Fate/senji might   作:ONE DICE TWENTY

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15 Homecoming

 幾本。幾百本。幾万本。

 どれほどの石剣が折られたのかはわからねえ。

 

「良く逃げる。目が良いだけではないな、衛宮。どれほどを殺してきた。どれほど殺されかけてきた。そこまで血の匂いを漂わせず、しかし殺し合いに慣れ切っている者など中々いない」

「まぁ、ちょいと、な! 夢物語を実体験しまくってるんで、直感だけは冴えるってモンだ!」

 

 騎士王としての記憶。

 守護者としての記憶。

 自己境界を熔かしたことにより、さらに具体的な……いや、正確な言葉選びをするのなら、より実感のある記憶となったその二つ。

 人々から投げかけられた罵倒も、称賛も。

 己で行った研鑽も、鍛練も。

 

 すべて(オレ)の中で息づいている。

 

 追いついてねぇのは身体能力のただ一点。

 殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し。

 英雄ってのはまぁ大体が殺し屋の名だ。大虐殺者に味方がいたってだけの話だ。

 その記憶が、経験が、確実に(オレ)を生かしている。

 鍛いた二つが(オレ)を生かしている。

 

 そして──使わねえたぁ言え、移植された義姉ちゃんの魔術回路も猛威を揮う。

 (オレ)の良く使う魔術回路までもを強化してくれるからな──今の(オレ)は究極に目が良いと言える。

 

 とはいえ、……その欠如した一点のみで、どうやったって追いつかねえ領域がある。

 

「衛宮。おまえの言った先ほどの言葉を一度私の中で反芻してみたのだが、やはり要領が掴めない。この朽ち果てた殺人鬼のなにをみてあの言葉を吐いた」

「あ? んなモン蒸し返すんじゃねえよ。ただ(オレ)がそう思ったってだけだ、正義の味方」

「……理解できん。私の過去を調べたのだろう。キャスターが行っていることについても知っているのだろう。それでもなお、私をそのような肩書きで呼ぶのか」

「刀鍛冶の目利きを舐めてもらっちゃあ困る。特に(オレ)はそれを作りたくて生きているんでな、どういう形であっても見抜けるさ」

 

 左の拳は避け切れている。右の拳は来させないようにしている。

 時折交ぜられる蹴りにも対応できるようになってきた。

 

 それでもなお、警鐘が止まらない。

 ──多分、(オレ)が正義の味方じゃあないからだ。

 正義同士のぶつかり合いであれば、それはどちらの理想が堅固かの話。実力差ではなく想いの強さが勝敗を分ける。

 大勢を護る正義の味方も。

 たった一人のための正義の味方も。

 生徒たちを下がらせるような正義の味方も。

 

 その全てが平等だ。

 だが、(オレ)にはそれがない。

 負けられない理由がない。目指すべきところがあるだけで、守らなければならないものがない。

 やりたいことがあるだけで、やらなきゃならねえものがない。

 

 この警鐘は──騎士王と守護者が鳴らしているもの。

 (おまえ)では正義と対立するに値しないから、逃げろ、と。

 

 また、剣が砕かれる。

 奪う剣がいくらでもあるってのはありがたいが、龍牙兵は別に(オレ)の味方ってわけでもねえ。こいつらも普通に攻撃してきて、葛木は狙われないまま龍牙兵の犠牲を考えない打突を繰り返してくる。

 状況は四面楚歌。今(オレ)が生きていられるのは、目の前にいる者が正義の味方(守る者)だからに過ぎない。

 もし……彼が、自身ですら自覚していない愛を捨てて、(オレ)だけを殺すことに専念したのなら。

 ここまで長くは保っていなかっただろう。

 

 そうさ。そして、だからこそだ。

 (オレ)は「絶えない」。

 

 ──直感に従い、大きくその場を離れる。

 葛木の攻撃、ではない。

 

「む……キャスター」

「っ、……宗一郎」

 

 キャスターが……ぶっ飛ばされてきたのだ。

 というか、なんだ? さっきは様付けじゃなかったか?

