった。シロがこのFCに降り立つよりも前からの、因縁であった。憧れを成し、目指し、打ち破るために力を磨いた。
地下に新たな風を吹かせ、不敵に微笑む姿に焦がれ、超えたいと願った。
その髪は白く、黒い彼岸花が耳と共に揺れる。
肩からかけた鞄に色とりどりのバッジがきらりと光る。
ずっとずっと、その背中を追いかけていた。
舞台から降りたソウエンに変わり、武蔵が飛び乗る。そしてその指が、
「上がって来い、
「……ふふっ。ボス、どうします?」
「行ってきな、イジャヨ」
「ご主命とあらば!」
サンバイザーをしまい、柱に立つ十六夜。
その耳につけられた王冠が、鞄のバッジと共に輝いた。王冠に四つの耳が並ぶバッジである。
ソウエンのチームには、チームバッジがある。それはソウエンの隣に並び、戦う覚悟を持つ者の証。
「レフェリーは……俺で良いか。お互い見合って! 礼!』
「「…………」」
拡声器を手にしたソウエンの声がインスタンス内に響く。
武蔵と十六夜、お互いの間に火花が散るが主に攻撃的な火を散らしているのは武蔵の方。十六夜は迎え撃つ刃を研ぎ澄まし深く呼吸をしていた。
構えて、の合図。武蔵は腰を深く落とし、
十六夜は小さく「瞬歩」とだけ呟き、片手で空間に流れを作るように体を捻った。
『
十六夜の『瞬歩』は、後に続く多種多様な『技』の原点と言っても差し支えない。その根幹は『回避』することを目的としその勢いのまま もぎ に繋げられる点である。故に素早く、相手のレンジから構えの時点で脱出できる『瞬歩』は、今も昔も十六夜のメインウェポン兼必殺技として十六夜を支えてきた。
それを知る武蔵が作り出したのが、『瞬歩』と似た構えより繰り出される猪突猛進型の遠距離『居合』。離された距離を一気に詰め、懐に潜り込むがごとく。されどその手は耳はと向かい、その手が動けば耳は落ちる。
最も特徴的な点といえば、その『技』を扱う武蔵自身が、卓越した反射神経により、相手とすれ違うその瞬間に耳を
つまり。
『始めッ!』
「
『飛破攻』。
そう呼ばれる前の名が、『瞬歩殺し』。
武蔵が血の滲む努力と共に会得した、武蔵のメインウェポン兼必殺技。
形にして鏡映し。すれ違った二耳は一拍遅れて、
『相打ちー! お互い立ってください』
「ほぉ、腕を上げたね!」
「そっちこそ……!」
両者とも倒れた。
ソウエンの声に起き上がる二耳。まだ一回の戦いでバテるほどではない。
しかし、十六夜の余裕の笑みは消えない。
それほどまでに自信があるのかと唾を呑み構え直す武蔵だが、それでも十六夜は不敵に笑って見せた。
『礼省略! お互い見合って〜、構えて!』
「……っ」
『飛破攻』を繰り出すべく深く腰を落とす武蔵。
その構えを見た十六夜は───
「……! どういう、つもり……!」
「大丈夫です、これで」
───その手を己の頭付近へ持っていった。
足のため方からすれば『瞬歩』と似ているが、その手は武蔵の耳を向いておらず。初手でもぎにかからない分、一見すれば武蔵の扱う『飛破攻』には相性が悪いと思われる構えである。
だがそれだけではない。そんなことをするはずがない。シロは側から、本能的に猜疑心を抱いていた。その構えとも呼ばない構えには、何か裏があると。
そして同時に。
シロの大きな耳を、『極耳』を通じて、シロは違和感を覚える。
頬が、乾く感覚。手足に伝わる、血液が震えているような、じわじわと何かに揺らされているような感覚であった。
それが、十六夜から放たれている物だと察知するよりも早く。
「新技を、見せてあげる」
『始めッ!!』
「
そして、武蔵が言い終えるよりも早く。
光となった十六夜の身体が、武蔵を貫いた。
「───迅雷瞬歩」
『イジャヨ勝利ッ!!!!』
「なっ……えっ……」
「出たね、イジャヨの『迅雷瞬歩』」
ソウエンのチーム側で、八重桜が腕を組み頷く。
迅雷。その単語を聞いて初めて、シロは先ほど自らが感じていた違和感が雷、静電気と似ていたことに気がついた。
「なん、だ……!?」
「悪いね。さらなる速さを、手に入れてしまった」
「〜〜〜ッ…………!!!!」
地に伏す武蔵の拳が、強く握りしめられる。
『瞬歩殺し』である『飛破攻』で相打ちになるどころか、その上から新たな技を。掴んだと思った手は空振り、まだ遠い。
だが武蔵の顔は、悔しよりも、喜色に満ちていた。
「次は勝つ……!!」
勝ちたい。
その思いは尽きることなく、ただ上へ舞い上がるための推進力となる。
