Fate/senji might   作:ONE DICE TWENTY

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16 The Biter Is Bit

 パチ、パチ、パチと。

 乾いた拍手が響く。

 再び訪れた此処なるは円蔵山大空洞──元来の名を「龍洞」という場所。

 キャスターの神殿がなくなったことでただの祭壇だけが残ったそこに、その三人はいた。

 

「まずは称賛を、衛宮士郎。よくぞここまで辿り着いたと、そう言葉を綴ってやろう」

「おうよ。だが、改めての名乗りは必要だろう、エセ神父」

「おまえがそう望むのなら受けて立とう。──私は聖杯戦争の監督役にして、ランサー、そしてアーチャーのマスター、言峰綺礼だ。おまえの養父である衛宮切嗣とも旧知の仲であると言えるな」

(オレ)は衛宮士郎。単なる刀鍛冶だ。セイバーのマスターで、それ以外の肩書きは無い」

 

 大聖杯。

 その蓋は未だに開いていないが、ぐつぐつと煮えたぎるモノは感じられる。

 

「しかし、神父である私が言うのもおかしな話だがな、衛宮士郎。その恰好は、あまりにも時代錯誤ではないか?」

「刀鍛冶としての正装ってやつだ、気にすんな。というか別に神父であるお前さんが言ったっておかしな話じゃねえよ」

 

 英雄王。言峰綺礼。そして、ランサー……クー・フーリン。

 ランサーの性格からして英雄王と肩を並べることはあり得ないので、令呪か何かで縛っているのだろう。同時に英雄王が如何にマスター・同好の士といえど、言峰綺礼に共に並ぶことを許すとは思えない……し、ランサーを横に並べるとも思えないのだが、その辺はよくわからん。いくら言峰綺礼でも英雄王を令呪で縛らんとすれば何かしらの罰を受けそうなものだが。

 

道化師(ジェスター)贋作者(フェイカー)めはどうした? この聖杯の窯は、未だ空きがあるようだが」

「一応遠坂の家にゃ行ったんだがな。もぬけの殻ってやつだったよ」

「……なるほど、贋作者らしい。セイバーに突撃されては敵わぬと、姿を晦ましたか」

「とはいえこの大空洞の中なら外側からの狙撃も無い。邪魔ぁされることはねえと踏んだんだが、(オレ)の判断に間違いはあるか」

「いや。無い頭を振り絞ったにしては上出来だ、雑種」

 

 ……やっぱり機嫌が良い。

 エミヤシロウの記憶にある英雄王は、こんなに軽く人を褒めないし、褒めたとしても皮肉交じりの称賛であることが多い。

 こればかりは本当に分からない。なぜ彼がここまで機嫌が良いのか。まぁ(オレ)のような凡人に理解できる話でもないのだろうが。

 

「さて……言峰、そしてランサーよ。敵のマスターとサーヴァントが目の前にいるというのに、何を黙している? その戦いぶりを以て、精々(オレ)を愉しませよ」

「ハ、こっちはテメェの余計な入れ知恵のせいで縛りだらけなんだよ。だが……意見は同じだ。言峰、早く指示を出せ。あの坊主の望み通り、セイバーとランサーの一騎討ちってやつを披露してやる」

「望み通り、か。衛宮士郎……まさかおまえは、この状況を予知していたのかね」

「んなもんできるわけねぇだろ。だが、(オレ)の言葉が真になったってんなら、そりゃ運命ってやつだったんじゃねえのか」

 

 ──右手を前に翳す。

 

「運命。……いいだろう。行け、ランサー。セイバーとそのマスターを殺し、その後アーチャーを見つけ出して殺し……このつまらない戦争に終わりを齎せ」

「セイバー。令呪を使う。──ランサーに勝て」

 

 残り二画の令呪のうちの一画が消える。

 そこに宿る膨大な魔力が彼女へと供給され──今までずっと目を瞑り、黙していた彼女は。

 

「承知しました、マスター」

 

 その剣の結界を、解く。

 現れたるは黄金。精霊の鍛ちし勝利の剣。

 

「こちらだけ御身の名を知っているというのは一騎討ちに邪念となろう。──私はセイバー。生前の名を、アルトリア・ペンドラゴン。かつてはアーサー王と呼ばれていた者」

「もうわかりきっていたことだが、そういうのは楽しくなるじゃねえか。──オレはランサー。アルスターが赤枝の騎士団の、クー・フーリンだ!」

 