 ……どうにもその辺りの細けぇ記憶は流石に思い出せねえんだが、結局こいつらは互いをどう想っていやがんのかね。

 

「はぁああっ!」

 

 上空からの呼気。

 見上げればセイバーがいるのだろうが、そんな隙は晒さない。

 (オレ)が死ねばセイバーも消えるんだ。聖杯戦争中におけるこの命の価値は普段よりずっと重い。

 

 不可視の剣が振り下ろされる。同時、大量の土埃が周囲を覆った。

 その中を駆け抜ける黒い影。

 

 受け止めることは考えない。この眼はしっかりと見ている。 

 神代の魔術師であろうと、施す対象が人間なのであれば、強化の魔術が作用していることくらいわかる。これが自分自身に、などであればわからなかったのやもしれないが──十二分に反応できる。

 だが、これでは相討ちだ。葛木が(オレ)を仕留め、セイバーがキャスターを仕留めたのならお相子に終わってしまう。

 それが瞬時に判断できねえ二人でもないだろう。何か策があるに決まっている。

 

 故に。

 

「っ!」

 

 この土壇場にて、──初めて攻勢に出る。

 

「折れども、砕かれども──絶やさねえっ!」

 

 脆い剣を、いやさ、時には龍牙兵の骨そのものをぶん回して葛木に攻めを仕掛ける。

 セイバーを相手にしている以上、キャスターが葛木にかけられるのは拳の強化で精々だろう。

 だから──エミヤシロウの記憶を頼りに、「人体の壊し方」を実践する。

 

 砕かれる。砕かれる。砕かれる。

 守るために殺す正義の味方に、(オレ)の奇策など通じるはずもねえ。んなこたハナからわかってる。

 

 だから。だから、だ。

 

鍛造技法(トレース)追想(オン)

 

 投影し、降霊する。

 さっきまでは明日の明日、そのまた明日の、未来の自分。

 今降ろしたのは鼻先三寸、一秒後、二秒後あるいは三秒後。

 

 一瞬先を生存し続ける己──。

 

「セイバー!!」

 

 そして。

 

「取りてぇ未来(投影)掴み(降霊し)やがれ! (オレ)の魔術は、そういうモンだ!」

 

 クラス適性が変えられるようになった。見た英霊を降ろせるようになった。

 ハ、ンなもん副次的な効果に過ぎねえ。結局この魔術ってのは、どこまでも自分のためのもの。

 

 (オレ)にできることならば。

 それを焼きつけたセイバーができねぇ理由は無い。

 

「──キャスター」

 

 既のことで攻撃の手を止めてまで……その口から零れ落ちた言葉は、彼が死というものを知り過ぎているがためのもの。

 この神殿内でのみ行えるのだろう疑似的な空間転移でセイバーの斬撃を避けようとした彼女は──刹那、断たれていた。

 

 まるで。

 令呪を使ったかのような急加速。

 けれど違う。(オレ)は何もしていない。

 

 セイバーが「キャスターを斬り伏せた瞬間の自分」を自らに降霊させただけだ。

 

「……宗一郎」

 

 如何に神代の魔術師といえど、もう長くは保たない。

 それでも何をするかわからないからとセイバーは再度剣を振りかぶったし。

 倒れ動かなくなった彼女の前へと、彼は疾風の如く躍り出た。

 

「退きなさい、キャスターのマスター。私のマスターはサーヴァント(理不尽)によるマスター(無力)の殺害を好まない。私が手に掛けるのはサーヴァントだけだ」

「お……逃げ、くだ……さ」

「生憎と。私には好みというものは存在しないが……もし、そのように曖昧なもので、己の在り方を変えられるのであれば」

 

 構えて、踏み込む。

 

「私の命は、キャスターの為に使い果たそう」

「──礼を欠きました、キャスターのマスター」

 

 その流れるような動作は。

 

「貴方は武人だ。少なくとも──無力ではなかった」

 

 剛力一閃のもと、沈む。

 

「……ああ、宗一郎。……私など、捨ておいて……逃げたのなら、……よかった、でしょうに」

「そも、行く場所も……帰る場所も無い。それを作り上げたのがキャスター、おまえだ。……ならば、その場所を……」

「──良かった。それなら……私達の願いは、同じ。……あなたに喚び出されたわけではないのに……私は」

 

 ほぼ、同時。

 消え行くキャスターと。

 息を引き取る、葛木。

 

「──帰りたい、という……願いが。最愛のあなたと、共に帰ることへと、成就……したのなら。……このユメは決して、悪夢ではなかったのでしょう」

 

 消える。

 神代の魔術師の圧倒的な気配も──自然とよく似た正義の味方(暗殺者)の息遣いも。

 

 消えた。

 

 

 

「シロウ。謝罪を」

「ん。何がだ」

「貴方の一騎討ちを邪魔したばかりか、サーヴァントである私がマスターを手に掛けた」

「……掌を返したように見えるかもしれねえが、まぁ、(オレ)と葛木の戦いは一騎討ちなんて上等なモンじゃなかったし──あいつらは二人で一人みてぇなモンだった。何より、正義の味方同士のぶつかり合いこそ、真っ当な一騎討ちだろうよ」

