Fate/senji might 作:ONE DICE TWENTY
生涯の一仕事を終えても、死は訪れなかった。
代わりに、鍛冶場の外から金属と金属の打ち合う音が聞こえる。鉄を打つ音。けれど、鍛冶の音じゃあない。
これは剣戟だ。つい先ほど聞いて、今も鳴り響いているもの。
土蔵を出れば──そこには、「斬った張った」が存在していた。
「……こりゃ」
片方は先程自身の命を奪おうとした男だ。けれどもう片方には見覚えが無い。
少女、だ。少女であるとわかる。
それが、大の大人であろうランサーと互角に打ち合っている。何か見えないもので、けれど……恐らく、剣だろうもので。
凶器と凶器の弾けあう音。殺し合いの音。互いの殺気が……それがぶつかり合うだけで、向けられてもいないのに身体を竦ませる。
美しい、と。
そして今度こそは止めまいと考えた。
この鉄を打つ光景は──あまりにも幻想的だ。
土蔵から出たからだろう、周囲を照らす光は火のものから月のものへと様相を変え、それが二人を照らし出す。
少女は……恐らく、騎士と呼ばれるもの。甲冑に身を包んだ淡い金髪の剣士。得物は見えないが、佇まいで剣士とわかる。己が刀を鍛つ者だから、判る。
対するランサーは……明らかに「違う」。自身との遊びに興じていた時とは全く違う──全力に至るか至らないか、その近辺で槍を振るっている。
もし仮にあの攻撃が来ていたとしたら。どれほど耐久性を高めた刀であっても──無理、だっただろう。
振るった彼こそ認めてはくれたが、刀がただの鋼の棒きれに見えるくらいには、無理だった。
けれど、けれど、である。
少女の方も全く負けていない。互角なのだ。
叢雲によって隠れた月。銀の光を失った庭は、しかし火花によってまた照らし出されている。
思わず鍛冶場の火を消そうかと迷うくらいには美しい戦闘。
飲む。唾か、息か。
「
此度こそは邪魔しまいと思っていたのに、口に出してしまっていた。
だって勿体ない。だって逃してはいけない。
これは芸術だ。作品だ。
この戦闘自体がある種の武器だ。
だから視なくてはならない。一人の刀鍛冶として、あれが、あれらが、どういう工程で作られたものなのかを視る。
グラデーション・エア。空っぽの空想を形にする魔術。どうにも、オレにその才は無いらしく。
どこぞの霊体を自らに呼び込み力とする魔術。どうにも、そっちもオレに向いていないらしく。
けれど。
視たモノを。焦がれたモノを……覚え、蓄積し、最終的には
武具。中でも刀剣の類であれば、ある種のサヴァン症候群のように完全な記憶ができる。あとはそれに近付くよう、
「卑怯者め、自らの武器を隠すとは何事か……!」
「──」
少女は答えない。取り合う気がない、という風でもないように見える。
ああ、けれど、少女の心配よりも──彼女の剣技にこそ惹かれる。ランサーの呪いじみた悪態は、なんであれば反論したくなる。
お前さんにはアレが見えねえのか、と。
十年の間使ってきた鍛冶場。飛び散る火花は己の吐き出したそれを軽く超えよう。
少女の絶え間なき剣舞を、しかし、舌打ちしながらも防ぎきるランサー。
体感では二日を過ぎた。けれど、恐らく二十秒となかったその攻防。
次の一瞬でわかったことは三つ。
今までとは違う大振りでその「剣」を叩きつけた少女。
足の負担を気にすることなくその一撃を躱し、必殺の構えに入るランサー。
それが少女のフェイントであり、引っかかりながらもランサーが防御を間に合わせたことで……お互いに大きく間合いを取ったこと。
「どうしたランサー。止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないというのなら、私が行くが」
「……ハ。わざわざ死にに来るか。それは構わないが、その前に一つだけ訊かせろ」
殺気と静寂。
ようやく聞こえたのは──心臓の鼓動。
「貴様の宝具。それは、剣か?」
「さあどうかな。
少女の戯言に、一番に反応したのは……ランサーでも、自身でもなく。
自身の心だった。
「それは無ぇだろ、それが剣じゃなかったら、何が剣だってんだ」
