みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。
実在の人物及び団体とは一切関係ありません。


事情を知らない

 

「あてだよ」

「……あ、え? はい……」

「………………」

 

二耳(ふたり)の間に沈黙が流れた。

バッジ戦が終わった23時頃。いつ来るかわからないクロを迎え撃つべく、時間を見計らいインスタンスにやってきたシロを迎えたのはそんな言葉だった。

キコキコと音を鳴らす車椅子に乗り、リーディンググラスの奥からシロを見上げている。

 

「内通者、探してるんだって?」

「ぁ……はい。実はそうなんです」

「あてだよ」

「…………??????」

 

意味が理解できず首を傾げるシロ。

キドリーは困惑しているシロを見上げたまま、平然と言い放った。

 

「内通者、あてだよ」

「…………ッ!?!?!?」

 

その瞬間、シロは距離をとった。

頭ではまだ理解しきれていない。驚愕を顔に出したまま、先に体が先に動いたのだ。

咄嗟に構えるシロに対しキドリーは穏やかに微笑んでいる。自信満々な普段の笑みとは違う、どこか怪しさすら覚える笑み。キコキコと車椅子の車輪が軋む音が、いやでも大きな耳を通じてシロに届く。

 

先ほどまでのぽやぽやとした雰囲気から一転、全方位に気を張り地獄の針山が如き殺気を放つシロの剣呑な雰囲気に何かを感じとり、そのインスタンスにいた みみのこ たちが気づく。

対峙しているのはキドリー。一瞬、気が抜けそうになるが、

 

「どうしてクロに協力してるんですか……?」

 

シロのその声で、全てを理解した。

同時に、シロの()()から抜け、キドリーの隣に立つ みみのこ 達が。

一耳(ひとり)は、ギラついたジャンパーにニット帽。かけているサングラスが威圧感を放ち、殴り合いに発展しそうな雰囲気を醸し出している赤い みみのこ。

一耳(ひとり)は、耳に巻かれた有刺鉄線が真っ先に目を引く。かと思えば白衣を脱ぎ捨て、同じく有刺鉄線の巻かれた特攻服を見に纏い、棘の鎧を見せつける みみのこ。

一耳(ひとり)は長い髪を腰まで下ろし、紺の服を見に纏う みみのこ。大きく目を引くのはその背中に背負っている、身長ほどはあるかという大きな棺桶であった。

 

「イバラを纏った左腕ェ!」

「車椅子の右腕っ!」

「そしてそれらの真ん中にいるオレ!!!!」

「……と、後ろにいる儂〜」

「オレら3人が揃ったとき、バトルに勝利する!!!」

 

背景に爆発はないがポーズを決め、シロの前に立ちはだかるその四耳。

インスタンス内の みみのこ は彼らがシロの横を通りキドリーの隣に立った時点で堪えていた衝動を我慢できなくなっていた。

 

「「「「いや問題耳(もんだいじ)じゃねえか!!」」」」

「えっいや、まって問題耳は良いとしてなんでもう一耳(ひとり)そこにいるの!?」

「へへ、なんか成り行きで」

 

棺桶を背負ったまま照れ笑いをする みみのこ。

どよめく みみのこ 達を背中に、シロはごくりとつばを呑んだ。

クロとの内通者。

この四耳が、シロの動向をクロに伝えていたことになる。それ故に、シロが金バッジを手にした時も、『5つのバッジ』を全て手に入れた時も、クロに筒抜けだったのだ。

 

「……いや……ん……?」

「どしたのシロちゅわん」

「に、偽シアンさん……じゃない……?」

「「「「…………?」」」」

「な、内通者は偽シアンさんだと思ってました。でも、皆さんは偽シアンさんじゃないんですよね? どうやってクロに……?」

 

シロがシアン、偽シアンと戦っていた場所は、プライベートなインスタンスであった。偽シアンの中に内通者がいると思われていたのは、そのためである。

キドリーはもちろん他の三耳も、偽シアンの姿を持ち合わせていない。であれば、この四耳に、シロがシアンを討伐したことをクロに伝えることは不可能なのである。

 

「おっと……」

「もしかして」

「まだ……」

「バレてなかった……?」

「か、完全に候補から外れてました」

「キドリーてめぇ!」

「ウワァッ! ウワァッ! ウワァッ……!