 聖杯戦争においてはまず見ないだろう、お互いの名を大きく名乗り上げての衝突。

 大聖杯へと続く道の右手側で起きたそれは、最早神話の戦いにしか見えない。というか、見えない。今真髄解明を使っていないというのもあるが……剣と槍の軌跡と、それらが打ち合う衝撃が遺す世界への残滓程度しか視認不可だ。

 最優と最速。(オレ)が見たかった、本当の武芸者同士のぶつかり合い、殺し合い。

 力量差は存在しない。技巧差はあるのかもしれないが、補って余りある力がセイバーにあり、余りある力を超える生存能力がランサーにある。

 

 ──鉄を打つ。

 魔術回路の起動は、ただそれだけで世界へ音を響かせる。

 

「どうした道化師(ジェスター)。これなるは貴様の望む一騎討ち。マスターである貴様が参戦しては意味が無かろう」

「そりゃその通りなんだがな。一騎討ちをさせねえようにと目論んでいるエセ神父がいちゃ(オレ)も動かざるを得ねえだろう。加えて英雄王、お前さんも少しは手を貸しちまうってなら、セイバー(アイツ)の唯一の味方が動かなくてどうするってな」

「道理だが、それで死しては元も子もなかろうに」

「なぁに、抜身の剣を放り出している方が刀鍛冶の名折れだろう。(オレ)はせめて、鞘くらいにはなってやらねえと恰好つかねえさ」

 

 ギィン、ギィンと……鉄を打つ音が重なり続ける。

 心音と同じ速度を、二重、三重と。

 

「そこまで言うのであれば(オレ)も力の一端を見せてやろう。精々防いでみせろ、道化師(ジェスター)

 

 英雄王の背後。

 そこに黄金の波紋が一門現れる。顔を覗かせるは一つの武具。ただそれだけで必殺の威力を持つ宝具の源流。

 アレに打ち勝てるなど、欠片たりとて考えてはいない。だが、と。

 

「──衛宮(家垣)の太刀」

 

 灼烙(しゃくらく)の剣。お侍さんでもねぇ(オレ)が持つ、(まも)るための剣。

 

 この身に降ろすは最速(ランサー)。そして、あの宝具を弾き切った己。

 二重の降霊は二乗の負荷となる。

 

 気付いた時にはセイバーを狙う宝具を叩き落していたけれど。

 いつのまにか両足と右手に激しい断裂を有していた。

 

固有時制御(タイム・アルター)だと? ……衛宮切嗣(あの男)から受け継いでいたのか」

「防いだな、道化師(ジェスター)! それはどちらの領分も超えていよう──!」

 

 楽しそうに。

 背後に浮かぶ黄金の波紋、その砲門数を二に、いや三に増やし──射出を行った。

 

「真髄解明、完成理念、収束!」

 

 断裂しようが関係ない。

 降霊術は肉体の損傷など考慮しない。それが関係するのなら、死霊術など何も動かせずに終わるだろう。

 この魔術は全てを無視する。一切合切を。この身が死に絶えるまで──いや、バラバラになるまで。

 

 なれば、手も足もまだ動くというもの──!

 

 空中にて、回転する。

 太刀で一本を叩き落し、未熟な強化を施した手甲で僅かながらに軌道を逸らし。

 最後の一振りは、今しがた宝具側に弾かれた手をそのまま持っていって、柄を掴む。

 摩擦による火傷、そして骨折は──治癒される。義姉ちゃんから貰った魔力が(オレ)の中の何かにだくだくと魔力を注いでいるのがわかる。

 

「雑種。貴様、道化師(ジェスター)も良いが、曲芸師(タンブラー)に肩書きを変えるのも良いかもしれんな」

「いやいや、この程度は全て道化師(ジェスター)の範疇内だろうさ。……しかし、こねえのか、言峰綺礼。アンタだって戦えるんだろ」

「大口を叩くものだな、衛宮士郎。アーチャーの攻撃を防ぐのにやっとであるおまえが、どのような根拠を以てその自信を得ている」

(オレ)自身。信ずるものなど、それ以外要らねえだろう」

 

 セイバーは(オレ)を極力気にしないようにしてくれているけれど、もし(オレ)が死に掛けたのならかけつけかねない。

 それを防ぐためにも……(オレ)は常に余裕でなければならない。

 衛宮士郎にとって。

 言峰綺礼など、障害であってはならないのだ。

 

「そうか。そこまで言うのであれば」

 

 何かが投擲される。英雄王の武器よりも格段に遅いソレは、なんであれば手で打ち払えるほどのもの。

 けれど──そんなことをしてくるはずがない。だから、太刀の方で斬る。

 

 刹那。

 熱い、痛いよ、という声が聞こえた気がした。

 

