Fate/senji might   作:ONE DICE TWENTY

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7 Alliance With Rivals

 時刻は夕方。逢魔が時。

 未だ夜とは言えない時間帯に、鍛冶場にて治療を受ける。

 

 治療……といってもセイバーに治療魔術は使えない。だからこれは、ただ。

 

「アタタタ……いや肉も骨も千切れてねぇだけマシだがよ、自分より背丈の低い嬢ちゃんにぶん回されて打撲たぁ情けねえ話だ」

「魔力放出を行いながらの私の速度についてきたのです。振り落とされなかっただけで充分でしょう」

 

 腕全体に巻かれていく包帯。

 強く強くセイバーにしがみついた上で、赤い兄ちゃんの矢を避けるための急な方向転換についていかなきゃならなかったんで、甲冑だの単純な慣性だの、色んなものが腕に負担をかけた。

 折れなかったのはまぁ、日々の鍛練のおかげかもしれねぇが。

 

「なんにせよ、これで少しは盤面の整理ができましたね」

「ん……ああ」

 

 今度は土蔵の床に地図を広げて話す。炉に火はいれてない。火の粉がとんだら地図が燃えちまいかねねえし。

 

「少々不気味ではありますが、ライダー陣営は沈黙。あの学び舎から人間がいなくなったことで、あの結界は意味を為さなくなります。もしあの結界がライダーにとって必要不可欠なものであれば、他の場所がターゲットとなる可能性がある。そこには注意しておくべきでしょう」

「逆に遠坂……アーチャー陣営は殺意が滾ってらぁな。今日みてぇに迂闊に動けば蜂の巣だ。昼間でも関係なく射てきやがったあたり、人目につかなきゃなんでもいいと思ってんのかもしれねぇ。要注意だ」

「はい。特にこれより先、他のサーヴァントを闇雲に探す必要が出てくる。そうなった時……少しでも人目を外れたらアレが来るとなれば」

「面倒通り越して厄介だなぁ。けど、んなことしてたらあの赤い兄ちゃんの居場所は丸見えだ。他の陣営が動くってなことはねえのか?」

 

 一撃一撃が必殺に等しい威力。

 込められた魔力も相当。あんなもの、直接受けていたオレ達じゃなくともどこから射出されているのかわかるだろう。

 

「むしろ逆です、シロウ。他陣営にとっては、(セイバー)は真っ先に潰したい陣営。仮に私がセイバーであるということが知られていなかったとしても、アーチャー陣営が執拗に狙い、殺してくれるのであれば傍観を決め込む……あるいはライダーのように魔力の回収に勤しむでしょう」

「……成程、勝手にやってくれ、って連中の方が多いワケだ」

 

 というか、そりゃそうだ。

 オレがおかしいのだ。サーヴァント同士の一騎討ちを見たい。万全な状態での一騎討ちを望む、なんてオレが。

 普通はあのアーチャーみてぇに、他サーヴァント同士がやり合ったあとの、勝利しながらも疲弊しているはずの奴を狙う。漁夫の利ってやつだな。

 

「とはいえ、アサシンを倒せたことは僥倖でした。対マスターにおけるもっとも危険視すべきサーヴァントがアサシンですから」

「あぁ……佐々木小次郎がアサシン、ってぇのには疑問を抱かざるを得ねえが。アイツも言ってたが、普通はセイバーだろうよ」

「理屈はわかりませんが、彼が自身の正体を偽るような人間には思えません。彼は真実アサシンのサーヴァントで、佐々木小次郎だったのでしょう」

 

 そりゃ……そうかもしれない。

 あのお侍さんは、「佐々木小次郎」は、そういう無粋な真似はしねえだろう。

 よくわからねえもんをよくわからねえままにしておくのは不気味だが、まぁ、アサシン陣営を気にしなくなってよくなった、と、今はただそれだけを考えるか。

 

 ときたら、だ。

 