 

セルフでエコーをかけながら死にゆくキドリーを無視しシロが声を上げる。

 

「どうしてクロに味方してるんですか! それと、クロはどうやってシアンさんとの戦いが終わったことを知ったんですか!」

「なんでかっていわれても……ねえ?」

「とりあえず、カッコよく答えれるものから答えるねー」

 

長髪の みみのこ が、背負っていた棺桶を床に押し立てる。

蝶番がギィと不気味な音を立て、その扉がゆっくりと開いた。

そこにあるのは、闇。

元々あったはずの棺桶の底は影に覆われ、深淵がシロを覗く。

 

「答えは、ここに在るよぉ」

「…………!」

 

深淵に見られている。

それが文字通りの意味を持つことを、『極耳(きわみ)』を通じて視線を感じたシロのみがわかっている。

 

突如、棺桶の底から手が伸びた。

 

闇より生まれ出るそれは みみのこ の可愛らしいそれとは全くの別物。

長く伸びた爪。血や干し肉のようなくすんだ赤色の肌が、それが人外のものであることを無理にでもわからせる。

その手は棺桶の縁を掴み、闇の底より、棺桶を通じて這い出てくる。

人の形を保っているのも不思議なほど、不自然に膨れ上がった身体。

その巨躯が故に全体で見れば細く見えるが、しかし確実に みみのこ の耳よりも太く、長い腕。

 

見る人が見れば食欲も失せるだろうというその姿に、シロは戦慄した。

 

「なに……()()は……?」

「シアンさんの行動はねー、なんか筒抜けだったんだって」

「バッジ戦の時くらいじゃない? あてたちがちゃんと内通者やってたの」

「それに主に儂とキドリーさんくらいだもんね。やってたの」

 

雑談をしている間にも、その邪神とも呼べてしまいそうな体躯がみるみるうちに這い出てくる。

全体のシルエットが見えた時、一部の みみのこ から悲鳴とも笑い声とも取れる声が上がった。

 

「うわっ……なん……うーわっ、でたよ……!」

「知ってるんですか!?」

「アレはっ……いやっ、でも……ちがう。なんかちょっと違う! アレは……!」

 

頭部には取ってつけたような不自然な空色の髪が生え、それが後ろに纏まっている。そしてそれを、これまた取ってつけたような青いリボンが飾る。

頭頂部の口とも顔ともつかぬところから生えた2本の長い耳が、かろうじて面影を感じさせる。

 

「コレはシアンさんのデータから作り出されたクローン! ……ギミック! レイドボスギミック、その名も『偽シアン』!!」

「「「偽シアンはそんなんじゃなーいっ!!!!」」」

「さぁ、制御はキドリーさん達やって。儂は召喚し続けるから」

「た、他人が操縦できるんです!?」

「すごいよね、これ」

 

問題耳の三耳が、偽シアンに指示をだす。

といっても手元のエクスプレッションメニューで操作するだけなのだが、それだけでも随分と楽しそうにしていた。

 

「…………! いつのまにこんなにたくさん!」

「偽シアンの性能はこれだけじゃないよん。『強制バトルシステム』きどー!」

『お互い見合って!』

「…………っ!?」

 

聴き慣れた大罪葱の声が、シロの頭の中に響く。

同時にシロとクローンシアンの周りに赤いリングが表示され、シロの目の前に赤い字でUIが表示された。

辺りを見渡すも、大罪葱は近くにいない。メガホンを持ってすらいない。

 

『構えて!』

 

クローンシアンは、ただそこに佇みシロを見下ろしている。

シロの目の前のUIが『構えて』に変化した。

まさか、と思うシロが慌てて構え直したその直後、

 

『始めッ!!』

「ゴアアアアアアッ!!」

「ひっ……!?」

 

猪突猛進。

そう表現するのが最も正しいと思える、荒々しいもぎ。

巨腕はシロの頬を掠め、空を切る。

『極耳』を通じ熱や風を感じることのできるシロは、からぶった腕の通り道に風が吹き込むのを感じた。

 

「なになになになに!?」

「えっなにこの音声!」「ちょっと待ってこれランク戦の……!?」「はやい! きもい! なにこれ!」

「(いつのまに、こんなにたくさん……!)」

 

