Fate/senji might 作:ONE DICE TWENTY
喝采が聞こえる。
此度も勝利を齎した
聖剣を杖のように持ち、見据えた先にあるものは栄光。勝利すべき黄金のみ。
「……バカじゃねぇのか」
目を、覚ました。
ちぃとばかし紅潮する頬。今の夢は……例えるのなら、『オレがブリテンの王様になったら』『転生したらブリテンの王だった』とかか。
周囲を見渡すと……どうやら寝室。特に変わったところはない。
しいて言うならお天道さんが真上頃にあって、道場の方からパシュパシュという音が聞こえるくらいか。
……パシュパシュ?
ちいとばかし気怠い身体を叩き起こし、のたのたと道場の方へと向かう。
ルーティンを欠かしちまったことは……まぁ、徹夜分で補えるだろう。
それよか学校を無断で休んだことが……って、ああ、そうか。あの件で休校になっていたのだったか。
道場に入る。
入れば。
「はぁっ、せ!」
「っとぉ、中々……!」
チャンバラをしているセイバーとランサーがいた。
……何やってんだこいつらは。
「ん、起きたか坊主」
「取った!」
「……いやまずマスターが起きてきたことを喜べよセイバー」
ランサーの頭に当たる竹刀。
真っ当だ。至極。今のでわかる。ランサーの方がオトナだ。
「そ……そうでした、シロウ。おはようございます。身体の方は」
「なんともねえよ。元々疲労で寝過ごしたってだけだ。心配も迷惑もかけてすまなかったが、この通りピンピンしてらぁ」
「……そうですか。それは、安心しました」
「んで? 二人して何やってたんだ」
周囲を見渡せば。
幾つかの竹刀が散乱している。というかぶっ壊れてやがる。
「いえ……シロウが眠っている間、シロウが施してくれた魔術というものに慣れておこうと思いまして」
「オレが軽く手合わせをしてたってワケだ」
「ふぅん。で、どっちが勝ったんだ?」
「稽古に勝ち負けなんざねぇよ。だが、確かにクラス適性はコロコロ変えられるみてぇだな。キャスターだけは試してねぇからわからねえが、
「初めの内は力加減がわからず竹刀を何本かダメにしてしまいましたが、慣れてからはその……楽しくなってしまって」
「オレもだ。殺し殺されの聖杯戦争中に何やってんだって言われたら返す言葉もないが、セイバー程の実力者との打ち稽古ってのは中々に楽しいモンがあった。こりゃいつかを期待する一騎討ちにも一段と楽しみが勝るってモンだ」
……なんだかランサーに手の内を明かし過ぎているような気もするが。
今更か。
「シロウ。ランサーに手の内を明かし過ぎたことは謝ります。魔力放出が無ければ私の膂力が並みの少女と変わらないことを知られてしまいました」
「別にンなこと利用するつもりはねえよ。何よりその魔力放出がある万全の状態でやり合えるよう坊主が鍛き直したんだろ? じゃあどうでもいいことだろうが」
流石のオレも空気が読める。
魔力放出が無ければセイバーは少女並み……ってぇのは、まぁ記憶を省みりゃその通りなんだが、武芸者であるってな先入観が先行しすぎてて……知らなかったというか、失念していたというか。
力負けするとはいえバーサーカーのあの巨体とまともに打ち合えるゴリラだったと思っていた、なんて口が裂けても言えねえやな。
「しかし、腹が減ったな。桜はどうした?」
「桜? ……そういえば今日は来ていませんね」
「なに?」
学校が休校になったとはいえ、ほとんど通い女房をしてくれていた桜が……来ていない、というのは。
土日祝日関係なく毎日のように来てくれていた彼女が……。
「……セイバー、オレ、言ったよな。慎二のやつが昨日の今日で大人しくしているはずがない、って」
「ええ、聞きました。ですが昨日仕掛けてくる様子はありませんでしたね。バーサーカーとの戦いには割り込めなかったのではないですか?」
「そうだったら好いんだがな。……嫌な予感がする。桜は慎二のやつの妹なんだよ。同じ家に住んでんだ」
慎二は堕ちた。堕ち切った。それでもサーヴァントに殺されるってのは納得がいかなくて、止めた。
けどあそこまで外道に堕ちてんなら。
そして、サーヴァントを手にしたことで、己の優位性を維持したがるアイツなら。
「間桐の家に行く。……前に通りがかった時、妙な違和感……悪寒に近いモンを感じててな、あんまし近寄りたくはなかったんだが、コトがコトだ。加えてランサーが来たのもそのためだろう?」