「残り探すべきはランサー陣営とバーサーカー陣営か」

「キャスター陣営もです、シロウ」

「ああ、そりゃそうなんだがよ。あの無人の柳洞寺にゃ絶対なんかあんだろ。キャスターはいつか絶対あそこに戻ってくる。そう考えりゃ探す手間はいらねえさ」

「……妥当な意見ですね」

 

 片目を閉じる。

 途端、周囲で業火が燃え盛る。

 

 動かなくなり崩れて消えていく人々。

 誰もが助けを求め、助けなどなかった時間。

 肺を焼く空気。肌を焦がす塵。

 

 炎が己と一体となるかのような、いいや、己が炎へと熔けていくかのような意識。

 苦しくて苦しくて、生きていることさえ苦しかったのに……その()の中へ身を委ねようとした。

 

 死のうとしたわけじゃない。

 ()()()()()()()()と、朦朧とした意識で考えていただけだ。

 結局……炎には辿り着けなくて。

 降り始めた雨に、雲を割る陽光に。

 

 オレが作りてぇモンの欠片を見出した。

 来世ってモンがあるのなら、アレを作りてぇと考えて……そのまま意識を落とす。

 落とす筈だった。

 

 閉じようとした瞼が、視界が、その端に捉えたのは男の姿。

 そいつはあの大火災の中、誰でもいいから誰かをたすけようとやってきて、このオレを見つけたのだ。

 

 覚えている。

 目に涙をためて、生きている人間を見つけ出せたと、心の底から喜んでいる男の姿。

 

 あの大火災が()ち、あの大雨が形にした玉鋼の姿。

 

 お天道さんの仕事だと思った。

 アレはお天道さんが鍛き上げた刀。アレはオレというガキを救った。

 アレほどまでにピリピリしていて、アレほどまでに家族……いや、一般人というものに慣れていなかった切嗣(オヤジ)が、あの時見せた表情。行動。

 

 ──間違いなく、それが転機。

 

 オレが憧れたのはお天道さんの方だ。

 オレも……爺さんのような、人を殺す刀のクセに、人を生かすことを心から喜べるような、そんな刀を──。

 

「シロウ?」

「ああ……いや、すまねえ。お侍さんなんてものを見たせいだろうな、ちょいと滾っちまってるらしい」

「滾る、ですか。……作戦立案は私がしておきますから、シロウは鍛冶を行いますか?」

「この腕でか」

「しかしそれが貴方にとっての精神統一なのでしょう。滾る……つまり戦意が溢れているというのはよくない。戦士であれば問題はありませんが、貴方は鍛冶師(ブラックスミス)だ。またぞろ前に出られては私が困る」

 

 う。

 そうしてくれていいと言ったのはオレだが、本当にズケズケと言うようになったなぁ、なんて。

 

「……鍛冶も良いがよ、ちと、オレ自身の鍛錬をしちゃくれねぇか」

「鍛練は、己でするものでは?」

「ああいや、字がちと違う。要するに叩いて強くしてほしいって話なんだが……」

「それはお断りします。貴方が戦うことなどあり得ないのだから、貴方が強くなる必要はない」

 

 取り付く島もねえや。

 

「せめて護身術でも──」

「それこそアサシンのサーヴァントが健在の状態であればその択もありましたが、それが潰れた以上護身術も必要ないでしょう。立ちはだかる障害も、突き破らねばならぬ強敵も、全て私が倒します。……ああ、成程。私がアサシンに後れを取ったから、万一を考えさせてしまったのですね」

「そういうことじゃねえんだが……」

「ではなぜいきなり護身術を、などという言葉を? 失礼ですが、シロウ。貴方の身体は良く鍛え上げられている反面で、戦士としての水準は低い。どのような稽古をつけたところで他マスターと戦い得るほどにすらならないでしょう。だというのにその言葉が出るということはやはり、私を見て不安を覚えたからに他ならないと思いますが」

 

 やるかどうかは別として、慎二のやつくらいはぶん殴れそうなモンだが、なんて見当違いなことを考える。

 ああけど、結局アイツも魔術師として……その覚悟がなくとも、魔術を使ってくるってんなら、確かにオレの出る幕はねぇか。

 