気がつけばシロ以外にも、クローンシアンと赤いリングに閉じ込められている者がいる。

困惑している間にもがれている者。赤いリングから出た瞬間にみみがもげ倒れ伏す者。一瞬シロが辺りを見渡しただけでも、何人かがすでに倒されている。

そしてその みみのこ 達は、

 

「ウワァーッ!」

「ん、なんだ!? ヒエンさん落ちたぞ!?」

「皆さんっ! まだ憶測ですが、このクローンシアンさんに負けるとVRCが落ちます!」

「「「「ナニィーッ!?」」」」

「って待って、シロさん後ろ!」

「……ッ!! カウンターッ!!!!」

 

もげた耳は、一本。

 

その巨躯が故に腕が届かず、また振り向きざまの姿勢もありズレが生じた。

シロは息を止め、クローンシアンの足元に転がり込む。一拍のズレの後、その片耳が勢いよく弾け飛んだ。

 

「痛っ……!? 避けた、はず……!?」

 

一拍のズレ。

VRCで度々見られる、ユーザー同士でのラグである。

シロは今までラグというラグに出会っていない。回線環境はもちろん、クロから譲り受けたPCスペックもあり、誰かと話す時など、その差は小数点未満になっている。

しかしクローンシアンが()()を行った瞬間、ラグが起きた。

それはシロの環境が知覚するよりも早く、もぎが行われたということ。

 

「そんなこと、可能なの……!?」

 

大体、みみのこバトルをどうやってギミックで再現しているのか。

その疑問が浮かぶ前にクローンシアンが動く。

一見、鈍重。しかしそれはそもそも身体が大きいが故の錯覚。振りかぶられた腕はシロの耳を狙っている。

求められるは、予測。

明らかに、人の操縦している動きではない。ともすれば、ギミック本体が自立して動いている。

クローンシアンが動くよりも先に動いたシロ。先ほどまでシロがいた場所をクローンシアンの腕が抉ったのを横目に、その推測が正しいことを確信する。

 

「(一度狙ったところは、直ぐには変えられない?)」

 

赤いリングの端の端。そこで立ち止まるシロにクローンシアンが狙いを定める。

肺に息を溜めたシロがその巨体が動くよりも前に回避行動を取ると、シロの思惑通りに、その巨腕がリングの端を押しつぶした。

そしてクローンシアンがもう一度狙いを定めようとした時には、

 

片耳渡(かたみみわた)ッ!」

 

小さな白い影が、2本目の耳をもぎ落としていた。

両方の耳をもがれたクローンシアンはその場に倒れ込み、その姿が明滅し消え去る。同時に消えた赤いリング。

メニューを操作し耳を再生させたシロが問い詰めるべくキドリーの元へ走ろうとすると、行く手を別のクローンシアンが阻んだ。

 

「……っ、邪魔……! こうしてる間にも、また被害者が……! 約束が……!」

「一体追加で〜」

「おお! シロさん倒したんだ! あれ相当強いのに!」

 

シロを排除すべく咆哮を上げるクローンシアン。

その赤いリングがシロを囲い、もう一度バトルが始まる───

 

「そこどいた!!」

「っ……!?」

 

シロの横を通り過ぎた まてら がクローンシアンに近づき、標的となった。

 

「なんっ、なんで……!」

「話は聞かせてもらった……ってやつ! やってみたかったんだよね!」

「そんな……!」

「それに、秘策があんのよぉ、こっちにも! ん゛ん゛っ、いくわよ〜♡ メイクア〜ップ!!

 

その体が膨れ、まてら の全身が一回り大きくなる。

と思えば腕が、足が巨大化し、隆起する肉は黒ずみ獣のそれと化す。

いつのまにやら握られていたステッキから光が溢れ、まてら を次のステップへと進化させた。

やがて光が収まる頃には、そこに佇む黒の物怪(もののけ)

肘からもう一つの腕が生え、守るべき耳は肉塊と牙で覆われている。

 

憤怒(ふんぬ)ァッ!!!!!!!」

 

クローンシアンの腕を避け、もはや化け物に変貌してしまった まてら が右の巨腕を振るう。

大きな手に掴まれた耳は人間が箸でも掴むかの如く。

 

「でっかいやつと戦うならでっかいやつで戦わないとね!」

「まてらさん……!」

「……とにかくここは任せて、行った行った!」

 

