みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

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この物語はフィクションです。
実在の人物及び団体とは一切関係ありません。


技と型

 

(わざ)

一般的には、武道などで使われる一定の動作の事を指す。

ボクシングで言えば、ジャブやストレート、ヘッドスリップ。剣道なら、突きや払い、各部位に合わせた『打ち』などがそれに入る。

『居合』や『回避』などの()とは違い、それぞれがそれぞれの型の動きを詰めつつ、技を生み出している。

それもこれも、バッジ取得のために。

 

「こんにちは……って、人が少ない……?」

 

いつものように地下闘技場にやってきたシロは、閑散としたインスタンスに目を丸くした。

QVペンで入り口のそばに書かれた、『コソ練インスタンス』の文字。

レフェリーの姿も無く、いつものような賑わいは感じられない。

 

「(今日がいわゆる、『お休み』の日か)」

 

みみのこファイトクラブは、週5で開かれている。とは、既出の情報であるが。

それはつまり、1週間の内2日は開かれない日があるということである。

昨日が全員が魂を込めて挑んだ銀バッジ戦だったからか、本日はほとんどの みみのこ がそれぞれのフレンドと chill……しているようだった。

だから、フレンドだっているのにわざわざグループ+でインスタンスを建て1耳(ひとり)で公式戦の対策を練るような者は、

 

「んお、シロ……さん? こんばんは」

 

この みみのこ のような、異常者しかいないのである。

虹色に輝くQVペンを片手に空中に文字を書き連ねる みみのこ はシロの存在に気がつき間抜けで素っ頓狂な声を上げて近づいてきた。

 

「今は何をされてるんです?」

「コソ練ですね。自分クソ雑魚なんでみんなより研究をしないと勝てないんです」

「……あそこに書いてある文字は?」

「アレはRedさんが何故強いかを書き出して、その理由と構えのクセから対抗策を編み出そうと書いてるやつっすね」

 

シロが指差した先には、粗雑に描かれた赤いリボン(実際には全て虹色のペンで描かれているのでリボンの特徴だけではシアンと見分けはつかないが)の みみのこ と、その隣にびっしりと書かれた文字列が浮かんでいた。

 

居合→正確さで言えばトップクラス→だからほとんど一撃で終わる→避けられた時に二の矢に対応することができない←よける経験不足?

半身を前に出すやつ→横とびで合わせて取る←不安定

 

「みんな、身体に染みついた動きで本能的に理解してはいるんですが、こうやって文字や絵に現さないと見えないものもあるんじゃないかと思いまして」

「(確かにRedさんは速い。ただ速いだけだと思っていたけど、Redさんなりに工夫があってあの速さを出していたんだ……)」

「Redさんは相手の『回避』よりも速く動いてもぎ取る事を優先して動いてるから、下手な回避は通用しないんだよなー」

「では、『居合』で相打ちしてスタミナ切れ狙いを?」

「それも考えたんすけどね。あの人、前にイベント大会で20回以上……確か27回だっけ? 鍔迫り合いしたことあるから体力面も化け物で……」

「……それ対抗策あるんですか?」

「ナイカモ……」

「というか、Redさんと27回鍔迫り合いするその相手も化け物では?」

 

肩を落としてため息をつくみみのこの姿を見て、シロは思いついた。

この人なら、5強の強さの理由やクセを知っているのかもしれない。もし知らなくても、何か自分が強くなるのに必要な要素を教えてくれるかもしれない。

 

「あの」

「あ、はい」

「みみのこバトル、しましょう」

「……いま?」

「今」

「はい……」

 

QVペンを置き、その みみのこ は黒い足場の上に乗る。

乗ったのを見届けてから、シロはカメラを取り出し空中へ浮かせた。

そのカメラを目で追った相手の みみのこ はふぅと一息ついてシロをじっと見つめた。

 

「……ま、若干? 自分側が低いですけどエキシビションなんで……」

「ありがとうございます。それでは5秒開始します」

 

シロが右手を動かし、5秒タイマーをセット。

その音が聞こえたと同時に、相手の みみのこ はシロの目の前で深く腰を落とした。

 

「(昨日の動きを思い出せ)」

 

昨日の、鬼の みみのこ の一撃を避けた動き。

大きく体を動かし、相手の背後へ回り込む。

 

