みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。
実在の人物および団体とは一切関係ありません。


ブチもげ! 銀バッジ戦

 

みみのこファイトクラブは、週5で開催されている。

みみのこについてよく知らない人にこう説明すると、大抵の人は、

 

「元気だな!?」

「戦闘民族がよぉ……」

「血に飢えてるの?」

 

と驚く。

VRChat上でのカフェなどのイベントが開催されるのは週に1度ほど。多くても週に二度……とかそんなものである。

それが週5。trusted(トラステッド)……VRC歴が長いもののみが持てるランクの人でも、なかなか聞かない頻度で開催されている。

 

一日3回、22時から始まり、バトルロイヤル、トーナメント、もう一度バトルロイヤルの順で開催されるみみのこバトルだが、それらに勝つと報酬が与えられる。

その名も、『銅バッジ』。

突き出た右手が耳をもいでいる場面を掘り込まれた銅のひし形レリーフで、拳より下には大きく『日』と書かれている。

みみのこ達にとっての強さの象徴であり、喉から手が出て耳をもぐほど欲している物。

それすなわち、『優勝者の証』なのだから、カードゲームの大会の優勝賞品プロモカードなどと同じで……栄誉ある物なのだ。

 

だから、つまり。

 

「いやぁ、バッジつける場所もう無いや」

「さすがソウエン様……!」

「今日も素晴らしい避けでした!」

「(腰のベルトにバカみたいな量のバッジが……)」

 

所狭しとコートに銅バッジをジャラジャラ付け満足げに頬杖をつくその隻眼のみみのこがどれだけ化け物であるか。

 

グレーの髪と耳を揺らしたソウエンと呼ばれているみみのこは、最初のバトルロイヤルで勝利したためにもうこの先のトーナメント及びバトルロイヤルには出られない。

だからもう、あとは後方腕組み優勝者面で他のみみのこ達を眺めるしか無いのだが……その立ち位置に行きたいみみのこのなんと多いことか。

 

「俺はもう試合に出られないから頑張ってね」

「はい! がんばります!」

「勝ちてぇ〜」

 

耳共(みみども)に聞いた一度は言ってみたいセリフトップ5』のうちの一つである。

 

「とういうことは、また銅バッジが増えるんですか?」

「……ん? いや、今日は()()()()()だぞ?」

「銀、バッジ?」

「あれ、知らない? そっかぁ、えーっと……」

 

ソウエンは己のコートの左の襟にとめられた、二つ並んだバッジを指差す。

銅バッジと同じく耳を掴み取る拳の掘り込みと、そしてその下に輝かしく掘られた『週』の文字。

輝きを放つシルバーのバッジこそが、週5で狂ったように耳をもぎ合うみみのこファイトクラブでも、特別、月に3回のみ行われるバッジ戦を潜り抜けた者のみが持てるバッジ。銀バッジである。

 

「1のケタに『3』が付く日は銀バッジ戦なのよ」

「……なるほど、3()3()のこってワケですか」

「んで、もうこの襟に銀バッジつけられないからどうしようかって言ってたの」

「ははぁ……。ん? 銅バッジ、銀バッジがあるということは……」

 

───金バッジを手に入れた上で、5強を倒して欲しい───

 

「あるよー、金バッジ戦。あれは月に1度かな」

「(つまり、月に1度の金バッジ戦に勝たなければ、会うどころか手がかりすら掴めない……?)」

「ま、栄誉ある銀バッジ戦だし。頑張れ、シロ」

「は、はい!」

『ではトーナメントしますよー。参加者は青の足場に2人ずつ乗ってくだーい』

「(金バッジ戦の参加に銀バッジが必要ってことはないだろうから、本当は参加しなくても良いんだけど。でも、僕はまだ弱い。経験を積むために、強者との戦いを学んでおこう)」

 

特に5強の戦闘データが欲しい、と遠くにいるみみのこ達を見つめるシロ。

5強のいる柱に対戦相手として名乗り出ているのは、5強の強さを知らない、まだあまり経験のないみみのこ。もしくは、相手が5強であるとわかっていながら挑もうとする猛者である。

例えば、Red。例えば、日傘をさしたドレスのみみのこ。例えば、ジャケットを纏いニット帽を着用し8bitサングラスの隙間から思い切りメンチを切り威圧するみみのこ。

 

『あ、みみが見えにくくなる頭付近の装備品は外してくださーい』

「アッハイ……」

「(それで、僕の相手は……)」

「よろしくお願いしまーす」

 