顔は肉で歪んでいるので、わからない。

だがシロには、いたずらに成功した少年のような笑みが、確かに見えた。

 

「ありがとうございます!」

「きっしょ……」

「きしょって言ったやつ誰だオラァ!!!!!」

 

赤いリングの横を通り抜け、シロはひた走る。

目指すは、今もクローンシアンを生み出している棺桶を持つ みみのこ。

慌てて逃げ出そうとするその みみのこ の前に立ち、シロは思い切りその手を振るった。

 

「ぎゃふん!!!!」

「次っ、キドリーさん達を止める!」

「うっわこっち来た」

「まず1!」

 

逃げ遅れた緑の みみのこ が、有刺鉄線をばら撒きながらその場に倒れ伏す。

 

「2!」

「負けるかっ」

カウンターッ!」

「速ァッ!?」

「最後、キドリーさん!」

「やべっ」

 

キドリーは手頃なところにいたクローンシアンを操縦しシロの前に立ちはだからせるが、シロの勢いは止まらない。

赤いリングが表示されるよりも。

目の前にUIが表示されるよりも。

クローンシアンが狙いをシロに定めるよりも速く。

 

片耳渡しッ!!」

 

光が、2本の耳を穿つ。

握ったままの両手を、ゆっくりと開くシロ。

 

「確かに速い。速くて強い。シアンさんのクローンってのも納得です。けど───」

 

その手にある両耳が、はらりと舞い散る。

 

「───僕の知るシアンさんは、もっと(はや)かった」

「ばけもの……!」

「化け物はこのギミックですよ、全くもう!」

「ぎゃあ!!!!」

 

開戦から終戦まで、一瞬の出来事であった。

敗北した内通者達がそれぞれメニューを操作すると、クローンシアンの動きが止まる。

赤いリングは消え、戦っていた みみのこ 達は解放された。

 

「いやー……すごいねシロさん。成長が半端ねえや」

「そういうのいいですから、どうしてこんなことをしたんですか」

「どうしてって言われても……ねえ?」

「シロさん強化合宿でクローンシアンをけしかけろって言われて……楽しそうだったし」

「強化合宿……?」

 

これは一つのイベントである。

最新作のギミックを使用し、シロを強くするイベントを突発でしてほしい。告知も一切なし。

それが、彼らの知っていることだった。

そう。

たったこれだけ。

 

「クロが……なにをしたのか、知ってて協力してるんですか」

「…………?」

「(思えばこの(ひと)達は、ちょっと前からバッジ戦に来ることが少なくなった……交代で僕を見てたってことなのかな……。だから知らないのも無理はない……いやそもそも、信じられるわけない……)」

「クロは……荒らしなんですよ……」

「えっ」

【「クロ」がインスタンスに入ってきました】

「……来た……!」

 

FCインスタンスの入り口。

そこに現れた、一耳の黒い みみのこ。

その みみのこ は、ゆっくりとシロに近づき歪んだ笑みを溢した。

 

「どうだ? 強くなったか?」

「ねぇクロちゃん、もうやめようよぉ。なんか聞いてた話と違うよ?」

「は? しゃしゃんなうぜェ」

 

クロが手元で、クロにしか見えない何かをいじる。

すると、その場で動きを止めていたクローンシアンが突如として動き出し、その標的をキドリー達に定めた。

赤いリングが、逃げることを許さない。

 

「なん、なんでっ……い、言うこと聞け! どうした!」

「バカか。俺が開発者だぞ。なにより優先されるのは当たり前だろうが」

「「「「ウワァーッ!?!?!?」」」」

 

クローンシアンにもがれた みみのこ 達が、その姿を消す。

おそらくVRCが、落ちた。

 

「そんな……ッ!!」

「さて、うるさいのは消えたな」

「その荒らし行為、やめてよ!」

「うざ。荒らしっていうのやめろっつったよな。……どうだ? 少しは強くなったか? 練習できたか?」

「……あれなに。シュミ悪いんだけど」

「クローンか? ほら、最近開発中ってそこに置いてあるサンプルのギミック使ったんだよ。強制バトルシステム、か?」

「……外部にあれを持ち出したってこと?」

「クローンのAIはシアンの動きのデータ使ったんだよ、よくできてるだろ? 居合〜だったか?」

「データ……って、どうやって……」

「まァ、画面見てただけだなァ」

「画面? ……っ、もしかして!」

 

