Fate/senji might 作:ONE DICE TWENTY
二月二日。土曜日。
そして──少女と藤村の姉ちゃんが来る。
俄かに騒がしくなっていく武家屋敷に溜息を吐きつつ、今度は呼び出される前に鍛冶場を片付け、本邸へと戻れば。
「士郎! ちょっと……どこで見つけてきたのよこの可愛い子! というかアンタに女の子を連れてくるなんて行動取れたってことがお姉ちゃん嬉しいやら驚きやら興奮やらで」
「あぁ、あぁ、そぉなると思ったよ、藤村の姉ちゃん。けどまぁ成り行きでな、家に泊めてやることになったんだ。いいだろ、ウチは広いんだ。外国人の一人や二人どうってことはねぇ」
「そういうことじゃないけど士郎には一生理解できないってのもわかるのがまた!」
藤村の姉ちゃん。
地主の藤村の爺さんの孫娘で、オレの……一応、保護者になるかね。現状の。
基本的にテンションの高い姉ちゃんだからあんましついてはいけないのだが、全身から零れ出でる「善意」が全体の場を和ませてくれる。
「オレは一っ風呂浴びてくる。藤村の姉ちゃんはあの嬢ちゃん……名前はセイバーってぇらしいんだが、あの嬢ちゃんと親睦でも深めといてくれ。これからちょくちょく顔を合わせると思うからよ」
「はぁ~い。あ、お姉ちゃんが背中流してあげ」
「そういうのは良いから。……セイバーは外国人なんだ、藤村の姉ちゃんは英語の教師だろ? まぁ日本語が堪能だから問題ないかも知れねえが、英語じゃねえと伝えづらいこととか、あと……オレが男だから遠慮してることとか、色々あると思うんだ。そういうのを聞いてやってほしい。ダメか?」
「……うーん」
きょとんとして、そして腕を組んでうんうんと悩む藤村の姉ちゃん。
そんなにおかしなことを言っただろうか。そしてそんなに悩むことだろうか。
「どうしてこう……そういう気は利かせられるのに、女っ気どころか異性への感情が欠片程度しかないのは……いやホント、何をどうしたらこう育つのか……」
「育ちの文句は爺さんに言えよ。藤村の姉ちゃんは爺さんと仲良かったんだし」
「あー……切嗣さんの息子だから、と言われたら、納得しちゃうんだなーお姉ちゃんは」
「ならいいじゃねえか。そら、行った行った。セイバーは口下手っつぅか口数が少ないからな。桜とじゃ間が保たねえだろ」
桜も基本的に奥手というか、積極的に場を盛り上げるタイプではない。
無論常に場が盛り上がっていなければならない、なんて理念はないのだが、気まずい時間が一生続くのも心労だろう。
シッシッと手で追い払えば、冬木の虎は牙を向きながら武家屋敷へと戻っていった。
……土曜の虎は元気だ。学校が半日で終わるから。
どこか……どこか微妙な空気の混じった食卓。
その空気を醸し出しているのは桜。そしてセイバー。
「どうした、体調でも悪いのか、桜」
「あ、いえ……なんでもないんです、先輩」
「なんかあったら言えよ? こちとら飯だの家事だの手伝ってもらってる身だ。病気だってんなら病院に担いでいくし、嫌いなヤツがいるってんなら……まぁ藤村の姉ちゃんに任せるが」
「いじめの相談ならいつでも!」
藤村の姉ちゃんはこんなナリでも教師だ。先述したように英語の教師。
「ほ、本当に大丈夫です。ありがとうございます、先輩、藤村先生」
「……」
全く以て大丈夫そうではない……が。
どうにも不和の大本はセイバーの方にあるような雰囲気がした。というより……桜を警戒してる?