 

 さて、なんて言って……振り返る。

 

 そこに、黄金がいた。

 冬木の大聖杯なんぞには目もくれず、ただそこに黄金が立っていた。

 

「──……アーチャー」

「久しいなセイバー。だが今(オレ)の視界にあるのはその雑種よ。再会の祝宴はしばし待て」

「何を……シロウ!?」

 

 前に出る。制止しようとするセイバーを逆に制して。

 

「ふむ。(オレ)なりに優しさを見せて制限時間のない猶予を与えたつもりだったのだがな。よもや自ら槌を振るう時間を狭めようとは、正気か? 貴様」

「……」

 

 頷く。

 きょとん、とした顔の黄金は──。

 

「ああ、発言を許す。いや、妙なところで律儀な男だ。貴様から向けられる敬意についても聞いてみたいところだが──(オレ)は久方振りに期待、というものを抱いていてな。我が財に加わるやもしれぬ武器の献上など、言峰でも成し得なかったことだ。……それで? その身は丸腰にしか見えぬが、肝心の刀はどこにある?」

「──ここに」

 

 親指で差すは、胸。

 

「……まさかとは思うが、貴様自身の在り方が刀である、などという世迷言を口にする気ではなかろうな、雑種」

「流石にそんな使い古された言葉は吐かねえよ。……ああだが、あのヘラクレスってな英雄であれば、その言葉を吐いても不敬には当たらなかったのかもしれねえが」

「問答をしに来たわけではないぞ、雑種。()く見せよ。それとも考えなしにキャスターめを殺したのか?」

「何言ってやがる。此処にあると言ったばかりだろう、英雄王。──真髄、解明」

 

 鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。

 心臓の鼓動と同じくらいの速度で鉄を打つ。

 

「知っての通り、(オレ)は未熟者で成り損ない。お前さんの言う通り、篝火にも使えねえ燐光が鍛冶師を演じているに過ぎねえ。その眼の見通す通り、余すところなく道化師(ジェスター)だ」

「だから見逃して欲しい、とでも?」

「いや──故に、最古の英雄王へと献上する刀ってのは、単なる人斬り包丁じゃダメだと考えた。刀であると同時に、王を喜ばせるモンじゃねえと意味がねえ。完成理念、収束」

「ほほう、語るではないか雑種。だが、語るだけならばあの贋作者(フェイカー)とて容易にできよう」

「──ならば」

 

 鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。

 鉄を打つ音が……響き始める。

 ソレは(オレ)幻想(イメージ)ではなく。

 この大空洞へと響いていく。

 

「其処に至るは幾重の研鑽。千の記憶、万の記憶を(いやまさ)り、潅ぎに潅いだ刀塚」

 

 轟と、音を立てて上がるは炎。

 右手に集った焔は一瞬にして世界を焼き焦がし──業火に巻かれた刀塚を顕現させる。

 燃えに燃え、雨をも焼き焦がす灼烙(しゃくらく)(そら)。地にも落ちるその炎は、全く同一の刀群を照らし出す。

 

「ほう……固有結界か」

「これは……あの時の」

 

 だが、それも一瞬のこと。

 世界を塗り潰す大禁呪は秒と経たぬうちに、(オレ)の裡へと収束する。

 

「此処に辿るは勝利の収斂。此処に示すは正義の宿願。此処に積もるは垂雪(しづり)の非業──」

 

 遅くなる。見える世界の全てが。

 かつてセイバーと「佐々木小次郎」が戦った時と同じ。かつて慎二を「エミヤシロウ」から守った時と同じ。

 これが極度の集中によるものではないと知ったのは、昨晩のこと。

 彼女と行った認識のすり合わせ。そして義姉ちゃんからの知識の共有。

 

 鉄を打つ音と、己の心音が、ぴたりと重なる。

 

「我が生涯の全ては、この一振りを成すために」

 

 衛宮士郎に許された魔術があの一つだけだというのなら。

 どんな手段を取り、どんな場所を目指したところで、本質が変わるはずもない。

 ただ、(オレ)は。

 

 古今東西数多の刀剣ではなく、(オレ)の鍛った刀だけを納める世界に集約したというだけの話。

 そしてそれは──受け継がれた魔術刻印と共鳴した。

 セイバーと義姉ちゃんは共にそれを、固有時制御(タイム・アルター)と呼んでいたか。

 