「──……だ、そうだが」
「マスター? なぜわざわざ私の手の内を明かすのですか?」
「申し訳ねぇとは思うよ、嬢ちゃん。だがな、オレにも誇りってモンがある。つったってアンタらみてぇな武芸者に勝るモンだとは思っちゃいないが……そりゃ剣だ。誰がなんと言おうと、ランサーが、なんなら嬢ちゃんがなんと言おうと、そりゃ剣だ。それだけは譲れねえ」
空気が読めていない……というのは、まぁ、そうだろう。
そも、己はこの戦場にいてはならない存在だ。刀鍛冶が侍の斬った張ったに出張ってきては、文字通りの台無しだろう。
「あー……ちと白けたな。ついでだ、もう一つ訊くがな。お互い初見だしよ、ここらで分けって気はないか?」
「……」
「悪い話じゃないだろ? そっちの坊主はマスターとしての自覚が無ぇようだし、オレのマスターとて姿を晒せねえ大腑抜けときた。ここはお互い、万全の状態になるまで勝負を持ち越した方が好ましいんだが──」
「──ことわ」
「飲む」
「マスター!?」
ここまで言われて状況把握の一つもできない己ではない。
「さっきからずっとオレをマスターマスターと呼んでいるあたり、オレはその嬢ちゃんの契約主なんだろ? した覚えがねぇっつーのがちぃとばかし問題だが、それはそれ、これはこれだ。ランサー、嬢ちゃん。オレはアンタたちが万全の状態でやりあってるところを見たい。見させてくれと拝んだっていい。だから──」
「あー、いい、いい。言葉はそんくらいでいい。こっちは元々様子見が目的だったんだ。ま、
「……わかりました。元より命令は時間稼ぎ。ここで分けとするのなら、こちらも手を引きましょう」
言葉に嘘はない。
互いに得物を降ろし……戦意を消す。
「しっかし、お互いにお互いソリの合わねえマスターを引いちまったようだな。そこは同情するぜ」
「貴方には関係のないことだ、ランサー」
「ああそうさ。……じゃあな、坊主。真正面から戦おうとする姿勢といい、一騎打ちに焦がれる姿といい……オレはお前のもとでも戦ってみたかったよ」
言って。言葉が音として消えるよりも先に、ランサーの姿は無くなった。
また──後悔が残る。
止めてしまったことを。けれど、万全の状態があると、この更に上があると聞いて、それを望まずにいられる
静寂が満ちる。
先程までの凍てつく静けさとは違う、ただただ静かなだけの夜闇。
「……」
まっすぐにこちらを見据える瞳があった。
場違いな感想を抱くのであれば。
──同年代の女の子と話した経験なぞ、桜とくらいしかない。それであっても先輩と後輩の関係で……だから。
「あー、嬢ちゃん。その……まず、戦いの邪魔して悪かったな」
「いえ。サーヴァントはマスターに従うものですから」
「そう、それだ。一応再確認するが、オレがマスターで」
自分を指で差し。
「嬢ちゃん、アンタが……
目を合わせて、少女に問う。
「……? 貴方が私を呼び出したのですから、その確認は必要のないことでは?」
「そうか。そうだな。……そうか、オレが呼び出しちまったのか。記憶にゃねぇが、すまねぇことをした」
「謝られる謂れはありません。貴方は私のマスターです。契約を交わした、ということは、こちらからも貴方の手を取ったということ。そうである以上、貴方を裏切りはしない。たとえ方針が合わずとも、です」
「いやまあ、そうか、確かに契約ってのはそんなモンか。……わかった、これについてこれ以上ぐだぐだ言わねえ。ただ自己紹介くらいはさせてくれ。オレは衛宮士郎。嬢ちゃんは」
「セイバーと、そうお呼びください」
「んな
それで、と。
二人して外に目を向ける。
「マスター、貴方も気付いていましたか。ご安心ください。この程度の重圧なら、数秒で倒し得る相手です」
「数秒で倒せる相手だってんなら、相手にする必要もねぇだろう。そもそもランサー……奴さんのように真っ向から挑んでこねえ相手なら、セイバー、アンタが負ける相手でもなかろうさ」
「……ですがマスター、相手は」
「そのマスターってのも、やっぱりむず痒いからやめてくれ」