「(回避回避回避……!)」

 

パシャリ。

 

「(『回避』ッ!)」

「よし勝った。押忍」

「っぁ……!?」

 

何が起こった。なんで避けられなかった。

シロの中で様々な思考が行き交うが、それよりも先に真っ先に飛び出た言葉があった。

 

「今のは、一体……?」

「これは(しゅん)……いや、教えるなら自分より適任がいるか。まぁ、なんというか。技の一種みたいな?」

「技? 『居合』や『回避』ではなく?」

「それは()……。構え、の合図の時に居合をするか回避をするかを決め、そしてその動きに最も適した構えが『型』です。型は居合で、技は……といった具合に」

「つまり、『居合』の中にも様々な技があると?」

「ですね。型はほとんどが共通ですが、技は千差万別。足運び一つで勝敗が決まります」

 

自分に合ったスタイルを、という青髪で褐色肌のみみのこの言葉を思い出すシロ。

自分に合うスタイルとは、型とはなんなのか。居合か、回避か。そしてそこに技があるのなら、得意とする技はなんなのか。

シロは饒舌に型と技を語るみみのこの話を遮り、自身が鬼のマスクをしたみみのこに倒された事を伝えた。

眉が八の字に歪められ口角が下がった。

 

「うげー……。ミタマさんはなぁー……」

「対抗策、ありませんか?」

「うん無理! 勝てねえもん俺!」

「そ、そんなハッキリ……!?」

「実際、みみのこバトルって割とメンタル重要なんですよね。相手に苦手意識があるだけで勝率がすんげー下がる」

「なるほど……」

「強いみみのこの事を知り尽くせば対抗は打てる。けど、調べれば調べるほど自分が苦手なスタイルであることがわかって……という負のジレンマが」

 

何かを思い出したのか、苦虫を噛み潰したような顔で「ミタマさんだけはいやだー……」と呟くみみのこ。

シロは頭を抱えた。ここで行き止まりに当たってしまっては金バッジ戦に間に合わない。トーナメントでミタマに当たれば、確実に負ける。

対抗策じゃなくても何か技を覚えたいと、シロは奥歯を噛んだ。

 

「……なにか焦ってます?」

「!!」

「なんとなくですが気持ちはわかりますよ。負けが続くと、なんとなく不安になりますよね」

「……はい」

「それが、全力で挑んでいるなら尚更」

「…………」

「話を聞くに……ミタマさんと戦って、初撃は避けられていたみたいじゃないですか。でしたらそれを突き詰めれば良いのでは?」

「どう、やって?」

「実は、こういうものがあるんです」

 

シロの目の前で、その動きをやって見せるみみのこ。

それは確かに、先日のシロがしていた動き。そしてその延長線上にある、到達点の一つ。

 

「俺はこういう技があるよってことを教えるだけにします。あなたにコレを教えるのは、他の人たちで()()()()()()

「…………?」

「だから、この動きを取得したいなら……自己練習と、他の人たちに聞いてまわりましょう。そうして、成長していってください」

 

この みみのこ は、シロの何を見ているのか。

含みを持たせたまま、手元のランチパッドを操作するみみのこ。

 

「では、俺はこれでお先に失礼します。習得、頑張ってくださいね」

「待っ、名前を……」

 

言い切る前に、みみのこは消えた。

シロは一耳(ひとり)になった地下闘技場に座り込み、己の掌を見つめる。

自分に足りないものはなんだろう。居合(速さ)か、回避(スタミナ)か。それともなにか、もっと根本から、基礎から違うのか。

 

「(型……)」

 

普段よく取っている、左半身を前にした『居合』の構え。

右足を踏み込み、一歩踏み出し、相手の耳に手を伸ばす。

やはり、遅い。

身体の動きから何かが違ったような気がする。だが、それが何かはわからない。シロは大きくため息をついた。

 

───何か焦ってます?

 

確かに焦っている。

今のシロの目標は金バッジを取ること。金バッジを取り、5強のみみのこを倒すこと。それが、ここまで難しいことだとは。

 

「(君は……どうしてこんなことを……)」

 

もしかしたら、自身と離れるために体よく無理難題を押し付けたのではないか。シロの頭の中で悪い想像が回り始めた。

そもそも、金バッジを取った証拠はどこにあるの? 5強を倒したって、自己申告なの?