現在のシロと同じく、何も改変をしないままデフォルトのみみのこを使う者が前に現れる。

見たことない相手だ、とシロは身構えた。

少なくともシロが来たこの3日間のうちには見たことない名前である。デフォルトであるとはいえ油断してはならない。みみのこFCの中には、自身の書いた小説のキャラクターがデフォルトみみのこを使用しているからと言って、『力を貸してくれ』とほざいてデフォルトみみの姿に戻すみみのこも存在する。

故に、名前も知らない、型も見た目ではわからないとなれば、警戒は必須。

 

「シロ……? さんもデフォルトなんですね。お互いデフォルト同士頑張りましょうね!」

「……こちらだって、負けませんよ」

『みなさん準備できましたかー? 準備できたら両手をこちらに向けてください』

「「「「はーい」」」」

『はい可愛い〜。……では準備 整ったようなので、早速始めて行きたいと思います。お互い見合って!!』

 

シロとその相手のみみのこの間に緊張が走る。

レフェリーのみみのこの持つ拡声器から出ている青色のパーティクルにふぅと一息入れた音が乗ったのを、シロのみみは感じ取った。

 

『礼!!』

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

『構えて!!』

 

軽く両手を上げる目の前のみみのこ。

対してシロも、鏡写しになるかのように、両手を軽く上げた。

 

「(まずは『居合』で勝てばよし。こちらもダメージのリスクはあるけれど、相打ちに持っていくことができればなんの型を使うのか分かる……)」

『始めッ!!!!』

 

大きく踏み込み、相手のみみ目掛けて全力で手を伸ばすシロ。

対して相手もこちらに手を伸ばしているのを見たシロは自分が掴まれているのも気にせず、ただ相手の耳へ手を伸ばした。

 

「(掴んだ!)」

 

そう確信し、両腕を振り切る。

中に舞った耳は、4本。

 

「(……相打ち!)」

「うわぁ〜、やられてるわ〜……」

『相打ちのとこありますか〜』

「ここ相打ちです! レフェリーお願いします!」

「(でもこれで、相手も『居合』を使うってことが分かった……)」

『はいここ……んん゛。メガホン入ってたわ。レフェリーやるねー」

 

相手は居合を使う。

だったら。

シロは今まで軸足として前に出していた右足を、スッと下げた。

右の膝を下げ、左の足を前へ。

体にくっつけるように添えた右の利き手を軽く握り、代わりに左の手を突き出した。

まるで、拳法を使う者が相手と自分の距離を測るように。

 

「(『回避』を使うぞ……)」

 

思い出すのは、青髪のポニーテールを下げた褐色肌のみみのこ。

上体を大きく動かし、相手の懐へ突っ込む『回避』の基礎となる動き。

 

中心にあるのは、ソウエンの構え。

居合を避け、背後を取り、正確な一撃一撃を叩き込んでいくあの動きの、動き出しのスタートラインとなる構え。

 

ただ、避ける。避けてから、討つ。

 

「両者見合って〜、構え!」

 

全神経が、シロの両足に集中した。

足首に力を伝えるために、腿とふくらはぎの筋肉が常に稼働している。

いつ始まっても素早い動きができるようエンジンをふかしたままにすることが、どれだけ身体に負担がかかるか。

少なくともまだみみのこFCに来て間もないシロにとって、その状態で体をキープするというのはかなり負担がかかる行為だった。

 

そして、静寂は切り裂かれる。

 

「始めっ!!」

「(『回避』ッ!!!!!!!!』)」

 

居合の時とは比べ物にならないほど、右足を大きく前に出す。

それと同時に、全体重を右足に乗せるように体を沈ませ、転ばないように右足をその場で踏み込んだ。

肩から腹部へ、腹部から腰へ、腰から足へ。螺旋を描いて伝わる衝撃が、シロの足元でドンッと鈍い音を鳴らした。

 

「避け……!?」

「後ろがガラ空きですよッ……!」

 

床に伝わせた衝撃をそのままに、右足をバネにして水平にキックを放つように跳躍。一気に相手の後ろまで踏み込んだシロは、そのまま交わす左足へ軸足を変更し、相手の耳を掴んだ。

 

「これで……ッ!!」

「やべっ……!?」

「勝ちだッ!!!!」

 

振り返ってシロを捉えるも、手遅れだった。

シロの手は既にみみまで届いており、その腕がXの字を描くように振り下ろされ。

 