「ではシロウと。改めてシロウ、相手は」
「おーい! 外にいるっていうお二人さん! アンタらは何しにきた! 戦いにきたのか!?」
目を見開く少女……セイバーには多少悪いと思いつつも声を上げる。
時代劇に憧れるガキのようで悪いが、これだけ強いセイバーが弱い者いじめをしているところなど見たくはない。
たとえ史実の侍や将軍がその武力や権威を笠に着て町民に頭を下げさせていたのだとしても、
先のランサーとの戦いはまさにそれだった。
だというのに次の瞬間己よりも弱い相手を潰しに行くなど……
「……そんな気ないわよ。けど、驚いたわ衛宮くん。あなたが七人目のマスターだったのね」
正門から……ではなく、塀を飛び越えて出てくるは赤いコートを羽織った同級生。
そしてもう一人。
──初対面の人間に対して思う感想ではないとわかっているが……どこか珍妙で間の抜けた顔をしている、白髪且つ褐色肌の偉丈夫。
「遠坂……だよな」
「ええ、わたし。他の誰かに見えた?」
「学校でオレを助けてくれたのは、遠坂だよな」
「へ? あ……もしかして、意識があったの?」
警戒とか、マスターとか、そういうことの前に。
礼を言わねばならないと思っていた。あの時消した雑念……雑念に括ってしまうのはどうかと思うけれど、その一つが急に顔を出す。
「ああ……ぼんやりとだが、遠坂が何かを喋っているのが聞こえた。……恩に着る。この命はお前さんに拾われた」
「そ、そう。お礼は素直に受け取っておくわ。けど、恩に着る、なんて言葉はそう易々と使わない方がいいでしょう」
「なんでだ?」
「今が聖杯戦争中だから、よ。あの時は衛宮くんが一般人だと思っていたし、実際召喚前だった上に令呪も持ってなかったんだから一般人だった。わたしが助けたのはその一般人な衛宮くんで、敵対すべきマスターである衛宮くんじゃない。そういうとこ、きちんとラインを引かないと」
警戒。それは己から発されたものではなく、セイバーから滲み出たものだ。
当然といえば当然だろう。戦いにきたわけではないと言っておいてからの敵対宣言にも等しい言動。恐らく腑抜けているのは己だけで、遠坂と、赤い偉丈夫と、セイバーは……同じステージで戦っている。
「そうかい、まぁ、礼を受け取ってくれたんなら良い。それでもし、いつか、オレがお前さんの命を救うことがあったら、それで
「だから貸しだなんて思ってないってば。……それじゃあね、衛宮くん。今日のところはこれで退散するわ。そうしないとそっちのサーヴァントが今にも飛び掛かってきそうだし」
「ああ、また学校で」
それに対しては、返事をしてくれなかった。
未だ呆けたままの顔をしている偉丈夫に「アーチャー? ちょっとアーチャー?」と声をかけているが……反応なし。
絶大なショックを受けた、と顔に書いてある。
「……そこの兄ちゃんは大丈夫か? 察するにそいつが遠坂のサーヴァント? ってやつなんだろうが」
「ちょっと、衛宮くんにまで心配されちゃってるじゃない! ほらアーチャー行くわよ!」
「──、──。──、──……あ、ああ。すまない、マスター。少し……目を疑っていた」
「はぁ? わけのわからないこと言わないで。というかアンタ昨日"弓兵にとって目は武器だ──"とか仰々しく言ってなかった? 一日でその言葉を取り消す気?」
「いや、なに、すまない。気が動転していただけだ。……サーヴァントとマスターが姿を見せあったのならばやり合うのが定石だとは思うが、マスター同士に戦う気がないというのなら、承知した。退こう、マスター」
そんな。
どこか噛み合わないコントのようなやり取りをして去っていく二人。またも正門から出ることはなく、塀を飛び越えて。
それで、それで。
ようやく──本当にようやくの静寂が訪れたのだった。
鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。
今日は色々なことがあったから、心を整理するためにも鍛冶場でひたすら鉄を打つ。
「シロウは……
「そんな大層な呼び名で呼ばれるほど成熟しちゃいねぇが、まぁ、十年はこうして
