Fate/senji might 作:ONE DICE TWENTY
アイツの辿った、
突き刺さった無数の矢。
倒れ伏す無数の人々。
それらを無感情のままに見据える、褐色肌の偉丈夫。
あらゆる人間のために。あらゆる人間を救うために。
そのために世界から悪を、悪事を、悪を為すモノを排除し続けた彼の人生。
──最後に待ち受けていた物は、冷たい手枷と絞縄だけ。
彼の背には無数の罵倒と、無数の
彼の腹には無数の後悔と、無数の
生前も、死後も。
ずっとずっと──正義の味方として。
理想の体現者として。
憧れたモノへと、手を伸ばしたモノとして在り続けた男の姿。
エミヤシロウという男が辿る可能性のあった──ある、一つの
「──ふざけやがって」
見続けた。何度も繰り返したこの記憶に、異物が混ざる。
それは怒りの声だった。それは少年の声だった。
それは、本来であれば苛立ちしか覚えないはずの、未熟で、遠く古い──己の声だった。
「テメェがオレの末路だと? コレが?」
「いや。……オレは確かにエミヤシロウという男だったが、おまえはオレではないのだろう。おまえはこの
「うるせぇな、そんなことに怒ってんじゃねえよ
ここは記憶だ。
ここは夢だ。
何度も見たものだから、彼はそれを瞬時に判断できた。
そして、最早別物となった相手とはいえ同じ人間であるのだから……巻き込んでしまったのだと、そう考えた。
そう、勘違いした。
「もう一度見せやがれ、今の記憶」
「……見て面白いものではないだろう。オレはおまえのようにはなれなかった。なれる可能性があったのに、ならない道を選び続けた愚か者だ」
「良いから見せろ。ふざけやがって、ふざけやがって、
地獄があった。
老若男女問わずの死体。抑止の輪より召喚される掃除屋として、人理を脅かすモノを、あらゆる悪を殺し続けただけの生。
生前の記憶は摩耗し続け、守護者と成り果てたのなら時間の概念も消える。
先程と同じだ。
何度も何度も見続けた、己自身の間違い。
「おい、アーチャー。テメェ、なんでこれしか記憶に残してねぇんだ」
「こういったことしか記憶に無いからだ。他の、オレという個人が持つ人格などはとうに擦り切れて──」
「んなはずねぇだろう。いたはずだ。いたはずだ。いたはずだ。テメェが未然に悪事を防いだのなら、あるいはすでに起きた災害を食い留めたというのなら、今まさに起きようとしている苦しみを殺したっていうんなら──いたはずだ」
怒るのも無理はないと考えた。
この衛宮士郎が語った正義の味方は、己の目指したものとは全く違う。
これは真実掃除屋だ。これは真実殺戮者だ。
人を生かす剣など、どこにも、欠片も存在しない。
「テメェが救ったやつは、どこに行きやがった」
「──……」
「全部は救えねえ。だから九を助けるために一を殺した。そりゃそうだ、人間ってなモンは悪性の塊で、時折見せる善性が薄皮一枚のお手て繋いで仲良しこよしをしてるようなモンだからな。その手を離したヤツは全体に含まれることなく殺すほかねえ悪になる。千のために五百を切り捨てる必要があんなら、五百の起源たる百を殺す。テメェの選択に間違いなんか一つもねぇ。どんな英雄だろうとお侍さんだろうと将軍サマだろうと、全く同じ選択をしただろう」
だが、と。
憤りを隠さない声で、彼は言葉を
「テメェの記憶の中に、なんで救ってきた大勢がいねぇんだ。大のために小を切り捨てたんなら、せめて救った大くらいは覚えておけ。死者の顔ばかり覚えやがって、それを忘れねえために頭ン中へ刻み付けるくらいなら、生者の顔も全部覚えやがれ。殺したヤツの責務を問うなら、それこそがあるべき姿だろう」
「器用では……ないんだ。失わないように、失わないようにと求め続けた結果がこれで……だから」
「
鉄を打つ音。鉄を打つ音。鉄を打つ音。
錬鉄の音とは違う、鍛造の音。
「今から
わからなかった。
なぜこの少年が、これほどまでに苛立っているのかが。
もし彼がエミヤシロウ……正義の味方を追い求めるだけの道化であるのならば理解できる。理想の体現者として現れた己を認めがたい未熟者。それならば己の存在など許せないだろうし、気に食わないだろう。
だが彼は違う。
そうではない未来を掴んだ少年には、エミヤシロウを毛嫌いする理由がない。
「理由がないだぁ? 阿呆めが、あるに決まってんだろ。──テメェのやってきたことが、テメェの在り方が!