「次こそは貴方の助力無しで勝ち星を上げてみせます。そうすれば、貴方も無理をせずに済む」

「別に信頼してねぇわけじゃねえんだがなぁ」

「言葉だけならなんとでも言えます。そうですね……ではやはり、アーチャー陣営を叩きに行きましょう。彼がいる限り自由行動に強い制限がかかります。幸いにしてアーチャーのマスターの居場所はわかっているのですから、街中を最短で突っ切って彼女の家へ向かえば、彼女もアーチャーを呼び戻さざるを得なくなるでしょう」

「おう待て逸るな逸るな。オレに精神統一を、っていうんなら、お前さんにもちと必要だろうよ」

 

 言葉を発しながら不可視の剣を出し、ガチャリと甲冑を鳴らして立ち上がったセイバーを座らせる。

 お前さん、本当にどっかの英雄なのか。

 いや武芸を疑うわけじゃねぇが、ちと幼さが残りすぎだろう。

 

「そういやよ、セイバー。お前さんはどこの英雄なん──ああいや、言いたくねえなら言わなくていい」

 

 表情の変化は顕著だった。

 悔恨の混じる苦々しい顔。なるほど、これが「過去ばかり見るくせに」か。

 

 このナリで悪行を為したヤツだとは思えねえが、納得のいく人生じゃなかったんだろう。

 むしろ納得のいく大往生なんてもんをしてたら……英霊になんぞなってねぇんじゃねえかな。だって、英霊ってのは聖杯にかける望みがある存在だろう。

 

「……すみません、シロウ」

「今のはオレが唐突過ぎたし無神経過ぎただけだ。……しかしよ、マスターとサーヴァントってな似るもんなんだろ? ってことは、セイバーの願いってのも金だったりすんのか?」

「──……。──はい?」

「今更な話だがな、オレが今最も欲しいモンつったら金だ。爺さんが遺したモンのおかげでバイトなんぞをする必要なく今生活ができてるが、刀の材料の鋼はいくらあっても足りねえ。それを買うための金が欲しくてほしくて仕方ねえ。とすると、お前さんもそうなのか……って、何怒ってんだセイバー」

「いえ。……詳細を話す気はありませんが、そのようなものではない、とだけ。そもそもサーヴァントがお金を手に入れてどうするのですか。英霊の座には持ち帰ることなどできませんし、聖杯戦争後……聖杯を手に入れた後は、受肉を願わない限りサーヴァントは消えます。どの道金銭を使う機会がない」

 

 確かに。

 ……ふむ。

 

「なら、いっそのこと鋼が欲しいとか」

「どうしたのですかシロウ。先程から様子がおかしいとしか言えません。……私の過去に興味があるのはわかりましたが、なぜ今なのですか」

「なぜって、そりゃ」

 

 そりゃ。

 ……これは怒らせるだろうなぁ、なんて思いつつ。

 

「今日、殺されそうになっただろう。実力云々をもう一度言い合う気はねぇよ。だが、一緒に戦ったやつの生い立ちも知らねえままそいつがいなくなる、ってのを考えたら……そりゃどうも嫌だな、って考えちまっただけだ。セイバー。お前さんが聖杯を手にしたとこで、オレはお前さんを知らねえままになる可能性だってあるんだろ。そりゃ……寂しいじゃねえか」

「……」

「なんだよ、その顔は」

「いえ。……タイガから、"シロウは他人にほとんど興味を向けないけど、根は良い子だから大目に見てあげてね"と言われていたので……少し、驚きました」

「藤村の姉ちゃんは何を吹き込んでんだ何を」

「間違っているのですか?」

「……間違っちゃいねえが」

 

 十年前から刀鍛冶に打ち込んできた。

 だから当然友達付き合いなんてものもほとんどしてこなかったし、部活にも入らず速攻で家に帰っての鍛冶三昧。

 横のつながりなんてものができるはずもない。

 

 そんなオレは昔から変人扱いで──だからこそ、声をかけてきて、さらに付き合いを続けることを選んだあの二人は珍しく、貴重な存在なのだ。

 間桐慎二。柳洞一成。

 

