Fate/senji might   作:ONE DICE TWENTY

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6 Wet Blanket

 過流のような剣線。白銀が如き太刀筋。

 互いを弾き合う時にだけ魅せる剣と刀。

 

 この二人が己を打ち合わせてから経ったのは数分。

 だというのに既に数十合、あるいは三桁に届く立ち合いがあった。

 上段に位置した佐々木小次郎は一歩たりとも引くことなく、間合いを詰めようとするセイバーを寄せ付けない。

 

「ほう、(おの)が主の言葉をよく聞いている。余程の信頼関係を築いていると見た」

「っ──」

 

 何の話か。

 それは、彼女が狙うものにある。

 

 初めの十数の打ち合いだけで、セイバーは眼前のサーヴァントの力量を完全に把握しているらしかった。

 彼女の剣は剛力の剣。対し、佐々木小次郎の刀は柔の刀。成程、これほど門番に適した武芸者もそうそういない。

 それでも彼の持つ刀は「長いだけの普通の刀」だ。恐らくセイバー自身も感じているだろうし、オレの目もそう言っている。

 

 だから彼女はその十数の打ち合いのあと、佐々木小次郎本体から長刀へと狙いを変えていた。

 

 地の利も無ければ技量にも劣るとあらば、その技を成す武器を破壊することをこそ効率と見る。

 やはりセイバーも武芸者だ。己のような斬った張ったに焦がれるだけの凡人とは違う、敵を殺すために自らがどう動くべきかを瞬時に判断できる武人。

 

「しかし、さすがにやりにくいな。視えない剣というものがこれほど厄介とは思わなんだ」

「それはこちらの言葉です、アサシン。だが、今朝にマスターの刀作りを見ていたことが幸いした。長さこそ違えど、その武器のどの部位が脆弱で、手の動きをどうすれば剣筋が来るのかがわかる」

「そうかそうか、成程、私の剣筋は些か邪道と言わざるを得ないものだが、こうも防がれているのはそのためか」

 

 もしここにいるサーヴァントがアサシンだと……佐々木小次郎だとわかっていれば、「物干し竿」などと呼ばれるあの長刀をオレは再現していただろうか。

 未熟者の口で偉そうなことを言うけれど、やはりアレは「長いだけの普通の刀」だ。ランサーの持っていた槍、アーチャーの持っていた双剣とはワケが違う。オレになぞらえていうのならば、完成理念は収束している。

 あの長さを維持し、且つ折れない曲がらないを実現するには幾度かの試行錯誤が必要だろうが、それでもアレは己にだって作り得る刀だ。

 

 けれど。ああ。これは悪い事かな、セイバー。

 オレはもし事前にアイツの情報を知っていたとしても……「物干し竿」を作ることはなかったと思う。

 だってそれは、あまりに無粋な情報だから。

 

 同時に。

 

「そうであるのならば、貴方の宝具は貴方自身。貴方が生前行ったこと、貴方が生前に起こした奇蹟が宝具として昇華していると見るべきだ。……マスターの望みを叶えるのであれば、その宝具を真正面から打ち破ってこそセイバーのサーヴァントというもの。ですが、貴方は強く、巧い」

 

 彼女の語り口に、ゆらりと力を抜く佐々木小次郎。無論あれは隙などではない。

 あの長さの刀で、あの宮本武蔵を苦しめ続けたとされる「佐々木小次郎」であれば、如何なる体勢からでも刀を振るえよう。

 

「マスター。先に謝罪を。このサーヴァントは強く、彼の宝具を正面から打ち破ることは難しい。よって、宝具を撃たせる前に武器の破壊をさせていただきます」

「随分と侮られたものだ、と言いたいところだが……そうか、おぬしのマスターはそういう性質か。これほど気の合いそうなマスターであれば、私がセイバーとしてそちらに召喚される可能性もふと考えたものだが、これでは縁もあるまい」

「その是非と可否は除外するとして、どういう意味だ」

「なに、そう難しいことではない。私ではそちらのマスターの気概に付き合い続けるには些か足りないものが多すぎるというだけよ」

 