轟、と。
剣の突き刺さった丘に……業火が現れる。
いつの間にか、そこはユメではなかった。
凛。セイバー、ランサー。
そして、エミヤシロウではない衛宮士郎。
鉄を打つ音。鉄を打つ音。鉄を打つ音だけが、ユメの続きであるかのように響き渡り続けている。
「テメェを否定することも、テメェがテメェを否定することも──
エミヤシロウ。
彼の中に貯蔵された、蓄積された、無数の剣。
彼に許された唯一の魔術。遠坂凛という優秀なマスターのおかげで最大限に運用され続けているはずの固有結界が──侵食されていく。
無数の剣群は、全く同一の刀群へと塗り替えられ。
巨大な
「体は剣で出来ている……だとかなんとか言っていたよな、テメェ」
「──」
それは少年の手元にあるモノに。
一振りの刀。刀であったモノ。ところどころが刃毀れしていて、ところどころが錆びていて、折れていて、曲がっていて。
それでもまだ──ギリギリ、武器であるモノ。
鉄を打つ音が響くたびに、世界が押し返されていく。
歯車を覆い隠す砂埃に塗れた雲も晴れ。
墓標にしか見えなかった剣群のすべてがあの一振りへと集約し。
エミヤシロウの
摩耗したはずの、もう覚えていないはずのそれらは、けれど失われたわけではない。
忘却の彼方へと置いていかれただけのそれらは、けれど消えてしまったわけではないのだ。
想起するは──必要ないと切り捨てたはずの、「誰かたち」の笑顔。
平和の、涙を零さなくてよくなった世界の、食べる喜びを知った子供達の──忘れるべきではなかった記憶。
勿論それだけではない。補強されていくものの中には苦いものもある。もはや「いつも通り」としか思わなくなっていた罵声。恩讐。糾弾。
すべてが元に戻る。すべてが鍛ち直される。
いいや、それだけではない。
少なくとも。
エミヤシロウが、「霊長の守護者」などというものではなく……ただひたすらに「正義の味方」を行い続けていた頃にまで、引き戻される。
もっと強い言葉を使うなら──焼きつけられていくのだ。
エミヤシロウという掃除屋に、あの、青臭い理想論を掲げた衛宮士郎が、思い出したくもない過去であったはずの彼が。
それが降霊術であると気付いた──その時にはもう、遅かった。
「
そうだ。
この少年は、この固有結界の中に入った時、何かの魔術を使っていた。
発話される言葉があまりにも己の知っているものと似すぎていたから気付かなかったけれど、この少年はエミヤシロウのような投影魔術の使い手ではない。
彼が初めに言ったように。
言葉を射るだけなら、そんなものは必要ないはずなのだから。
鉄を打つ音がまた響く。
ノイズのかかった記憶から声が聞こえる。
忘れてしまった人たちの声。何かを──力の限り何かを伝えようとしている人々の声。
それがたまらなく恐ろしいもののように感じて、思わず剣群を向かわせた。
侵食されて尚、この世界には無数の剣が存在する。全てが贋作でありながらも、真に迫る硝子細工。
鉄を打つ音が響く。耳を塞ぎたくなる音。精神干渉の魔術でもこれほどの効果は起こせまい。
「っ、成程、それでも
「ランサー、打ち漏らしがあれば頼みます! 貴方は私より速く、巧い!」
「へっ……なんだ、格式ばった騎士サマの割に、ちゃんと誰かを頼れるじゃねえか!」
無数の剣。無数の剣。無数の剣。
これこそがエミヤシロウの宝具、『
だが、理解できる。無理だ。無理なのだ。
エミヤシロウはあの二人を知っている。知らないはずがないほどに知っている。
ならば、あの神造武器を……遠坂凛という最高のマスターがいるからこそ作り出せる贋作を。
そんなことまで考えた、ほぼ直後。
「
ありがとう、と。
ありがとうございます、と。
この命を繋いでくれて。私達を救ってくれて。
初めて、
「
振り下ろされる。
剣群の全てを。己自身が偽物だと断じ切った全てを。偽物でも構わないからと追い求め続けたはずの理想の、その失墜を。
