Fate/senji might 作:ONE DICE TWENTY
ふと気が付いた時、少女はそこに立っていた。
「こ……こは」
声を出して気付く。力強さと苛烈さ。
自らを彩った歴史。その色が失われている。
確かに……この時既にかの帝国は終焉を迎えていた。
不滅であった筈の帝国は数多くの異民族の侵攻によって命をすり減らし、この戦いに備えるために、かの帝国はある島国から守りの兵力を剥いだ。
少女の住まう国は帝国の庇護を失い、短期間のうちに様々な小王国に分かれてしまった。
繰り返される異民族からの侵攻。王国間、部族間の内紛。後の世では"夜のように暗い日々"と言われる、長い永い戦いの時代。
王の後継ぎとして彼女は生まれた。王になるべくものとして、魔術師の予言を信じて。
男子でなければ王位は継げない。そのことを理由に一介の騎士として育てられることが決定づけられた。
素朴で賢明な老騎士のもと、誰よりも強くあろうと鍛練の日々を重ねた少女。
新たな王だけが死に行くだけの国を救い得る。
だから少女は、その為だけに剣を振るった。そう誓った。
そして──今日が訪れた。
「私、は」
王を選出するために、今日。この予言の日に、国中の領主と騎士が集まった。
そこにあったのは岩に突き刺さった抜身の剣。剣の柄には黄金の銘。
──この剣を岩から引き出した者は、ブリテンの王たるべき者である。
銘に従い、多くの騎士が剣を掴んだ。けれど抜ける者は誰一人としておらず、騎士たちは別の方法による王の選定を始めてしまう。
今がその時だった。
誰もいなくなった選定の場。
岩に突き刺さる黄金の剣。
少女はその剣に──手を、伸ばせない。
「おや、躊躇うのかい? そうだね、それがいいかもしれない」
声は背後からした。振り向けば、この国で最も恐れられていた魔術師の姿。
「それを手にしたが最後、君は人間ではなくなってしまうのだから」
震える手は剣を掴まない。
このまま見なかったことにしたのなら。
王になるということはつまり、みんなを守るために、一番多くみんなを殺す存在となること。
生まれた時から抱いていた覚悟は、けれど、今の彼女にはない。幼いころから抱き続けた恐怖は、この時を経た終着点で、悔悟に変わる。
それを知っているから……手を伸ばさない。
「これを取らなければ、私は王になどならなかった。
聖杯へかける願いはここのやり直し。
そうだ。だから、願いが叶ったのかもしれない。どこかの聖杯戦争で勝利し、願いを叶える権利を得たのかもしれない。
ここで選ばなければ。選ばれなければ。
話は、おしまい。
「そう言って、どっかで願うんだろうなあ。あの時剣を抜いていれば、って」
──異物の声がした。
魔術師の声ではない。王の声でもない。
顔を上げれば、少年がいた。
赤銅色の髪。弓の名手たる彼の髪とは色味が違う。
精悍な顔つき。けれどまだ若く、騎士と呼べるものではない。
どこか悲しそうな顔。まだのはずだ。今の少女は誰かにこんな顔をさせるようなことはしていないはずだ。
「そうして、そう願った瞬間に現れるんだろう。抑止の輪だか聖杯だかなんだか知らねえが、異民族に磨り潰されるお前の前に現れてこう告げるのさ。"あの時の選定をやり直したくないか"、ってな」
今。
目の前に、二人の少女が立っている。
選定の剣を挟んで──騎士としてではなく、ただの村娘として生きた先の彼女。幸せそうな彼女はしかし、次の瞬間には血火に塗れて地に伏せる。
選定の剣を挟んで──騎士王となり、ただの一度の敗北もない王としての彼女。誇らしそうな彼女は直後、数多の屍の上に立って慟哭を響かせる。
どちらを選んでも。
「鍛冶師ってのはな、鉄を集めて鋼を作って、それで武器ってもんを作る。鉄の選定にも鋼の選定にも時間をかけるし、材料は完璧だったはずなのに見据えた武器が作れねえことなんてザラだ。まぁンなもんは老成とともに、成熟とともに少なくなっていくんだが……お前さんもオレも、そうじゃなかったってそれだけだろう」