「冷たい男だな。おまえにとって、彼等は兄弟のような物だろうに」

「あぁ、十年前の被害者たちだろう? だが生憎と(オレ)に同情心なんて高尚なモノは無くてな。供養ってモンをするのなら、(オレ)にできることは火をつけてやることだけだ」

 

 とはいえ、残念ながら。

 (オレ)にとってあの大火災は、自ら繋ぎ止め、抱き留めたいとまで願う光景だ。

 瞼の裏に、脳裏に焼き付くあの光景を、地獄だと思ったことは一度も無い。

 

「そういうモンを投げつけられようと、一切合切を無視して前に進む。死を救いだと宣うつもりはねえがな、縋りつきてえならそうすりゃいいし、恨みてえなら恨めばいい。(オレ)はその全てを切る。ただそれだけだ」

「彼等に対しての罪悪感は欠片も無いのかね、衛宮士郎」

「生憎と人付き合いをしてこなかった十年でな。友人は二人だけ。片方はなんでもできるクセに自分だけは変えられねえバカヤロウと、もう片方は品行方正を形にしながら我慾まで封じちまってたド阿呆だけだ。(オレ)に言わせりゃ正反対の友人で、だからこそ表裏一体に見えるんだが……本人たちは否定するだろうな」

 

 ゆえに。

 

(オレ)が見るのも切るのも祓うのも、繋いだ良縁悪縁だけだ。見ず知らずのヤツにまで心を砕けるほど大層なやつじゃねえんだよ、(オレ)は」

「……やはりおまえはつまらんな。いやなに、ランサーに、おまえは私にとっての天敵であると聞かされていたのだが……成程。娯楽を追い求める私にとって、娯楽になり得ぬどころかその一切を削ぎ落したおまえは、確かに天敵と言えるのやも知れぬ」

「言峰。結論を急ぐな。老いたおまえでは中々に辿り着けぬ話だぞ」

 

 一つ、わかったことがある。

 エミヤシロウの記憶の中で、この二人は同好の士であったけれど。

 今の英雄王にとっては、言峰綺礼でさえも道化に見えているらしい。

 

「さて、問答はそれくらいにしろ、道化師(ジェスター)。背後で高まる魔力を感じ取れぬわけでもあるまい」

「……ああ」

 

 振り返りはしないけれど。

 わかる。これは、宝具の開帳だ。

 セイバーの、ではなく……ランサーの。

 

「助けに行かずとも良いのか?」

「初めに言った通りだ。一騎討ちのもとの勝利こそが(オレ)の見たい未来。助力はむしろ敬を欠く。英雄王、お前さんに対してもそうだが、(オレ)には敬意ってモンが存在するんだ。誰にも平伏する気はねえが、そこだけは変わらねえ」

 

 放たれるは必殺の槍。

 外れようと避けられようと、心臓を貫いたことへと因果律を収束させる絶死の槍。

 防ぐ方法は二つ。盾の宝具などで防ぎ切るか、因果律を超える直感で避けるかの二つだけ。

 

 否。

 もう一つ択があるとしたら。

 

投影(トレース)降霊(オン)

刺し穿つ(ゲイ・)──なに!?」

 

 魔槍の使い道は二つ。

 槍を持って相手に突き刺すか、槍を投げて相手に突き刺すか。

 そのどちらが来るのかがわかっていたのなら──()()()()()()()にまで逃げてしまえば良いだけの話。

 前者は攻撃範囲内であれば必中。後者は必中でこそあるが因果律の収束が前者に劣る。

 

「……最速の英雄。貴方はまさにその通りの英雄だ。故に、私がその速度で後退し、魔力放出を重ねるだけで……その速度を超過できる」

 

 もう一つの択は、そもそも発動させない、である。

 当然……その速度での移動による負担がセイバーを襲うけれど、彼女の治癒能力は衛宮士郎をゆうに超える。

 

「御身の魔槍を防ぐことは難しい。それゆえ、避ける。──卑怯と嗤うか?」

「いいや。少なくともバーサーカーを倒した時みてぇに、変な意地張ってるおまえよりよっぽど楽しいさ。(おまえ)の矜持を曲げてまで、あの坊主を勝たせてえと──その想いが伝わるんだからなぁ!」

 

 再度、激突する。

 青赤と青銀。

 舞踏のように響き始めた鋼と鋼のぶつかり合いに──(オレ)もまた、笑うしかねぇ。

 

「あんな楽しそうなところに刀鍛冶が出張ってみろ。邪魔にしかならねえだろ」

「褒めて遣わすぞ、鍛冶師(ブラックスミス)。あの夜は悪くはないという評価を下したが……良い出来だ。元来有していたモノは失われてしまったが、それを補う良さがある。──アレはより美しく、より欲しいものとなった」

「そうかい。まぁ(オレ)は他人の恋路にゃ口出ししねえよ。(オレ)自身にそういった色恋沙汰への興味が無ぇってのもあるが、そういう好きだの嫌いだのを抱けるのは正義の味方だけだからな」

「──正気か、衛宮士郎」

「正気か貴様」

 

 む。

 ん?