わからない。

 

「……わかんないよ……」

 

シロにとっては、かけがえのないフレンドであった。

共にvisitorから始まりJPTで知り合って、初めてフレンド申請をしたあの日から。

ずっと、ずっと一緒だった。

ワールドを巡り、さまざまな旅をして、寝食を共にした。色褪せてしまったとしても忘れることのない、大切な思い出であった。

 

「何かあるなら話してくれよ、もう……」

 

悲しかった。嫌われたのかと思った。何かあったのかと心配した。

送られてきたDMの内容に目を疑った。

何を送っても返信はなく、ただそこにあるのは渡された一体のアバターと一行のメッセージのみ。

 

「(……僕を引っ張り続けていた君が、初めて僕に何かを要求した)」

 

だから、応えたい。

 

「(君が僕に求めたものの先にあるのが、なんなのか)」

 

だから、気になる。

 

「(厄介なやつとフレンドになっちゃったなぁ)」

 

パン、と頬を叩いて立ち上がるシロ。

今できる事を全力でするだけ。今度会ったら引っ叩いてやろう。そう決心し、シロは前を向いた。

 

「……お? シロさんじゃん、どしたの今日休みよ───ってなになにどうしたのなんでこっち来てんのオ゛ホ゛ォ゛ォ゛ォ゛ン゛!?♡」

「すみません、お時間ください!」

「急にもがれたァ……」

「ちょっと、教えて欲しい技がありまして!!」

 

 

 

 

『はーい、今日はおれがレフェリーしますよー。参加するやつは集まれー』

「「「「わ〜!!!!」」」」

 

どたどたと中央に集まる耳共に、満足そうに頷くレフェリー。

頭に花冠をつけニットの上着をレイヤードにしているレフェリーのみみのこは、舞台装置周りに集まる小さくか弱い耳共を上から見下ろしてにんまりと笑った。

 

『まずはバトロワから始まるけど初耳の人ー』

「「「は〜い!!」」」

『いま初耳って嘘ついたやつは権限で全員banします』

「「「…………」」」

『よろしい。じゃあ初耳は……いないね? じゃあちょっと待つので、片耳の人がいたら声かけてあげてくださーい』

 

とん、とん、と靴のつま先を鳴らし、シロは準備運動を始める。

首を回し、肩をほぐし、深呼吸をする。

本日は銅バッジ戦。いわゆる、()()()()である。

 

「シロ、片耳だよ」

「あ、どうもソウエンさん。……これで生えましたか?」

「生えた生えた」

「シロさん片耳だな」

「ええ? ……これでどうですか、シアンさん」

「おっけー」

「───……」

「……まだ片耳ですか!? はい、どうでしょうミタマさん」

「───……!」

 

親指を立てたミタマが帰っていったのを見て、シロはふうと一息ついた。

もういっそのこと、一度再生するようにしたまま みみのこ の元を走り回って読み込ませた方が良いレベルであった。

初っ端からつまづきそうになり、縁起が悪いなぁと口をもにょもにょさせるシロの肩を叩く者が。

 

「うい、シロさん」

「まさか、また片耳ですか!?」

「ん、いや、大丈夫。生えてるよ」

「ああ、良かった……」

「それでどう? あの技、できそう?」

 

教えてもらってから何回も練習し、体に叩き込んだ技の動き。

今のシロにできる全てを注ぎ込んだ技は、夜が明けるころにようやく形になった。何度もヘッドセットを充電したものである。

今、目の前にいる青髪褐色のみみのこが就寝した後も、一人で仮想敵を前に動きを練習していた。

その結果として何を得たのか。シロは今日、確かめようとしていた。

 

「はい、なんとか───」

「あの技って?」

「うおっ!? そ、ソウエンさん」

「なに、技ってなんなの」

「昨日練習したんです。トーナメントで使う、とある技を」

「秘密?」

「で、できれば」

「ふぅん? ま、楽しみにしてる」

 

プレッシャーやば〜〜〜〜〜〜。

シロは早まる心臓を抑えきれなかった。

 

