みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。
実在の人物および団体とは一切関係ありません。


覚悟を知らない

 

内通者。

シロを監視し、クロに情報を送っていた者がいる。

シアンの『5つのバッジ』戦はプライベートインスタンスで行われていたことから、シロはその内通者が、偽シアンの中にいると踏んでいた。だが推測はあくまで推測であり、実際にクロとのやりとりを抑えたわけではない。

なにより、クロならシアンや偽シアン達の画面を勝手に覗き見てタイミングを見計らっていた、というトリックでも納得できてしまう。そのためシロはまだ公にするような事でも無いと思っていた。

 

『本日のバッジ戦はここまでです! おつかれさまでした!』

「うい〜す」

「そういえばシアンさんは?」

「死んだんだって」

「死んだ!?」

「PCが」

「びっくりしたなぁもう」

『何か告知がある人は舞台装置側までどうぞ』

 

()()()と同じ風景。先ほどまでの殺伐とした空気はどこへいったのか、だべったり練習したり、ワールドを移動しようとしたり、さまざま。シロはこの空気を壊すのが嫌だった。

だが、被害はすでに出ている。これ以上シアンや一部の偽シアンのような みみのこ を出すわけにもいかない。

 

シロはおそるおそる、メガホンを手に取った。

舞台装置の横、メディアプレイヤーの前。目の前には多くのみみのこで賑わっている。

それら全てのヘイトが一瞬でも自身に向かうことを想像したシロの呼吸は荒くなり、頭の中が白色に染まる。

それでも、とシロが勇気を出しメガホンのスイッチを押すと、可視化された音波のようなエフェクトがメガホンから放たれた。

 

『えっと……』

 

それは小さな声。

雑談中だったり作業中だったりで聞き流そうとする耳もおり、気にかける者はほとんどいなかった。

 

『みなさん、ちょっとだけ聞いてください』

 

だがその声色に含まれた確かな恐怖を───いつもと違うことを感じ取ったのか、徐々に みみのこ 達がシロの声に耳を傾ける。

 

『シアンさんがFCに来れなくなってしまったのは、僕が原因なんです』

「原因?」

『原因というのは語弊があるかもしれませんが……えっとつまり、原因の一つというか、僕も関わっているというか』

 

イベントやゲームに誘うような告知ではない。シアンという渦中の名前を聞き興味を持った みみのこ 達が静かになる。

シアンの一時的な退場は、FC内でも大きなニュースであった。

噂では闘いに夢中になりすぎてPCを蹴り飛ばしてしまったとか、サイバーテロにあったとか、力を求めるがあまりもげるくん.exeをインストールしようとしてウィルスに感染したとか、好き放題言われている。まさかその噂のうちの一つが真実など、誰が思うのであろうか。

 

視線が己に集まっていることを大きな耳からなる『極耳(きわみ)』を通じて感じたシロは、緊張で息を震わせながら言葉を絞り出した。

 

 

 

『フレンドが、サイバーテロしてて』

「ぶふっ」

 

 

 

真面目な顔をして聞いていた耳の一耳(ひとり)が吹き出した。

よほどのことがないとジョークを言わないシロである。真面目に取り組み人柄も良く、しかし何故かプライベートに関して誰も知らないシロが珍しくメガホンを取り告知をすると思ったらコレである。

笑い混じりのどよめきがインスタンス内に伝播するが、それも次第に収まり次の言葉を待った。

 

『シアンさんは僕のフレンドにPCを壊されました』

 

その者は、シロと戦いたがっていること。

そのために辻斬りにも近い感覚でシアンを襲ったこと。

シアン以外にも被害にあった者がいること。シアン以外は、自らのアカウントにロックがかかりPCでVRCにインできなくなっているということ。

なんとも荒唐無稽で、何かのRP(ロールプレイ)なんじゃないかと疑いたくなるような内容。しかしそれを淡々と言い放つシロの声色に、冗談の気配は見えない。

 