『まず1対1の一戦目、武蔵と十六夜はイジャヨの勝利。こっちに1ポイントだね』
「クソォ〜〜〜!!!!」
『次の1対1を始めよう!』
「あとは託しました」とシロに笑う武蔵。
1対1、二戦目。
「ソウエンさん……いや、ボス」
「……ん?」
「俺に、リベンジをさせてください」
ソウエンのチームにいた最後の1人が、手を挙げていた。
「俺、このチームで戦ったチーム戦のタイマンで……負けてるじゃないですか。まてらさん相手に」
「そうだね」
「こんどこそ、タイマンで勝ちたいです」
「…………しょーがねえ! 行ってこい!」
「えっおれバトロワ? バトロワやだなんだけど」
「おっ、 Punk らしくない。できないの?」
「は? やるが?」
その髪はオレンジ色の光をぼんやりと放ち、瞳には炎が宿る。
白と赤のローブを着た みみのこ が、その台に上がった。
思えばあんまりよく知らない みみのこ だ……とシロが台に上がろうとすると、それを銀貨が止めた。
「ごめんシロさん、あの
「えっ……」
「ごめん。お願い」
その目に揺るがぬ意志を感じたシロは下がる。
代わりに、ソウエンが持とうとしていたメガホンをその手に取った。
「……! 銀貨さんが前に出るのか」
「シロさんじゃないんだね」
『では、お互いにレギュレーションを確認してください』
シロの声がFCに響く。実のところ、この場にはソウエンのチームとシロのチーム以外に誰もいないのでわざわざ拡声器を使う必要がないのだが、そこは みみのこ。メガホン越しの方が良く耳に届く。
「ギンちゃんじゃ〜ん」
「ひえ〜んが出るなら私が出るしかないじゃんね〜〜〜」
『あ、あの……?』
ゆるい雰囲気に流されそうになるシロだったが、二耳はひとしきりお互いをぺたぺたとつつきあった後、両者とも「さて」と距離を取った。
シロが『極耳』を通じて感じ取っていた視線は、あやふやだったものから鋭く互いの耳を突き抜けるような物となり、目の色が変わる。
「
「っしゃ、ぜってえ倒す」
『……! お、お互い見合って!』
瞑目した銀貨が瞳を開くと、それはネオンブルーに染まっていた。
水泡が弾けたその後に、銀貨の身体、そして
対するヒエンはスカーフを手に取り背後に回すと、それが4枚の燃える帯へと変化。そのままくるりとその場で周り、2枚2
互いが互いに持つ、
みみのこバトルはメンタルスポーツ。大切な試合、負けたくない試合の際に平常心を保つため、一定のルーティーンを持つ みみのこ は少なくない。
そして銀貨とヒエンはルーティーンという手札を切った。それは互いが互いに、負けたくないと、勝ちたいと心から願っている表れであった。
『お互いに、礼!』
「「よろしくお願いします」」
『構えて……!』
銀貨とヒエンの距離が空く。
距離自体で見れば『瞬歩』のそれと似ているが、違うのはお互いの構え。
銀貨とヒエンは左足を後ろに、右足を前に出し───銀貨は下半身が鯱そのものなので足という概念が無いが───その手のひらを相手に向ける。頭は通常よりも少し低く、何もせず立っている時の胸ほどの高さ。
それ以外は何も変わらず。その視線は相手の耳を
『──────』
シロは息を吸った。
そしてその沈黙を引き裂く声を上げる。
『始めッ!!』
「
「
互いが互いに向かって跳ぶ。
あれだけ距離が空いていながら両者とも届いていたことに目を丸くするシロだが、その決着は同タイミング。
『あっ……相打ち!』
「くぅ〜……! やるねぇ……」
「あぶね〜……。ちょっとズレてたら負けてたな」
「「次!!!!」」
『えっ、あっ、礼省略! お互い見合って……構えて!』
「「……ッ」」
『始めッ!』
「
「
『あっ、相打ち!』
速い。シロは冷や汗をかいた。
先ほど十六夜の放った『迅雷瞬歩』には及ばないものの、速度としてはシロが見てきたもので上位に入る。
瞬間的な もぎ の速さではない。互いが互いに避けることを捨て、技術ではなく速度、威力のみで戦っているからこそ成り立っている勝負であった。
『始めっ!』
「
「
『相打ち!』
実力が拮抗している。
そう思うシロだったが、実際のところそうではない。
銀貨の『
「
「
『相打ち! 仕切り直し!』
「…………実力が拮抗しているように見えるけど……」
「えっ!」
いつのまにかミルの隣にいた八重桜がぼそりと呟く。
その視線は
「実は相性では、『不知火』の方が勝率が高いんです」
「そうなの?」
