「〜〜〜〜。では次は、なぜ異能力者は生まれながらに自身の能力について知っているかを説明して貰おうか。それでは・・・ミヒャエル君」
ここは帝国領地内にある十個の学校の一つ、帝国第5魔法学校。世間ではいわゆる中堅校と呼ばれる学校である。
帝国には第1〜10魔法学校があり、帝国に多額の金額(中小貴族なら財産の半分程)を支払った後、魔力量測定をし、魔力量が高い者から順に第1、2・・・と割り振られていく。従って、どの学校に入学出来るかは貴族の親にとっては一大イベントであり、8から下に入ろうものなら落ちこぼれの烙印を押されるのだ。
また、学校に入学してからもどの派閥に属するか、誰と
「はい!」
ミヒャエルと呼ばれた少年は元気よく挨拶をし、スクッと立ち教師からの質問に答える
「異能力者が自身の能力を生まれた時から知っているのは、遺伝子が突然変異し、自身の異能力についての情報を持った遺伝子が生まれるからです。このことは60年前、家系内では似た異能力が発現すること、異能力者の親からは90パーセントの確率で異能力を持つ子供が生まれることに疑問を持った、我が国が誇る天才科学者ガーゲイン卿によって発見されました。また、この特異遺伝子は体の何処かに痣を生じさせる働きも持っていて、そのため異能力者の体には痣があります。しかし、無異能力者の親からも稀に異能力者が生まれることなど、現在でも不明な点が多く、神の領域と呼ばれています」
回答を聞き、教師は満足げに頷く
「うむうむ!先週の講義をよく復習しているようだな。皆もミヒャエル君のように復習は忘れずに。この第5には異能力者は一人もいないが、将来は異能力者の方々と話す機会もあるだろう。その時に異能力についての知識が役立つこともあるかもしれんからな」
それに、と教師は続ける
「痣がなかったとしても落ち込むんじゃあないぞ!もう一つの可能性があるんだからな。異能力者特有の痣はなく、当事者自身も発現条件が分かっていない。しかし、一度発現すれば絶大な力をふるう。そんな、まさに神からの
「
イェークを見ながら、エドモンドはそう呟く。一億人に一人の才能。我が貴き皇帝陛下と同じ、同時にあの忌々しい王子並びに聖女と同じ力!
「ははは、素晴らしい!まさか、新たな御業持ちに出会えるだけでなく戦えるとは!」
勝てるだろうか?そんな自分の疑問を一蹴する。いかに御業持ちといえど、初めての発現。そうならば、自分でも十分に渡り合える!
エドモンドは伝説の暗殺者に勝利した余韻に浸っていた。どう勝利したのかも気にせずに。
目の前のイェークが手を地面に突き、獣のような姿勢を取る。エドモンドは自信に満ちながら、細剣を構える。
しかし、そんな自信も
「ひっ!」
イェークの目を見た瞬間に崩れる。短い悲鳴が漏れる
イェークの瞳は先ほどのぼーっとしたものとは違い、目の前の人間への殺意に溢れていた
エドモンドの体が硬直する。まずい、早くここから逃げなければ・・・。頭では分かっているが体が言うことを聞かない
「グルル・・・ガウっ!」
獣に似た声で鳴き、イェークは目にも止まらぬ速度でエドモンドに襲いかかる。エドモンドだけでなく、イデリーナさえ目で追えないほどの速度で命を刈り取ろうとする。だが、すでにエドモンドの姿はそこにはなかった
「はぁ、はぁ、くそっ」
エドモンドが心底憎々しげにそう呟く。それもそのはず、自身が絶対に勝てないと思う相手に出会った時にしか使わない異能力を使わされたからだ。数分前までは格下だと侮っていた相手に。貴族でもない下等な青年に!
エドモンドが使用したのは、自身の地点から半径30キロメートル円周上にランダムに移動する異能力。一度使用した場合、再び使用するのには1分を要する
「ここは・・・ちっ、運が悪いですね。王国側の山ですか。帝国側の麓に出られればよかったのですが」
やれやれ、とエドモンドはその場に座り込む
(まぁ、良いです。少しここで休憩して、帝国に戻りましょう。「透明の暗殺者」を殺せただけでも十分。あの青年のことは、再度皇帝陛下にお伺いするとして・・)
「なっ!」
そこまで考えて、エドモンドは驚愕の声を上げる。先ほど殺したはずの
(殺せていなかった?いや、しっかりと頭に剣を突き刺したはず。それでは、何故?)
