みみのこ・ファイト・クラブ   作:アキ

9 / 43
この物語はフィクションです。
実在する人物及び団体とは一切関係ありません。


研ぎ澄ませたその心、誰よりも鋭く

 

日が沈み、夜の帳が下りきった頃。

開かれたインスタンスに、か弱い命を宿す小さな生命体が集まっていた。

今日も。もしくは、今日こそは。

己が勝つのだと、拳を握りながら。

 

『銅バッジ戦やるぞー!!!!』

「おー!!!!」

 

トントン、とつま先で床を叩くシロは、周りの熱を浴びながら、一耳(ひとり)ちょうどサンプルの辺りで、腕や足を伸ばして柔軟をしていた。

特に秘策というものもない。が、今のシロには、なぜか『今日なら勝てる』という謎の自信とやる気が満ち溢れていた。

充分な睡眠や、何かの弾みによるストレスからの解放……もしくは、食事か、その他の何がしか。

それらシロの調(・)子(・)を構成する何かが天文学的確率で交わった時、自分でも信じられない力を発揮できる。

 

つまり、数分後には。

 

『シロ強い! 今日のシロさんは強い!』

「なん……嘘だろ……!?」

 

シロ、黄色の孤島にて脅威の6キル達成。

意識的に自身の集中力を高め限界を超える超集中とは違い、今のシロは言ってしまえば、ほぼ常時ゾーン状態。

世界がゆっくり見えるわけでもなく、かと言ってシロが急激に成長しスピードを手に入れたわけではない。

ただ等速で、反射神経と並外れた正確さによって、やってくる みみのこ 達を片端からもぎ倒していただけであった。

 

「なんだあの耳やべえぞ!」

「おいお前行けって!」

「いや無理だろどうすんだよあんなの!」

 

いつの日だったか。シロがみみのこFCへ来る前にも、同じような事が起こったのだとか。

眼前に構えた二つの手は常に足場の中心へ構えられており、じっと周囲を見つめる目に焦燥の感情は無く、ただ敵が襲いかかるのを待つばかり。

 

『緑の足場が消えます! 3、2、1……はい消えました!』

「こ、こうなったらもう……!」

 

オレンジの孤島の解放に反応して、耳達の中から一耳、煙を纏うように勢いよく飛び出してくるみみのこがいた。

ドレスで身を包み、白い髪を後ろで二つに結んだ白い眼帯のみみのこである。

その みみのこ は、回避には自信があった。持ち前のステルス力と回避能力でいつのまにか背後へ近づき、孤島で安置を取ろうとしている みみのこ を倒すことに定評があった。

 

緑の足場が消えた時点で、シロの警戒しなければならない範囲は狭まり、この状態で襲いかかるのは決して得策とはいえない。

だが、このままでは黄色の足場が消える時、あの6キルの化け物がオレンジの足場までやってきてしまう。

だから、一耳かかんに、シロへと襲いかかった。

 

瞬間。

 

黄色の足場に立ち、初手で回避をしようとする みみのこ のヘッドドレスに、シロの手が触れる。

 

「……っぐ……」

『7キル目ーッッッ!?!?!?』

「だ、だ、だけど、片耳は取ったぞ……!」

「………………」

 

悔いはない、とでも言うように柱から退散する みみのこ を見送り、シロはいつのまにか無くなっていた自身の左耳を気にする。

その様子に隙を見たか、もう一人、オレンジの足場から跳躍する みみのこ が。

 

「今だッ!」

「(相手はシアンさん……このタイミングで片耳。これは……無理かも)」

 

今の状態と、シアンがここからどう動くか。

それらを全て読み切ったシロが出した結論は、詰み。

どう足掻いても、この場から生き残ることはできない。

だったらせめて、足掻けるだけ足掻く。

 

「(『居合』+『回避』……)」

「よし、取っ───」

「(片耳渡しッ!!)」

『相打ちーッ!!!!』

「はぁっ!? なっ、ええ!?」

「(今ので相打ち……片耳じゃなければ『片耳渡し』でどうにかなったような気がする……)」

 

相打ちを含めれば、実に8キル。

今日のシロは、すこぶる快調であった。

 

『シロさんがだいぶ減らしたぞ! 黄色の足場で残り6耳となりました! さっさと黄色消します!』

 

カウントダウンの後、パッと消える黄色い足場。

オレンジの足場には数える程のみみのこしかおらず、すこし広めに感じる足場の上でお互いがお互いを牽制していた。

 