『シアンさん達がそうだったように……クロに無作為に選ばれ、耳をもがれるかもしれません。もがれたらPCVRができなくなります』

「聞きたいことたくさんあるけど、一旦、一旦続けて?」

『まずはクロが、皆さんからシアンさん達を奪ってごめんなさい。僕が必ず謝らせます。シアンさんのPCも弁償させます。絶対、シアンさん達をFCに戻してみせます。だから安心してください』

「……………………」

 

何か言いかけた みみのこ 達を、偽シアン達がなだめる。

どよめくインスタンスが静かになったのを確認して、シロに視線を送った。

 

『みなさんもこの話を聞いて、うすうす思ってることがあると思います。僕がこの場にいるということは、今ここにクロが来てもおかしくない状況なんじゃないかって』

 

一部の みみのこ が、俯いた。

そんなことはない、と言いたいが、しかし事実そうである。

現在のシロが居場所非公開(オレンジステータス)だとしても、シロのいるこの場はバッジ戦に使われたグループインスタンス。

シロを探して入って来ることは、可能である。

自身を貫いていた視線の一部が逸れたことを知覚し、シロは安心して欲しいというように笑った。

 

 

 

 

 

『だから、今日は皆さんにお別れを言いに来ました』

 

 

 

 

 

「………………えっ」

 

視線の数が増えた。

先ほどまで俯いていた者の視線。そして、偽シアン達の視線。

 

「ちょっとまって初耳なんだけど!?」

『FCに来たばかりなんですか?』

「ちがっ、そうじゃなくって!!!!」

 

みみのこ特有のジョークをシロが使ったことに珍しい、と思うよりも、動転が前をゆく みみのこ 達。

確かに、シロがこの場にいなければ、そしてステータスを緑か青にすれば居場所が公開され、クロがFCインスタンスに来ることは無くなる。

 

だがそれは同時に、シロがいつ来るかもわからないクロを待ち続けるいうことである。

誰でも良かった、というクロの発言から、シロの居場所がわからなければクロはシロを呼び出すため、シロが戦う理由を作るため、確実に誰かを犠牲にすることがわかっている。クロに襲われないためにはBANや通報が最も手っ取り早い対処だが、それはシロの望みではない。

自らの我儘を通すために、自らを犠牲にする。道理の通った無茶であった。

 

『クロとの戦いが終わったら、このバッジを剥奪してもらっても構いません。クロがしでかしたコトがコトですから』

 

ただ一つ、クロと戦う条件である金バッジだけは、戦いが終わるまでのこしておきたい。銅バッジなら今すぐにでも返却しても良いとまで言い切れる覚悟であった。

 

『もし万が一……クロが現れたら、いつでも呼んでください。朝でも昼でも夜でも行きます』

「なんで……そこまで……」

『…………わかりません。"ともだち"だから……でしょうか』

 

あまりにも理解不能な行動原理。どうして荒らしをいつまでも友達と言い張り続けるのか。

だが確かに、シロがそうするのであればクロはFCには来ない。納得はいく話である。

 

『僕は今から別のワールドに行ってクロを待ちます。クロを倒して謝らせます。だから皆さん、今まで……』

 

舞台装置の横。

インスタンスにいる全員の視線が集まる中で、シロは頭を下げた。

大きな耳が垂れ、顔が見えなくなる。

 

『今まで、ありがとう、ございました』

 

そうしてメガホンを手放すシロ。

あくまで無機質に、淡々と。

だがその声は。

 

───はあなたとフレンドになりたがっています】

 

「……えっ」

 

震えていた。

 

 

 

 

 

「「「「うるせ〜〜〜!!!!」」」」

 

   ───はあなたとフレンドになりたがっています】

───はあなたとフレンドになりたがっています】

     ───はあなたとフレンドになりたがっています】

 ───はあなたとフレンドになりたがっています】

          ───はあなたとフレンドになりたがっています】

───はあなたとフレンドになりたがっています】

 

 

 

 

 

「なっ、なぁっ……!?」

「黙って聞いてりゃ勝手なこと言ってんなァ!」「なんか聞いてた話と違うんですけど? 迎え打つって話でしょ?」「別に俺達がそのクロとやらを倒してしまっても構わんのだろう?」