何も上手くいかない。苛立ちながら、そうエドモンドは愚痴る。しかし、新たな御業持ちの発見、これだけで何とか体面は保てるだろう。
その時
ゴッ
後ろで大きな音がした
何の音だろうか。そう思い振り返ったエドモンドの目に映ったのは、森が
真っ白な部屋の中にいる。感覚はふわふわしていて夢の中にいるようだ。この感覚は二度目だな、と今更ながら思い出す。あれは俺がまだ10、11歳の時だったか。あの頃はちょうど反抗期で、厳しい訓練を課してくるババアを嫌っていたっけなぁ
そのくせして、5歳の時にババアから貰った御守りを大事にしてたりして。今思い出しても恥ずかしくなる。でも、本当に嬉しかったんだ。この世界に生まれて、初めて人から貰ったものだったから。
この感覚になったのは、ババアに訓練として魔獣の巣に投げ込めれた時、その御守りを魔獣達にグチャグチャにされた時だ。あの時も夢を見てるような感覚で、気がつけば魔獣達の死体が周りにある中で、ババアに膝枕されて頭を撫でられていた。
恥ずかしがって慌てて体を起こそうとした俺だったが、ババアが力を込めて解放してくれそうになかったもんだから、仕方なく俺は膝枕されながら頭を撫で続けられていた
・・・・とても落ち着いて気持ちよかったので離れ難かったというのもあるが
5分ほど経っただろうか、無言だったババアがおもむろに口を開いた
「あの御守り、そんな大事にしてたのかい。あんなものすぐに作れるんだけどねぇ」
本心を言い当てられたのが癪ですぐに否定しようとしたが、ババアの顔を見てそんな気も失せた。あの時のババアの顔は忘れられない
とても優しくて、とても悲しそうな顔だったから
ふわふわした感覚に身を任せていると、突然部屋の真ん中に風の渦が起こる。前回は起きなかった出来事に驚き渦を見ていると、だんだんと渦は勢いを無くしてゆき、そして中央には髪の白い少年?少女?が立っていた
「やぁ、これで会うのは二回目だね!」
性別不明の子供が心底嬉しそうに語りかけてくる。しかし、俺はこんな子供にあった覚えも、こんな子供を見た覚えもない。というか、ここはどこなのか。これは夢なのか?現実なのか?
「おーい、聞こえてる?聞こえてるよね?なんで、僕のこと無視するのかなー」
俺が色々なことに疑問符を浮かべていると、無視されたのかと思ったのか、目の前の子供が少し怖い雰囲気でそう語りかけてくる。
「おー、ごめんな。でも、お兄さん、君にあった覚えがなくてだな。君は誰なんだい?あと、できればここがどこなのか知っていれば教えて欲しいんだけど」
慌てて俺は膝に手をつき、子供の目の高さに自身の目を合わせて、申し訳なさそうにそう言う
すると、目の前の子供は、えー、覚えてないのぉ、とやや不満げに言ったが、まぁ、話したのはこれが初めてだししょうがないかと呟くように言った
何とか機嫌は治せて貰えたようだ
「僕の正体は残念ながら明かせないんだけど・・・。まぁ、ここがどこかぐらいは教えてあげる。ここはお兄さんの深層意識。夢と似ていて、夢と異なる場所。差し詰、僕はそこに住み着いたとってもキュートな住人ってところかな!あっ、なんで住み着いたとかどうやってとかは答えられないからね!」
何じゃそりゃ。思わず顔を顰める。俺の知らない間に、俺の知らないところに変なものが住み着いちゃってるの?とりあえず害は無さそうだから、ただの夢だと思えばそれまでだが、夢とは異なるって言ってたしなぁ。まぁ、正体は依然として不明だけど、今までずっと何もしてこなかったんだし、放っとけば良いかぁ
「むっ、なんか無害な寄生虫みたいな扱いを受けている気がするー」
拗ねたようにそう言いながら、子供がこちらに近づいてくる
そして爛々とした目でこう言った
「それでお兄さんは今何を望んでいるの?僕が叶えてあげる」
何を望んでいる?急にそう問われ少し考える。そして一つの答えを出す
「ババアに幸せになってもらうのと同時に、元の世界に「それはダメ」早いなぁ!」
俺にとってはそれが一番の願いなんだけど!色々世話になったババアには悪いが、やはり俺にはこの世界は合わないんだ