 実際がどうであったかなどわからない。

 けれど一つ言えることは、真正面からの一騎討ちを好む己では、あのサーヴァントを突撃させて潰すに終わっていたことだろう。

 セイバーという戦に長けた剣士であったからこそこの戦法は成立していて、彼のような侍と共に行動しても……あるいは戦いにいくということすらなく武家屋敷で流るる時と月を眺むに終わっていたかもしれない。

 

 佐々木小次郎は、己が鍛つ剣ではない。

 

「その不可視の剣。刀身三尺余、幅は四寸といったところか。形状は典型的な西洋の剣だろう」

「……貴方も我がマスターと同じく刀剣に関する審美眼を有するか」

「はは、このような大道芸は正道の剣使いでなければないほど上手くなるもの。しかしそうか、邪剣と刀鍛冶にそのような共通点があったとはな」

 

 違う。

 オレがセイバーの剣を剣だと判じることができたのは、オレ自身が剣を作るモノだからだ。

 けど、佐々木小次郎がセイバーの剣を理解したのは、剣の理というものを知っているが為。

 避け、往なし、時折払い。

 そうして彼自身の中に作り上げた、不可視の剣の実体図。「佐々木小次郎」自体が創作物とされているが故に実態は定かではないけれど、室町時代の末期には富田勢源という盲目の剣客が「佐々木小次郎」の師を務めていた、という話もある。

 時代考証からして三次創作レベルの話のような気がしないでもないが、聖杯が「万物万象の願望器」であるのならば、それによって顕現したこの「佐々木小次郎」という英霊が「初めから敵の剣が視えない状態で戦う」ということに慣れていてもおかしくはない。

 

 ゆるりと。

 何気ない足取りで……一段、また一段と、石階段を降りてくる佐々木小次郎。

 

「どういう……つもりだ、アサシン」

「なに、ここまで来て興を削ぐのも華がない。打ち合いの果てに武器を破壊されてしまうというのならば、今ここで我が秘剣をお見せしよう」

 

 同じ足場まで降りてきた彼は。

 己でも見たことのない構えを取る。

 どこか舩の櫂を持つ時のそれに似た、しかし恐ろしいまでの静寂を宿す構え。

 

「ふ──」

 

 アレはダメだ。

 セイバーは技が放たれる前に踏み込んで切り伏せればいいと思っているのだろう。けれど、ダメだ。

 

 今なお瞳に使っている魔術が告げている。

 そうするべきではないと。

 

 同時に──この果し合いを止めるべきではないと考える己もいる。

 勝ちたいのなら、言うべきだ。

 

 鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。

 まるで時が止まったかのように、己の中の打鉄の音だけが石階段に響き渡る。

 色のない世界。上空を飛ぶ雀の一匹が、しかしそのまま静止した世界。

 

 そうであるはずの世界で……男だけが、その身を流す。

 

「秘剣──」

 

 いや、セイバーも動いている。緩慢とではあるけれど、踏み込みを行っている。

 ダメだ。間に合わない。いや、間に合うとか間に合わないとか、そういう話ではない。

 

「──燕返し」

 

 止まっているはずの世界で響く力強い声。

 そうさ、知っている。「佐々木小次郎」の技がどういうものかくらい。現代でそれを披露できる御仁もいるが、彼の扱うものは「ただ速いだけの三連斬り」。

 けれどこれは違う。

 

 渾身の一撃が振り下ろされる。今までの剣筋とは明らかに違う曲線。ただ、初見であってもその程度を打ち払えないセイバーではない。

 如何に刀の引き戻しの早いアサシンといえど、あそこまで見事に弾かれては立て直しに隙が生じる。

 刹那さえあれば、セイバーは彼を殺し得るだろう。地の利も間合いも、完全にセイバーの距離だから。

 

 けれど、その瞬間。

 

「──ぁ」

「突き破れ、セイバー!!」

 

 咄嗟に、直感だけに任せて回避行動を取ろうとしたセイバーが──半歩分前に出る。焼けつくような痛みが手の甲を走る。

 

 見える。払ったはずの一撃目は確かに払われているけれど、それを補う二の太刀が彼女のいた場所を捉えていて、さらにそれを補う三の太刀が反対側を抑えていた。

 

 音が戻る。色が戻る。

 世界が通常運行にまで戻る。

 