 

「いや……(オレ)が言うのもなんだがな、(オレ)は自らの国を自らで滅ぼした暴君よ。貴様の言う正義の味方とやらとはかけ離れているように思うが……?」

「私も、この言峰綺礼という男をして正義の味方だのと言われたのは初めてのこと。少年、おまえは鍛冶のし過ぎで目を灼かれた訳ではあるまいな」

「……葛木もそうだったが、なんだってどいつもこいつも自覚をしてやがらねえのかさっぱりわからねえ。(オレ)の目利きに違いはねえよ。こればかりは英雄王にだってちゃんと進言してやる」

 

 自分のためでも、誰かのためでも。

 一度でも「自分以外の誰か」を護ろうとしたヤツが、そうでないわけもなし。

 何度も何度も言わせんじゃねえよ、本当に。

 

 まぁ。

 

「言峰綺礼。お前さんに関しちゃ、()()()()()()()()()()ってのだけが欠点らしい欠点だろうよ。……ああ、そう考えると、確かに切嗣(オヤジ)とお前さんは似ているのかも知れねえな。期間限定の正義の味方。大人になると名乗れなくなるモノ……」

 

 直後、身構えた。

 ぎょろりとした……死んだ魚の、飛び出たみてぇな眼。

 隣にいる英雄王が顔を覆っているのは嗤うのを堪えているためか。

 

衛宮切嗣(あの男)と、私が似ている……というのは、なんだ」

「あ? 自分で言ってたんじゃなかったか? なんだ、他人に言われるのは嫌か、エセ神父」

「……私はあの男に失望した。そうだ、似ている……いや、同族だと思っていたのだがな。そうではなかったのだ、少年。それを今になって……」

「阿呆、それが答えじゃねえか」

 

 今にも大笑いしそうな英雄王のために話を切り上げる。

 剣戟で聞こえやしないだろうが、後ろの二人も戦場で哄笑が響いたら何事かと気を逸らしちまうだろう。

 

「フ……クク、ハハハ……あぁ、まだ笑うべきではない。嗤うべきではないな。……言峰、どうだ? ()()()()()()()()()()

「──」

 

 鉄を打つ音が響く。

 

「言葉も出ぬか。まぁ良い、言峰が己を咀嚼しきるまでの間、戯れを行うとしよう。そら、鍛冶師(ブラックスミス)、曲芸の準備は充分か?」

「──言っておくが、百本も千本も射出されたら普通に死ぬぞ、(オレ)は」

「それくらいわかっている。では一本追加だ──上手く躱し、巧く弾いてみせよ」

 

 砲門が増える。

 四基。百本も千本もたぁ言ったが、正直四本でも充分キツい。

 何を降ろせば剣群を対処できるってんだ。そいつを射出するやつは知っていても、そいつを対処するやつに心当たりはねえんだが。

 

 頭蓋を狙った一本目。避けることはできるが、避けたのならセイバーに向かう。だからまっすぐに太刀で切り伏せる。

 次、右肩と左わき腹に直撃する攻撃。これは素早く太刀を逆手に持ち替えて、ぐるりと回転することで対応。

 

 が、これがいけなかった。

 (オレ)の最大の武器は眼だ。であるならば、一瞬でも相手から目を逸らすなんてことがあっちゃいけねえ。

 

 風圧でわかる四本目は……一本目とほぼ同じ軌道。

 つまり頭蓋を狙ったもので、今の姿勢から太刀を間に合わせることは不可能に近い。……いや見栄を張った。

 

 不可能だ。

 

「っ……!」

 

 英雄王は欠片も本気を出していない。というか本当に遊んでいるだけ。

 それに手も足も出ないたぁ……全く以て不甲斐ない。鍛冶師も道化師も勝手に名乗りゃあいい話だが、まずなによりマスターだろう、テメェはよ。

 

 一瞬、令呪に目が行った。

 使うべきか。使うべきだろう。そうでなければ死ぬのだから。死なばセイバーの戦いも途中で終わるのだから。

 彼女の一騎討ちを中断させてまで、(オレ)を守らせるべきだ。

 