「あ? ……あー、そういやそうだな。自分の巣穴に引っ込んで臆病風吹かせてるマスターどもに火を点ける。確かにそれがオレのマスターからの命令だった。すっかり忘れてたぜ」
「それでいいのかサーヴァント」
「いいんだよあんなマスターの命令なんて。坊主とセイバーを見ていた方がずっと気持ちがいいからな」
そうか。
なら。
「冷蔵庫にある冷凍食品食べてから、出陣だ」
桜には怒られるだろう。飯はちゃんと食えという桜の忠言を無視して、オレが冷凍食品をそこそこ溜め込んでいることは……まぁ知られてはいるだろうけど、それを使わせないために彼女は通い続けてきてくれていたのだから。
だから、桜にちゃんと怒られるためにも。
確認をしに行かなければならない。
そうして辿り着いた間桐の家は……明らかにいつも通りとは言えなかった。
「ンだぁ、こりゃ……」
「学校にあった結界とは違うみてぇだが、中にいるモンを害する、って点では似てるように思う。
少なくなった魔術回路でもしっかり機能する。
流れるように使ったからだろう、セイバーから抗議の視線が飛んでくるけど知らん知らん。
この二騎を従えている以上、
「シロウ、要はどこに?」
「……二階。何度か行ったことがあるが……あそこは慎二の部屋のはずだ」
「便利な魔術だな。戦えるヤツがいねえと何にもならねえが、軍師に置くなら丁度いい」
「それがそうでもねえ。色々条件と制限があんだよ。そこまで便利ならオレは常日頃からこの魔術を使ってらぁ」
「そうは言うがな坊主。実はオレにもキャスター適性ってのがある。そのオレをして言うが、そいつは
「あー、武芸者と言い合いをする気はねえよ。お前さんが便利だって言うんなら便利だって認めてやる」
どんだけ言い負かしたいんだコイツ。
「シロウ、ランサーの言いたいことは、恐らく──」
「雑談をしている暇はねえな、こりゃ。……この要、微動だにしねぇ。人間ってのは寝ていようが瞑想していようが微かには動くモンだ。だが……」
「全く動かねえ人間がいるとしたら、そりゃ死体か」
覚悟を決める。
慎二は外道に堕ちた。オレはサーヴァントによる慎二の虐殺は認められない。
だけど。
もし、桜が……包丁なんぞを持って、慎二のやつを刺しちまったら。
優しい桜のことだ。慎二の外道に対して取る行動は二つに一つ。即ち、我慢して寄り添おうとするか、自分を殺して慎二を止めようとするか。
魔術師がどうのなんざ関係ない。
あの子は、そういう子だ。他人の怪我を見て自分が痛がるような、そんな少女だ。
「坊主、自分の身体を守るような魔術があんなら、使っておけ。こりゃ中に入った時点で人間の生気を奪う。あの学校にあったモノとは違うと言ったな。そりゃ違う。
──成程。
「
真髄解明、完成理念とは違い、こっちは
追想なんぞする必要はない。
あの年月を降ろすだけでいい。
セイバーのような魔力放出ができない以上、戦うことはできないけれど。
今、この身は、セイバーの対魔力を手に入れた。
「……その魔術についてもう少し聞きたいことができましたが、今は進みましょう。この先は敵地。私が先陣を、ランサーは殿をお願いします」
「任された。坊主は中央にいな」
「背中からグサリ、はやめておけよ?」
「やるかもしれねぇのがオレ達の関係、だろ?」
「言ってろ」
踏み、込む。
中は……もはや異界と言って差支えの無い惨状だった。
高そうな調度品がドロドロに崩れ、至る所に血液が散乱している。
さらには……蟲、だろうか。羽虫のような、あるいは芋虫、そして甲虫……とかく蟲としか表現できないモノが死に絶えている。
慎二のヤツに昆虫を飼う趣味はなかったと思う。そういう、何かの世話をするコト、はとことん苦手にしていたはずだ。
けれど……苦手だけど、できるやつだった。そうだ、外道に堕ちた今をして何を思い出すのだという話ではあるけれど。
アイツは努力家なんだ。なんでも高水準にできる天才だけど、自身の性格だけは変えられなくて、それでもそれをどうにかしようと努力していたヤツ。
オレを気に掛けてくれていた数少ない人物だから、ってだけじゃない。
オレは、アイツのそういうところに惚れこんで、オレからも友人を名乗るようになった。そしてそれは一成も──。
「二階に誰かいます。気配が二つ。……シロウ、要は」