「勝者、シロさん〜!!」

「うあああああ!! クソぉぉぉ!!」

「ッぷはっ……。はぁっ……! はぁっ……!」

「いや〜、いい回避だったね。背後取れてた」

「あ、ありがとうございます」

『では、勝者が無事決まりましたので皆様水色の足場へ移動お願いします』

「いや〜、負けた。シロさん、頑張ってくださいね」

「……! はい、がんばります」

 

何かを託されたような気がした。

胸に暖かい物を貰ったシロはそのまま水色の柱まで進む。その先で待ち構えていたのは、深い青色の髪を持つみみのこだった。

瞳に華の結晶は宿していないので、5強の方ではない。スーツを身につけ、その髪に一つ、バッジをつけていた。

 

「ぁ、これですか? これは前のイベントの非公式バッジです」

「そんなものもあるんですね……?」

「ええ。楽しかったですよ」

「(物腰柔らかだけど油断ならない。水色の柱(この場所)にいるということは、さっきの試合で勝ってるってことだ……)」

『それでは、両者見合って〜、礼!』

「よろしくお願いします」

「よろしく、お願いします」

『構えて!!』

 

青のみみのこは、徒手空間の構えをとる。

居合なのか回避なのか、ぱっと見ではわからない構え。

だったら先ほどと同じように、居合で。

そう考えたシロは軽く両手を掲げ、相手のみみに狙いをつけた。

 

『始めッ!』

「ッ……!!」

「ほっ……!!」

 

両腕を耳に突っ込み、腕を振り切る。

視界の端でゆっくりと吊り上がっていくみみを確認したシロはゆっくりと後ろを振り向き。

 

「アッ! まだ死んでない!」

「(……取れて、なかった!!!!)」

 

偽耳(にせみみ)

スタートダッシュの体勢や相手の回避の速さなどによって狙いがブレてしまい、『掴んでももげないところ』を掴んでしまう。

掴んだと思ったら掴んでいなかった、その油断が原因で敗退してしまうみみのこは多い。

もちろん、返す刀で戦うのを苦手とするため、一撃に全てを込めるみみのこもいる。相打ちになればまた()()のチャンスは巡ってくる、という思惑で。

 

しかしこと今回のシロに限っては完全な油断である。そして、その相手も。

もがれた、負けたと思っていたらまだ生きていた。

その驚きと、構え直すという動きから生まれた隙は、戦い慣れたみみのこからすれば大きなアドバンテージである。

 

「っぐ……!」

 

だがシロには、経験が足りなかった。

お互いに耳は一本。居合の構えをもう一度しようものなら、相手の餌食になる。その考えから、みみのこバトルにおける二の矢は、

 

「(……相手も『回避』!?)」

 

お互いに大きく避け合い、残り一本のみみを狙い合う混戦になることが多い。

時に相手の手を避け、イケると思った時に相手に手を伸ばす。だが、それは相手も同じことで、自身の耳に手が伸びているのを見ているから、また大きく首を逸らす。

 

そのようなパニック状態で戦えば、今自身が死んでいるのか、相手が死んでいるのか、それがわかる者はもう、落ち着いて側から見ている観客しかいない。

故に。

 

「……あ!?」

「……! ……!」

「あ、シロさん、自分もう死んでます」

「……!? はぁっ、はぁっ……」

 

たまたま手が耳に当たってもげたのか、それとも相手の自爆なのか。

お互いにわからないため、最もデータにならない決着の着き方になる。

 

『勝ったみみのこは権利を行使してくださーい』

「ぁ、写真撮ります?」

「と、撮ります」

 

()()とは。

みみのこバトルをして勝利した者が、敗北し地に伏した相手と共に写真を撮れる権利のことを指す。

みみのこである以上、そして戦って負けた以上、「撮らないでください」などと言うことは許されない。負けた者に発言の自由なぞ残っておらず、相手の画像フォルダの中に自身が負けたという結果が残り続ける。

 

だからこそ、負けたくない。

 

「よし、ありがとうございました」

「はい、どもども。えーと、シロさんの次の相手は……。おお、ははっ、うーわマジか」

「え?」

「あのー、えっと、頑張ってくださいね」

「(……? 一体誰が……?)」

 

そう思って振り返ったシロの先、緑の柱の上に、一耳(ひとり)のみみのこが立っていた。

 

血を固めたような琥珀の瞳。

同じく真紅のスカジャンをその身に纏い、髪飾りの『滅』の字が揺れる。

 

「───……!」

 

お前か。

 