一振りの究極が──断ち切っていく。
間違っているはずがなかった。
だってそれが間違いだというのなら。
ああ、そう。それに気付いた時点で。
「……謝ろう、衛宮士郎。オレは、間違えてなど、いなかった。オレはおまえのユメを否定しない。そのために……オレの軌跡を、間違いなどではなかったのだと認める」
「そうしろ、このすっとこどっこい。テメェは良縁に恵まれてんだ、
エミヤシロウは最初から最後まで、そしてこれからもずっと──正義の味方であり続けるのだから。
思わずドサリと尻餅をつく。
「シロウ!? 大丈夫……そうですね」
「固有結界を破ったか。坊主お前、自分は単なる刀鍛冶だと宣ってたのはアリャ嘘だったのか?」
「嘘なわけ、あるか……阿呆。……はぁ、……まぁ、なんだ。……やったことは……セイバーにやったのと、同じだ」
敵の腹の中だっていうんだ。
腹の中から全身を見て、同調させて、オレを降ろした。
しかも中身を見てみりゃ驚き桃の木山椒の木。……まさかの、別の可能性を辿った己たぁ流石の
だが、というかだからこそ、セイバーの時より上手くできた。
だって構成材質がほぼ完全に同じなんだ。そしてオレは、昨日の自分を己に降ろして同じ刀を鍛つ鍛冶師。
鋼の材質が完璧に同じだってんなら、失敗なんざするはずもねえ。
ただ──ちょいと刃毀れが激しすぎた剣だったんで、他の剣より鍛つ回数が何十倍にも膨れ上がっただけ。
つまりこの疲労は。
「魔力切れ、ってやつだ。……セイバー、不調はねぇか」
「ええ、何も」
んで……また一気に老け込んだ。
衛宮士郎の半生と、アルトリア・ペンドラゴンの人生と、エミヤシロウの生前と守護者になってからの記憶。
人一人が飲み込むには長すぎる年月がオレの頭ン中にあって……最早どれがオレの記憶だったのか判りゃしねえ。それもまた、精神鍛練でなんとかしなきゃならねえ話だ。
……ちなみにエミヤシロウの魔術は使える気がしねえ。
オレとは武器の作り方が真逆すぎて、この一点のみでオレとアイツを分断できる。
そもを言うなれば、オレの心の中にゃあそこまで多種多様な剣は入ってねぇ、ってのもあらぁな。あるのはあの時見せたような一振りの刀だけなのだから。
「凛」
声が響く。
ああ、そうか。別にまだ終わったわけじゃねえのか。
エミヤシロウの魔術を打ち破っただけで、勝敗は決していない。
「なに、アーチャー」
「約束していた通りだ。今回、私の我儘を一つ聞いてもらった。よって次は、令呪を用いられずとも君の我儘を聞こう」
「……それ、もしわたしが衛宮くんたちを襲え、とか言ったらやるワケ?」
「無論だ。サーヴァントとはそういうものだろう?」
息を整える。
ちょいとふらつきながらも……立ち上がる。
いつでも受け付けるって言ったからな。
なに、オレが万全じゃなかろうと、セイバーは万全だ。問題ねえだろう。
「じゃ、アーチャー」
「ああ、なんだ凛」
「一旦家に帰って、ショッピングに付き合いなさい」
「──? む。すまない凛。今一瞬聴覚に齟齬があったらしい。もう一度言ってくれないか」
「だから、ショッピングよ。アンタの気晴らしのためにわたしは大勢の前で下着姿を晒す、なんて恥ずかしいコトをさせられた。その代価はきっちり償ってもらわないと気が済まない。
ふむ。
ランサーに目を遣る。肩を竦めるランサー。
セイバーに目を遣る。首を傾げるセイバー。
「遠坂の嬢ちゃん」
「……なによ、衛宮くん。あとなにその呼び方」
「ん? あぁ……まぁ、なんだ。色々あってな。……それよか、慎二の件。ありゃオレが全面的に悪い。あの時言われたことは忘れてねぇし、協力関係だの共闘関係だのを持ちかけるつもりもない」
「……そう。それで?」