「相変わらず動いてねぇし、セイバーの視線の先にあるよ」
「……桜の救出を最優先とし、家具類の破壊は二の次で行こうと思いますが、どうでしょうか」
「ああ、それでいい。オレは慎二を見つけてぶん殴る。ランサーは後ろからの追撃の警戒と、多分いるだろうライダーの対処を頼む」
言葉に。
ランサーは、「お」なんて返事をした。
「それはつまり、ライダーを貰っちまってもいいってことか、坊主」
「……ああ。バーサーカーはセイバーが討ち取るんだ、この先どの陣営とどうぶつかるのかは知らねえが、お前に一騎討ちさせんのはライダーだ。見せてくれや、武芸者の本当の一騎討ちってやつを」
「へっ、言うじゃねぇか。いいぜ、期待に応えよう。ついでに今尚静観決め込んでるオレのマスターが苦言を呈す程度にゃ魔力を吸い尽くしてやる……!」
なんだろう。
ランサーはランサーで、ずっと……自分のマスターに不満たらたらというか。
余程嫌な奴に召喚されたらしい。あれ、けどマスターとサーヴァントって似るんじゃなかったっけ。
ああいや、雑念雑念。
今は──桜だ。
「突入します」
慎二の部屋の前に構えて──その扉を、蹴り破る。
「慎二、テメェ堕ちるところまで堕ちたと思ったが、それ以上とは恐れ入っ……」
「──」
言葉が止まる。
出なくなる。
だってそこに居たのは、いいや、
「……職人技にも程がある。いや、どこのどんな職人がこんなけったいな石像を……」
「シロウ、今は冗談を言っている場合ではないでしょう。マスターである彼が不在で、彼の石像がここにある。──ならばその石像こそが彼自身だ」
理解は、及んだ。
まぁ。
こんな、あまりにも生き生きとした石像を作れるのは、ギリシャ神話に出てくるピグマリオン王くらいだろうから。
「それより、先程私は二人分の気配を察知しました。片方は確実にサーヴァント。ですが、桜もサーヴァント……ライダーもこの部屋にはいない。何があれば……」
「まぁ──このまま気付かないフリをするのも、良かったんだがな。ちったぁ心の整理も必要だろうから」
「シロウ?」
この部屋に入る前から魔術は使っている。
だから、この部屋に入ったその瞬間──この結界の要というべきものが見えなくなったことも理解している。
位置を考えるに、慎二の石像が手に持つ本……恐らく魔導書と呼ばれるものが要だったはずだが……それが「そうではなく見える」ということは。
「これは幻術とかそういう類のヤツだろう。オレもセイバーも対魔力を持ってるってのに一瞬で、ってのは大したモンだが、"そこにいるヤツを見なくさせる"程度なら造作も無かったのかね」
なぁ、と。
慎二のベッドに座って……彼女の頭を撫でる。
「……せん、ぱい」
「おうよ。すまねえな、桜。オレはお前さんに謝らなきゃいけねえ」
見えない彼女を、手触りすらない彼女を。
けれど……涙を流していることが理解できる、その少女を。
「先輩が……謝ることなんて、一つも」
「昼飯、冷凍食品を食ってきた。電子レンジは文明の利器ってやつだ、手軽に食えて美味い」
「──……」
セイバーも何かを察してくれたらしい。
警戒は解かずに、けれど黙して立っている。
「何があったか話せるか?」
「……。──……兄さんが」
そこから、ぽつりぽつりと。
桜は……事実を語った。
慎二がオレと遠坂の関係性を邪推したこと。遠坂の策略によりオレは遠坂を裏切ったフリをさせられ、慎二に取り入ろうとさせられて……だからオレが慎二を守る、なんてことをやったのだと。マッチポンプを起こして、油断した慎二を後ろからグサリと、そう考えたんだと。
だから同じことをしようとした。慎二から逃げる桜を使い、遠坂をハメようとした。遠坂が桜を妙に気遣っていることはわかっていたみてぇだからな。「そっちが先にやってきたんだ、やられたって文句はないだろう」と……そう言おうとしていた、らしい。
完全な疑心暗鬼だ。普段の慎二なら、もう少し考えられる。此奴は此奴でかなり頭のいいやつなんだから。
けれどそれが、その作戦が、ダメだったらしい。
なぜか間桐の御隠居さん──確か臓硯の爺さん──が出張ってきて、慎二を止めた。桜を使うことは許さん、と。
理由は……桜こそが、ライダーの本当の召喚者で。
慎二のヤツは、あの魔導書を媒介に令呪を譲渡してもらってライダーを従えていただけだから、という話。