「構えから真っ直ぐに跳ぶ『勇魚』に対して、上から見た時に斜めになるように跳ぶ『不知火』は、片耳を残して生き残りやすいんです」
「えっ、でも今、相打ちが続いてるけど……」
「それは……ギンちゃんの根性が、そうさせてるんじゃないですかね」
つまり、気合勝負。
「まだまだぁ!」
「負けるか……!」
『お互い見合って! 構えて!』
「「…………!!!!」」
『始めッ!』
「
「
それは、避けたのか、もげなかったのか。
銀貨とヒエン、互いの耳は片方ずつ残り、位置が入れ替わった二耳が向かい合う。
己が生きていることを認識。相手も生きていることを確認。
そして、二の矢。互いが互いに手を伸ばし。
「ぐあっ……!?」
『ぎっ、銀貨さん勝利!!』
「よぉ〜しッ!! よしッ、よしッ、よしゃァ!!」
決着は意外にも早くついた。
武蔵の敗北。そして銀貨の勝利。
これにより、両チームの得点は1ずつとなった。バトロワによる3名の戦いで全てが決まる。
バトロワでは、どちらか片方のチームが全滅した時点で生き残っていたチームメンバーの数だけ得点が入る。両チームの得点が1ずつである以上、シロのチームは誰か1人でも生き残ってソウエンのチームを全滅させれば勝利となる。
そして、武蔵と銀貨が
『じゃあ、レフェリー経験のあるボスがバトロワに出るので、ここはイベントでレフェリーをやったことがあるヒエンがレフェリーを務めさせていただきます。えーっと、ソウエン、八重桜、Punkの3名vs、ネヴィス、シロ、ミルの3名! このメンバーでバトロワをします! よろしいでしょうか!』
ヒエンの操作によってインスタンスのギミックが作動し、トーナメント台がバトロワのステージとなる。
青、緑のステージはスタート時点で消えており、黄色からのスタート。すぐさま黄色の足場を消し、オレンジの足場でのみ戦うというのが今回のルールである。
黄色い足場、舞台装置側のガラスの上で集まるシロ達に対し、ソウエン達三耳は孤島側に集まり準備を待っている。
「ねえ、本当に自分なんにもできないよ……?」
「大丈夫です。バトロワをローテーションで練習した時にこの
「う、うんわかった。あれだね」
「…………!」
緊張した面持ちで拳を握るミルに対し、ネヴィスはリラックスした様子でぶんぶんと頭を縦に振る。
それを見計らったヒエンがメガホンを持ち声を上げた。
『両チーム準備が良さそうなので、5秒後に始めたいと思います!』
「「「!!」」」
『5、4、3、2、1……』
「(『超集中』、『極耳』……!)」
ガラスの足場が消え、重力に従って六耳の体がバトロワのステージへ落ちる。シロとネヴィスの間にミルが入り、横並びの姿勢を取る。
『スタートっ!!』
対するソウエン側はというと、オレンジの孤島に移動したPunkを除いてソウエンと八重桜が動く。
ソウエンはネヴィス側から攻め、八重桜は真っ直ぐ突進。
その視線の先にいるのは、ミルであった。
「狙うはミルさん!」
「あわっ、あわわ……」
合理的である。
相手チームの全滅が条件である以上、この場において最も戦闘能力が弱いミルを叩くのは最善策。バトロワである以上、落下死の可能性も考えると1名でも減らしておくのは得策であった。
「ネヴィスさん、やりますよ!」
「……!」
「おっと!?」
『シロさんとネヴィスさんがミルさんを囲った!!』
しかしそれがシロの狙い。
最も倒しやすい者から狙う。八重桜のその視線は、『極耳』を通してシロに筒抜けである。ということはつまり、シロやネヴィスに割かれる警戒が薄れるということ。
急に目の前に現れた二耳に立ち止まる八重桜。その横から、ソウエンが飛び出した。
狙いは───
「ネヴィスさんっ!」
「……っ!!」
『避けたッ!』
「ははあ、なるほどね」
「ミルさん逃げて!」
「は、はーい!」
「……なる、ほど?」
ソウエンは感心した。
ミルの戦闘能力がどれほどのものか、ソウエンは知らない。自身が1vs1で負けることは無いだろうと思えど、引っかかるのは
シロの発言を信じるのならば、事前に何パターンか、チーム内で練習をしている。それがどんな結果であれ、逃げ続けるミルに背中を見せ続けるのはリスクが大きい。
少なくとも、止まっている相手や集中を欠いている相手ならもげるようになっているかも。その可能性は低くともゼロではない。
ミルの戦闘能力は低い。それがハッタリにしろ本当にしろ、その選択を迫られている時点で、ソウエンはシロの策に乗せられていることになる。