「最近何かと物騒だ。飯食い終わったらよ、藤村の姉ちゃん。桜と一緒に学校行ってくれねぇか。オレはちょいとセイバーと話してから行くから」
「……サボる気じゃないでしょうね、士郎」
「知ってるだろ。サボる気満々だが、そりゃあ世話んなってる藤村の姉ちゃんに不義理だから、皆勤賞を取れるくらいにゃ毎日真面目に通ってるってことくらい」
「ばか!」
なぜか罵倒された。
そして食事を摂る手を止めて、肩を、首を抱き込まれる。
「さっき少しだけ喋った感じ、セイバーちゃんはまだこっちに慣れてなくて、連れてこられた猫みたいな感じだったから……こういう時くらいサボりなさい!」
「こ、小声で叫ぶたぁ器用なことで。つか、教師がんなこと言っていいのかよ」
「良くないけど、学校の皆勤賞と士郎の未来だったら士郎の未来優先!」
「はぁ? だったら尚更サボらねぇ方がいいだろうに」
「いいから……ああもうこの子は、なんでこういう時だけ……じゃないけど、頑固なのかなぁ!」
「それに、また明日学校で、ってな約束をしたやつがいるんだ、それを反故にするってのも悪いだろ」
「……なに、それ。……女の子?」
「あぁ、まあ、性別は女だな」
言えば藤村の姉ちゃんは「かぁ~っ」と額に手を当て仰け反って。
「一晩で二人……私は士郎のこの成長を喜べばいいのか悲しめばいいのか……!」
なんて、もんどりうって暴れ始めたので、無視することにした。
折角の桜の飯が冷めちまうしな。
さて、と。二人を見送ってから、言葉を切り出す。
「セイバー。オレは学校に行く」
「はい。私も同行します」
「そりゃ構わねえんだが、学校ってのは見慣れねえやつが入ることを許されねえ場所でよ。昨日の話によれば、なんらかの理由でセイバーは霊体化ってのができねぇ。この認識は合ってるか?」
「……はい。その認識は……正しい」
「つまり、だ。あの赤い兄ちゃんは遠坂の隣にいても誰にもバレやしねえが、セイバーは学校に入ってはこれねぇ。その状態で、まあ、遠坂がオレに奇襲を仕掛ける、ってのも無い話じゃあないんだろう。遠坂だけじゃない、ランサーみてぇなのが紛れ込んでる場合もあるわけだしな」
オレは武芸者には真っ向勝負を挑んでほしいと望んでいる。
けれど、セイバーがあの赤い兄ちゃんと遠坂を「数秒で熨すことができる」と言ったことを考えるに、そして昨晩聞かされた他のクラスのサーヴァントのことを考えるに、真面目に一騎討ちをしてくれるサーヴァントだけってわけじゃねえ。そいつはわかった。
「セイバーはオレが殺されたら消えちまう。それはセイバーの望むところじゃねえし、オレだってむざむざ殺されてやるつもりもねえ」
「であれば、どうするのですかシロウ。最善手は……先ほどタイガとこそこそ話していたように、学校へ行かない、ということであるように思いますが」
「なら訊くがよ、セイバー。学校にいる生徒ってな武芸者じゃねえ、一般人だ。加えて基本的にゃあ授業を受けてて外に目を向けない一般人。だったら別に、校舎の陰にいたって誰も気づかなかろうよ。気付かれそうになったら逃げりゃあいい。それくらいはできんだろ」
「可能かそうでないかで言えば可能です。ただし、先もシロウが述べたように、万一の場合の応戦はどうしても一歩後れを取ります」
「一歩、だ。少なくとも校外から駆けつけてくるよりかは速えだろ。そこに何歩分の差があるかは知らねえが、縮まった差はお前さんが詰めてくれ」
無理を言っているとは思わない。
それができるのが武芸者。いや、英霊というやつらだろう。
「……わかりました。ではシロウ。その一歩の内に死なないように。貴方はあくまで
