みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。
実在の人物及び団体とは一切関係ありません。


シン理を知らない

 

「どどどどうしましょう、言っちゃった……!!!!」

「「「「えええ〜〜〜…………!?」」」」

 

嵐が過ぎ去りその場に崩れ落ちるのは、先ほど己を魔王と称した白い みみのこ。

あまりに小さくか弱いその姿に、強敵(クロ)相手に啖呵を切っていた時の威圧感や心強さは一切なく、涙目で震えていた。

その光景にインスタンス内にいた みみのこ 達はつい気が抜けてしまうが、事態は一刻を争う。

 

「なんだぁ、めっちゃカッコよかったのに」

「頼むよ、一週間後って言ってたよね?」

 

一週間後、夜の22時。

シロはクロに、全ての決着をつけると宣言した。

クロは法外にして理外の存在。クロが みみのこバトル という土俵で戦っているのはシロという存在が引き留めているだけで、クロがシロに興味を無くした瞬間、全ては終わりを迎える。

もし一週間後の決戦でシロが敗北した場合、今度こそクロはシロを見なくなるだろう。一度目の反抗、二度目の挑発。三度目があるとして、クロがそれに乗るとは限らない。

つまり。

 

「一週間後に……ぜんぶ、決まる」

「…………」

 

誰かが言ったその言葉。

それは鋭くも鈍く、シロの深い所へゆっくりと突き刺さった。

 

「みなさん、正直にお願いします」

「「「「…………?」」」」

「僕は、クロに勝てると思いますか……?」

 

帰ってくるのは、沈黙であった。

無論、シロが勝つと信じている。勝ってもらわねば困る。シロの強さは、襟に輝く金のバッジが語っている。

だが。

同時に勝利が難しいということもまた、本能で理解していた。

 

みみのこバトルの経験を重ねた者だからこそわかる。

死角の無さ、隙の無さ。トーナメント決勝でのソウエンを前にしているのと同じような、臓腑から震える威圧感。最も、ソウエンと対峙した時に湧き上がるのは恐怖ではなく高揚であるが。

もし自身が相対した時、勝てるビジョンが見当たらない。それを理解できるからこそ、喉から声が出てこないのだった。

 

だがもし。シロならあるいは。

一縷の望みは、その白い みみのこ に。()()()()()()()()()な、小さな背中にかかっている。

 

「勝てないのなら」

 

その声は、八重桜だった。

 

「勝てるように、特訓すれば良いんですよ」

「…………!」

「そうそう。これだけ耳数(にんずう)がいるんだし、特訓の相手には事欠かないから」

「んね。いつでも相手になる、ぜ……!」

「残りの七日間で、シロさんをクロさんに勝てるように強くする。いいね?」

 

腕を組み、ソウエンがにやりと笑う。

シロはその笑みに、頷きで答えた。

 

「よしっ、じゃあまず作戦会議だ」

 

クロという実力が未知数な存在に対抗するため、何が必要なのか。逆に、何が足りていないのか。シロという みみのこ を分析するための会議が、始まった。

 

片耳渡(かたみみわた)ッ!!」

「ぎゃふんッ」

「う〜ん」

「やっぱりメイン技は『片耳渡し』になるのかな?」

「でもさぁ、シロさんの話を聞くに、回避もうまそうじゃん? 片耳もがせて両耳もぐっていう短期決戦が通じるかなぁ」

 

シロの強み。

それは反応速度、もぎの精度、ともに『超集中』で調整が可能なことである。

クロの『超集中』と違い思考速度の加速に身体がついていかないのだが、逆手に取ればそれはゆっくりと調整ができるということ。懸念点として、『超集中』───シロの領域(ゾーン)に、同じく『超集中』を持つクロは割り込めるというものがあるが、それはシロは打ち明けなかった。

 