俺がそう考えていると、目の前の子供はさらに俺に近づき、少し背伸びして俺の頬をその小さな手で包む
「それは駄目だよ、お兄さん。そうしたら、お兄さんともう会えなくなっちゃうから」
「は、はい。わかりました」
歳不相応な妖しく危険な目を見て思わず敬語で了承してしまう
「怯えてるお兄さん、可ー愛い。でもね、お兄さんのお義母さんを幸せにしてあげることはできるよー」
「えっ、本当か!じゃあ、それで頼む!」
思わぬ朗報を聞き喜ぶ。元の世界に帰れないのは残念だが、ババアが幸せになってくれるなら願ったり叶ったりだ
「でも、今は無理かなぁー。だって、死んじゃってるし。流石の僕でも生き返らせることはできないよぉー」
「は?」
一瞬で怒りが身体中を駆け巡る。ああ、何でこの怒りを忘れていたのだろうか。見計らったように目の前の子供が再度俺に聞いてくる
「もう一回聞くね?お兄さんの願いってなーに?」
俺はその質問に答える
「あいつを、エドモンドを殺す力が欲しい。圧倒的な、あいつが恐怖するほどの!」
その願い聞き入れましょう!子供がはしゃぐように言う。俺の意識が遠のいていく。遠のく意識の中で、子供が邪悪に笑っていた気がした
次に意識がハッキリしたのは、エドモンドの首が自身の足元にあると認識した時だった。人を殺した、その事実に一瞬恐怖を感じたが、それよりも俺の身体を駆け巡るのは憎悪の感情だった。
復讐は果たした、それなのに止むことがない憎悪。憎い、憎い、憎い。ババアを殺したこの世界が憎い。今、人を見れば誰彼構わず襲いかかる、そんな確信があった
ガサッ
音がした。人間が目に入る。あぁ、憎い、憎い、憎い!殺す、殺す、殺す!もう感情は止められない。この感情に身を任せるのが、気持ち良い。そうだ、ババアを殺されたんだから、あと一人、二人殺しても良いだろう。そして、自分の獲物の姿を確認して
「あ」
間抜けた声が出た。ババア?いや、違う。雰囲気は似ているけど、年も近いだろうけど、違う。ババアじゃない。ババアは殺されたんだから。だから・・・人を殺しても良い?何考えてんだ俺は。そんなわけないだろ。ああ、でも誰かを殺さないと気が済まない。駄目だ、ここにいたら駄目だ。そうだ、家に帰ろう。家に帰ったら、いつものようにババアが待ってくれていて・・・ああ、そうか・・・ババアはもういないんだよな
混濁する意識の中で、自分の唯一の家族を、母を亡くしたことを再認識する
思わず一つ哭き声を上げる
自然と身体が家へと向かった
目を開く。すると、横から懐かしい声がする
「起きたか。脳ブッ刺されて生き返るとは、相変わらずえげつねぇ生命力だな」
「来てくれたかい、アイザック」
かつての戦友であり、帝国史上最大の反逆者であり、ギルド現団長であり・・・そして、忌々しいことに元彼。戦闘前に万が一の為、魔力鳩を送っていたがまさか本当に来てくれるとは
「たまたま近くにいたもんでよ。それにしても、伝説の暗殺者様が手酷くやられたなぁ。相手はどんな奴だったんだ?」
「なぁに、相手はしょうもない奴だったさ。ただ・・私が変わっただけさね」
少しの間、談笑する。出会いの時のこと、別れの時のこと、アイザックの近況、そしてイデリーナの唯一の息子のこと
一通り話し終えたところでイデリーナがアイザックに問う
「私はもう長くないんだろう?あと、もって5分ってところかい」
「ああ」
アイザックは頷く。
風が吹き、ササァと草が靡く
「俺が駆けつけた時にはもう手遅れだったさ。治療と俺の能力で何とかやってみたが、意識が戻るかは賭けだった。むしろこうして話せてるのが、不思議なくらいさ」
「何ですぐに言わなかったんだい?昔のアンタだったらすぐに伝えてただろう?最期に言い残すことはないかー、とか何とかかんとか言って」
アイザックが一瞬口を噤む
そして、恥ずかしそうに悲しそうに言う
「惚れた女は別の話だってだけだ」
アイザックの返答にイデリーナはしばし驚く
その後、そうかい、と言って、クックッ、と笑う
「それじゃあ、本当に最期だ。何か言い残すことはあるか?」
アイザックはイデリーナに問う