「焔の鼓動、此処にあり」

 

 投影した硝子細工ではなく。

 今、この場で、凝縮された時間の中で──(オレ)という炉の中で鍛ち上げた、一振りの刀。

 

「こいつが(オレ)の、衛宮(家垣)の太刀だ」

 

 家垣(やえがき)。つまりは八重垣であり汚穢垣。汚穢(やえ)を退ける刀。家宮(やえ)(まも)る刀。

 縁を切り、定めを切り、業を切る。

 有名どころの都牟刈剣……つまり叢雲剣、草薙剣とは似ちゃあいるが別モンの、「人を救い、生かすためだけの剣」。

 都牟刈剣と違って誇示する武力は無く、どちらかといえば防御のための剣だろう。

 

 (オレ)はあくまで刀鍛冶。金練人(かなねり)が持つのはこいつが相応しい、ってな。

 

「……」

 

 無言。何か……見定めるように、無言。

 

「……どうだ、英雄王。こいつでも……ダメか」

「いやなに、少し考えていただけのこと。ソレそのものは確かに我が宝物庫に存在しない上、源流となる湾刀も持ち合わせはない。だが、退魔の剣、防御の剣となれば、それなりの数が存在する。儀礼剣の類も我が財にはあるのでな」

「ああ……まぁ、ざっくり言われちゃその通りだ。返す言葉も言い訳もねえと来た」

 

 煌々と灼烙(しゃくらく)を湛える刀は、されど黙したまま。

 最古の英雄王の採点に対し、機嫌を損ねることもしない。

 

「とはいえ……鍛冶師として納期を守った働きぶりには褒美を取らせねば王の名折れよ。であれば期待外れと期待以上の先に、もう一つ猶予を設けてやろう」

「……そりゃ」

「知っている通り──そこにある大聖杯は汚染されている。加えて聖杯の器……小聖杯を貴様が飲み干してしまったとなれば、言峰はそれを使って孔を開ける他なくなった」

 

 成程、と。

 もう理解したけれど……王の言の葉の先を取ると怒られそうなので、続きを待つ。

 

この世全ての悪(アンリ・マユ)。雑種。貴様の鍛造した刀が真に『人を生かす剣』とやらなのであれば、その聖杯の中身とて救えるだろう。(オレ)には効かぬとはいえ、大半の英霊を反転させるほどの呪いだ。これを成し遂げた暁には──その刀、我が財に加えてやろう」

「ただし、コイツの蓋を開けるにはサーヴァントが残り過ぎている。そうだな、英雄王」

 

 大仰に頷く黄金。

 何か知らないが、エミヤシロウの記憶にある彼とはあまりにもかけ離れて機嫌が良い。今まさに言葉を嗣いだというのに怒りもしないとは。

 とはいえ油断はしない。少しでも敬を欠けば待つのは死だろう。

 無論。

 (オレ)という存在が、全ての武具の原型を集め、そしてそれを世界へと放流して()()()英雄王に敬を欠くことはあり得ないのだが。

 

「残るは贋作者(フェイカー)槍使い(ランサー)、そして剣使い(セイバー)か。……さて、これ以上の問答を要するか、道化師(ジェスター)

「往生際が悪くてすまねえが、一つだけ」

「許そう。一つだけならばな」

「ランサーと戦うのなら──その時は、英雄王。お前さんも参戦するのか」

「無論だろう。一応、(オレ)の契約者は言峰だ。同時に槍使い(ランサー)の契約者も言峰となれば、サーヴァントとしての責務は果たさねばなるまい。……まぁ安心しろ、雑種。(オレ)が本気を出してはあの程度の槍使い、秒として保たぬ。手は抜いてやるから、()く残る二騎を大聖杯へと焚べるがいい」

「承った」

 

 ではな、雑種。などと言って去っていく英雄王。

 

 後に残ったのは大聖杯と、葛木宗一郎の死体と。

 

 未だ灼烙を滾らせる一振りの刀だけ。

 

「……シロウ。私の願いにはもう聖杯が必要無い。だからこの聖杯戦争においては、全て貴方の剣として振る舞うつもりでいる。ただ……聞きたいことがあります」

「そりゃあちゃんと聞いてやるが、今はこの危険物を納めさせてくれ」

「あ……はい。無論です」

 

 許可が出た、ので。

 右手にある太刀を、自らの胸へと突き刺す。

 

