押し入れに引き込もって、ギターを弾いて。
動画を投稿して、コメントを眺めて。
学校に行っても、友達どころか話す相手もいない。
そんな私でも、小学生の頃までは友達と呼んでも許されるような相手がいた。
太陽のように眩しくて。風のように自由で。
何よりも、こんな私にも優しくしてくれて。
もうすぐ高校生になる今でも思い出す。彼との思い出の日々。
小学校に入る前から彼と仲の良かった私は、今の私では考えられないくらい外で遊ぶこと──自分から誘ったことはなかったが──が多かった。
春夏秋冬関係なく、いつでも外で遊ぶのが好きな彼。
特に好きな季節は夏だった。
親同士の仲も良かった私たちは、みんなでプールに行ったり、川に行ったり、BBQをしたり。もちろん二人だけで公園で遊んだり。
私の”経験値”と呼べるものは、あの頃に稼ぎ尽くしてしまったんじゃないかと思えるほどに濃密だった。
そんな濃密な日々の中でも特に思い出す一日がある。
その日が訪れる前の私は、砂場で彼と遊ぶのが好きだった。
運動の出来ないどんくさい私でも、一緒のペースで遊べるから。
それに、砂の山や城を掘ってトンネルを作って、彼と砂だらけの手を繋げるのが嬉しかった。
私の手をぎゅっと握って「やったね」ってすごくかわいい顔で微笑んでくれる彼が好きだった。
今でこそ自覚出来てるけど、当時の私はそこまで理解してなかったと思う。
何となく、彼と手を繋ぐと心がふわふわするような不思議で幸せな気持ちで。
多分手を繋ぎたいって言えれば、彼はなんの文句もなく繋いでくれたんだろうけど、そんな勇気も度胸もない私にはこんな回りくどい方法しかなくて。
だから私も味を占めて、彼を砂場遊びに誘ったんだ。
その日の彼は、会った時から違和感があった。
その時の私には、違和感の正体はわからなくて。
違和感を抱えたまま、公園に着いて。
砂場でせっせと二人で城を作って。
完成した城の土台にいつものように、トンネルを開通させようとした矢先、私は違和感の正体に気付いた。
──肌面積が多い!!!???
よく声に出さなかったと思う。
当時の私スゴイ。
色白だった彼は、肌が焼けるのを心配されてどんなに暑くても半袖で過ごしていたはずなのに、何故かその日はタンクトップだった。
しかも首もとが結構ガバガバの。
トンネルを掘るために前屈みになった彼の首もとから覗く、日焼け跡の境界線。
その先に在る、ふわふわのかき氷の上に乗るさくらんぼのような、ち、ちち、ちく……
「うぎゃああああああ!!!」
その日から私はおかしくなってしまった。
一人であの時の光景を思い出しては悶々として、それを振り払うためにギターを弾いたり、奇声をあげたり。
彼が小学校を卒業して引っ越してから年々酷くなってる気がする。
小学生の頃の異性の友達のダボダボのタンクトップ姿を思い出して悶々とする、女子高生って……。
クラスメイトにバレたらどうしよう……。
今までは義務教育だったから許されたけど、高校生にもなって小学生のことを毎日のように考えてるとか許されないよね。
「あああ〜〜!!イヤだ〜〜!!刑務所で共同生活なんてムリ〜〜!!」
絶望だ。
私の高校生活は、始まる前に終わりを告げた。
「ちょっと、ひとりちゃん。そんな押し入れの中でゴロゴロしてないで。出てらっしゃい」
「お、お母さん?どうしたの?」
お母さんがご飯でもないのに、押し入れから出てくるように言うなんて珍しい。
普段はお客さんが来ても、少し静かにしててって言ってくるくらいなのに。
「ひとりちゃんにお客さんよ」
「????」
私に?お客さん?
誰?もしかしてもう警察が!?
「い、いないって言って!」
「どーして?」
「いいから!」
「まあまあ、そう言わないで。一緒に玄関まで行きましょ?」
「ちょ、ちょっとお母さん!」
お母さんは私を両手で引っ張りあげると、手を繋いだままズンズンと玄関に向かっていく。
困った。テンションの高いお母さんには誰も敵わない。
ホームのはずなのに急に死地だ。
「もう来るはずだから、二人で待ってましょ」
一体誰が私なんかに会いに来るのか。
そろそろ教えて欲しいと言うために口を開いたとき。
ガチャリ、と音を立てて扉が開いた。
「久しぶり、ひーちゃん!」
──天使。
記憶よりも少し低い声で。
記憶よりも高い背で。
記憶よりも白い肌で。
記憶よりもかわいい顔で。
記憶と同じ呼び名を、記憶と同じ笑顔で。
その瞬間私の脳内を駆け巡った思い出たちと、さくらんぼ。
「ち、ちく」
──私は鼻から血を吹き出し、気絶した。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
この作品は、一年くらい前から妄想していた「後藤ひとりの幼馴染みが男の娘だったら」が変質して「後藤ひとりが幼馴染みの乳首に執着していたら」という形になり、半年ほどしてから誕生したものです。
小説形式で文章を書いたのが久しぶりなのに加えて、そもそも長い文章を書くのが苦手なので、物足りないと感じた方には申し訳ないです。
完全な一発ものなので、続きは無いと思いますが、もし思い付けたら書こうと思っているので、その時はまた読んでいただけると嬉しいです。