「一騎討ちだ。オレにゃ聖杯にかける望みなんざ金くらいしかないんでな。聖杯が欲しいならくれてやる。金だって真っ当に稼げば手に入るモンだ、魔法とまで謳われる聖杯を使ってまで望むコトじゃねえ。が、アーチャー然りランサー然りバーサーカー然りセイバー然り……どうあってもオレは一騎討ちってヤツにこだわりたい」
「衛宮くん。わたしはこう見えて疲れてるの。どっかのバカがこれでもかってくらい魔力をドカ食いしていったせいで、それなりにね。だから話は簡潔にしてちょうだい」
「オレとセイバーはこれからバーサーカーを倒しにいく。で、その時にアーチャーを使ってちょっかいをかけるの、やめてくれ。それが戦術的に正しいことくらいわかってるが、それをされるってんならオレはアーチャーを倒さなきゃいけなくなる」
「……ふむ」
遠坂は、口元に手を当てて……悩む、ような素振りをする。
それはオレの言葉を吟味している、というより。
「アーチャー。……わたし、そんな命令した覚えないんだけど」
「……」
「え」
「戦術的に正しい? まぁバーサーカーともなれば強敵でしょうし、そうね、サーヴァント同士がやり合っているところを狙撃したら、漁夫の利が見込める。でもそれ、失敗したら両方のマスターからヘイトを買うだけじゃない。あのね、聖杯戦争は陣営戦。如何にヘイトを買わずに敵を各個撃破するか、っていうのが重要でしょ。……っていうか、なに? その文脈で行くと……まさかわたし、バーサーカー陣営に恨まれてる?」
「ちなみに言うとオレのマスターも"アーチャー陣営は敵を作りたくて仕方がないらしい"とかなんとか言ってたぜ」
「柳洞寺を訪れた時は無人でしたが、あそこは恐らくキャスターの何らかの拠点の一つ。そこへああも攻撃をしたのであれば、目の敵にされていてもおかしくはないでしょう。日本ではこういう時、ご愁傷様です、というのでしたか、アーチャーのマスター」
視線がアーチャーに集まる。
彼は……投降するかのように手を上げた。
「アーチャー。ショッピングは勿論行くとして、これからは衛宮くんたちにちょっかいかけないこと。いいわね」
「無論だ、凛。私にはもうこの男を攻撃する理由がない。サーヴァントとしてマスターを狙うのならばともかく、個人的な私怨はつい先ほど断ち切られてしまったからな」
「なに晴れやかな顔してんのよ! ああもう、無駄に恨まれて……対策! 対策を立てるから、どっちみち家に戻るわよ!」
「了解したマスター。一応聞くのだが、その姿のまま帰るのか? 下着姿にマントとは、どうにも理解できない趣味──」
「ちゃんと! 着替えて! 行くに決まってんでしょうが!!」
うむ。
ランサーを見る。そしてセイバーを見る。
ドスドス、なんて足音を立てながら双子舘の奥へと消えていった遠坂と、最後に一度だけこちらを振り返ったアーチャーを見送って。
「知ってるかお前さんら。ありゃ夫婦漫才って言うんだ。
「成程、あれはそういう芸だったのですね」
「まぁ……お似合いだな。最初こそ気に入らなかったが、今となっちゃそうでもねぇ。何よりあの無数の剣を降らせる攻撃は今まで見たことがなかった。もちっと続けたかったぜ、坊主。あれを払い続けるのはさぞかし面白れえ戦いになっただろうに」
「確かに。古今東西、どのような英雄をしても、あれほどの数の剣を投げつけてくる者などいませんから。……ああいえ、武蔵坊弁慶、という者はそうなのでしたか」
「そいつにしたって九百九十九本だ。アーチャーのは千も万も超えてただろう。……あの魔術。オレにゃ再現できねえモンだが、良いなあ。つまり、元手無しで鋼が手に入るってこったろ?」
どんだけ材料費が浮くんだ、って話だ。
……いやでも途中で消えられたら面倒だな。加えて同じ鋼しか貯蓄できねえんだったら……ううむ。
「しかし、拍子抜けだったな。まさかまさかの坊主が一騎討ちと来たら、オレたちサーヴァントの立つ瀬がねえ」
「というより何が起きたのかあまり把握できていないのですが……」