「兄さんは絶望して、怒って、涙を流して……"結局期待されていたのは、大切にされていたのは僕じゃなかったんだ"、って……それで」
「ああ……そうか、そいつはトリガーだろうなぁ」
それで。
慎二は、臓硯の爺さんに、牙を剥いたのだとか。
本物の魔術師に、借り物の力を従えた魔術師見習いが牙を剥いて……敵うはずもなく。
だから桜は、ライダーに命じた。
宝具の使用を。
「
「生命力を持たねえ石像にしちまえばその対象から逃れられる。桜は慎二を助けたってわけか」
「……それも、ライダーの力です。石化の魔眼・キュベレイ。それによって兄さんは瞬く間に石となりました。先輩たちに悪夢を見せたのも、ライダーの宝具です。……ごめんなさい」
「実害らしい実害がねえんだ、謝られる謂れがねえ」
んで、そこまで聞けば、ライダーの正体もわかる。
「彼女は……ゴルゴン三姉妹の末妹、メドゥーサですか。女神として生まれ、人々の狂信から逃れた三女神。その力によっていつしか英雄殺しの魔獣ゴルゴーンと成り果てる者。……魔獣となる前の彼女が呼び出されたのでしょう」
有名な怪物だ。日本での……怪物としての知名度は五指に入るんじゃなかろうか。
髪の毛が蛇で、目のあったモノ全てを石にしてしまう怪物。
それがあの悪寒の走る姉ちゃんで。
「
「
今──ランサーの宝具によって、消えていったサーヴァントなのだろう。
幻覚か催眠か。オレ達にかかっていたものも解除される。
見えるようになった桜のその姿。
──全身血塗れのその姿に、一瞬、言葉を失う。
「桜……」
「あ……これは、私の血ではなく、……ライダーと、……私の中にいた、その」
「成程、ランサーはアイルランドの光の御子だったのですね。なればあの速力も頷けます」
「……ん。いや、いい。桜が話したくなったら話してくれ。オレはお前さんが無事ならそれでいい。……あとはまぁ、できりゃ慎二も無事であってほしいモンだが……神話の女神サマによる石化ってなは、そう簡単に解けるモンなのか?」
引いていく。
異界化していた間桐の家が、その力を失っていく。
あとに残るは無数の蟲の死骸と、石化した慎二と……力なく笑う桜だけ。
……いや、まだあった。
二階ではあるが、トラックにでも突っ込まれたんじゃねえかってくらいのどでけぇ穴が。
「兄さんの石化は、私が解きます。……いつになるかは、わからないですけど。少なくともライダーは、殺すために使ったわけではないと言っていましたから」
「そうか。……んじゃ、慎二をぶん殴るのもその後にしよう」
今回、オレの出る幕はなかった。
ただ──桜のサーヴァントとして召喚されたライダーが、その身の全てを賭して桜を守り、そして散っていっただけ。
そりゃそうだ。聖杯戦争ってな名前がついている以上、オレだけが全部のサーヴァントと戦いまくるなんてこたねえ。
こういうことだって戦争中には起こり得る。切り捨てるべき部族と部族を争わせて、その疲弊を異民族へとぶつけるような……ああ、うるせえうるせえ。
濃厚な人生送りすぎなんだよ小娘のクセに。
「戻ったぞ、坊主……と。すまねえな、嬢ちゃん。ライダーはオレが殺した。恨みたきゃ恨んでいいぜ」
「……」
「んなこと言われたって、って顔だな。ま、恨むんなら恨んでもいいとは言ったが、かかってくるなら容赦はしない」
「……いえ。私は、兄さんの石化を解くまでは……死ねませんから」
「そうかい。兄想いの良い妹だ。……で、坊主。こっからどうする」
「とりあえずここから離れるべきだろうな。殺人現場も真っ青な血みどろ具合にこの破壊痕。誰かに見つかろうものなら大騒ぎだ。慎二と桜をウチに運んで、ちぃとばかし掃除をして……あー、家造りは専門外だが、ブルーシートかけとく程度で改修工事中なんだって誤認させられるだろ」
「そういう話じゃねえよ、
ピリ、とする殺気。
セイバーが剣を持ち直す。
「オレの宝具を聞いて、オレの正体も理解したんだろ? だったらオレとセイバーを一騎討ちさせる絶好のチャンスだろう。それをどうするかって聞いてんだよ」
「何言ってやがる。まだアーチャーの脅威は消えてねえんだぞ。ランサーにはいてもらわなきゃ困る」
「……なんだ、あの赤い弓兵にオレをぶつけんのか?」
「そうする、しないは別として、セイバーがバーサーカーにリベンジすんだ。その時にもう一度アーチャーの弓を弾くやつがいねえと困るだろうが」