打鉄の合間に挟まれる会話。いや、セイバーの声が聞き取りやすいから、騒々しくなりがちな鍛冶場においても会話ができる。
セイバーもセイバーで余程耳が良いのだろう、音の発生源により近いこちらの声をしっかりと聞き届けてくれる。
「十年。充分な歳月でしょう。それに、架けられている刀剣も……見事なものだ」
「嬢ちゃんほどのやつに褒められたら調子にも乗っちまうが、ランサーの奴やアンタの剣には到底敵わねえ。ま、武器としての刀作りをしていないってのはあるが……それでも多少の嫉妬は覚えるよ」
「……先ほどもでしたが、シロウにはコレが見えるのですか?」
コレ、と言って持ち上げられる「剣」。
「見えねえな、全く。刀身は疎か柄も見えねえけったいなモンだ。だが、十年もずっと刀を作ってるせいか、それが武器であるかどうか、とりわけ刀剣であるかどうかはわかるようになった。だからソイツのことは見えねえが判るってな感じだ」
「成程、そういう理屈でしたか」
少しずつ心が落ち着いていく。
そうだ、心が荒れ狂っていたのは、何も「色々なこと」があったからではない。
美しいものを見過ぎたがために……身体の疲労を無視して、早くあれを作りたいという欲求が涎を垂らしていただけだ。
そして、というかだからこそ──鉄を打つのをやめた。
未完成の棒切れを水へ放り込み、窯と炉の火を消す。
「何かありましたか、シロウ」
「ようやく落ち着いた。ってなわけで、まぁ、遅い時間だが飯にするか。つってもオレは料理らしい料理をしてこなかったんでな、握り飯程度しか出せねえが……」
「魔力供給に問題はありません、シロウ。私に食事は不要です」
「じゃあお前さん、お前さんの見ている前でオレだけ飯を食えってか。そりゃあ渇ききったオレの心にも錆が混じるってモンだ」
「……では、お言葉に甘えて」
「おう」
家事全般は桜がやってくれている。
己は鍛冶に没頭し、
──たぁ言え、今日の血染みのついた制服は洗わせられねぇが。
「居間で待ってな」
「はい」
簡潔なやり取り。
ランサーに言われた「方針の違い」というものはあるのかもしれないが、この分なら仲良くやっていけそうだ、とも思う。
なんせ互いに踏み込まない。会話が無いわけではないし、無視し合うわけでもないけれど──無言である時は、無言で居あえる。
心地の良い関係であると言えるだろう。
して、本当に握り飯だけの食事を終える。
終えたのなら──話し合いだ。
「セイバー。色々確認してぇんだが、構わねえか?」
「勿論です、シロウ」
「まず……さっき遠坂が言ってた聖杯戦争ってのは」
夜が更けていく。時折セイバーから「確認するまでも無いでしょう?」という顔をされながらも、認識のすり合わせが。
そして理解する。
己がどうにもけったいなものに巻き込まれたのだ、という事実を。
同時に。
「呼び出された過去の英雄……そりゃあ僥倖だ。さっきの赤い兄ちゃんとランサー、んでセイバーを除いて四人。まだそんだけの武芸者がいて、そいつらの戦いを間近で見られるってんだから」
「シロウ、水を差すようですが、マスターであるシロウがそう何度も戦場にいる必要はないかと。無論、貴方の命は私が守りますが……」
「あぁ、そうだな。それはそうだ。戦場に刀鍛冶がいちゃあ邪魔で仕方ねえ。……それでも武器と武器のぶつかり合いを楽しみに思うのは性分だ。慣れねえたぁ思うが、勘弁してくれ」
「いえ。騎士として、一騎討ちに焦がれる、という気持ちには共感できます。先程アーチャー陣営に奇襲を仕掛けず、堂々と呼び出して戦意の有無を聞き出したこともそうですが、貴方には騎士道に近しい精神がある」
またまっすぐに、だった。
そうだ。彼女の目も言葉も、常にまっすぐだ。未熟者の己では、その視線の前に立つことさえ怯えてしまうほどに。
けれど……この足が逃げ出すことはない。
武芸者とは斯くあれと思う己がいるからだ。こうでなければならないと
「よせやい、オレぁただの刀鍛冶だよ。そうやって褒めてくれることは嬉しいがね。……さて、セイバー。オレは眠る。見たところ外国の英霊さん? なんだろ? 布団は身体に合わねえと思うが……」