「(このバトロワの優勝者は以降のトーナメントと二回目のバトロワには出ない。誰が勝つのか、見ておいた方が対策が練れそう)」

 

普段は落下した後はすぐに中層*1へ戻り観戦へ徹するシロだったが、今回は下層から戦いを眺めていた。

上から一方的に眺めているだけでは見えないものもあるだろう、という考えからによるものだが、その思惑はシロが思った以上に新たな視点をもたらした。

 

「(……どうして、この位置から耳が見えるんだろう……?)」

 

ぴょこり、と耳が揺れる。それが、見(・)え(・)る(・)。

耳は頭の上に生えている。なので、下から見たところで体や頭部に邪魔されて耳が見えることは少ない。だが、シロの位置からは確かに、二つの耳が見えていた。

それはつまり、リング───足場の外へ耳を向けている、ということで。

 

『残り4耳! オレンジの足場消します!』

「…………」

『3、2、1……!』

 

オレンジの足場が消えた瞬間、シロは先ほどまで見えていた耳が揺れたのを見た。

 

「おっ!? いいぞ! 良い避け!」

 

シロが見えない柱の上で、その みみのこ は宙を舞い、踊る。

弧を描く銀色の髪の毛が視界の横を通り過ぎた時、横切られたことを知らぬまま残された耳が無くなり、その体から力が抜ける。

残り3耳。

お互いを牽制し合っていた2耳のうち1耳が、健闘虚しくも倒れ伏した。

そして、今し方みみのこを淘汰し構え直したみみのこだが。

 

『取った! 勝者、八重桜(やえざくら)さん! やえさん、おめでとうございます!』

「ウオオオオオー!! 取ったぞーッ!!」

 

両手を上げ喜んだのも束の間、ハッと思い出したように傘を取り出す八重桜。

ココア色のコルセットドレスをひらりと揺らし、観客席に手を振る姿を、シロは覚えていた。

 

 

───『……竹華(たけはな)』───

 

 

シロ以外にも技を持ち、また、それを『技として使う』ことができるみみのこ。

金バッジを手に入れること、そして五強に勝利することを目標にしているシロにとって、確立され、名前付けされた技術を扱う八重桜はいつか話をしてみたい みみのこ の一耳だった。

 

『次のトーナメントは……3分後。3分後からからやりまーす』

「休憩短くね?」

『ちょっとバトロワ終わるのが早すぎて、キリよくしようとするとこうなっちゃうんです!』

「(今日は調子がいい……)」

 

シロ自身、今の自分が普段より遥かに強いことは自覚していた。

だからこそ、バッジを取るなら、勝利の経験というものを積むなら、今日しかない、と感じている。

 

「(……上で精神統一でも……)」

 

シロが下層にある階段から中層へ上がった時、入り口辺りに集団で群がっていた みみのこ 達を発見する。

それらはシロが上がってきたことを確認すると目の色を変えてシロに詰めよって来た。

 

「!?」

 

驚いたシロは反射で手を避け数人の耳をもぐが、ついにその手は両耳に届き、地に倒れ伏す。

 

「なるほど全員で襲い掛かれば良かったわけか」

「いや、孤島にこの人数で行くのは密がすぎるのでは……?」

「えっとあの、これはいったい……?」

 

困惑するシロを見下ろし口々に案を出す集団の中から、シアンが一人出てくる。

 

「今日のシロさんが普通に強かったから対策を、と」

「ええ……」

「いや、マジでやばかったよ今日。何キルしてた?」

「7キルじゃない?」

「相打ち含めて8でしたっけ」

 

その数を聞き顔を引き攣らせるシアン。

他でもないシアン自身が、一度に8キルを成した事がない。そもそもとしてシアンが孤島に乗った時、突如として寄ってくる者がいなくなるのだ。それ故か否かはシアン自身しか知らないが、少なくともシアンは誰かが孤島に乗っていたらちょっかいをかけるというスタイルで挑む事が多い。

 

「急にどうしたの。すごい強くなってるじゃん」

「特にこれと言って何かしたわけでは……」

「うわー……。天才っているんだねぇ」

『はい、トーナメントのボタン出したので参加押してくださいね』

「お、来た来た」

 

アナウンスに反応し舞台装置周辺に群らがる みみのこ 達。

本日はワールド機能によるトーナメント戦のランダムマッチングが行えるらしく、参加人数の欄は40を超えた。

もちろん、今し方『参加』のボタンを押したシロの名前も参加者の欄に表示されており、この時点ではまだ誰と当たるかわからない。

 

