Fate/senji might 作:ONE DICE TWENTY
鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。
炉に火を焚べて、鉄を打つ。
それは群星のような衝突だった。
薄く長く、力強くを求められる灼光。
冷えることも衰えることも知らない鮮烈は。
「──士郎、そろそろ夜も冷える。
「はぁ……爺さん、毎度毎度のことだがな。ここは鉄火場だ、寒ぃも熱ぃもありゃしねぇよ。それより自分の心配をしろよ、もう歳なんだからな」
「……わかった。今日は僕が折れるよ」
声によっても、鳴りやむことを知らない。
思い起こすは大火災。命を奪ったあの災害。
焚べる焔は命か心か。一心不乱はどこから来るのか。
その、すぐ後のことだった。
縁側にて二人、月を眺めていた……その時の話。
何も無い虚空をじっと見つめる親代わり。彼の顔が……あんまりにも死相に溢れていたから、宵を
「おい、爺さん」
「……──ん?」
「寝るならちゃんと布団で寝な。老体に寒気は堪えるだろ」
「ああ……いや、大丈夫だよ。……少し、子供の頃のユメを思い出していてね」
「ユメ?」
夢。夢。夢。
彼の口から出たとは思えない言葉に、ふと、じと、じぃっと耳を傾ける。
「昔、僕は……正義の味方に憧れてた」
「正義の味方ぁ? そんなけったいなモンに……それより、その言い草はなんだ。もう諦めた、ってな風に聞こえるが」
「けったいなもの、か。はは……そうだね。そう……ヒーローは期間限定で、大人になると、名乗るのが難しくなるんだ」
「……」
「そんなこと……もっと早くに気付けばよかった」
言葉を聞いて、顔を顰めている己に気付く。
己。少年。親代わりの隣に座る赤毛の少年は、ただ感覚として。
それを、嫌だ、と。思い浮かべた。
「そうかい。なら、ここじゃあまだ終われねえな」
「……士郎?」
「オレが鍛き直してやるよ、爺さんの夢。正義の味方がどんなユメかは知らねぇが、生涯かけて貫き通せば多少は誇れるモンにもなるだろう」
あるいは──少年の言葉は、彼のユメとは少し違ったのかもしれないけれど。
芯の通った言葉は、一振りの刀を想起させた。
「そうか。……ああ、安心した。それなら──」
これは五年前のユメ。
火より生まれ出でた少年の、
朝っぱらから鉄を打つ音が響く。それが近所迷惑として通報されないのは、この家の敷地がとんでもなく広いことに起因するのだろう。
無論、十年と前から続くことであるのだから、慣れっこである、というのも理由の一つかもしれないが。
「先輩、おはようございます」
「ん……ああ、桜か。お早うさん」
鉄火場に女人が入ってくることなど言語道断……なんて考えは存在しない。
別に安土桃山の刀匠になろうとしているわけではないのだ。
目指す先はただ一刀。叩きつけるはただ槌の一つ。そこに時代に合わせた規則なんてものは必要ない。
……とはいえ早朝から朝にかけて鉄を打ち続けたのならば、まだ出来上がったとは言い切れない身体では多少の疲労も覚える。
完成させるに至らなかった一刀を持ち上げ水へと放る。急冷の音を目覚まし代わりにぐんと伸びをしてやれば、肩甲骨やら肩関節やらからパキポキと小気味いい音がした。
ここは鍛冶場。元は土蔵だったのだが、せがみにせがんで鍛冶場へと改造してもらった。今じゃオレの基地と言って過言ではない場所であり、ここでなら生涯を終えても良いと思える場所となっている。
「と。朝飯にするか」
「今日は私が作ります。先輩は汗を洗い流してきてください」
「……なんでぇ、今日は誕生日か何かだったか? そりゃ悪ぃコトをした、どうもそのテの記念ごとは覚えられねぇ
「そんなんじゃありません。今日こそ先輩を唸らせるご飯を作ってみせる、と言いたかっただけです」