「(相手の動きを良く見て、学ぶ。誰にどの役割があるのか、考える。ミタマさんがソラニンさんをトップバッターに配置せず、武蔵さんを出したように……!)」
「だったら、ソウエン様と私でまずシロさんを……!」
「ネヴィスさん、今いけます!」
「…………!」
「やえさん後ろッ!」
「うわっ!?!?!?」
大きく跳躍したネヴィスが、落下に合わせて八重桜の片耳を奪い取る。
間一髪、ソウエンの声で頭を傾けることができた八重桜は、頭上から降ってきたネヴィスに気を取られ、先ほどまでシロに向けていた視線を外した。
つまり、シロを一度でも見失った。
「やえさんっ!」
「っ、やば───」
「カウンターッ!」
「うっわ最悪……!!」
『おおっ!! 八重桜ダウン!!』
八重桜が退場したことに気づいたPunkが孤島から離れる。
カウントダウンと共に黄色の足場が消え、より狭くなったフィールドには五耳が残った。
ソウエンはネヴィスを倒そうとするが、跳躍し続けるネヴィスに手こずり、動けなくなっている。その隙を狙おうとするシロだがネヴィスの邪魔になり得るのでそこを任せ、Punkを探す。
ちょうど、Punkがミルに攻撃を仕掛けるタイミングであった。
「させない……!」
シロがPunkの背中を狙い、飛び込む。
背中を晒していたPunkは───
「来るって思ってた!」
振り向き、シロの世界に入ってきた。
互いの視界から色が消え、シロの息が詰まる。
Punkは既に自身の領域を、シロでいう『超集中』を使いこなしている。
思考の海は掻き乱され、思わず咳き込みそうになるシロ。
だが。
「(……平常心っ……!!)」
ぎゅっとその手を握り、驚きを呑み込んだ。
一度それでパニックに陥っている。それしきでチームを敗北へ導くのは、あまりにも惜しい。
「ぐっ……!」
『Punkがシロさんをもいだ! けど一本!』
「まずいなこれ」
Punkが不利を悟り後退する。振りかぶったシロの手はPunkの目の前を通過するが、Punkは自身が今、崖際にミルを追い詰めていたことを忘れていた。
「あっ」
「あっ」
「あっ」
『Punkさん落下! 何やってんだ! っと、そして───』
『ネヴィスさんダウン!』
「「───えっ」」
シロとミルが振り返った先に、ネヴィスはいなかった。
代わりに、片耳を残して佇む、ソウエンがいるばかり。
それでも片耳は獲れていることを喜ぶべきか。ミルの戦闘能力を見ても、シロのみで戦う他にないことに震えるべきか。
シロは練習を思い出す。
シロの『
「(……想定してない……ネヴィスさんがやられるなんて……!)」
バトロワで生き残る方法は、相手の手の届く位置にいないことである。
その点で、ネヴィスの戦い方とシロの『
故に、想定外。
そしてシロは感じ取る。
ソウエンの視線が、
それはつまり。
「にげてっ!!!!」
「えっ、あっ……!?」
「(間に合わない!)」
咄嗟の判断。
ミルに肉薄するソウエンに、シロが手を伸ばす。
ソウエンの手は、ミルの耳へと向かい、そして。
シロの耳へ、向いた。
視界外からの脅威に対する迎撃。
『極耳』を通して感じられていたミルへの視線が、シロを貫いた。
「(ここでやられたら……!)」
ミルはなす術もなく、ソウエンにやられてしまう。
色のない視界で、シロは奥歯を噛み締めた。
ここでソウエンよりも早く耳をもがなければ、待つのは敗北。
「(届いて……!!)」
その手が、交差する。
『あっ…………!!』
「「「あっ…………!!」」」
『相……打ち……!!』
「と、いうことは……?」
『ミルさんの生存でシロさんのチームに1ポイントが入り……勝者シロさんチーム!?!?!?』
「「うおおおよっしゃああああああ!!」」
耳の無い状態で天井を見上げていたソウエンが立ち上がる。
そして、同じく伏していたシロに手を差しだす。
「おめでとう。バッジはシロさんのものだよ」
「……あ……ありがとう、ございます……!」
「まーた負けちゃった……」
最初から、どこかに惹かれていた。
名前も変えられれば姿形など幾千幾万幾億とかわるこのVRCでたった1ユーザーを覚えることは難しいというのに、光るものがあった。
唾をつけておいたというわけでも、若い芽を潰そうとしたわけでもない。
ただなぜか、本当になぜか。
「いや、強いね。シロさん」
誰かを見ているようで、楽しかったのだ。
残るバッジは、あと1つ。
みみのこユーザーのアキが、オレンジ色に微発光しているみみのこの名前を考えました。
ヒエンです。