「あー。まぁ、あの一瞬で色々あったんだよ」
別にその場にいる奴らに共感させる魔術ってわけじゃねえからな。
こいつらにとっちゃ、まるで意味の分からねえうちにアーチャーが怒り出して、まるで意味の分からねえ魔術をオレが使って……そのあと、なんでかアーチャーの憑き物が落ちて戦意を失った、ってな風に見えたわけだ。
そりゃ拍子抜けだわな。
「何はともあれ、シロウ。私達も拠点へと戻りましょう。シロウの魔力を回復させる必要がある。シロウ自身が戦うことはこの先無いとはいえ、魔力がすり減っている状態では身体機能も弱るでしょう」
「……そうさせてもらいたいのは山々だが……夜になってイリヤスフィールとバーサーカーが出る前に、柳洞寺に寄っておきたい。ダメか?」
「柳洞寺、ですか。……いえ、特に刀鍛冶の領分を出ることでもないと思いますし、私は構いません。ただ、絶対に、前に出ないように」
「お、おう」
ランサーからの流し目。
こいつは……もしや、知ってやがんのか。
して、そこに辿り着く。
柳洞寺……ではなく、石階段から少しそれたところにある、特におかしなところのない岩。
「シロウ、この岩がどうかしたのですか?」
「……ああクソ、ドイツ語なんざ知るかっての。……
既に枯れかけている魔力を振り絞る。
これでどうにかなるかはわからないが──ああ。
「有ることしかわからねぇか。クソ、遠坂の嬢ちゃん……じゃねえ、遠坂がいないと無理そうだな」
「シロウ、ですから、魔術を使うなら初めに言ってくださいと」
「そ……ういえば、そんなことも、言われたな」
そりゃ何十年前の話だったか。
いや。
数日前の話だ。
「んで坊主。本来ここで何する予定だったんだ」
「お前さんは知ってるんだろ。……ここに穴がある。魔術的に隠された穴で、魔術でしか開かねえ扉。ここ円蔵山には地下にでけえ空洞があんだよ。……キャスターは恐らくそこに陣取ってる」
「なる、ほど。確かに霊脈にとって、土地の高低は然したる差のないもの。いえ、むしろ地下の方が
「さっき何をしたかって、あのアーチャーの記憶を盗み見たのさ。その中にあった。この場所の記憶が」
随分と……詳しくなった。
人体の壊し方、なんてどうでもいい知識もあるが、この冬木という地について、そして聖杯システムについて……魔術について。
霊長の、人理の守護者に与えられた知識をそのまま食らったようなモンだ。セイバーの時とは違う、サーヴァントにでもなった気分だ。
「入るには遠坂の手が必要で、だが遠坂とは共闘関係を結べない……ああクソ、己の未熟さが恨めしい」
「あのお嬢ちゃんより優れた魔術師ってのはこの町にいねえのか?」
「……知らない、という言葉が正しいだろうな。オレは聖杯戦争が始まるまで魔術師の争いなんぞにゃ興味が無かった。だから……知らない。いるのかもしれないが、知らない」
「そうかい」
「無理矢理壊す、というのは」
「可能だろうが、その場合霊脈にまでなんらかのダメージを入れる可能性がある。本来このとんでもなく重要な土地に工房なんて領域を敷けたのは、魔術師のサーヴァントであるからこそだろう。並の魔術師がやれば即破綻して暴走が起きてもおかしくねえレベルだ」
エミヤシロウの魔術はあの無限に剣を内包した世界だけ。
一応生前の記憶として遠坂の嬢ちゃんが使っていた魔術は耳に残ってるが、それを使えるかって言ったら話は別で。
「……連れてきておいて悪いが、帰るしかねぇな。夜まで休んで……そんで、バーサーカーを倒しに行こう」
「はい。ゆっくり休んでください、シロウ」
「アーチャーのやつの横やりがねえとなると、オレは手持ち無沙汰になりそうだな」
……。
……これは──どう、なのか。
「
「
「そうか」
あの日。
桜と話していた金髪の外国人。
エミヤシロウの記憶がこの世界でも正しいのであれば、アイツは──。