「唸らせるって……飯なんぞ食えりゃなんでもいいっていつも言ってるだろうに」
「だからこそです。先輩にはご飯のおいしさを理解していただかないと……と、時間も時間ですし、ご飯、作ってきますね」
「おう、ありがとう」
桜。間桐桜。
友人の妹で学校の後輩。以前鍛冶場での火傷で手先をやってしまった時、この家へと飯を作りにきてくれた時からの付き合いで、その後なし崩し的に毎朝来るようになった。
鍛冶には然したる興味のない様子だが、どうにも何か思うところがあるようで、家の手伝いまでしてくれている始末だ。死んだ爺さん……
他……なんて括りにすると烈火の如く怒ってきそうなものだが、このどうしようもない鍛冶馬鹿の世話をしてくれている人はもう何人かいる。
オレには過ぎたるものだ、なんて嘯いて、鍛冶場を後にする。
周囲から見たらいつの時代のものだと思われるこの屋敷は、その印象の通りの作りをしている。とはいえ台所やら風呂やらは現代ナイズされているから使い勝手も悪くない。
……尤も桜が飯を作ってくれている状況で湯を張るほどの厚顔無恥ではないので、シャワーを浴びて、学生服へと着替えて、程度の支度に収める。
「あ、先輩。ご飯できてますよ」
「おはよー士郎。今日も精が出るわね~」
日常。あるいはそれさえも、オレにとっては。
恙ない日常を終える。
生憎と友人らしい友人など二人しかおらず、片方とは最近疎遠、もう片方は生徒会の仕事で忙しいらしく疎遠。
だからなんでもない日常をなんでもなく終えて、部活にも入っていない身を快く鍛冶場へと向ける──はずだった。
「ん……ありゃ……遠坂?」
ふと振り返った学び舎。その屋上に立つ少女には、少しばかりに見覚えがあった。
友人とは呼べない。知り合いと呼べるかすら怪しい。二、三言話したことがあるだけの、さらには別クラスの同学年生。
それが……どこか思いつめた様子で屋上のフェンスを握りしめているのだから、あらぬことを想像してしまうのも無理はなかったと言えるだろう。
「……あの女傑が飛び降りなんてことをするたぁ思えねえが」
思えなくとも、実際しそうな雰囲気をしているのだから、それを止めねば寝覚めも悪い。
明日の登校時にKEEP OUTでも敷かれていたのなら、彼女の
なまじ、死を見慣れ過ぎているが故に。
だから、まぁ。
間に合うかどうかは考えずに校舎へと踵を返して──それが失敗であったことを悟るのだ。
息を切らせて階段を上り、屋上へ出てみればそこはもぬけの殻。
ただし彼女が掴んでいたはずのフェンスが袈裟懸けに切断されていて、そして校庭の方で轟音が鳴り響いている。……目にも止まらぬ速さで、赤と青がぶつかり合っているのだ。
動いている時に何が見えるということはない。ただ時折止まる。止まる時に見得る。
青が持つは赤い槍。二メートルほどの凶器。材質は不明。ただただ、人を殺すための武具。
赤が持つは黒白の短剣。こちらは一メートルとない凶器。二刀一対であるのか、対照的なデザインをしている。
視る。観る。見る。
アレらは武器だ。十年をかけて己が作り続けたもの。未だ完成の二文字には至り得ずとも、常日頃から隣人であるもの。
そして──あちらは、何千、何万と血を吸い続けた究極の一。
「……だが、アレじゃねぇ」
零れる言葉に意思はない。
あれらはさぞかし名のある武器なのだろう。それを扱う二人もまた、日本では見慣れぬ容姿ではあるものの、世界のどこかで活躍する誰かなのだろう。銃や爆弾が当然のように用いられるこの現代において槍だの剣だのを主武器とするのだ。余程の自信があり、余程の腕を有するのだろう。
だが、アレではない。
己という「成り損ない」が目指すはあそこではない。
鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。