『片耳渡し』はシロのメインウェポン。

相手の両耳に手を伸ばすと同時に首を傾け、被害を一本に軽減。最後に立っていた者が勝者であるFCにおいて、攻守ともに優れた技である。

『秘伝・片耳渡し』はその原点となったもの。本質は『カウンター』に近く、自身の耳を一本もがせ、もがれたことを確認してから隙だらけの相手に攻撃を叩き込むというもの。再生アリ戦にめっぽう強く、まてら から教わった技でもある。耳がもがれた痛みをも再現する『極耳(きわみ)』と相性が良い。

 

同じくシロのメイン火力である『カウンター』。

強みは、一度注意を逸らした相手のもぎを完全に避け、反撃に出られること。原理こそ『片耳渡し』と同じだが、そこに『不動』を加え、ワンテンポずらして居合を放つという原理であるため、相手の注意がシロから逸らされなければ成功率は低い。

だが、一度でも注意を逸らしてしまえば。

一撃必死を問答無用で叩き込める、正真正銘シロの奥義である。

 

絶対勘覚(ぜったいかんかく)』。

相手との距離を見定め、()()()()()()()を見つけ出すことによって相手のもぎを回避……否、不発にする技。

初見の技に弱く、また急制動であるため連発するとスタミナの消費が激しい。

 

空の撃(フリーフォール)』及び『天の撃(フリー・フォー・オール)』。

ボタンジャンプによる強制的な間合いからの脱却と、落下時にその間合い外から、上から下方向へ攻撃ができるのが強み。『天の撃(フリー・フォー・オール)』は、『空の撃(フリーフォール)』を連続して行うものである。

弱点は連発するとタネが割れ、下から掴みを連打してしまえば簡単に対処されてしまうこと。また、思考の加速により時間の流れを遅く感じさせる『超集中』相手には無意味なこと。

 

「やっぱりシロさんって、一撃で仕留める居合技が多いよね」

「回避技が足りてないのかな」

「う〜ん、でもシロさんの話だと、アイツ反射神経バケモノなんでしょ? 付け焼き刃の回避が刺さるかなぁ……?」

「そうか……」

 

初見殺し。

そう表現するのが相応しい技のラインナップに、全員が頭を悩ませる。

 

「いまさら技の種類を増やすよりも、既存の技を強化する方向はどうですか?」

「……というと?」

「シロさん。シロさんが思う、一番の技って何ですか? 必殺技みたいな」

「やっぱり……『カウンター』でしょうか。思い入れがあるだけかもしれませんが、1番成功する気がします」

「ふむ……それって、どうやってます?」

 

八重桜の問いに、シロは体で流れを説明する。

 

『回避』と『不動』からなる『絶対勘覚(ぜったいかんかく)』により、相手との距離、耳の位置を完全に把握。もぎにかかるような動きを見せ、相手に避けるか迎え打つかの二択を迫る。その時点でシロ本体よりも対処の方に注意が行っていればシロの術中。

ワンテンポ送らせて相手のもぎを避ける、もしくは回避した相手の耳へ狙いを定め、『居合』と『回避』の合わせ技である『片耳渡し』を放つ。

故に、『居合』(プラス)『回避』(プラス)『不動』。

 

「…………ほぉ?」

「がっしり構えて止まる『不動』で『回避』。そのまま『居合』。というのが『カウンター』です」

「んん……? シロさん、ちょっと待ってくださいね」

 

八重桜がシロ以外の みみのこ を集める。

急に仲間外れにされたシロは手持ち無沙汰になり、再生と不死をアリにして自分の耳をすぽすぽと抜き始めた。

 

「(……再生……セソンさんとの戦い、楽しかったな)」

 

シロはすでに、『極耳』が身体に馴染んでしまっている。

最初はオンオフ可能であったV感は既に定着し、常にシロの肌に熱や風を感じさせている。意識してできるのはオンの方ではなく、オフの方になっていた。

一方で耳をもぐことによる痛みは既に若干麻痺し始めており、自分でもぐだけなら、違和感がある程度まで痛覚が鈍っている。他人からもがれるとまだ鋭い痛みが走るが。

 