「おう、任せておけ。なに、マスターなくしてサーヴァントは居られねえ、サーヴァントなくしてマスターは生き残れねえ。これほどさっぱりとした持ちつ持たれつってやつも中々ねえ。オレはお前を生かすために生き残るから、お前はオレを生かすために最善を尽くしてくれりゃあいい」
「承知しました」
「それと、その甲冑。目立つからな、もし脱げるんなら脱いどいた方が良いぞ。脱げねえなら、あー、羽織の一枚でも貸してやるが」
「……では、羽織を。奇襲を受けた際に無防備では守るものも守れません」
これで話は詰まった。
無論。
セイバーの応戦が間に合わない速度でオレが殺されちまえばそれで終わり。セイバーの顔を見れば、この杜撰な作戦に芯の部分じゃ納得行ってねぇのが丸わかりだ。
たぁ言え。
「白昼堂々人目も気にせず襲ってくるやつが現代にいるとは思いたかねぇ、ってのが本音だがなぁ」
「……」
それには答えず。
オレたちは、土曜の学校へと赴くこととなった。
違和感を覚えたのは校門をくぐったその瞬間だった。
「あ……?」
既にセイバーは隠れている。
相談できる相手はいないが……これは、わかる。
校庭には走り込みをしている陸上部の部員たち。朝から活気が溢れている。
いつも通りだ。真新しい校舎に汚れがあるわけでも、朝練に励む生徒たちの体調が悪そうってこともない。
だが、違う。
明らかに──これは。
「
白昼堂々人目も気にせず襲ってくるやつが現代にいるとは考えたくない。
けれどもしそれが、マスターの判断ではないとしたらどうだろう。サーヴァント個人の判断でこれを行っているのだとしたら。
片眼を瞑る。それだけで理解する。
オレたちの学び舎には粘膜のような穢れが張り付き、校庭を走る生徒たちからはどこか虚ろな人形のような気配さえ感じられる。
これは多分、後者に属する魔術だ。
結界。その類。ただし守るための、ではなく……内側にあるものを害するための。
であればむやみやたら魔力を使うのは危険だろう。鳴子の張り巡らされた敵地で名乗りを上げて馬を駆るような将軍はいない。そもそも「戦う者」ではない己は身を潜めていなければならない。
「おはよ、衛宮くん」
「──遠坂?」
「ええ、わたし。なあに、その顔。幽霊でも見たかのような顔だけど」
にっこりとオレに笑みを投げかける少女。
一応遠坂は学園のアイドルのような存在だ。そういうきゃいきゃいしたモンに然したる興味を向けてこなかったオレですら理解している存在。
状況に対する厄介事の気配と、聖杯戦争への理解。そして──この結界。
「遠坂」
「なにかしら」
「まさかたぁ思うが……これは、お前さんの仕業か?」
白昼堂々人目も気にせず──遠坂が?
問えば。
「はぁ。……馬鹿ね、そんなわけないでしょ。なんだってわたしが学校にこんな趣味の悪いものを敷かなくちゃならないのよ」
「そ……そうか。よかった、安心した」
「安心するのはまだ気が早いけれど。……なんにせよ、ここは人目がありすぎる。移動しましょ。どうせどこかにセイバーも連れてきているんでしょうし」
「だが、授業が」
「そんなのはサボればいいのよサボれば。学校の授業とこの状況、どちらが緊急事態かわからないほどのお馬鹿さんってわけでもないでしょ?」
──……まぁ、そうだ。
藤村の姉ちゃんに不義理だからと通っている学校。今日登校したのだって、遠坂と約束をしていたからに過ぎない。
その遠坂と遭うことに成功した上、藤村の姉ちゃん自ら「学校をサボってセイバーのもとにいてやれ」と背を押されたのだから……これはもう、授業に出ない大義名分を得たようなものだろう。
「わかった。場所を移そう」
「素直でよろしい。……はぁ、まったく。衛宮くんは少しだけ頑固だけど、どっかのいけ好かない赤いやつと違って嫌味を言わないからホント楽だわ~」