「むっ……無理ですよ! 皆さんがクロに勝つなんて、天地がひっくり返っても……」

「「「「はァ〜〜〜〜〜!?!?!?!?」」」」

 

地雷を踏んだ。

そう理解した時にはすでに遅く、シロの元にさらに夥しい量のフレンド申請が届く。

そこに込められた意思は、シロを一耳(ひとり)にさせないという揺るぎない意思。あとシロがなんか皆さんじゃクロに勝てないとかこちらをナメているので耳に一発でもブチ込んでやろうという意地。

 

「地獄からインバイト送れや」「最近のシロさん調子乗ってるよなァ!」「なになんか、『自分最強ですけど?』みたいな顔してんの?」「ちくわ大み明神(だいみみょうじん)

「「「「誰だ今の」」」」

「み、皆さん……」

 

信じられないと言った顔でランチパッドを見るシロ。

たった一枚シロにしか見えない板に、大量の想いが突き刺さる。

本当にいいのかと目で訴えるシロに対して力強く頷く面々。その壁を押し除けて、ソウエンがシロの前に立った。

 

「このインスタンスにいる人だけじゃない。『みみのこ・ファイト・クラブ』が、シロさんの味方になるよ」

「…………っ…………!」

「倒そう、クロを」

「……はいっ……!!」

 

もちろん、そう都合よく全員が納得したわけではない。

内輪揉めは当人同士でやってくれという みみのこ は、シロにフレンド申請しなかった。

だがそれもシロの戦う理由になる。その みみのこ 達を守らねばならないという思いが、シロの決意をより一層固くした。

 

「皆さん、ありがとうございます……!」

 

シロの声は依然震えていた。

しかしそれは先ほどまでの緊張や恐怖から来るものではない。

ところどころに、鼻をすするような音が聞こえる声であった。

 

「多分皆さんの中に内通者がいると思ってたんですけど、やっぱりそんなことないですよね!」

「「「「なんて?」」」」

「クロが都合よくシアンさんと戦い終わった後に現れたのも偶然ですよね……!」

「「「「ちょっとまってそれは話が変わってくる」」」」

「そんなこと、ありませんよね……! ごめんなさい、一度でも皆さんを疑うような真似をして……!」

「「「「聞き捨てならないが!?!?!?」」」」

 

慌てふためきシロを問い詰めようとする みみのこ 達を見て、胸に暖かいものを感じるシロ。

申請を承認する端から徐々に黄色くなっていく名前は一連托生の証。シロから見てすでに黄色い名前である銀貨や武蔵も満足そうに頷いている。

 

一気に重みを増したランチパッドを眺め、シロは絶対にクロを倒すと心に誓ったのだった。

 

 

 

 

「おい」

「へいなんでござんしょ」

「ギミックができた。シロにこれを使え」

 

DMに送られたUnityパッケージを見てテンションを上げる みみのこ。

暗く、広く、しかし洗練されたデザインやこだわり抜いた家具配置のワールドの中央で、クロは我こそが王とばかりにそこにふんぞり返っていた。

 

「シロはまだ未熟みたいだからなァ。これを使えばちっとはマシになんだろ」

「はぇ〜。これどうやって使うの?」

「ファイルに使い方書いたメモが入ってただろォが……」

「みみのこなんで読めませ〜ん」

「……すぞ」

「ハイッ!!!! 読みますッ!!!!」

 

慌てて敬礼をする みみのこ に苛立ち気味に舌打ちを返したクロは、その隣にいたもう一耳(ひとり)の みみのこ にも同じものを送った。

使い方のメモを開き不思議そうな顔をしていた みみのこ は、その技術力にため息を溢す。

 

「はぁ〜すっごい。どうやって作ったんです?」

「ンなもんすぐ作れンだろ」

「はぇ〜〜〜」

 

クロは知らない。

地下闘技場にいる一耳(ひとり)の みみのこ が、抱いた覚悟を。

 

シロは知らない。

FCの裏切り者が、一耳(ひとり)ではないこと。

 

歯車は動き出している。

少しずつ軋み、小さなヒビはやがて大きなヒビとなる。

その歪みが みみのこ にもたらす運命は───

 

───誰も知らない。

 

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