イデリーナは先程のアイザックの返答がよほど面白かったのかまだ笑っていたが、はぁーと息を長く吐き、答える
「もう少しでさっき言ってた私の息子が来る。そいつを頼むよ、って、ほんとにあの子は来るタイミングが良いのやら悪いのやら」
何を、そう言いかけたアイザックは直後凄まじい圧力を感じ、思わず剣に手をかける
「待ちな。あれが私の息子だよ」
「あれがか!?」
アイザックの目の前に現れたのは、一人の青年
獣のように四足歩行の構えをしている、歴戦の自分でも思わず逃げ出したくなるような圧力を放っている、一人の青年
しかし、その圧力もイデリーナの姿を認識した瞬間、霧散した
「ババア?生きてんのか?」
そう言って、青年は四足歩行ではなく二足歩行でイデリーナに近づいてくる
そして、そのまま横たわっているイデリーナに覆い被さるように抱きついた
「おお、おお、身体が大きくなってもアンタの甘えん坊は変わんないねぇ」
頭を撫でながら、イデリーナはそう言う
30秒ほどであろうか、ババア、とイデリーナのことを嗚咽まじりに呼んでいた青年はそのまま眠ってしまった
「じゃあ、こいつのことを頼むよ。大事にしなよ、私の息子なんだからね」
「厄ダネの匂いしかしないんだが」
ポリポリ、と頭を掻きながらアイザックは言う
「なんだい、断るってのかい」
イデリーナが鋭い視線を投げかける
「断んねーさ。さっきも言っただろう、惚れた女だって。惚れた女の願いは多少無理でも引き受けるのが、漢ってもんさ」
アイザックはニカっとそう言って笑う
「助かるよ。あとは・・・・この子から私の記憶を消すことは出来るかい?」
イデリーナの思わぬ質問にアイザックの顔が強張る
「ギルド内で出来る奴はいるが・・・お前はそれで良いのか?」
「この子が私を覚えてたら、それで私の死を知ったら、きっと復讐しようとするさ。帝国にね。でも、この子は人を殺すことに向いていないよ。少なくとも、復讐のために殺すことにはね。この子が人を殺すときは、きっとそれよりも大事なものを守る時だけ。だから、この子の舞台に私はもう要らないのさ」
それにアンタが覚えてくれているんだろう?それで十分さ、微笑みながらそう言うイデリーナを見てしまえば、もはや拒否することは出来なかった
「分かった。お前の言うとおりにしよう」
アイザックの言葉を聞き安心したかのように微笑むイデリーナ
未だ寝言のようにババア、と呟くイェークの頭を撫でながら呟く
「おやすみ、優しい、私の愛する息子」
額にキスをする。目を閉じる。脳裏には、息子の笑顔が浮かんでいた。
「もう少しだな」
そう言って、俺、イデリーナ・イェークは上を見上げた。
今日も今日とて、ジジイの地獄のシゴキを乗り越え、ギルドへの依頼やボランティアを終えた後、俺はお気に入りの場所、王国と帝国の間にある山の頂上を目指していた
「それにしてもジジイも老いたなぁ。前だったら、腹筋500、腕立て500、背筋500、指立て逆立ち30分、その後一時間組み手やっても息も切らさなかったのに。今じゃ、俺程じゃないけど、息を切らすようになっちまって」
まぁ、それでも十分化け物なんだけどな。ジジイ実際には90は超えてるし。それに何とか喰らいつけるようになった(改造された)俺も少し人間から外れているような気がするが・・・
しかし、それでも感謝はしている。確かに訓練は厳しいし、喧嘩も沢山した。だが、ジジイは捨て子だった俺をここまで育ててくれた。一度も俺を蔑ろにすることはなかった。どんだけ俺と喧嘩した日でも、俺が訓練についていけなくとも、俺の世話をしてくれた。それは、俺がジジイを父親のように思うのに十分なことだった
「まぁ、こんなこと絶対にジジイには言えないけど」
というか、こんなこと前も考えていたような気がするけど、気のせいか?凄いデジャブを感じるんだが
「それにしても、ルナさんの過保護っぷりは如何なもんかなぁ。要らないっていつも言ってんのに、今日もついてこようとしてきたし」
ルナさんは、ギルドの姐御さん的存在である
俺が小さい時からお世話になっているため、あまり頭が上がらないのだが、大きくなった今でも俺を子供扱いしてくる場面が多々ある