「いえ、サーヴァントに睡眠は必要ありません。寝込みを襲われないとも限りませんし、私はここで貴方の目覚めを待ちます」
「……セイバーみてぇな別嬪に見つめられながら眠るなんて器用なこと、オレにはできねぇんだが……」
「では外を見張っていましょう。おやすみなさい、シロウ」
こうして。
聖杯戦争なるけったいなゲームに巻き込まれた初日の夜は、絶大なる疲労と共に明けていくのだった。
早朝。四時。
眠ってからまだ三時間しか経っていないことは理解しているけれど、それがルーティンなのだから仕方がない。
「おはようございます、シロウ。しかし、もう少し眠っていてはどうですか?」
「いや、まぁ疲れが取れ切ったとは言わないが、オレにとっちゃこのルーティンを切らす方が命取りでな」
寝惚け頭だったから、だろうか。
二月の朝は寒い。とはいえ冬木市は他と比べれば温暖な方だ。だから耐えられる。
そこへ一層寒い鍛冶場に行くのだけど、一度火をつけてしまえば寒暖は逆転する。
薪の焚べられた窯。発する熱は人間が汗をかくに充分なもの。……その中で涼しい顔をしているセイバーは流石と言わざるを得ないけれど、よく考えれば昨日も同じ状況だったのだ。今更語るべくもない。
というより、セイバーは……英霊とは、過去に死んだ英雄を降霊術とアーティファクトの合わせ技で実体化したものを言うそうじゃないか。
彼女がどこの英雄でどんな環境にいたのかは知らないが、あの規模の戦いが常日頃だとするのならば、この程度の熱さは何するものぞと言ったところだろう。
「
静かに言葉を吐いて魔術回路を起動する。
真髄解明とはまた違う魔術。正確にいうならばその延長線上。真髄解明を行ったあと、そこに至るまでの
魔力と気力、その双方を込めて鉄鎚を振るい、灼鉄に対して想像を形とするアプローチをかける。
セイバーの「剣」はまだ無理だ。全貌が掴めていない。
ランサーの槍も難しい。そもそも槍を作った経験がない。
だから今から作るのは、昨夜見た短剣。赤い偉丈夫の持っていた二刀一対の剣。
勿論完成品など作り得るはずもない。というか形にすらならないだろう。
ただ、その完成理念を自らの中で構築し、猿真似をしていくだけのこと。
──当然、失敗に終わる。鍛たれた鋼は鉄板と揶揄されても文句の言えない姿と変わり、またいつかの材料となるのだろう。
次だ。
本当のことを言えば、次こそがルーティン。
十年、同じ作業をしている。十年間、同じ刀を作り続けている。
無論本家本元には到底及ばない品だろうが、少なくとも
「……見事です、シロウ」
「ん?」
「私も刀という武器に関しては浅い知識しか持ちません。加えて私は
「いや、まだ形にもなってねぇというか、学校に行くまでの時間を考えたら完成はしねぇぞ?」
「未完成だと、何かいけないのですか?」
すとんと、言葉が腑に落ちる。
セイバーは当然の言葉としてそれを
「……いや。何も問題はねぇ。……もう少し、時間ギリギリまで続ける。あぁ、朝っぱらから二人ほど人が来るだろうが、昨日みたいに噛みついてくれんなよ、セイバー」
「それがたとえ
「あぁよ。お前さんなら真っ向から叩き伏せられるんだろう? だったら相手の出方を待つ余裕ってのもなきゃならねぇ」
やはりセイバーには奇襲というものをしてほしくない、というのが本音だ。
「それと、来客の片方は毎朝オレに飯を作ってくれるようなやつだ。んで、もう片方はオレの身の回り品なんかを整えてくれたやつ。敵じゃねぇよ」
「……そうですか。シロウの生命維持を行う二人、というわけですね」
「生命維持って……んな大げさな」
「大げさではありません、シロウ。この短すぎる睡眠時間もそうですが、夕食がたったあれだけでは日々の体力を賄えるはずがない。恐らく食事を作ってくれている、という来客がシロウの一日分の体力を補ってくれているのでしょう。わかりました。来る相手が
「お、おう。納得してくれたんならいいけどよ」
今度はこっちが、納得いかねぇなぁ、なんて。