己の中の鉄を打つ。
思わずフェンスを掴む。それが悔しさから零れ落ちたものか、憧れから生じたものかはわからないが──音が、鳴ってしまった。
「──誰だ!」
逃げなければ、という思いに至る前に、勿体の無いことをした、という感情が勝る。
武芸者同士の打ち合いなど滅多に見られるものではない。況してやあれほどの達人とあらば尚更だ。それを自身が止めてしまった事実に後悔を覚えつつ……明らかな殺意を以てこちらへ向かってくる青に、ようやく心が追いついた。
月明かりも閉ざされた夜。
ひどく冷たい廊下を走る。足音を立ててはいけないことくらいはわかる。だが、そんなことを気にできる相手でもないこともわかる。
殺意。殺気。相手を必ず殺す意思。
「──へぇ、逃げる割に、竦んじゃいねェな、坊主」
声は背後にあった。音は後から追い付いた。
あの槍を突き出せば、心臓など一突きで終わるだろうにそれをしなかった。対話の余地があるということか。
否。
この殺気で、それはない。
「ま、運が無かったなぁ。……見られたからには、死んでくれや」
対話はただ──相手に余裕があった。
理由など、ただ、それだけ。
気が付いた時に振っていたものは──槌だった。
「お?」
一般人を殺すことに狙いを定める必要など無い。相手は歴戦の猛者で、こちらは学生。
油断。いや、これもまた余裕だ。
ただ──少しだけネジが外れていただけ。
学校に
槍の穂先。血よりも
オレの魂。鉄を打つための道具。決して戦いに使う武器ではないもの。
そして、逸らしたとて完全にではない。心臓に刺さらなかっただけだ。切れ味の良すぎる槍は己の腹を捉えた。相当に重いのか、相当な腕力をしているのか。
まるで地面を叩いたかのような槍に、それでもと。
「根性あるじゃねぇか坊主。だが……」
そうだ。だが、だ。
腹部を、そして恐らく背骨まで刺し貫かれて無事な人間がいるものか。
痛みは警鐘を鳴らし終えてから消えた。ごぼりとせりあがる血液はどこの内臓のものか。
離さない。それでもオレは、この手を離さない。
鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。
正義の味方なんてけったいなものになる気はない。
ただその生涯を鍛ち直すとは約束した。あの若さで死んだ親代わりに。あの死災から自らを救い出した男に。
だから、たとえここで死ぬ定めが決まったのだとしても──。
「……何か言いたげだが、死人に口なしってね」
失血量が酷い。急激に冷たくなっていく身体と、反対に灼熱を帯びる脳。
心臓が止まり行く感覚は知っている。何度も、何度も何度も経験しているから。
けれど。だとしても。それでも。
この意識だけは……手放さない。手放さな──。
どれほど時間が経ったのか。あの青はいなくなっている。自身から漏れ出でる赤が廊下を汚している。
喘ぐような呼吸しかできない。痛みがじりじりと死を寄せてくる。
だというのに意識が戻ったのはなぜか。みっともなく手放した
赤い光。救急車? 否、ここは廊下だ。ああけれど、校庭であれほどの轟音が鳴り響いていたのだから、誰かが警察に通報したのかもしれない。
鎖の音。何かを堪えるような声。
少女の声。
「──やば、もう目を覚ますの? ったく、健康体なのはいいけど、背骨まで貫かれてて気絶とか……って言ってる場合じゃない!」
聞き覚えのあるような、無いような、その声は。
「遠……坂……?」
目を開いた時。
そこには誰も、いなかった。
「ったく……急きすぎだろうに。礼の一つくらい言わせろってんだ」
腹を擦る。貫かれたはずのそこに穴はない。背骨にも何の違和感も覚えない。
誰かに助けられたのだ。その誰かは恐らく。