柱の上で腕を組み仁王立ちをするその みみのこ が、獲物を見つけたように嗤った。

トレードマークである鬼のマスクの内側で、くしゃりと顔が歪む。

生意気にも喧嘩を売ってきたみみのこを叩き潰さんとする、カエルを睨むヘビさながらの、それでいて無邪気な笑みであった。

 

「……ふは……」

 

戦えるという興奮か。それとも、戦わなければならないという恐怖からか。

鬼の みみのこ の開き切った瞳孔に映り込んだシロが、冷や汗を垂らしながら笑った。

笑うしか、なかった。

 

「(辻もぎは……おそらくというか十中八九『居合』寄り。ここは対抗策の『回避』で、とにかく避けることを狙うんだ)」

「シロさんがんばれー」

『では、両者見合って、礼!』

「よろしくお願いします」

「───……」

『構え!』

 

右足を後ろに出して回避の構えを取ったシロは気づいた。

 

「(震えて、いる?)」

 

筋肉に慣れない動きをさせたことが祟ったか。

しかし、それでは先ほどまでなんともなかった理由がつかない。

おそらく、これは。

 

「(恐怖)」

 

漏れ出る息が震え、奥歯が擦り合う。

目線は定まらず、ここからみみを狙うのは困難。

 

もっと。もっと深く、潜れ。シロは息を吸い込み、そして吐いた。

意識の深層へ。足の震えも気にならないほど、奥へ。

今この場で誰よりも敏感になったシロの耳が、わずかな息継ぎを……ブレスを、聞き取った。

 

『は』

「(『回避』ッッッ!!!!)」

『───じめ!』

 

大きく踏み込み上体を前に屈める。

迫り来る弾丸すら避けられそうなほどのスピードで、シロは自身の右脚へ突進した。

 

「───……!」

「えっ、おっ!? え!? 1本守った!?」

「(……ッかは……)」

 

シロの膝が肺を圧迫し、体内に残った残り少ない息が全て吐き出される。

床だけで衝撃を受け流しきれず、勢いそのままに自身の膝に激突した。

だが、それだけの犠牲を払ったおかげか、取られたみみは1本。

 

まだ、シロは生きていた。

 

相手を射抜く瞳の前に、シロは両腕を構える。

交差させた腕を盾にするように、しかし、その手のひらは相手に向く。

その殺気を感じてか、それともやはり経験の数が違うのか。

シロが避けた、つまり自身の攻撃が終わったと同時に、鬼のみみのこは振り返る。

血色の瞳を、少し泳がせて。

 

「(この、位置から───!!)」

「───……!!!!」

「『居合』……ッッッ!!!!」

 

鬼の みみのこ の みみ に狙いを定め、足に貯めたエネルギーを全て推進力に変える。

バネのように身体を押し上げる右足で地を蹴り、ただ前へ、耳へ、飛び込んだ。

 

「(この勢いなら、届く───!)」

「───……!!」

 

全てを込めた、渾身の一撃。

その手が、みみに届く。

 

 

 

 

 

「ああ……っ」

 

聞こえたのは、他のみみのこの嘆きの声だった。

 

「───……」

「……ぐ、ぁ」

 

とさり、とシロの小さな身体が倒れる。

突き出された鬼のみみのこの拳が、シロの最後のみみを掴んでいた。

 

「───……」

「いや、シロさん惜しかった! 一回避けてたもん!」

「ね、今めっちゃ速かったですよね!」

「「うわ〜!!!! 惜しい〜〜〜!!!!」」

『はーい、勝者は権利を行使した後で先に進んでくださーい』

「───……」

 

鬼のみみのこは、権利を行使せずにその場を立ち去る。

黄色の足場の上に現れたのは、順調に勝ち進んでいたシアン。

ぐっぐ、と伸びをするシアンが、鬼の みみのこ の頭の上を見て気づいた。

 

「片耳だよ」

「───……!!」

 

あと少し。

あと少しシロの腕が長ければ。もしくは、シロが速ければ。

もう片方の手が、自身のみみに届いていれば。

あの場に伏していたのは、もしかしたら。

 

「───……」

「生えた生えた」

『では、両者見合って〜、礼!』

 

鬼のみみのこの口角が少し上がった。

あの調子で行けば……()()()は、案外近いのかもしれない、と。

 

「くしゅんっ。あ〜、頭 痛(あたまいた)

 

そんなロックオンをされているとは知らず、シロは鼻を鳴らした。




みみのこユーザーの『はるきんぐ』さんに、グレーで隻眼でコートにバッジをジャラジャラつけているみみのこの名前を付けていただきました。
ソウエンさん/ちゃん/くん/ です。
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