「それってあの赤い兄ちゃんのことか?」
「ええ、まぁ、そう」
なんて、遠坂は本当に疲れた様子で返事をしながら……歩き始める。
人目を避けて、校舎裏の木々のある方へ。
そこには。
「……西洋甲冑に、着物? あ、アンバランスにも程がある……!」
「仕方ねえだろう、ウチにゃ昨日遠坂が着ていたような洋風のコートなんざないんだ。あるとしたらまぁ雨合羽ぐらいだったが、雨合羽とこれならこっちを選ぶだろ」
「どっちもどっちだけど……確かにあの和風のお屋敷に洋服は似合わないか」
しっかりと隠密行動をしていたらしいセイバーがいた。
遠坂の言う通り、あの銀の甲冑に
「シロウ、どういうことですか。……なぜ、アーチャーのマスター、それにアーチャーと共に?」
「ああ、やっぱり赤い兄ちゃんはいるのか。いやなに、セイバーも気付いてんだろ? ここに妙な結界が張られてるってのにはよ」
「ええ、まあ。腕の良い
「無理よ。邪魔くらいはできるだろうけど、根本は無理。もしこれをやったのが現代の魔術師なら……わたしじゃ到底かなわない相手。サーヴァントなら、そのサーヴァントがいなくなれば消えるもの。だから」
「成程」
セイバーと遠坂が、同時にこちらを見る。
あー、っと?
「ここはわたしたちのテリトリー。だけどそれを差し引いても、穂群原学園の生徒を食い物にして魔力を蓄える、なんて行為、わたしも、そしてわたしのサーヴァントも心底嫌い。衛宮くんは?」
「あぁ、やっぱしそういう類の結界か。はぁ、他人様の土地でよくもまぁそんな好き勝手ができるってもんだ」
サーヴァントは幽霊のさらに上位種のようなもの。
その食いモンが人の魂だってことには何の驚きもない。幽霊ってのは人に憑りついて人を縊り殺すモンだからな。
だが。
「勿論、許せねえ。そのサーヴァントを殺すためだけの共闘関係を結びたい、って話だろ?」
「ええ、そういうこと。……少しわかってきたわ、衛宮くんのこと。前提情報が少ない内は頑固だから中々譲ろうとしないけど、情報を手に入れさえすればスムーズに物事を考えられるのね」
「まぁ、十年も刀を鍛ってりゃそうなるわなぁ。食わず嫌いってやつさ、鍛ったことのねぇもんを扱う時は慎重になるし、そもそも手を出そうともしねぇ。けど一旦理解しちまえば作ってみたくて仕方ねえ。それが行動にまで表れてるってのは些か気を付けた方が良い気もするが……」
「問題ないでしょ。それが衛宮くんのいいところなんだし」
「──ハ。遠坂ほどの女傑に言われちゃあ直す気も起きねえな。んで? 現実的な話、この魔術を使ってるサーヴァント、ないしはマスターがどこにいるのかってのはわかるモンなのか?」
問えば……彼女は今までの軽めのノリを捨てて、真剣な顔つきに戻る。
成程。
「遠坂でもわからねえと来たら、魔術師としての格の落ちるオレにわかるはずもねぇ。一応訊くがセイバー、お前さんは」
「申し訳ありません、シロウ。私には魔術師としての素質が無い」
「んでもって赤い兄ちゃんも──」
「無理よ。というかわかるんならこんな問答してないわよ。わたしたちでそのサーヴァントを潰しに行って、共闘関係なんてものはそこで解消! それが一番簡単なんだから」
ごもっともで。
けれど、そうだとするならば手がない。こちらから打って出る術がないのなら、奴さんが動くのを待つしかない。
「……遠坂。オレはさっき、咄嗟の判断で魔術の使用を踏みとどまった。結界ン中ってのは敵の腹ン中と同じだ、オレみてぇなただの刀鍛冶が単独で襲われるってのは危険に思えたからだ」
「正しい判断ね」