ただし、血で汚れた制服は綺麗になっていないから、この姿を見られたのなら騒ぎになるだろう。廊下の血も拭いておかねばならない。
それと……もう一つ。
赤い光を発していたのはこれだろう。錨のような形をした紅玉のペンダント。これほどの粒となれば、価値はどれほどか。
いいや。
そんな一般人の感性で測り得るものではない。
己──衛宮士郎は、魔術師だ。といっても爺さんから少しばかり手解きを受けた程度で、一端の魔術師と言えるかは怪しい。
それでも価値はわかる。物の価値を見極めることは得意だから。
このペンダントは恐らく魔術の……魔力の込められていた品。それを使い、あの少女がこの傷を癒してくれた。
「借りができちまったな……と」
まだ乾いていなかったことが救いだった。水を付けたモップで拭けば、廊下はまっさらに。
そのモップも丹念込めて洗い流せば……赤い証拠は水道管の中へと流れ去っていく。
まさか被害者が証拠隠滅をさせられるとは思ってもみなかったが、これでここであった殺人の痕跡はきれいさっぱり消えた。
問題が残るとすれば。
「恩を仇で返すのは性分じゃねぇが……こればっかりはな」
ペンダントを大切にしまって走り出す。
目撃者を殺そうとした相手だ。その目撃者がまだ生きていると知れば、もう一度殺しに来ることなど明白。であれば抵抗するしかない。できるかどうかではなく、やるのだ。
武家屋敷へと戻り、土蔵へと転がり込む。
差してある刀はどれもが未熟者の品。目指す完成品とは程遠い鋼の塊。
それでも何も無いよりはマシだろう。
「投影、開始」
強化は行わない。それは邪道だ。
己が肉体にこそ施せど、刀には余計な手を加えない。
鳴子が鳴る。
武家屋敷もたまには役立つというものだ。
ただまぁ。
「オレはあくまで刀鍛冶。斬った張ったはオレの役割じゃねぇんだがなぁ」
土蔵を破壊されても面倒だ。
だからこうして、外に出た。凍てつく空気。張り詰める空気。
青身に赤槍の男は、飄々とした表情でそこに立っていた。
「なんだぁ? まさかとは思うがその棒切れでオレとやり合おうってのか」
「そうだって言ったら、テメェはオレを笑うかよ」
「いや? 真っ正面から来るってんなら、あのいけ好かねぇやつより印象が良い。来い、ちったぁ楽しませてみな、坊主」
鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。
踏み込みは二足。
右足を軸足に定め、左腰溜めから逆袈裟へ斬りかかる。
当然のように払われる刀は、しかし折れてはいない。浮き上がった左足を強く踏みしめ、柄を持つ手を固く握りしめて、再度振り下ろし。
校庭の戦いを見ていた時にも感じたことだ。
この武芸者は迅いというより巧い。勿論その走力は己なんぞをゆうに超えるものなのだろうし、槍を繰り出す速度も目で追えるものではない。
けれどそういう「暴力的な迅さ」がこの武芸者を達人たらしめているのではなく、「恐ろしいまでの巧さ」こそが彼の武器だ。
どこまで行っても戦闘者ではない己の剣は、世話になっている家の孫娘──藤村大河の見様見真似。実戦ではない剣道の剣でしかない。
「……坊主。一言謝っておく」
「何をだ」
「そりゃ棒切れなんかじゃねぇな。確かにサーヴァントの武器と比べりゃ天と地ほどの差があるが……オレの槍に全力でぶつけても折れねえ曲がらねえと来たら、ちゃんとした武器だ。そんでもって、刀鍛冶と言っていたか」
「……ああ。まだ見習いも見習いだが」
「お前がオレの時代にいたのなら、良い武器職人になっていたかもしれねぇ。そう思わせるだけの色がある」
「そうかい、そいつはありがてぇ話だ。なんせ師もいねぇ手本もねぇオレの鍛った剣が、お前さんのような武芸者に褒められるたぁ……それだけでも続けてきた甲斐はあろうさ」
けれど、槍使いの涼しい顔は崩れない。