変えられない。
どちらを選ぼうともブリテンの滅びの運命は変えられず。
どちらを選ぼうとも──世界は彼女へ選択を迫る。
「やり直せるならやり直してえ、ってのは誰しもが持つ感情だ。オレだっていくらでもある。あの時の鋼は勿体なかったとか、もっと学んでおくべきことがたくさんあったとか、今日は昨日の後悔をするし、明日は今日の後悔をするんだろう。だが──」
鉄を打つ音が響く。
鉄同士がぶつかり合う音ではなく。
灼火の鉄が、鍛ち直される音。
「いつでもやり直せるんなら、オレは絶対にやり直しを選ばねえだろう」
「……それは、なぜ」
「やり直したいと思いたいからだ」
周囲が業火に包まれて行く。
爽やかな風の吹く選定の岩も。
屍山血河の築かれたあの丘も。
すべてが火の海へと沈んでいく。
彼が出てきてから一言も声を発さなくなった魔術師。
どこか遠い所で剣戟を響かせていた騎士たち。
あとに残るはただ──燃え盛る荒野だけ。
全く同一の剣……刀の突き刺さる、轟々と燃え盛る世界。
「後悔の無い人生を歩みたいと思いながら、後悔は抱きしめる。やり残したことのねぇよう後ろを見ながら、やり残したものを遺す」
ただ、音が。
鉄を鍛く音だけが、響き続ける。
「ガキの夢妄に耳を傾ける必要はねえ。ただオレはこうだって話で、ただお前さんは、そうは見えねえって話だ。……あるいは案外、既にそうなのかもしれねえがな」
少女は気付く。
これは夢だ。今、ようやく、意識が浮上しつつあることに気が付いた。
これは夢だ。恐らくは死の間際にて、あの瞬間を夢見ていただけ。
そうだ。彼女は聖杯戦争に勝ってなどいない。
むしろその逆だ。
期待されて。期待しろと言って。
無様に敗北を喫したのだ。
「力を持たねえ小娘が──それでも何かを変えたいと、あの時選定の剣を取っていればと願った理想の姿。それが今のお前さんの可能性もあるって話だよ。むしろそっちの方がしっくりくらあ。なんせオレみてぇなのと出会うんだ、何かがおかしくないと無理があるってモンだろう」
槌が振り下ろされる。
痛みはない。ただ、熱がある。
他者が入り込んでくる熱。それは言葉と共に。
「鍛造
彼女は、目を覚ました。
右手の五指にテーピングをして、ふぅと溜息を吐く。
これもすぐに治っていくんだろうが、ちとごつごつしていてやりづらい。
「坊主。今のは──」
「シロウ。……今、私に何をしたのですか」
長らく息をしていなかったかのように跳ねた彼女は、その後。
仰向けになったまま……顔を動かすことすらせずに、その問いをかけた。
「いつもやってることだよ。セイバーを一本の武器と見立てて、鍛ち直した。どうだ気分は。調子の悪いところ出てねぇか」
「……調子は良いです。いえ……意識を失う前よりも、更に」
「そりゃ鍛冶師冥利に尽きる」
「何をしたのか、問いました」
「言っただろ、鍛ち直したって」
そういうことを聞かれているのではない、なんてことくらいわかっている。
苛立ちの空気は二人分。ランサーも聞きてえのか。そりゃまた、彼らしくないことだ。
「シロウ。──私の夢に、貴方がいました。いいや、違う。貴方は明確な意思を持って私に話しかけてきた。私の過去に──私の記憶の中に、貴方がいた」
「……」
「あれはなんですか、シロウ。アレは決して
「いやいや待て待て、そんな大層な魔術師じゃねえよオレは。魔法なんてとんでもねぇ。ただまぁ、記憶の中にいたのは事実だ。勝手に記憶を覗いたし、勝手なことをペラペラと言い連ねた。ま、ある種の催眠みてぇなモンだ。オレと契約してるお前さん相手だからこそできることで、ランサーだの他のサーヴァントだのにゃできねえよ」
右手は背に隠して。