愉悦。

顔いっぱいに愉悦の笑みを浮かべ、クロは口を開く。

 

「PC監視してただけだ。アイツの動きのアーカイブを取って……あとは、お前が討伐を成功するかの監視もしてたな」

「プライバシーのかけらもない……! 良い加減にして、クロ!」

「…………ァ?」

「君、本っ当に荒らしだ! 荒らしどころか犯罪者だ! テロリスト!」

「うざ……」

「君がまだVRCができているのは、FCのみんなが優しいからだってこと、一つもわかってない!」

「……シロてめェ、何様のつもりで……!」

「うるさいなぁ!!!!」

 

何度も何度も溜めてきた鬱憤が、ついに火を吹く。

すでに緒が切れている堪忍袋から()()()()()()()()が次々と出てくる。

 

「だいたい君さ、自分のこと魔王って言ってたけど絶対違うからね!」

「はァ? お前知ってんだろうが、俺がどこにいても魔王の役割にいたことをよ!」

「だーかーら! FCじゃ違うって言ってんの! 君は魔王じゃない!」

 

シロの襟元にある金のバッジが煌めく。

たった一瞬、少し反射で光っただけ。

だがその輝きは、インスタンス内にいたすべての みみのこ を貫いた。

 

「僕が魔王だ!」

「はァ……?」

「君が勇者しなよ! 僕が魔王だから! いい? 君は知らないだろうけど、このFCで簡単に『王』名乗れると思わないほうがいいよ! たとえそれが魔王であっても!」

 

様子を伺っていた灰色の みみのこ の耳が、ぴくりと動いた。

 

「言わせておけば……! ああもういい! 全部どうでもよくなった! 一生そこで仲良しやってろ!」

「あ、逃げるんだ」

 

踵を返そうとしたクロに、シロが声を投げる。

放物線を描いた煽りはクロの耳に的確に届き、クロは動きを止める。

 

「…………ンだと?」

「僕に勝てないから逃げるんでしょ? そうだね、不利になったら逃げられるのがVRCの強みだもんね! 対話拒否ってやつ?」

「殺すぞ……!」

「君は知らないだろうけど、FCじゃ殺すって言葉は厳禁なんだよ! そんなんも知らないで魔王とか言ってたの? 恥ずかしいねー!」

「テメェ良い加減にしとけよシャイロ!」

 

その名は、FCに強く響いた。

 

「シャイロ……?」「アレ……シャイロって読むの……?」「でも、本人はシロって……」

「………………」

 

偽っていた名が、広まっていく。

 

「なんだ? お前まだ言ってなかったのか? ンじゃ俺が代わりに言ってやる! お前がココに来た理由も、お前の名前も、全部偽物だって───」

「クロ」

 

視線が背中に突き刺さる。

 

「確かに、シャイロはずっと君に会うために戦ってた。シャイロがいなければ、巻き込まれることもなく、みんな平和に過ごせていたと思う。だけどね、クロ」

 

だが、恐れない。

 

「君の前にいるのは、君の知るShiloh(シャイロ)じゃない」

 

みみのこバトルは、メンタルスポーツ。

精神の安定と、相手への威圧のため、戦闘前に啖呵を切る者も少なくない。

深く息を吸い込み、シロは高らかに言い放つ。

 

「僕はShiloh(シロ)だ! ()()()()()()()()()()()()()()だ!」

「…………ッ!」

「一週間後、夜の22時! 地下闘技場で君を待つ!」

「はァ……!?」

「だから!! 今日は帰れ!!」

「何勝手に───」

「帰れ!!!!」

「……後悔すんなよ! ぶっ殺してやる!」

 

そしてクロは、オフラインになった。

数にして被害者は10耳ほど。内通者であるキドリー達を含めてもその数であった。

その10耳ほどが、またもやPCVRが出来なくなっている。

約束を守れなかったことを悔やみつつも、先ほどまでクロがいたところをじっと見つめていたシロは───。

 

「どどどどうしましょう、言っちゃった……!!!!」

「「「「えええ〜〜〜…………!?」」」」

 

震え、全身に汗をかいていた。

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