 ああ。

 考えりゃ考えるほど無理だな、と思う。

 あの二人をセイバーの手にかけさせるってな……無理だ。

 

 もし、本当にやらなきゃいけねえほど堕ち切っているのなら。

 オレが手ずからやる。そこだけは……譲れない。

 

「しかし、そういう話をするのであれば、まず自身から話すのが礼儀というものではありませんか?」

「む」

 

 確かにそうだ。

 オレは話さないで、相手にだけ話せ、なんて。

 無礼が過ぎる。

 

「つってもオレの過去なんざ英雄と呼ばれるようなやつらに比べたら平凡が過ぎるからなぁ」

「たとえば、なぜシロウが刀鍛冶を志すようになったのか、とか」

「そりゃ……。……まぁ、言っても面白くねえ話だよ」

「であれば、どうして真正面からの一騎討ちにそこまでこだわるのか、とか」

「あー……まぁ半分の理由は時代劇の見過ぎだろうが、もう半分は……」

 

 結局、理不尽が無力を甚振ることが。

 あの大火災が無辜の民の命を奪い尽くしたあの光景が。

 

「面白みのねえ話だなぁ」

「つまり、ほとんど話せない、と。であれば私も話すことはありません。私の過去も面白くなどありませんから」

「ぐ」

 

 ……平行線である。

 どちらも脛に疵持ち同士、ってか。もしあの赤い兄ちゃんが武蔵坊弁慶だったら、三人目になるわけだが。

 

「では雑談もこれくらいにして、私は作戦立案を、シロウは精神統一を──」

「……。……したかったんだがなあ」

 

 今度こそ武装し、立ち上がるセイバー。

 本日三度目の戦闘となるならば、流石のセイバーも疲労が勝りそうなモンだ。

 そうじゃねえことを祈りてえが……セイバーがどこの英雄かわからん以上、どの神さんに祈ればいいのかもわからねえや。

 

「おっとそう構えるな、セイバー、そして坊主」

「無理があるだろうよランサー。ここはオレの家で、アンタはサーヴァント。殺し合いに来た以外の理由が見当たらねえと来りゃ、セイバーだって殺気立つのは仕方がねえ」

「いやホント、オレもそう思うんだが……マスターの命令があってな。しばらくお前達に協力することになった」

 

 ……。

 ……?

 

 今、コイツ、なんて言った?

 

「セイバー、オレの耳がおかしくなったのか? よくわからねえ単語が聞こえたんだが」

「気を抜かないで、シロウ。彼はランサー。最速のサーヴァント。アサシンほどではないにしても、マスターを殺す能力には長けています」

「だよなぁ、そう簡単にゃ信じられねえよな。というかそれで正解だ。これでコロっと信じちまうなら、マスターの命令を無視してオレが坊主を殺してたさ。ま、あの夜の通り……ちゃんと骨のあるやつで助かったが」

 

 バレている。こっそり刀を一本手に取ったことが。

 

「改めて言う。同盟を組まねえか、セイバー陣営」

「理由を──」

「待て、セイバー。戦いじゃねえんだ、交渉事はオレがやる。良いだろ?」

「……そうですね。出過ぎた真似でした」

 

 こういうことくらいはせめて、な。

 人付き合いはしてこなかったが、なぁに、お代官様に山吹色の菓子を贈る程度の知識はあらぁよ。

 

「改めて理由を聞かせてくれ、ランサー。マスターの命令に完全服従ってな性質(タチ)でもねぇだろ。重要なことは話さなくていいからよ、どういうスタンスなのか教えてくれ」

「なら、オレのマスターの言葉をそのまま伝えてやる。"現状の膠着は激しく、戦況は停滞している。このまま誰かが痺れを切らすまで待つ、などという戦いはつまらない"、だそうでよ。"よってランサー、セイバーと共闘し、己が巣穴に引っ込んでいる臆病風に吹かれたマスターどもに火をつけてこい"ってな」