ランサーは……きょとんとした顔をして。
そしてそのまま、クツクツと笑いだした。
「ハ……聞いたかよセイバー。あれだけの惨敗をしたテメェを、この坊主はもう一回、何の策もなくアイツにぶち当てる気だぞ。よう坊主、お前、セイバーの記憶が混ざってんだろ? セイバーの正体はまだ知らねえが、その中には戦だの軍略だのもあったはずだ。それが告げねえのか。此奴じゃアレには勝てねえ、って」
「阿呆、もう一度言うがな、何言ってやがるんだランサー。オレが
隣にいる桜にゃ何の話だかちんぷんかんぷんだろうが、ここだけは譲れない。
バーサーカー。
オレはあいつに、もう一度セイバーを当てる。
「安心してください、シロウ。次は勝ちます。──貴方の鍛冶師としての名誉に懸けて」
「おう、そうしてくれや。……んじゃランサーは慎二の石像運んでくれ。桜は……シャワー浴びて、着替えてきな。その服で出歩くのはちとマズい。あと持っていきてえモンがありゃ自分の部屋から持ってこい。しばらくウチに泊めてやる。ハ、通い女房ががっつり女房になったってか」
「……」
「……」
「……あー。坊主、お前……」
ん。
どうした、この沈黙は。
「ランサー、小間使いを頼まれてくれんなら、慎二の石像を土蔵において、ついでに土蔵の隅っこの方にあるブルーシートを取ってきてくれねえか」
「そりゃ冷遇にも程があるだろ」
「馬鹿言え、お前さんが最速の英雄だから頼むんだろうが。……オレとセイバーがえっさほいさと慎二の石像を担いでんのを誰かに見られてみろ、……いやまぁ元からオレは変人として名が通ってるから今更新たな噂の一つや二つ気にしねえが……セイバーも別に顔が知られてるわけじゃねえからいいが……あ、ダメじゃねえか! シャワー浴びてる桜とお前さんを二人きりにしたんなら、何するかわからねえ!」
「信用するなと言ったのはオレだがな、そりゃあんまりじゃねえか坊主」
「英雄色を好むッてな言葉があるが、ケルトの英雄なんざその代表例だろうが! お前さんの親友フェルグス・マック・ロイの逸話をお前さんが知らねえとは言わせねえぞ!」
オレも魔術師の端くれだ。神話にはそこそこ造詣が深い自信がある。
ランサーの親友にして──そう、一晩で七人を抱いたと知られる者。
「あー……まぁ……あいつを引き合いに出されると……反論は、無い」
「成程。御身の逸話は数あれど、御身も相当色を好む逸話がある。──どうか、この場は私達に」
「そこまでの節操無しじゃねえ、が……。……ま、いいだろう。どの道オレの名を知った以上、
確か、誰かと交わした誓約を守る習慣がケルトの戦士にはあって、破ると呪いがかかるとか。
ランサーの場合であれば、「生涯犬は食べない」、そして「一日に一人の戦士のみと戦う」、さらには今話題に出たフェルグスとの「一生一敗」など。というか確かコイツ、もっともっとたくさんの誓約を背負ってるんじゃなかったか。
まぁそりゃ正体隠すわな。オレみてぇな一騎討ち専門のやつばっかじゃねえんだ、弱体化狙いで誓約破らせまくりゃアイルランドの大英雄とて倒し切れるほどになっちまう。
「それはそうと、坊主」
「あん?」
「オレはそもそもそっちの嬢ちゃんに興味はねえが……坊主こそ、覗くなよ?」
「阿呆め、桜についた血の半分はライダーのものらしいじゃねえか。それを洗い流すってのは惜別の儀式に近いことだ。んなもん
「そうかい。いやまったく、肝が据わってんだか据わってないんだか。大物になることは間違いねぇだろうが」
……なんて、意味深なことを言い残してランサーは消えた。慎二の石像と共に。
ったく。肝の据わってねぇ刀鍛冶がいるかっての。
「……ん、なんだお前さんら。オレをじっと見つめたりして」
「いえ。……先輩は、やっぱり先輩だなぁ、って」
「シロウ……私はキャスターのクラス適性を得ましたので今キャスターになっているつもりで言います。貴方には女難の相がある」
「???」
なんだこの居心地の悪い空気は。
──"
うるせぇな。なんだその記憶は。
聖杯を手に入れて本当に過去になんぞ跳んで言った奴の根性鍛き直してやろうか。
この空気は。
ランサーがブルーシートを持って帰ってきても尚……桜がシャワー浴びて身支度を整えるまで続いた。
……ランサーの「オレは全てわかってる」みたいな顔がムカついたんで蹴ってやった。こっちが痛ぇとは何事かってんだ。