 やがて己の目が視認したのは──「佐々木小次郎」の腹に不可視の剣を突き刺すセイバーの姿。

 彼女は少しばかり目を伏せたあと、剣を横薙ぎに振り抜く。

 

「……──すまねぇ」

 

 未熟者め。

 あらゆることが未熟だ。

 今、あの果し合いに水を差すべきではなかった。

 そして罷り間違って差してしまったのなら……死にゆく剣士に謝罪の言葉などかけるべきではない。

 

 未熟者め。だからお前は「成り損ない」だ。

 だからお前は。

 

「ふ──ふ、ふ」

 

 もう起き上がることもできない状態で。倒れ伏し、石階段を転がり落ち……オレの前へと頭を降ろすその状態で。

 

「何を……言うかと思えば。鉄と鉄の打ち合いに、鍛冶の目が利いた。一念鬼神に通ずると言うものだ、セイバーのマスター」

 

 その顔には笑み。

 充足の。

 

「おぬしは刀鍛冶……あの(セイバー)を拵えるのであろう? しかしあれは、幼く可憐で、過去ばかり見るくせに前進しかできない玉鋼。修行不足を嘆くのであれば──そこに言葉は無粋であろう」

 

 

 佐々木小次郎は、「なぁに、これでも女を見る目には自信があってな」などと嘯いて、消えていった。

 

 鳴り響いていたはずの剣戟も。

 石階段を濡らした大量の血液も……ここにはない。

 

 

「シロウ」

「……ああ」

「助力、感謝いたします。貴方の令呪が無ければ今頃私の首はそこに落ちていた。多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)……なんの魔術も使わず、ただ剣技だけで宝具の域に達するサーヴァントがいようとは。完全に油断していました」

「いや……ああ、いや。そうか。そう……だな。……果し合いの邪魔をしてすまねぇってのは、あまりに余計な感情か」

「貴方の望みを思えば、卑怯を嫌うその心持ちも、一騎討ちに水を差すことへの躊躇いも、理解はできます。ですがこれは聖杯戦争。加えて貴方は私のマスターだ、シロウ。貴方の(サーヴァント)が折れそうになっていたから助力(鍛ち直)した。そこにどんな卑怯がありますか」

 

 ……そうだ。

 そうだな。

 それで、納得しよう。

 

「わかった、もうぐだぐだ言わねえ。ただちぃと気になるのは、佐々木小次郎の……アサシンのマスターが出てこなかったってことだな」

「確かに、姿を見せなかったどころか、気配すらありませんでした。……ですが、気持ちも分かります。あのサーヴァントの技量を考えたのなら、負けることなど想定していない。そも、彼の宝具の、その発動の瞬間に令呪を間に合わせることができた貴方が凄いのです、シロウ。それは貴方の常日頃の目利きから来るものであって、使い魔などを通してこの戦いを見ていたのであろう魔術師(メイガス)には適わなかっただろうこと」

 

 確かにそれはそうかもしれない。

 使い魔など使ったことが無い──セイバーは除いて──己にはその感覚はわからないけれど、目の前で起きる戦いと使い魔越しに遠隔で見る戦いとでは臨場感とでもいうべきものに天地の差が出るだろう。

 

 あの時の止まったような感覚は、恐らく己がこの場にいたからこそ起きた現象。

 あるいは佐々木小次郎の披露した燕返しというものがあまりにも死に満ち溢れていたために芽生えたもの……直接向けられたわけでもないのに走馬灯のようなものを覚えてしまったのかもしれない。

 

 なんにせよ。

 

「良い、一騎討ちだった。得難いモンを見ることができた。……令呪は一画使っちまったが、セイバーの助けとなれたのなら幸いだ」

「はい。……ですが、気付いていますか、シロウ」

 

 ゆっくりと見上げるは──随分と下ってきてしまった石階段。その上にある山門。

 

「アサシンと戦っていた時間はそこまで長くは無いでしょうが、あれほどの立ち合いがあった以上、戦闘の音は響き渡っていたはず。だというのに山門から誰かが顔を覗かせる気配がありませんでした」