「(しかしまぁ、本当に気づかないな……。あの背後をとる技術、あれも何かの技なのかな)」

『みんな準備いいね? ガラス消すよ?』

「(危ない。集中しないと)」

『それじゃあ行きます。3、2、1……バトロワ、スタート!』

 

走り始めるみみのこに合わせ、シロは他みみのこの背中を追うように走り出した。

昨日の技のノウハウを活かすのならば、まずはとにかく生き残ることが大切。今この場で走っている限りは技を活かす場面はなく、まずは目立った事をせずに周囲に溶け込むのが得策であった。

そうすれば、周りのみみのこも落下するなり、もがれるなりで数が減る。

数が減れば、レフェリーがそれを判断し。

 

『それじゃか青の足場を消しまーす。3、2、1……』

「(ここだ……!)」

 

青の足場が消え、足場が狭くなる。

その瞬間現れた黄色の柱。強制的に一対一に持ち込めるが、少しのコントロールミスで落下してしまう諸刃の剣の場所。

そこに真っ先に飛び乗ったシロは両手を軽く構え、居合の構えを取った。

 

『孤島にはシロさんだ! もげ! もぎにいけ!』

「よぉーし!」

「(来る……!)」

 

シロに狙いを定めた青いニットを着たみみのこ。

毎回柱の上に陣取り北海道の漁師から伝わる伝統的な踊りを踊っているみみのこが助走をつけるのを見てから、深く腰を落とす。

 

シロの口から息が漏れ、意識が研ぎ澄まされていく。

 

逃げ惑うみみのこの声が、観戦者の声が膨らみ、ゆっくりと脳に響く。

 

『さぁ、飛んだ!』

「(『居合』………………)」

 

青いみみのこが、黄色い足場にたどり着いた。

 

シロの耳へ、手を伸ばす。

 

シロはその手をじっと見つめ、そしてその手を認識する前に。

 

「(…………(プラス)『回避』!!!!)」

 

既に、体を動かしていた。

 

居合をする時の踏み込みで大きく体を屈め、その反動で飛び上がるシロ。

 

距離を目測。手を伸ばし、そして掴む。

 

「……ウソでしょ!?」

『マジ!? 返り討ちだ!!!!』

「……よし!!」

『島! 島行けみんな! シロさん全員で落とせ!』

「(集中しろ……!)」

 

腹の奥から空気を押し出し、再度意識を沈めるシロ。

ズキズキと脳の奥が痛みだすが、それすらも感知させないほど神経を鈍らせる。

代わりに、更なる深みへ。

 

「おーっ、シロさんやるねえ! ワシも行っちゃお」

「(『居合』+『回避』……!)」

 

何も。

何も考えず、ただ動きを繰り返す。

やってくるみみのこを返り討ちにする。

ただ、それだけ。

 

「あっぶな!?」

「(片方、偽耳!!)」

 

振り払った右手に、相手の耳は握られていない。

代わりに自身の耳がその褐色の手に握られていた。

 

「くっ……! おりゃっ……!」

「(もう一度……!)」

 

────────────ッ

 

「あがっ!?!?!?」

 

緩慢に動く視界が明滅する。

世界は急速に『動き』を取り戻し、シロの周囲の騒がしさが増す。

伸ばした手は定めた狙いへは届かず、そうして見失ったことに気づいた頃には。

 

「あっ……!」

「あっぶねー……。でも、うん! 良い動きだったよ!」

「と、トーナメントでは必ず……!」

 

チカチカと眩む視界で、シロは柱から降り、もう動かない手を伸ばした。

 

「(通用は、した)」

 

少しでも練習した甲斐はあった。

銅バッジを掴むことはできなくとも、手を伸ばす権利だけは得た。

これが自身のプレイスタイルなのだと、知ることができた。

 

「ぁぇ……?」

「ん? シロさんどした?」

 

唇に、何か液体が付いている。

親指で拭ってヘッドセットの隙間から覗くと、そこについていたのは。

 

「ああすみません、鼻血が」

「「「鼻血が!?」」」




みみのこユーザーの『yakumo_5648』さんに、スカジャンで鬼のマスクをしていて血を固めた琥珀のような瞳を持つみみのこの名前を付けていただきました。
ミタマさん/ちゃん/くん です。
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