「……ふむ。その申し出を飲む飲まないは別として、二つ言っておかなくちゃならねえことがある。聞いてくれるか」

「おうよ、なんでも言ってみな、坊主」

 

 あの赤い槍を肩に担いだランサーは、ウチの塀の上で……どこか楽しそうに屈みこんでいる。

 なんだか、あの夜の時より楽しそうだ。何かあったのだろうか。

 

「一つ目。オレは一回他のマスターと共闘関係を結んだことがあってな。けど、土壇場も土壇場、もうすぐで目的が達成されるってな場面でソイツを裏切ってる。そんなやつとの共闘、同盟になる。それでも構わねえか」

「ンなもん敵対関係のマスターを心の底から信じ切った奴が悪い。昨日の敵と同じ酒場で酒を飲みかわすこともあれば、今日の味方の背を刺し貫いて大将首を取りに行くのが戦争ってモンだ。それは自陣にも敵陣にも言えること。どれほど堅く重い忠義忠節を持っていようと人の心ってのは簡単に変わる。自身に課した()()()()()()()()()()以外は破られて当然に思う方が身のためだろう」

 

 成程、戦争経験者か。

 英雄なんて大体そうだろうけど、この感じは近年の戦争じゃないだろうな。まぁ槍使いの時点でって話ではあるが。

 

「二つ目は、オレの主義について。前にも言ったが、オレは一対一が好ましい。セイバーとランサーなんていう強大な戦力をぶん回して他のサーヴァントを、なんてのは……嫌だ。単純に二対一ってのもあるが、そもそも一人で問題ないくらい強いだろ、アンタ」

「おう、とびきりな自信があるぜ」

「だから、共闘をするにしても戦闘の手助けをしてもらう気はない。漁夫の利を狙ってくるようなサーヴァントの対処とか、戦場そのものをどうにかしようとするマスターとか、そういうものを相手にしてもらうことになる方が多いかもしれない」

 

 ランサーの口角が上がっていく。

 とても楽しそうに。

 

「それでもいいなら、同盟を受け入れる」

「"構わん。好きにしろ"……とのことだ。てなわけで、しばらくの間世話になるぞ、セイバー、坊主」

「……シロウ、私は警戒を解かない。貴方も、ランサーと二人きりになることだけはやめてください」

「ああ、ランサーのマスターの真意もわからねぇんだ、そんな隙は晒さねえよ」

 

 同盟、か。

 また……大事なところでオレが台無しにするのかと思うと、ちいと気が引けるが。

 

「だがよ、坊主。こっちから声をかけておいてなんだが、オレからも一ついいか」

「内容に依る」

「セイバーの露払いは勿論してやる。だが、一回くらいオレにも戦わせてくれや。どの陣営、どのサーヴァントでもいい。坊主が見てえ一騎討ちって奴が()()()どんなものなのか見せてやる」

 

 その言葉には……多分に、セイバーへの挑発が込められている。

 もしや、アサシンとセイバーの戦いを見ていたのだろうか。

 

「当然オレのマスターはオレを助けねえだろうし、坊主からの助力を受け取ることもできねえ。正真正銘の一騎討ちってやつを──」

「シロウ、やはりランサーとの共闘はやめましょう。そして今すぐこの男と私を戦わせてください。正真正銘の一騎討ち、シロウの助力無しの一騎討ちを以て撃破してみせます」

「いやセイバー、んな明らかな挑発に乗らなくても……」

「主君に勝利の栄耀を捧げられねえどころか、主君の手を借りなきゃ敵を打ち負かせねえヤツのどこが英雄だってな。ああいや、別にお前のことを言ってるわけじゃない。己の武器を隠すくらいだ、あの赤いアーチャーと同じで、お前も真っ当な一騎討ちをするタイプじゃなかったってだけだろう」

「ランサーも煽るなって……」

 

 強大な英雄だ、ランサーは。

 でも多分、セイバーとは徹底的に反りが合わない。……ランサーのマスターの狙いはソレか? ランサーとセイバーを喧嘩させて、二次被害的にオレとセイバーの関係性まで悪くして……。