「だが、今は違う。セイバーもいるし、遠坂も、見えやしねぇが赤い兄ちゃんもいるんだろ。……何ができるかはわからねえが、ちょいとオレも試してみていいか」
「さっきあなたが言ったんじゃない。わたしにできないなら自分にもできるわけがないー、って。それなのにやるの?」
「あぁよ。魔術師たぁいえ武芸者は武芸者。その術理こそ違えど、これがヒトを傷つけるモンだってんなら、これは武器の一つだろう。さっきも言ったが刀鍛冶。武器の扱いにゃ一家言あんのさ」
「ふぅん? ……ま、やるだけやってみたら? わたしが調べた時には反撃も来なかったし、呪詛返しの類もなかった。セイバー、あなたの時は?」
「呪詛返しについてはわかりませんが、攻撃らしい攻撃を受けた覚えはありません」
であるならば、だ。
やるだけやってみるってぇのが、この衛宮士郎って男なモンでさ。
「
重ねに重ねた歳月の音。心で響くは
瞼を閉じれば大火災。開いて見遣るは灼光の鉄。
──ああ。
なんて、醜悪。
校門をくぐった時に感じた違和感。あんなものは氷山の一角に過ぎなかった。
泥にまみれているようにさえ見える学び舎。汚れ。穢れ。悪意……害意。
生徒たちの身体にもそれは伸びている。生まれ出でることの適わなかった水子が母へ手を伸ばすかのように、瓦礫に圧し潰されて死にゆく誰かが縋り手を伸ばすかのように。
べたべたと、ぐちゃぐちゃと。
どれほど心根の腐ったやつが
いや、違う。心根の腐ったやつでは鍛てない。心底の化け物でなければ、人間を食い物としてしか見ていないようなヤツでなければ……これを鍛つことはできない。
けれど、同時に。
「……見つけた」
「え、うそ……どんな魔術を使ったの、って詮索はNGか」
「サーヴァントってぇやつじゃねえだろう。オレが見つけたのは要の方だ。どんなに硬い刀剣でも、長物である以上はウィークポイントってもんがある。それと同じさ。この
「それってつまり……校内にマスターがいる、ってことよね」
「そうなるのか。まぁ、術理の方はわからねえ。だがよ、サーヴァントよりマスターの方が強ぇってこたねぇんだろ?」
「ええ、それはそうだけど……わたしが他のマスターを見抜けなかったなんて」
何やら自信喪失している遠坂には悪いが、事は一刻を争う。
こんな断頭台みてぇなモンにこの大勢の命が架けられているってだけで疼くものがある。
鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。
この身は正義の味方などというけったいなモンにはならねえが。
善なる行いをするくらいはしよう。
「セイバー、屋上で待機していてくれ。要は二階にいるから、そっちの方が近い」
「承知しました」
「落ち込んでいる場合じゃない、か。衛宮くん、作戦はどうする? 挟み撃ちにするなら、衛宮くんも屋上から行った方が」
「いや、マスターってのは動くモンだろう、人間なんだから。なら、いざとなれば強制的に駆けつけられるセイバーと違って、遠坂達と二手に分かれるのは悪手に思う。……オレは軍師でも将軍サマでもねえからこの判断に異があるってんなら聞くが、どうだ?」
「いいえ、その通り。異議はないわ。ただし、衛宮くん」
びし、と。
指を差される。
「あなたは謂わばナビゲーター。仮にマスターを逃がしてしまった場合、その追撃の役割がある。相手もマスターなんだから、命の危機に瀕すればサーヴァントを呼びつけて逃げることもあるでしょ。けど、ウチのサーヴァントはアーチャー。逃げた獲物を仕留めるならうってつけの奴よ」
「ああ、だろうな」