壁にもたれかかったまま……少しだけ語る。
「元々オレの魔術自体自己暗示に近い。
幅広くの魔術を使うなら、そんなことをしたって意味はない。どころか幅を狭めてしまう可能性だってある。
だって昨日の自分を己に憑依させるのだ。あるいは今日学び得たことを無かったことにしかねない。
だから、そうしないように。
オレはオレだと、オレを信じ続けた。トレース・オン。
己は己として存在し。
過去は過去として己に被せられる。そのための自己暗示。
「んで今回オレは、セイバー……お前さんもオレの一部として認識した。
「おい坊主。お前、今誰だ?」
ランサーの名に恥じぬ鋭い指摘。
これには肩を竦めるほかない。
「オレはオレだよ、ランサー。けど確かに自己境界は甘くなってる。多分これから先、所々でオレは……自分をセイバーだと誤認する」
今までは良かった。
刀とオレを同一視しようが今更だ。あの火災の中でそもそも鋼になった奴が、今更灼熱に入ろうと
が、今回は全くの別人だからなぁ、この先どうなるかはさっぱりだ。
「ああ、セイバーにオレが交ざることはねえだろうから安心してくれ。セイバーは英霊で、その人格は謂わば固定されたものに近い。今回記憶に侵入できたのはまぁ相性の問題なんだろう。どんな縁があるのか知らねえが、オレとお前さんはほとんど同一の何かを有しているらしい」
「……その話では、無理をしてまで行う意味のあったことには聞こえません。調子がすこぶるいいことも含めて……なぜ、それをしたのか。教えてくださいシロウ」
「セイバーにはな、オレの魔術回路ってやつを降ろしてある。いや、移植したようなモンだな。ただオレにゃあその技術がねえから、オレという人間をセイバーに降霊させて、一時的にオレの魔術回路をセイバーが機能させられるようにした、ってのが正しい。──代わりにオレはその魔術回路を失った。移植してねえのに失ったのは道理が通らねえってなまさにその通りなんだが、セイバーの対魔力を上回る降霊を行うには刻み付けるくらいの強さがねえとできなかった」
沈黙。
ま、普通は同意のもとやるもんだ。
あるいは遠坂であればもちっと上手い移植のやり方ってもんを知ってたんだろうけど、オレはこれしか知らねえから。
「オレの魔術回路を鋳型にして作った鋳物。そいつをセイバーに押し付けた。元々がヤワな鋳型だっただけに魔術回路はボロボロに崩れて、圧しつけた回路だけが遺された。だから記憶の中にオレが現れたんだ。魔術回路ってのは魔術師が継承していくもの。つまりセイバーは、衛宮士郎を継承していたことになった」
「……では、シロウ。貴方はもう……魔術師ではない、と?」
「全部渡せたら良かったんだがな。セイバーからの拒絶反応が大きすぎて無理だった。だから、ちっとは残ってるよ」
会話が途切れる。
……あー。まぁ。
「一応安心しとけ。セイバーが英雄の座? に戻ればオレの降霊なんてものは吹っ飛ぶ。だから、もし次、どっかの誰かに召喚されるのだとしても、オレの魔術回路は残らねえ」
「何言ってやがる坊主。それじゃあなんだ、セイバーに魔術回路を与えるためだけにお前自身の力を失い、この聖杯戦争に勝つにせよ負けるにせよ、渡した魔術回路を戻すことはできねぇと、そう言うのか」
「元から鍛冶師にゃ不要なモンだろう、魔術回路なんて。今までの十年が楽し過ぎてたんだ、これからはちゃんとやっていかねえといけなくなったってだけだ」
鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。
己をオレだと再確認する。
そのためにも弱くなったってのは良いことだ。オレは決して獅子王ではなく、騎士王ではなく、
「ふん、ちょいと危うさもあるが、良いマスターじゃねえか。……で? 坊主の魔術の詮索をする気はねえんだがよ。魔力供給にゃ然したる問題は無いんだろう? だったらその魔術回路の降霊で、セイバーは何が変わるんだ」