 そんなことはわかっているのに……口が動くことはない。

 もう、邪魔はしないと、そう決めたから。

 

 であれば──。

 

 

「ならば、遅れて登場するのが正義の味方というものだ。──本来そうであってはいけないのだがね」

 

 

 弾かれる。

 まったく同一の武器に、英雄王の武器が。

 

「……」

 

 今までの愉しそうな雰囲気から……一気に氷点下近くまで纏うオーラの温度を下げる英雄王。

 それでも記憶にある彼よりは幾分かマシなのは、自惚れでなければ鍛ち直しのおかげと思いたいところ。

 

「……贋作者(フェイカー)

「記憶の全てを掘り起こされた私にとっては"久しいな、英雄王"とでも語り掛けたくなるが、此度は初めましてだ」

「ちょっとアーチャー! まさかとは思うけど、アンタの言ってた我儘ってコレのことじゃないでしょうね!」

「コレ、とは?」

 

 赤と赤が大空洞へと踏み入れる。

 ニヒルに笑う偉丈夫と、今日も今日とて怒っている嬢ちゃん。

 

「──衛宮くんが危うくなるまで息を潜めて、危険になったら格好つけて登場する……なんていう、バカみたいな行動のことよ!」

「酷いな、凛。私はただ勝算を組み立てていただけだ。何せ敵は人類最古の英雄王。未来の英霊……つまり最新の英霊がアレに勝つには、少々以上の小細工が必要になる。……それに」

 

 じろり、と遠坂の嬢ちゃんをねめつけるアーチャー。

 

「あの少年とは共闘関係にあってはいけないのだろう? だから共同戦線を組むわけにはいかなかった。だが、誰かの命を救うための行動であれば、それは私の本懐だ。救命活動にまでその縛りを押し付ける気かね?」

「~~~~っ!」

 

 太刀を持った右手を翳す。

 

「助太刀、感謝する。だが、セイバーとランサーの戦いにゃ手ぇ出してくれるなよ」

「無論だとも、少年。なに、古来より私が相手にする存在は決まっていてね。──いやまさか、私という存在が"衛宮士郎"と肩を並べる日が来るとは思ってもみなかったが……投影、開始(トレース・オン)

 

 その手に現れしは二刀一対の短剣。陽剣干将・陰剣莫邪。

 何かを打ち倒すためでなく、互いを引き寄せ合うためだけに作られた夫婦剣。

 

「ああ、だが一つだけ。先程の会話、少しばかり聞かせてもらったのだがね。──英雄王と言峰綺礼を正義の味方扱いするのは、些か見境がないと言わざるを得ない。君の目利きは確かに上等だが、私の正義の味方歴も長くてな。あの二人はやはり、正義の味方ではないさ」

「少なくともあのエセ神父が正義の味方なわけないでしょ! 目、腐ってるんじゃないの、衛宮くん」

 

 ……まったく、わかってねぇ奴らばかりだな。

 正義ってモンがいくらでも形を変えるってぇのはもう語り尽くされて味のしなくなった話だろうに。

 なら、それを守るやつだって千差万別だ。(オレ)の目利きの方が正しいんだよ、受け入れろバカヤロウ。

 

「さて──では英雄王。敢えて私がこの言葉を吐かせてもらおう。──武器の貯蔵は充分か?」

贋作者(フェイカー)風情が……(オレ)の愉しみに泥を混ぜたこと、その頭蓋の全てを砕いて償わせてやろう!!」

「アーチャー、ありったけの魔力持っていきなさい! 令呪も全部残ってる! 宝石も全部持ってきた! 欲しい物があれば、ガンガン言って!」

「ああ、頼りにしているぞ、凛」

 

 と、なれば、だ。

 

 大聖杯を挟んで右手でセイバーとランサーが。

 左手でアーチャーと英雄王がぶつかり合っているというのなら──(オレ)がやるべきは一つだけ。

 

「喜べ言峰。テメェの望みはようやく叶う、ってな」

「……私の、望み」

「すべてを懸けろよ聖職者。あるいはその身も、鍛ち直してやらぁ!!」

 

 初めから──鋼選びの時点から間違えていた刀だとしても。

 それを鍛ち直すのが名工ってモンだ。(オレ)は未熟者なれど、そこに辿り着くのであれば……言峰綺礼(これくらい)の歪み、真っ新にできなくては名折れってモンだろう。

 折れねえ曲がらねえが(オレ)の刀なら、(オレ)とてそうでなくちゃあな。

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