「それもそうだがよ、オレにはあのお侍さんが工房を敷くってなタイプにも思えねえし、実際なんの供給も受けていなかったように思う。ってぇなると」

「キャスターは健在。キャスターのマスターとアサシンのマスターは同盟を組んでいたのでしょう。であれば、アサシンが打ち果たされた以上……」

「キャスターが報復に来る、か。……セイバー、調子の方はどうだ」

「未だ万全です、シロウ。貴方のおかげで怪我もない」

 

 なら……ここで一旦身体を休める、なんて考えはない。

 門番を打ち破ったのだ。

 そのまま行くのが正道ってモノだろう。

 

 ただ、一つだけ気になることがあるとすれば。

 

 ──しかしあれは、幼く可憐で、過去ばかり見るくせに前進しかできない玉鋼。

 

 先程の彼のあの遺言。

 セイバーがまだ完成されきっていない、というのは……まぁ、わからなくもない。

 昨晩のこともそうだけど、ずっと何かに焦っているような感覚がある。そういうのはちょいとイメージにあるような「英霊」に似合わない。

 歴史に刻まれた英雄とまで言うんだ、もうちっと老成しててもおかしくなかろうよ、という勝手な先入観があるのだ。

 

 けれど、過去ばかり見るくせに前進しかできない、とは何のことだろう。

 

「シロウ? ……ああ、申し訳ありません。私は万全ですが、もしやシロウに疲弊が」

「いや、大丈夫だ。ちと考え事をな。……にしたって敵陣の眼前ですることじゃねえ、集中するよ」

 

 雑念だ。

 後で思い返すべきであることかもしれないが、今じゃない。

 

 行こう。あの剣客が守っていた牙城へ。

 そして──また、選択を迫られる可能性のあるあの場所へ。

 

 

 夕刻に至らない時間帯。

 まだ日の出ている柳洞寺は明るい。

 普段であればそこかしこで掃き掃除をしている坊さんや、掃除に精を出しているこれまた坊さんがたくさんいて、それを見守っている零観さんというこの寺の持ち主がいるはず……なのだが。

 

 いない。

 ただ、学校で感じたあの張り付くような気色の悪いものは無いように思う。

 どころか……。

 

「誰も、いねぇだと?」

「警戒を、シロウ。ここは既に敵の工房内。アサシンのサーヴァントが持つような気配遮断に近しき魔術が使われていてもおかしくはありません」

「……だったら、また視てもいいか」

 

 気配がない。人の気配が。

 サーヴァントらしき武芸者の気配も、そのマスターだろう魔術師の気配も。

 坊さんも──あいつの、一成の気配もない。

 

「そう……ですね。貴方は私が守ります、シロウ。どうぞお願いいたします」

「ああ。真髄解明(トレース)開始(オン)

 

 本日二度目の魔術行使だが、身体に然したる負担はない。

 そもそもこれはオレの目を強化する程度の魔術だ。爺さんには「また妙な遠回りをするものだね」と言われてはいたけれど、オレにとっちゃこれは日課に等しい。ああ、そう考えたら本日三度目の行使だな、これは。

 

 して。

 

「……いねえ。寺のどこにもいやがらねえ」

「それは、マスターがいない、ということですか?」

「いや……サーヴァントもだ。というより多分、一成のやつも零観さんも、坊さんたちも……誰もいねえよ、ここには」

 

 結界は健在。柳洞寺もそのまま。

 けれどごっそりヒトがいない。

 

「セイバー。オレのそばから離れないでくれ。このまま慎重に、寺じゅうを回ってみてぇ」

「ご随意に」

 

 見回る。

 あまり多く通っていたわけじゃねえが、時折一成のやつに呼ばれて瞑想をしに来ていた場所だ。内部構造は大体把握している。

 だから……ぱっと、さらっと見て、視て回って。

 

「霊脈はおかしくなってやがる。死地にさえ思えるほど、気色の悪ぃ……自動的に人間の生気を吸い尽くすようなモンに変わっちまってる。だが」

「はい。魔術師も凶手も、どこにも隠れてはいません。一般人がどこかに押し込められているということもなく……」

「これじゃあ、言い方は悪ぃが宝の持ち腐れだ。こんだけ集めて、けど使わねえなんてことがあり得るのか? それとも佐々木小次郎を顕現させるためだけのコイツで、アイツが消えたら自然に戻る……とか」