「結論、出ました」

「いやー、盲点だったね。シロさん、既に知ってるものだとばかり」

「…………?」

 

八重桜が腕を組んだまま人差し指をぴんと立て、シロの視線を誘導する。

 

「シロさん、アンタに教えにゃならないことが、まだ一つあった」

「…………?」

「シロさん、アンタの『カウンター』、まだ強くなれるぜ」

 

勿体ぶる八重桜に首を傾げるシロ。

『居合』に『回避』、そして『不動』。取り込めるものは全て取り込んだ、シロの奥義。それがまだ強くなれるとは、どういう理屈か。

 

「シロさんがまだ知らないであろうもの。それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『不動・シン』です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふどう…………シン………………?」

「シロさんの『不動』はまだ、そのシンの意味に辿り着いていない」

「シンの意味?」

「それを今から教えるんですよ」

 

シン。

真、新、神。不動身とも、不動深とも。

そのシン意まで理解の及ばないシロは、聞き慣れないそれがどういう意味なのか、言葉を待つしかない。

 

「まず、シロさんはかなり……回避系の技に四苦八苦している印象があります。『ダッキング』とか」

「技の系統も居合系が多いしね」

 

確かに。シロは己を振り返る。

ソウエンやクロの『ダッキング』に対し、『超集中』を込みにしても、シロが追いついたことは無い。あっても運や勘で向き方向が当たっただけである。

この場合、対処法としてもっとも重宝しているのが『極耳』である。風や視線、振動など、本来ならバーチャル空間に存在しないものまで感じ取るシロのV感は、相手を見失った時に大体の位置を割り出す時に使われていた。

だがそれは、相手がシロの前から姿を消すのに成功した時の対処法。まんまと見失っているようでは隙だらけ。そもそも、『極耳』から来る情報も言ってしまえばシロの作り出した幻覚。負けが許されないこの状況、それだけに頼るのは危険である。

 

「だから、四苦八苦しないようにすればいいんですよ」

「その『不動・シン』なら、それができる……?」

「習得は一朝一夕じゃできないですが」

「ま、今のシロさんには七朝(ななちょう)七夕(ななせき)ある。今からでも俺で訓練してみる?」

「は、はいっ……!」

 

出現するトナメ足場。ひらりと赤の柱に飛び乗ったソウエンの前に、シロが構える。

訓練とはいえ、久しぶりに感じる至近距離の圧力。シロの喉がごくりと鳴った。

 

「今からやること自体は『不動』の時と同じ。落ち着いて、無理に追おうとせずによく見ること」

「……良く、見る……」

「実践形式がわかりやすいかな。だれか、レフェリーを」

「あ、じゃあ私がやろうか」

「お願いします、銀貨さん」

「ぅぃ〜」

 

銀貨の声が響くと同時に。

シロを強くするための特訓が、始まったのだった。

 

ダッキング

「(初手からダッキング! ということは、後ろ……!)」

「ちがう」

「……!? いない!? あっ、痛っ」

「ソウエンさんの勝ち〜」

「落ち着いて、冷静に対処する。追っちゃだめだよ」

 

『不動』。動かず構え、相手の回避先を読み先に手を打つ。

既に『カウンター』を始めとする技に『不動』を混ぜ込んでしまっているシロの癖は、そう簡単には抜けなかった。

 

散椿(ちりつばき)、からの楓鈴(ふうりん)っ」

「(回った……!?)」

「隙だらけですよ」

「痛っ!?」

「勝者、八重桜〜」

 

最もシロが苦戦したのが、『極耳』である。

『極耳』は熱や視線、振動で相手の位置を予測するもの。シロにしか使えない、ズルとも呼べるものである。

『不動・シン』の習得のためには、『極耳』を意識的にオフにする必要がある。二つの用途に脳のリソースを割かれ、シロの精神はいつもよりも早くすり減って行った。

 