「な──何をしているのですか、シロウ!」

「いやなに、この刀は投影の硝子細工じゃねえからな。霊脈のど真ん中に置いちまえば、悪縁も良縁もなにもかもを断ち切りかねねえ。だからこうしてしまう必要がある」

「……痛みは、ないのですか?」

「いや、とんでもなく痛い。お前さんに伝わるかどうかはわからんが、魔術回路が出力した魔力を逆流させてるようなモンだ。血管を通る血が遡るみてぇな、あるいは神経を火炙りにされているような……そんな痛みがある」

 

 が。

 

「今更だからな、そんなこと」

 

 元々(オレ)は炉に入る刀と同調する、なんてことを十年やり続けていて、そこに守護者として滅多刺しにされたエミヤシロウの記憶と不死性がある故に怪我を負いまくった騎士王の記憶が流れ込んでんだ。

 加えて……まぁ義姉ちゃんが気付いていたのかどうかは知らねえが、義姉ちゃんが生まれてから受けた改造という名の虐待と、バーサーカーを召喚してからの苦痛。

 そういうモンを天秤に乗せたのなら、流石にそっちの方が勝らぁな。

 

 最初からそうだったのさ。

 ランサーが(オレ)の腹を突き破って背骨まで砕いた時も、だからあそこまで耐えていられた。

 結局意識を手放した奴が何を偉そうにってなその通りだが、心臓が破れるだの神経が火炙りにされるだのは今更な話。

 

「まぁ場所が場所じゃなきゃ……埠頭なり河だったりってんならそこに投げ捨て──」

 

 びゅん、と。

 世界が線状になる。

 

 どこをどう走ったのかはしらねえが、龍洞を出て、真昼間の町中を抜けて──どぽん、と。

 冬木大橋を視界に収めて、この身は真冬の河へと放り込まれたのだった。

 

 ……いや、そっちの方が死ぬだろう。

 

 

 葛木宗一郎の死体はなんとかしなければならないだろうが、とりあえずの休息を取る。

 気がかりなのは……未だに一成の行方が知れないこと。アイツが魔術師ではないという知識を持っていても、今の冬木で行方不明である、というのがどれほど恐ろしいか、という話である。

 

 なんてことを考えながら一っ風呂……シャワーだけじゃない、湯船に湯を張っての休息を取っていたら、セイバーと桜の嬢ちゃんが入ってきた。セイバーは無表情だが桜の嬢ちゃんは顔が真っ赤だ。

 

「どうした。お前さんら、後で良いとか言ってなかったか」

「先程、桜に相談したのです。こうしてそれなりに長い時間を……マスターとサーヴァントという関係でありながら、記憶の全てを見られるほどの付き合いをしているというのに、シロウは私への隠し事が多い。やはり信用されていないのか、と問うたところ、桜はそんなことはない、と答えました」

「ああ、その通りだ。そんなこたねえよ、セイバー」

「であるのならばどうすればシロウの心の裡を明かせるかを重ねて相談したところ、なんでもこの国には『裸の付き合い』という言葉があるそうではありませんか」

 

 ──……まぁあるが。

 ありゃ精神的に包み隠さず、という意味で。

 

「シロウ、聖杯戦争も終盤です。ここは一度裸の付き合いをして、お互いの理解を深めましょう」

「まあ……セイバーはわかる。が、桜の嬢ちゃんはなんでだ? 年頃の娘なんだ、(オレ)みてぇな爺いでも素肌を見られるのは嫌だろう」

 

 と、(オレ)なりに最大限気を遣った言葉を吐いた瞬間、桜の嬢ちゃんは先程までの……耳まで真っ赤な顔から、少々どころじゃない怒り顔に百面相して。

 

「そ、そういうところを直してほしい、というか……せ、先輩に……色々、戻ってきてほしくて……だ、だから」

「私にも桜にも隠し事はなし、ということです」

「とにかく! 先輩はわ、私を見て、頬を染めるくらいはしなきゃいけないんです! そうじゃないと、そうじゃないと……!」

 

 よくわからんが。

 ウチの風呂はそこまで広くないので、ぎゅうぎゅう詰めになるだろう。

 それでも良いというのなら……良いか。

 

バスタオル(その恰好)じゃ、室温たぁいえ二月の寒さにゃ耐えられねえだろう。ほら、風邪引く前に入んな」

 

 その後、セイバーからは根掘り葉掘り様々を聞かれ、桜の嬢ちゃんからは「そういうことじゃないっていうか、そもそもこの状況が違ってて!!」という悲鳴に似た声を上げられながら……久方振りの長風呂というものをしたのであった。

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