「シロさんと当たるの嫌だなぁ」

「な、なぜです……?」

「今日なんかすげー強いから」

「…………」

 

通りすがる みみのこ が呟いた。

彼もまた、孤島にいるシロを狙って返り討ちにされた一耳であった。

 

シロは冷や汗をかいた。

今の自分が調子がいいことは明白で、事実まだ身体にエネルギーが激っている。

しかし勝負は時の運。歴戦の猛者でも初戦でやられることはある、とは、この地下闘技場にいる全ての みみのこ 達が心していること。

だからその運を手繰り寄せるため、修練を怠らないのだ。

現在、シロは切れる札が『片耳渡し』しかなく、側から見て修練をしたかどうかはわからない。

いわゆる『片耳渡しメタ』を張られてしまうと負ける。シロは今、絶好調でありながらスランプに陥っていた。

 

『はい、ではトーナメント表作ります。……はい、できた!』

「(シロ、シロ……あった。……シード?)」

『青い柱に乗ってくださーい。シードの人は一人で乗ってくださいね』

 

トーナメントにはシード枠が存在する。割とたくさん。

全ての青い柱にプレイヤーを配置した上で、さらにそこに余った分をもう一耳ずつ配置していくので、青い柱から戦う人の方が珍しいといった具合である。

今回のシロはそのシード枠。青い柱の上に乗ってはいるが、トーナメント一回戦は不戦勝で進出。実質的に水色の柱からが勝負開始であった。

 

青色の柱の戦いは比較的迅速に行われた。

鍔迫り合い───相打ちも少なく、とんとん拍子で進んでいく。

 

『はい、勝った みみのこ とシードの耳は水色の柱に進んでください』

「ア゛ラ゛ア゛ラ゛、シロちゃんじゃない!」

「(……キャラが濃い……!)」

 

シロの目の前に現れたのは、緑色の耳に有刺鉄線を巻き、機械的な眼球をぎょろつかせる みみのこ。

マッドサイエンティスト御用達な白衣を大きく翻した みみのこ は喉の奥からキェェェェと奇声を発し、シロを威嚇する。

シロの脳裏にはアリクイの威嚇がよぎった。

 

「(……しかし、油断するわけにはいかない)」

「FOOOOOO!!!!!!!!」

「(…………)」

 

音圧。既に勝負は始まっていた。

問題耳(もんだいじ)の一耳として名高い*2その みみのこ は、直線上にコップがあったら全て割っているだろう超高音を響かせ、シロのHMDに負荷をかける。

 

『はい、あのー、掛け声聞こえなくなるんでやめてください』

「あっ、はい」

 

負荷が止まった。

 

『では、早速初めて行きます。見合ってー、礼!』

「よろしくお願いします」

「よろしくッ!! おなしあッ!!」

 

思えば、この耳と戦ったことは無かった、とシロは警戒した。

まずは『回避』で初撃を凌ぎ、隙を見て反撃。シロの頭の中で、戦いのイメージが膨らんでいく。

 

『構えて!』

「(……『回避』……)」

「ゥー……!」

 

左足は少しだけ前に出し、重心を自分の身体の中心へ。

即座に回避できるよう、胸に近づけた手は、いつでも反撃ができるように力がこもっている。

そして、シロの耳が、息を吸い込む音を感じ取った。

 

『始めッ!』

「(『回(かい)───

 

ガツンッ!!!!

 

「(───避(ひ)…………)」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?!?!?!?!?」

 

突如、大きな音と共に目の前の みみのこ の動きが止まる。

身構えたシロを見向きもせず、その有刺鉄線の耳をぶんぶんと振り回し、悶絶していた。

 

「えっと……あの……」

「ユビッ……ゆびッ……ッ……!」

「指…………?」

 

リアルコライダー。

VRChatでよく使われる、物質同士が衝突する際の判定をするコンポーネントであり、『当たり判定』の意味で使われるコライダーから来た言葉。

リアルなコライダー(当たり判定)、と起こせばもうそのまんまの意味である。VRCの住人全員が背筋をぞっとさせるであろう、死角からの刺客。

 

「……ッ痛(つぅ)……ッ……!!」

「あ〜っ……! だ、大丈夫ですか!?」

「ふぐぅっ。指ぃ……!」

「あいたたたた、これは痛い……」

 

手を抑え膝をつく みみのこ。

その耳は二つも健在だが、本人はそれどころではない。

 