「ふぅ…………」

「うーん。なかなかうまくいかないねぇ」

「冷静な対処……『不動』……落ち着いて……はぁ……」

「『不動・シン』にとって大切なのは落ち着くこと。落ち着いて、ちゃんと見る」

「……はい……」

 

言葉は、シロの中で何度も繰り返されている。

だがイマイチ一つ、掴めない。

『不動』は動かず、見定めること。そこに落ち着きを加えたところで、相手を追う以上必ず体に動きは出てしまう。

 

「……あの、八重桜さん」

「はい?」

「以前、『不動』について教わった時……『居合』に『不動』を混ぜるとまた違う動きになるとか仰ってましたよね。あれがどうも理解ができないというか……『不動』って、動かない特性上、他の『居合』や『回避』と相反すると思うんです。『不動』を他の『型』と一緒に使うなんて、できるんですか?」

「うんうん、いい質問です。もちろん『不動』は他の型と混ぜ合わせて使えます。『回避』とだって」

「矛盾、していませんか? 動かず、避ける……」

 

二つの『型』を組み合わせた『絶対勘覚』は、シロなりの解釈であった。

『不動』を使いつつ『回避』。それを『超集中』で補助。

だがこれは『居合』と『回避』の両方を同時に扱う『片耳渡し』に比べ、どちらかというと順番的に行使している。

混合型というには、しっくりこないのであった。

 

「……そうですね。一見、矛盾しているように見えます。ですがそれらは、()()()()()()()()()()()()()。なぜだかわかりますか?」

「…………?」

「それは、『居合』や『回避』と混ぜ合わせられているのは『不動・シン』の方だからです。熟練の みみのこ なら、みんな使って……使っていなくとも、聞いたことは必ずあると思います」

「うーん……」

 

シロは俯き、必死に考えた。『不動』は独立しているが、『不動・シン』は他と混ぜ合わせることができる。

その差は何か。その正体は何か。

 

「……ダメです、糸口が掴めません……」

「糸口、ですか……。あ、そうだシロさん、さっき化け物と戦ってた時あったじゃないですか」

「……? あ、はい。さっきの」

 

クローンシアン。

赤いリングで強制的にバトルに持ち込み、倒した相手のVRCを落とす機能までついた、文字通りの化け物ギミック。

 

「あの時、シロさんは『不動・シン』を使えていたのでは?」

「え……?」

「ほら、『カウンター』を使っていた時の」

「えっと、えっと……」

 

 

 

───「って待って、シロさん後ろ!」

「……ッ!! カウンターッ!!!!」───

 

 

 

「シロさんの『カウンター』は、相手の注意がシロさんから逸れなければ、成功率が低いはずでは?」

「…………!!」

「落ち着いて状況を判断。相手の狙いを感じとり、技の行使。あの時のシロさんは、『不動・シン』を扱えていたように感じます。きっとそこに、カギとなる何かがあるはずです」

「…………」

 

時刻は既に24時を回っている。

残り、6日。

こうしている間にも、残された時間は少なくなっていく。

 

「……もうすこし、やりますか?」

「はい!」

「も゛う゛い゛っ゛か゛い゛?」

「……ぎんちゃんは休んでいいよ……」

「ぅ゛ぃ゛」

「ふぅ……いきましょうか!」

 

みみのこFCは現状、回避勢と呼ばれる者が少ない。

シロ自身がそうであったように、手っ取り早く単純な『居合』は、多くの者に好まれている。

加えて『回避』は身体の動きも大きい。体力の消耗も激しく、使い手は少ない。

ソウエンは既にインスタンスを去り、まばらにいた みみのこ 達も場所を移動した。

特訓に付き合っていた八重桜も息を荒くしており、最初の頃に比べキレも落ちていた。

 

「(早めに習得しないと、FCのみんなに迷惑がかかる……)」

 

その思いとは裏腹に、非情にも時は進む。

決戦の日が、迫り来る。

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