そうだ。本来これは、繋がっていない
けれど……バーサーカーに勝てなかったこと以外、オレの十年の成果のおかげでセイバーは通常運用が可能になっていた。
武芸者ってのは強敵や難敵にあったら修行するなりして力をつけ、そいつを倒して進むモンだ。
けどサーヴァントにゃそれができねえ。
それができねえなら、外付けの力を付けるしかねえ。
即ち。
「セイバー。お前がオレにやめろって言ったことが、お前でもできるようになってる。身体がついていかなくともお前さんの治癒力なら問題ない。そうだろ?」
見たものをイメージとして投影し己に降ろす魔術。
万全の状態の自分でも。
最強だった時の自分でも。
怪物としか言えない敵でも。
背中を預けられる、仲間でも。
ソイツが「武器」として在るのなら、オレはソイツを「武器」として扱える。
「サーヴァント風に、というかマスター風に言うなら、クラス適性を自在に変えられるようになった、ということになるのかね。勿論ステータスってやつもだ。ただし、武器が本質のサーヴァントは真似したって意味が無い。そこんところ忘れないようにすりゃ、案外使い勝手のいい魔術だろう」
「へえ、ってことはオレの速度とも張り合えんのか、セイバーが」
「できることはできるだろうが、セイバーでも両足が千切れるんじゃねえか? ランサーの速さは多分どの英雄にだって耐えられないだろ」
「……ったく、こっちは挑発してるってのに、真顔で返すな。坊主、お前とは気が合いそうだがその一点だけは直せ。額面通りに受け取り過ぎるな」
「ついさっきも似たような内容で怒られたよ」
五指に走る違和感。
もう治ったらしい。ホント、どうしちまったのかねオレの身体は。魔術回路云々よりこっちの方が気味が悪い。
「ああちなみにクラスとしてあるのかは知らんが、
「今朝……シロウの鍛冶を全て見た時から、興味は出ていました」
「そうかい、そりゃ僥倖だ。……ってなわけで、流石のオレもちと疲れた。鍛冶場で槌を振って、少ししたら寝る。……ああランサー、セイバーを襲うんじゃねえぞ?」
「あー、セイバーな。確かにいい女だが、身体が子供過ぎてそういう気分にゃなれねぇ。それよかオレはお前の鍛冶の方に興味がある」
「見せてやるのはいいんだがな、ランサーと二人きりになるな、ってセイバーの言葉を反故にするわけにゃいかねえだろ。セイバーの意識がトんでた間、いつでも殺せてたとはいえ」
冷や汗のうざったらしい背中にできるだけ風を通して……部屋を後にする。
これで、ちったぁ鍛え上げられたと信じてェモンだ。
オレの魔術回路なんざ一切意味を為さねえなんて言われた日には……別の方法を考えるがね。
土蔵へと入り、その戸を閉めて……ふぅ、と溜息を吐く。
そして、ずりずりとその場に座り込んだ。
まあ。
「オレは、衛宮士郎。刀鍛冶。火を追い、火に焦がれ……火であろうとする愚か者」
目を瞑れば記憶が蘇る。
死の気配が充満した大火災。己を見つけたあの男の顔。お天道さんの大仕事。
そして、その周囲に築き上げられた──屍の山。
「……大分、混じってんな」
交ざる程度ならまだしも。
混ざるほどまでいくと、多少どころじゃない雑念になる。
大火災。いや……赤い湖面。
これはイメージだ。セイバーの魔術回路が己に移植されていたのなら、そのとんでもなさにオレってなもんは弾け飛んでいることだろう。
だからただ、これは、彼女の記憶を自身のそれと誤認するが故に見ているもの。
飛沫の一つも上げず、気泡の一つも立てず。
泥のように黙するは──焔の海。
その底で蹲る巨大な影。
たとえこれがただのイメージであろうとも、この炉心において、異物は排斥される運命にある。
これは炉心だ。その中にいた。
「そりゃ」
脅威の具現。