「……俺の負けだ……もげ……ッ」

「そ、そんな! 再戦しましょうよ!」

「無理……痛い……」

「嗚呼……」

 

他でもないシロにも経験があった。

故に気持ちは痛いほど───実際にとんでもなく痛かった───分かる。

 

「頼む……終わらせてくれ……」

「すみません! あなたの意志、無駄にはしませんので!」

 

水色の柱戦は、シロに軍配が上がった。*3

 

続く、緑色の柱戦。

水色の柱にうずくまる姿に後ろ髪を引かれる思いをしつつ進んだシロの先に立ちはだかるのは、若葉色の髪と灰色の耳をもつ みみのこ。

今日は緑(みどり)に縁(えん)があるな、と一息入れるシロだった。

 

「相手はシロさんか。ここまで来れたのでね……せっかくなら勝ちたいです」

「それは……こちらだって」

 

頭部から下に向けて伸びるツノを揺らし、輝きを宿した瞳でシロを見る。

 

『では緑の戦い始めます! お互い見合って、礼!』

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

『構えて!』

「(『居合』+(プラス)『回避』……)」

 

ぐっと上半身を逸らし腕を添える相手に対し、シロは右足を前に出して『回避』の姿勢。

 

『始めッ!』

「(片耳渡しッ!!)」

「速っ!?」

 

一直線にシロへ伸びる腕を躱し、それでも両手は相手の耳へ。

逸らした首の先にある耳は無事。片耳だけ。

そうしてすれ違った後に振り向いたシロが見たのは、構え直す相手の姿だった。

見据えた相手の頭の上にある耳は無事。同じく、片耳だけ。

 

「(偽耳!!!!)」

「ッ……!」

 

ぐっと足で勢いを殺し、身を翻してクラウチングスタートにも似た姿勢を取るシロ。

そのまま全身に滾る力を全て足へ込め、相手の耳へ跳躍した。

そしてそれをじっと見ていた相手は、反撃をするために腕を振るう。

 

結果は。

 

「……つぁ〜ッ!? 負けた〜!?」

「はぁッ……はぁッ……! ありがとう、ございました……!」

 

苦しくはあったが、シロの勝利だった。

がくがくと震える膝を叩いて黙らせ、シロはその場で荒い息をする。

八重桜の動きを意識しなかったかと言われたら、否定はできない。

だが、今の動きは……あまりにも、かけ離れていたのではないか。

速度は遅く、狙いも正確ではない。勝つことはできたが、再現とまではいかない。

 

「(……『瞬歩』、と言っていたっけ)」

 

何か秘訣があるのだろうか。

真っ白になった頭でシロは思考を巡らせるが、結局答えは出なかった。

 

『勝った人は黄色の柱へ進んでください! 相打ちも複数見えますので、ここでコールして同時にやっちゃいます。お互い、構えて〜!』

 

黄色の柱へ進んだシロが見たのは、飛ばされたコールと同時に動き出し、相手の耳を跳ね飛ばす褐色の みみのこ の姿。

ぱんぱん、とスーツの埃を払うような動きを見せ、ニヤリと笑って黄色の足場へやって来た、青い髪を揺らすその みみのこ は。

 

「ほほー。次はシロさんが相手か」

「……エリテマ、さん」

「さっきはね、ちょっと油断して相打ちになっちゃったけど、ね。今度はそうはいかないから」

「こちらこそ、全力でいかせてもらいます」

「おお! かかってこい!」

 

シロが使える、唯一の技である『片耳渡し』。

それの練習代になった……つまり、シ(・)ロ(・)が(・)『片(・)耳(・)渡(・)し(・)』し(・)か(・)使(・)え(・)な(・)い(・)事を知っている、エリテマだった。

*1:
正確な名称は無いが、本作では白い地面のある地上を『上層』、舞台装置やミラー、サンプルやQVペンなどがある層を『中層』、バトロワで落下した時に受け皿になっている部分を『下層』と称する。

*2:
(名高い)

*3:
みんなもリアルコライダーには気をつけよう。マジで。本気で。




みみのこユーザーの『牡丹ねむ』さんに、ココア色のドレスを着ていて勝利時に日傘をさすみみのこの名前をつけていただきました。
八重桜(やえざくら)さん/ちゃん/くんです。

さらにもう一つ、『レミエール』さんに、よくFUJIYAMAで勧誘している、青髪ポニーテールで褐色肌のみみのこの名前を付けていただきました。
エリテマさん/ちゃん/くんです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。