あの槍は叩けない。ならば
どうあるのだとしても。
「アンタ、名は教えてくれねぇのか」
「ん? ……あぁ、まぁ、ランサーと呼べ。呼ぶ機会がどれほどあるか知らねぇが」
「そうかい。──ランサー。オレの名前は衛宮士郎。故あってまぁ、刀鍛冶を目指してる」
「坊主の歳でそんなけったいなモンを目指すってことは、その故は相当な故なんだろうな。それで?」
「急かすなよ、ランサー。オレは刀鍛冶を目指しちゃいるが、なりたいモンと、作りたいモンはそれぞれ別々ってなものでね」
鍛造開始。
真髄、探求。
完成理念、構築。
「オレは正義の味方にはなれねぇ。んなけったいなモンはけったいな奴がやればいい。だが──」
踏み込む。今度は一足で、深く、強く。
見開かれる目に僅かばかりの達成感を覚えつつ、その一刀を振り下ろす。
「『
渾身の一撃は──強い、強い強い衝撃によって跳ね返された。
槍、じゃない。
蹴りだ。
「……成程、確かに武芸者じゃねぇ。槍兵を前にああも胴体をがら空きにさせるなんざ、戦場に立つやつのすることじゃあねえよ、坊主」
「だ、ろうなぁ……。オレの剣は競技としての……見世物としての剣の、その猿真似だ。刀なんぞ作っちゃいるが、野武士ってわけでもねぇ。そりゃ勝てるはずもなけりゃ、足元に届くはずもなかったか……」
蹴り飛ばされた場所は土蔵の中。
生涯を終えても良いと、そう誓った場所。
「なぁよ、ランサー」
「んだ、坊主」
「人生の最期に一つやらせてほしいことがある。……テメェに時間の都合があんなら、ちぃとだけ許しちゃくれねぇか」
刀を置く。置いて、握りしめるは
寒く冷たい土蔵。いやさ鍛冶場。その窯へと放り込んでいくは薪。
「オイ坊主、まさかとは思うが」
「あぁ、鉄を鍛ちてぇ。武器を作らせろってわけじゃねぇさ。どの道、そんな短時間で作れるモンでもねぇしな」
「……ささやかな望みだな。まぁそれくらい聞いてやりてぇところだが、生憎とマスターに急かされてんだ。ただでさえ獲物を仕留めそこなったサーヴァントってだけでも落ちた名をさらに落とすワケにゃいかねぇだろ?」
気にせず薪を放りこんで火をつける。
一気に暖かくなる鍛冶場。
火はあたりを照らし、月明かりを押し返す。
「そうか。鉄を打って死にてぇなら、その願い聞き届けてやる。今度は外さねぇし見逃さねえ。その一振りと共に──痛みなく死にな」
鉄を炉に入れ、熱する。
短くない時間。ランサーの必殺は首元にあり、赤熱を始めた鉄は手元にあり。
これを引き抜いて、鍛ったが最後。
オレの生は幕を閉じる。
ならばこの一振りに全てを懸ける。
ふざけるな、という思いはしっかりある。折角助けてもらった命を無為に帰すのだ。申し訳なさは……けれど、それこそ申し訳ない。
雑念として振りほどかせてもらう。怒りも後悔も、今この時だけは忘却の涯へと押し込める。
振るう。その人生の、その全てを込めて。
気力も魔力も、全てを込めて──ここに。
「じゃあな、坊主」
カン、と。
鉄を打つ音が鳴って。
直後、鍛冶場が光に満たされた。
土蔵。鍛冶場。
オレの座っていた椅子のすぐ隣。
そこから……その地面から現れるは人影。
「──七人目のサーヴァントだと!?」
鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。
まだ生きている。オレはまだ生きている。
だからまだ、生涯を鍛てる。
「問おう。貴方が私の──」
「誰だか知らねぇが、助けてくれたことには礼を言う。だがちっとばかし待ってくれ。オレは生涯最後の一振りを鍛たなきゃならん」
「……それは、時間稼ぎをしろ、ということですね、マスター」
「あ?」
さて──これより綴られるは
史実のどの道も辿らない──生涯において「誰か」で在り続けることを決心した、何者かのお話だ。