例えば今朝だって・・・
・
・
「おい、イェク、何こそこそしてんだよ。出掛けんのか?」
「げっ、ルナさん・・・」
「何だよ、げっ、て。それにルナさんじゃなくて、
「いや、でもルナさんと俺は血繋がってないし、ルナお姉ちゃんってのはちょっと可笑しいかなー、と」
「は?また、教えられたいわけ?」
「いえ、滅相もありません!ルナお姉ちゃん」
「それで良いんだよ。たくっ、昔はルナお姉ちゃん、ルナお姉ちゃんって可愛かったのによぉ」
危なかったー!前回、頑なにルナさん呼びを変えなかった俺は、ルナさんから、ルナさんが如何に自分の姉か、姉とはどんな存在かを二時間ほど正座で説教されたことがある
しかし、これを回避しても厄介なのが
「それはそれとして、おいイェク。ハンカチ持ったか?予備の武器は?風邪薬は?昼ごはんは?そうだ、今軽食用にお姉ちゃんが料理作ってやるよ。ああ、あと今日は寒いから、ちゃんと着込んで出掛けろよ。いや、それよりもあたしが側にいてあっためてあげた方が良いか。そうと決まれば、あたしも着替えてこなきゃな。イェク、ちょっと待ってろよ。すぐにお姉ちゃん、支度してくるから」
この怒涛のお姉ちゃんムーブである。早口すぎて、こちらが口を挟む暇もない
「いや、ルナお姉ちゃん。大丈夫だよ。いつも行ってるところだし」
「は?」
あ、やべ
「はぁー、イェク。そういう油断が危ないっていつもお姉ちゃん言ってるよな。本当にいつまで経っても危機感を覚えねぇんだから。まぁ、そこがイェクの可愛くて良いところなんだけど、流石に少しは危機感持ってもらわねぇとな。それともあれか?あ姉ちゃんに全部管理されたいのか?あぁ、そういうことなんだな。そうならそうと早く言ってくれよ。よし、それならイェクのことはお姉ちゃんが今までよりも増して管理してやる。絶対お前のことは傷付けさせないからな。その代わり、イェクも勝手な行動すんなよ?勝手な行動されたら守れるもんも守れねぇからな。あんまり勝手な行動されると、あたし自身何するか分かんねぇし。それじゃ、イェク、あたしが来るまで良い子で待ってるんだぞ」
ルナさんのまたもや早口トーク。途中から何言ってるのか本当に分からん。まぁ、ルナさんが俺についてこようとしているのは分かった・・・・よし、逃げるか
・
・
そして、今に至る
いやー、帰ってからが怖いなぁ・・・本当に、怖いなぁ
「っと、そんなこと思い出しているうちに着いたな。いやぁ、ここの眺めはいつ来てもいいもんだなぁ」
ここがこの山の山頂、標高952メートル地点である
麓から登れば、約三時間ほどで登ることができる
ここからは王国、帝国両国の麓の村が見える
空気も澄んでるし、景色も良い。そして何より
「今日も来たぜ、母さん」
俺の母さんの墓がある
と言っても、全く記憶にないのだが
ジジイの奥さんだったらしいのだが、俺を拾ってすぐに亡くなってしまったらしい
つまり、俺とは全く血の繋がりはないのだが、ジジイを父親と認めている以上、ジジイの奥さんを便宜上俺の母親とした
「それになぜかあんたの名前を見ると、実際に母親だったような気がするんだよなぁ」
もしまだ生きていたら、俺はこの人をババア、と呼んでいたのだろうか
「いやいや、ジジイみたいな変人と結婚した人だ。きっと包容力のある優しい人だったんだろうなぁ。俺も素直に母さんと呼ぶに違いない、うん」
花を変え、手を合わせる。次いつ来られるか分からないため、長めに時間を取る
「さて、家に帰るかぁ」
そう言って、後ろを振り返れば
「は?」
「え、な、なんで、ルナさんがここにいるんだよ!いや、そんなことより!」
「おいおい、イェク。あたしは待ってろって言ったよなぁ!って、おい、逃げるんじゃねぇ!もう一度私がお姉ちゃんだってこと、分からせてやるから!」
ルナさんの脇を抜け、猛スピードで山を下っていく俺。そんな俺を鬼の形相で追ってくるルナさん。ギルドまでの命懸けの鬼ごっこが今始まった!
誰もいなくなった952メートルの頂上
そこに一つの
透き通った風が青空へと吸い込まれていく
供えられた霞草が、穏やかに揺れた