生命体は原初の記憶を有している。即ちこの星がまだ赤熱していた頃の、どこを見ても業火に呑まれていた頃の記憶。
だからこそ人々は地獄をそう描いた。焔の満ちる場所。暗く黒い場所。霊魂という霊魂が焼け死んでいく場所。
そして──今、イメージの中で生まれ出でた脅威は。
赤き竜と謳われるモノ。
「羨ましい、こったなぁ……」
背筋を通る汗が鬱陶しい。
四肢を刺し貫く痛みが邪魔臭い。
たかだかイメージの分際で──己を内側から食い破ろうとするなどと。
「ハッ……
記憶が混ざる。
一体己は何年を生きたのか。ブリテンのために戦い抜いた記憶。剣の魔力によって老化は止まり、その姿は恐れられながらも神秘性の顕現として頌歌を受けた。
一瞬で爺いになった気分。
大して生きてもいない自分が。
一つの歴史として刻まれるほどに。
何者かになってしまったかのような。
「
這う這うの体になって、ようやく鍛冶場に辿り着く。
鉄鎚を握って言葉を吐く。少なくなった魔術回路でも問題はない。
「
重く苦しい腕を振り上げる。
炉に火もいれていない。窯に火をつけていない。
赤熱していない鋼を叩いたところで何になるわけでもない。
「
それでも周囲は業火だった。
それでも此処は炉心だった。
「
疲れからか──意識と同じくらい手放すまいとしていた鉄鎚が、右手からぽろりと零れ落ちる。
オレは。
「舐めんじゃねえ……ああ、そうだ、オレは」
此処にあるのはたかだか十年。
百の刀、千の刀を先んじて、捧げに捧げた刀塚。
此処に辿るは僅かな執念。
此処に示すは微かな宿命。
此処に積もるは一縷の希望──。
我が人生は未だ無明なれど、全てはあの一振りに至るために。
──そうだ。オレは刀匠でもブリテンの王様でもねえ。
未だ何者でもない「誰か」。
「それが……衛宮士郎だ」
焦熱地獄に差し込んだ黄金を弾き返す。
竜なんぞオレの中にゃいねえよ。ただ、その
炉を持ち歩ける鍛冶師なんざ歴史を見てもオレくらいだろう。
あるいはそれもいいかもしれねえ。大道芸だが、ほら、喉から刀が出てくるやつだ。
オレの内側で刀を鍛つ。
そういうことだって……。
「シロウ? 大丈夫ですか、シロウ」
「坊主ー。死んでんなら返事しろー」
む。
……忙しないやつらめ。男の子の
「阿呆、死んでたら返事できないだろう。生きてるよ、万事滞りなく」
「では開けてくださいシロウ。そも、少し鍛冶をしたら眠ると言っていたではありませんか。朝まで行うとは聞いていません」
「朝まで?」
落とした鉄鎚を元の場所に戻して、赤熱してもいない鋼から手を離して。
土蔵の戸を開ければ……おお、眩しい朝日。
「……シロウ。まさかとは思いますが……一睡もしていない、ということは、ないですよね」
「そういやよ、坊主。セイバーと完全に同調した、みてぇなこと言ってたが、そりゃセイバーの身体の全部を把握した、ってことであってるか?」
「ん、ああ。そうだが、いきなりなんだランサー」
「シロウ!」
「だったらよ、坊主も年頃の男なんだ──眠れなかったのはちっとは興奮、」
「ランサー、雑談は後にしてください! シロウの睡眠時間はあまりにも短すぎる──眠らないというのなら、気絶させてでも眠らせます」
「いや眠る眠る。ちぃっとばかし集中し過ぎただけだ。それとなランサー、昨日は真面目な場面だっただろう。そういうことを考えながら魔術を使えるほど
……?
今、何を言い直したんだ。
噛んだか、オレ。
「シロウ。眠れないのなら」
彼女が持ち上げるは──風を纏う、不可視の剣。
いやいや。
それを使われたら永遠の眠りになりますよ。
というより。
「すまん、セイバー」
「なんですか、この期に及んでまだ──」
「これは気絶する。後は頼んだ」
ぱたり、と。
暗転する意識と共に倒れる。ただ、地面に激突した感触はなかった。
あったのは──柔らかな抱擁。……あとちょっとだけ痛かった甲冑への激突……。