衝撃的な再開から数ヵ月が経ち。
無事に高校入学を果たせた私は、一緒に暮らす──夏休みまで──ことになった彼と一緒にバイト先であるSTARRYへと向かっていた。
「今日も暑いねー。ひーちゃん」
「う、うん。そうだね。……あーくん」
季節はもう夏と言えるほどに暑くて。
彼とここまで密に触れ合える時間もほとんどない。
だと言うのに、彼に対する私の態度はギクシャクしてて。
後藤家で、最も彼と遊べていないのが私の可能性はかなり高い。
悲しすぎる。実質初対面の筈の妹にすら負けている。
彼と出掛ける計画だって、再開した翌日には立てていたのに。
誘うことすら出来ない。
小学生の頃から変わってない。
うじうじと俯き、彼の踵を見ながら歩く。
しばらくして、彼の爪先がこちらを向いて。
私の手を包む、柔らかい感触。
少し見上げたら、目と鼻の先に彼の顔。
「大丈夫?」
「……うえ?な、なにが?」
「顔色が悪そうに見えたからさ。大丈夫かなーって」
大丈夫だよって、言わなきゃいけないのに。
彼が私の手を握って、目を見てくれてる。
この今が幸せで、手放したくない。
「あ……あの」
「どうしたの?」
「手、繋いで行きたいなって……」
「……」
「いや!あの!い、嫌だよね!私なんかと……」
そう言って離そうとする私の手を、彼はもう一度捕まえた。
「ぜんぜん!嫌じゃない!」
「ホントに……?」
「当たり前だよ」
「でも、反応に困ってそうだったから......」
私の言葉を聞いた彼は、少し困ったようにその肩程にまで伸びた髪をくるくると指で弄る。
「いやー、ひーちゃんから手を繋ぎたいって言ってくれたのが嬉しくて......」
そう言った彼は、はにかんで。
私は鼻を押さえるので精一杯だった。
☆☆☆☆
結局手が真っ赤になった私は、駅のトイレで手を綺麗に洗い、改めて彼と手を繋いでSTARRYへ到着。
少し遅刻した罰として、二人して何故かSTARRYに存在するメイド服を着させられていた。
「キャー!二人とも可愛いー!」
「いやー、初めて会った時から女の子っぽい顔してるな~って思ってたけどこんなに似合うとは......」
「まさか男の娘が実在したとは......!!」
私たちの周りをスマホを構えながら跳ね回る喜多さん。
感心したような呆れたような顔をしてる虹夏ちゃん。
目の形が¥になってるリョウさん。
今日も絶妙に纏まりがない結束バンドのメンバーだ。
「それにしても似合ってるというか、着なれてるわね佐藤くん」
「ねー。普段から女装してるの?」
「はい。休みの日に一人で出掛けるときくらいですけど」
「へー!だったら今度遊びに行きましょうよ!もちろん佐藤くんは女装して!」
「私も予定が合うなら行きたいな!どうかな?歩夢くん」
「いいですね。もうすぐ夏休みですし」
......え?
私の目の前で繰り広げられている、このやり取りはいったい......?
アソビ?に......イ......ク?
わ、私もまだ誘えてないのに……!?
視界がぐにゃりと歪む。
心がサラサラと崩れていく感覚。
ああ......私、ここで死ぬんだ。
「ひーちゃんと、リョウ先輩はどうします?」
ピタリと、彼の言葉を聞いて崩壊が食い止められる。
「奢ってくれるなら」
「わ、私も行く......!」
「じゃあリョウ先輩の分は私が払うから皆で行きましょ!」
「ちょっとちょっと!ダメだよ喜多ちゃん。リョウを甘やかさないで!」
「でも、リョウ先輩一人じゃ可哀想じゃ......」
「だったら喜多さん、僕も出すよ」
「ちょっと!歩夢くんまで!」
「大丈夫ですよ虹夏先輩。僕は皆みたいにノルマとかなくてお金貯まってますし。それに、皆でいるほうが楽しいじゃないですか」
「......はあー、わかったよ。そこまで言うなら止めない。ただし!私も出すからね!喜多ちゃんは一人で払おうとしちゃダメだよ!」
「はあーい!伊地知先輩!」
「よかったですね。リョウ先輩」
「うん。ありがとう歩夢。郁代」
「どういたしまして」
「ちょ、ちょちょちょちょっと!?リョウ先輩!?」
勢いで誘いに乗ってしまった。
またしても彼に誘われてしまったけど、楽しみだ。
......そういえば。どこに遊びに行くんだろう?
リョウさんと喜多さんは、それどころじゃなさそうだけど。
「あの......」
「どうしたの?ぼっちちゃん?」
「えっと......どこに遊びに行くのかなって......」
「あー!確かに。どうしよっか歩夢くん」
「そうですね~。せっかくだから夏らしいところとか?」
夏らしいところ、それってやっぱり海とか山とかプールとか?
どこも引きこもりには辛すぎる......!
私みたいな陰キャが、そんなリア充繁華街に行ってしまったら、キャンプファイヤーの上で縛り上げられてその様を見られながら周りでフォークダンスを踊られるに違いない......!
や、やっぱりやめようかな。
自分で誘えばいいんだし......。
「夏らしいところか~。やっぱり海かな~」
「いいですね~。海」
「そうだね~。まあその辺は喜多ちゃんが落ち着いてから話そうか」
「そうですね」
「......そういえば、歩夢くんって水着はどうしてるの?」
「どうしてるってどういう意味です?」
「いや~。流石に女物の水着は着れないでしょ?だけど歩夢くんの顔だと基本なに着てても女の子っぽく見えちゃうだろうから、どうしてるのかなって思ってさ」
「流石に女性用の水着は来たことないですね。基本的には海パンに上一枚羽織ったりとかですね」
「そうだよね~。流石に着れないよね~」
あははははと笑い合う二人。
昔海に行った時も、そんな格好だった気がする。
でも、よくよく考えてみたら上一枚だけってことはその下には......
ハ!?
危ない。また呑まれるところだった。
もうさくらんぼに惑わされる私じゃない。
別の事を考えよう。
もし、彼が別の水着だったら。
虹夏ちゃんが言ってた女性もの......。
そ、それってビ、ビキニとか?
ビキニなんて、そんな。
上も下も紐がホドケチャッタラ......。
さくらんぼだけじゃない。
かつて小学校低学年の頃に、一緒にお風呂に入ったときに見たあの......!
『あーくん......!!紐が!』
『ひーちゃんなら......いいよ』
そう私に囁いた彼が、押さえていた布切れから手を離す。
重力に従い、彼の美しいボディラインを強調するかのように滑り落ち、そこから現れるさくらんぼ。
彼の身体に確かに存在する黄金。
その全てが今、顔を覗かせる──
「ちょっと!?ぼっちちゃん!」
「ひーちゃん!大丈夫!?」
「後藤さん!?こんなところで死んじゃダメよ!!」
「血の量が多すぎる。ぼっち南無」
誰かが私を心配する声が聞こえる。
でも大丈夫、私は確かに自分の宝物を見つけたから。
まずはこのさくらんぼを──
私は口内に広がる──何度目かもわからない──血の味を確かに噛み締めた。
続きました。
やっぱりキャラを複数登場させると難しいですね。
自分で書いておいて解釈違いに苦しむという。