 

 それはない、と否定する自分がいる。

 だってここは、まだ生気を吸い続けている。

 これを放置したら……いずれ冬木の地が死に絶える。

 

 が。

 

「オレの阿呆め、こういうモンを視る目は養っておいて……遠坂みてぇに解呪する技術を知らねえ。これじゃあ何の役にも立てねえ」

「それを言うのであれば私も同じです。この地の澱みは感じ取れますが、解決の手段がない。貴方がそれを自責するのであれば、それは私に返るものと思ってください」

「……その慰めは、アレか。刀鍛冶の領分じゃねえ、ってことか?」

「む。……今のは素で出た言葉ですが、確かにそうですね。これは完全なる魔術師(メイガス)の仕事。鍛冶師(ブラックスミス)の出る幕ではありません」

 

 それを言われちゃ……大人しく引き下がるしかねえ。

 

 根っこのところで物を語るのなら。

 オレは、こういうモノこそを叩っ斬る刀を鍛ちてぇんだが。

 

完成理念(トレース)構築(オン)

「シロウ?」

 

 鉄を打つ。鉄を打つ。鉄を打つ。

 円蔵山柳洞寺。これを武器として見ることは……無理だ。

 むしろこれは、守るモノ。守るための礎。

 

 だがよ、魔術師が英雄として在るってんなら、その結界や工房が宝具(武器)として使用されることだってあるはずだ。

 投影する。無理な投影だという自覚はある。

 

 何を成したってわけでもねぇさ。何をした人なのかは良く知らねえさ。

 けど、たとえば、零観さんが英霊となったらよ、そりゃこの寺が宝具となるんじゃねえのか。

 

 それを……そんなあやふやなものの完成理念を、構築する。

 そんなあやふやなものを、降ろ──せない。

 

「っぷは、っあ……。……流石に無理か」

 

 その無理矢理が通せたら、オレの作る刀ってモンも一歩先に行けるかと思ったが……どうやら仕事を急き過ぎたらしい。

 

「シロウ」

「いやなに、ちょいと遠坂の猿真似をしてみようと思ったんだがなぁ、やっぱり餅は餅屋、オレには無理だった」

「シロウ」

「……っと、どうした。もしや敵か?」

「違います、シロウ」

 

 何か。

 藤村の姉ちゃんから感じる怒気に近しいものを背後から感じて……振り返る。

 

 そこには、真顔のセイバーがいた。

 

 えぇっと。

 

「何かを行うのなら、何を行うか言ってから行動してください。先程のような咄嗟のことならまだしも、今は話し合える状況だったはずです」

「う……すまねぇ。お前さんの言う通りだ」

「貴方が何に焦っているのかは知りませんが、もう少し落ち着いてください」

 

 怒られている、ということを理解しながらも、おや? と考えた。

 先程佐々木小次郎に言われた言葉を脳裏で反芻する。

 

 なんだ。

 結局似た者同士か。

 

「……これ以上探しても手掛かりはねぇだろうな。円蔵山全体に捜索範囲を広げるって手もあるが……」

「危険すぎます」

「だな。一成のことは気になりゃするが、見つからねえんじゃ仕方がねえ。帰るとするか」

「はい」

 

 林の中なんざ、足場も悪けりゃ視界も悪い。

 サーヴァントにとっちゃ鴨が葱を背負って歩いてきたみてぇなモンになっちまう。

 

 そうやって踵を返して。

 

「──シロウ、伏せて!」

 

 鬼気迫る声にしゃがみ込む。

 頭上。今さっきまでオレの頭があった場所を通り抜け……直後凄まじい爆風を放つ何か。

 

 抱え上げられるのがわかる。

 セイバーは山門から出ようとして、次の瞬間には別方向へと走った。

 

 またも爆ぜる地面。

 

「な、んだぁ!?」

「狙撃です、シロウ。恐らくはアーチャー。……この寺の結界がある以上、正門からしか出入りはできません。そこを狙われるとあらば……」

 