 だとしたら凄まじく狡猾で、性根のひん曲がった奴に違いない。

 

「……けど、そうなってくると話が変わる」

「ん?」

「今日は二度も戦ってるんだ、休養を取るべきだと思ってたんだが……赤い兄ちゃんからのちょっかいやら何やらをランサーが払ってくれるっていうんなら、哨戒に出てみるのもアリだろう。慎二の性格から言って、昨日の今日で大人しくしているとも思えねえし、なにより」

 

 なにより、だ。

 

「やっぱりオレは……バーサーカーってモンがこうも大人しいってぇのが想像つかねえ。ライダーがあそこまで凄惨なコトをやろうとしてたんだ、バーサーカーともなりゃ余程のことをしでかしたっておかしかねえだろ」

「シロウ、それは前に話した通り、持つべきではない先入観です」

「それがそうでもないみたいだぞ、セイバー」

「む……どういうことですかランサー」

「一昨日の夜、昨日の夜と、遠目じゃあるがドでけぇ体躯の、岩みてぇなサーヴァントがこの辺を歩いていたのをオレが見てる。どうにも何かを探してる様子でな、ありゃ近い内何かやらかすだろうよ」

 

 岩のような英雄。

 ……シーシュポスとか? いやあれは囚人か。というか岩を持ち上げているだけか。

 

「決まりだな。ランサーの言葉の全てを信じるわけじゃないし、この同盟自体も信じ切るわけじゃないが……ランサーにアーチャーの攻撃への対処を頼みつつ、オレ達はバーサーカーを仕留める。セイバー、異論は?」

「危険です、シロウ。この男がアーチャー陣営と結託している可能性も大いにあり得る。もしそうである場合、私達をバーサーカーにぶつけた後、生き残った方をランサーとアーチャーで、という図式が完成します」

「ああ、だから、同盟ってのはそんなものなんだろう。一回こっちが裏切ってんだ、今更遠坂に謀られたってオレに文句は無ぇよ。それに」

 

 それに、だ。

 

「危険を承知で、無理を承知で言うのなら、セイバーならアーチャーとバーサーカーとランサーが徒党を組んでたって勝てるんじゃねえかってオレは思ってんだ。無理な高望みが過ぎるってのもわかってるが、どうにもオレはお前さんの背中に憧れてる節があってな。無策無謀蛮勇杜撰。作戦として見たら愚かすぎるんだろうが……」

 

 わかることもある。

 鍛冶師の目が言っている。

 

この武器(ランサー)は曲がらねぇよ。コイツはそういう武器だ」

「……へっ。……なぁセイバーよ、お前、そこまで拒否するなら、互いのマスターを交換しねえか。オレのマスターとて最優のサーヴァントが手に入るんなら納得するだろう。オレはオレで、この坊主の下に居た方がやりやす──」

「シロウは私のマスターだ。そこは譲らない。……いいでしょう、仮にアーチャー、バーサーカー、そしてランサーが共謀していたとしても、その悉くを打ち払ってみせます」

 

 様々はある。

 思うところは、勿論。焚きつけちまったって罪悪感もある。

 

 だが、セイバーだってそろそろフラストレーションが溜まってるはずだ。

 ここいらで一旦不純物を取り除いてやらねえと、使える鋼にもならねえ。

 

「もう一つ高望みをするのなら、最後の戦いってやつはセイバーとランサーの一騎討ちがいい。それは多分、この世界で最も見ごたえのある武芸者の戦いなんだろうからよ」

「オレのマスターを考えるにソイツはちと厳しそうだが、望みは似てる、とだけ言っておこう」

「私も……初戦の続きを、そしてその終わりを、と考えるのならば、望ましい展開ですね」

 

 剣と槍、どっちが強いのか、なんて。

 剣と刀、刀と銃、矛と盾。色んなドリームマッチがある中で、全国シェア率を考えたらこの二つになるだろう。

 

 ああ……冬だというのに。

 今から身を投じる戦火が、美しく見えてたまらねえや。

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