「だろうな、なんて言って、わかってないでしょ。つまり、あなたは前に出ちゃダメってこと。良い? あなたはレーダーでナビゲーター。なら、自ら前に出て破壊されるなんてことがあっちゃいけない。勿論セイバーが衛宮くんを守りはするでしょうけど、衛宮くん自らが前に出てきたら、セイバーだって守るものも守れないわ」
「……シロウ、アーチャーのマスターの言う通りだ。貴方は戦う者ではないのだから、後ろにいるように」
「いや……オレ、そんなに前へ出たがるやつに見えるか? これでも刀鍛冶としての領分は守ってるつもりなんだが……」
確かに武芸者同士の打ち合いを間近で見たいって気持ちはある。
だけどそれにオレが交ざりてえなんてけったいな願いは持ち合わせていない。
「咄嗟の時、どういう判断を下すかわからない──わたしだってよくわかってるわけじゃないけど、衛宮くんは危なっかしいのよ、色々と」
「ランサー相手に戦おうとした、という前科があります。シロウ、再三言いますが」
「だぁ、もう、わーってるっての! というかランサー相手に戦おうとしたのはセイバーを召喚する前の話だろうが! あん時ゃオレ以外オレの命を守るモンがいなかったんだ、そうじゃねえ今はあんな大立ち回りしねぇよ!」
「……アーチャーのマスター。いずれ敵対する貴方にこう頼むのもおかしな話ですが、シロウをお願いいたします」
「ええ、任された。その代わりこの結界を敷いたサーヴァントが出てきた時には任せるわよセイバー。ウチのはあくまでアーチャー、正面切って戦うタイプじゃないんだから」
「無論です」
昔から、ではある。
桜の時も、結局は押し切られての通い女房。藤村の姉ちゃんにも押し切られての世話三昧。
どうにもオレは、女傑の類には弱いらしい。
「そろそろ行こう。あ、でも他の生徒を巻き込むのは避けたいから……消火栓のスイッチでも押すか?」
「ダメよ、そんなことしたらターゲットまで逃げちゃうじゃない。けど、確かに巻き込むのは……。……ターゲットが一人になるまで待つのは無理そうなの?」
「正直に言えば、わからねえ。要以外は見えねえからな。……突入した時、マスターだろうやつが生徒を人質に取ってたら」
「その時はアーチャーに背後を取らせるわ。こういうことを言うのものなんだけど、人間の一人や二人が人質になると思ってる時点でわたしたちの敵じゃないし。ま、そんなやつがこの規模の結界を敷いているわけだけど」
二人してうーんと悩む。
悩んで。
「実際のところ、どうなんだ? こういう結界を作るってことは、サーヴァントはキャスター……だと思うんだが」
「まぁ、そうでしょうね。他のクラスでも魔術を扱えるやつはいるでしょうけど、このレベルとなると該当するクラスは他に無いと思うわ」
「ならよ、まず正面切って要……マスターに会いに行く。んでそいつがどんな奴か確かめる。正直こんなモンを敷いてる時点で望み薄だが、一応説得ってモンをしてみる」
「……とりあえず、続けて?」
「おう。で、交渉決裂したら消火栓のスイッチを押す。いたずらかなんかだと思われたら実際に火をつけたっていい。すぐ消せる程度の火でも、見慣れてねぇ生徒にとっちゃ火事に見えるだろ」
「案外過激なのね。……けど確かに、それならマスターを逃がすことなく生徒を追い払える。結果的にサーヴァントを呼び寄せる隙を作るかもしれないけど──」
「──ああ、セイバーなら真っ正面からの一騎討ちで負けることはない。正直魔術師を剣士が、ってなオレの感性に引っかかるんだが、これだけの外道だ。外道に対して正道突っ走ってやる必要はねぇわな」
頷く遠坂。セイバーも頷きを返してくれた。
赤い兄ちゃんはずぅっと姿を現さねえが、遠坂が是ならあの兄ちゃんも是なんだろう。
「んじゃまぁ、ちぃと焼きを入れにいくか!」
突入、である。