 アーチャー。遠坂のサーヴァント。なんぞ、オレに怒りのようなものを抱いていた赤い偉丈夫。

 成程弓兵、どこから狙ってるのかは知らねえが、山の中腹にあるこの寺ン中を歩いていたオレ達を精確に狙撃するとは、流石は弓の英雄ってところかい。

 

 なんて感心してる暇は無い。

 

「まずいな、寺が壊されちまうのもコトだが、壊されちまえばオレ達に逃げ場はねぇ」

「彼がアーチャーである以上、その宝具も弓であると推測できます。この狙撃が宝具に依るものではないとした場合、宝具の威力は……私の宝具を解放して、ようやく相殺できるものとなるかと」

 

 そうだ。

 さっきから地面を爆発させてるよぉなこれが、セイバーにおける剣の一振りと同じなら。

 

「これがあの兄ちゃんの万全の状態で、弓兵の領域ってやつか」

「感心している場合では──、っ!」

 

 避け切れないと判断したか。

 オレを投げ捨て、剣で矢を弾くセイバー。

 

 だから、ようやく視えた。

 セイバーの剣によって打ち払われたその矢は……槍、いや。

 

「剣……? ってオイ、消えんのかよ」

 

 なん、だ?

 剣を……投擲する英雄? そんなもの……まさか。

 

「アレか、悪童時代、京で千本の刀を集めるってぇ誓いを立てた、武蔵坊弁慶! 結局九百九十九本で終わったって話だが、それを投げてきてんのか!?」

「それはまた、奇特な人物がいたのですね、日本という国には!」

 

 ガインガインと剣を打ち払うセイバー。

 ……いやこれも「佐々木小次郎」と同じ創作物のモンとされてるけど、まさにその「佐々木小次郎」が出てきて燕返しを披露するまでに至ったってぇんだから、あの赤い兄ちゃんが武蔵坊弁慶でも……。

 いやでも弁慶で……白髪に、褐色肌……しかも弓兵……?

 

「セイバー、令呪を使ってあの赤い兄ちゃんの前まで一瞬で移動する、ってのはできるんだよな」

「無論です──ですが」

 

 少しずつ、少しずつ。

 セイバーは……落ち着きを取り戻していく。

 

「まさか、慣れてきたってのか?」

「いえ。威力自体は魔力を消費せねば打ち払えないものですが、どうにも殺気が感じられない。最初の一射以外は……こちらを削りに来ている、というように感じます」

「消耗戦狙いか。だとすると、ちとマズいな。セイバー運用の絡繰りがバレてる可能性がある」

「……なるほど、それが狙いですか。だとするなら令呪を使うことも控えた方が良いでしょう。あのアーチャーのマスターにも同じことができてしまう。シロウが一画使っている上、次の移動において私達は彼を見失うことが確定している。それは好機にはなり得ません」

「確かにそうだが、んじゃどうする。九百九十九本全部しのぎ切るか?」

 

 どうにも引っかかる。

 アレが武蔵坊弁慶だって言われて納得するヤツ、少なくとも日本にゃ一人たりとていねぇと思うが。

 ……まぁセイバーがどこぞの英雄だって言われて納得するヤツもいなかろうが、ってのは口に出すべきじゃねえだろうな。

 

「シロウ。腕力に自身はありますか」

「そりゃ……刀鍛冶だ、人並み以上にはあると自負してらぁよ」

「では私の首に手を回してください。シロウが自力で私にしがみついている状態であれば、私は十全の状態で剣を振るいつつこの場を脱することができます」

 

 う。

 それは。

 

「……魔術で強化するのは、アリか」

「この際致し方が無いでしょう。ここを切り抜ける方が先決であるかと。幸いアーチャーのマスターは人的被害を気にする魔術師(メイガス)だったと記憶していますから、街へ出てしまえば狙撃も止むかと。それまでの辛抱です」

 

 なら。

 

「──鍛造技法(トレース)追想(オン)

 

 追想するは剛力。なれば勿論セイバーだ。

 ランサーの槍、佐々木小次郎の剣、そして今降り注ぐ矢の嵐を打ち払って尚剣を手放さないその腕を己に降ろす。

 

 彼女の背に乗り、がっちりと組んで。

 

「じゃ、頼まぁ!」

 

 ……結果は、お察しの通りである。 

 オレは風になった──。

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