ぼっち・と・ふらり   作:きんだいち

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ひとりとはじめの一歩

「かくれんぼする人この指とまれ!」

 

 幼稚園の頃の思い出。その指にとまることが引っ込み思案な私にとってどれほど難しいことだったか。友達もいなくて、何もすることもない私は困るといつもお兄ちゃんの姿を探していた。

 

「んー……こうかぁ?」

 

 部屋の隅の方で一人ルービックキューブに励むお兄ちゃん。シャカシャカと素早く手を動かす彼に私はおずおずと近づく。そんな私に気づく様子も無く、お兄ちゃんはただひたすらにルービックキューブと向き合っていた。

 

「あの……お兄ちゃん」

「出来た〜。もういらね」

 

 ぽいっと投げたキューブが私の頭に当たる。角が刺さってとても痛い。キューブは部屋の隅までころころと転がっていった。

 

「いてて……」

「ん? ひとり、いつからいたの? 頭押さえてどうかした?」

「お兄ちゃんの投げたのが当たったの……」

「あ、ごめん。もう投げたりしないよ」

 

 そう言って私の頭を撫でてくれた。この時は友達がいなくてもそこまで寂しくなかった。ちょっと他の人と比べて変わってるけど、優しいお兄ちゃんがいてくれたから。

 

 

 ○

 

 

「たでーま〜。ふたり見てこれ、クワガタめっちゃ採れた〜!」

 

 中学生に入る頃には、もう既にお兄ちゃんの行動範囲は私がついていける範囲を超えてしまっていた。あの頃、すぐ近くにあった背中はもう手が届かないところに行ってしまった。

 お兄ちゃんはいつも自由気ままで何事にも縛られることなく過ごしている。私みたいな暗い人間とは大違い。双子なのに、なんでこうも正反対の性格になっちゃったんだろう。

 

「ひとり、これ見てるのか?」

「ううん。変えていいよ」

 

 ソファに寝転ぶ私の横にお父さんが座った。旅番組から音楽番組に切り替わる。最近流行ってるバンドがインタビューを受けていた。

 

『自分、学生の頃は凄く暗くて。隅っこの方で本ばっかり読んでましたよ』

 

 私みたい。親近感を覚えた私は画面に釘付けになる。こんな学生時代を過ごしてても、テレビに出れるぐらい有名になれる? こんな私でも、お兄ちゃんみたいに輝ける? 

 

「……お父さん、ギター貸して」

「えっ? いいけど……」

 

 リビングを飛び出し、お父さんの部屋からギターを拝借して自分の部屋に籠る。ギターを手に鏡の前に立った私は今までとは完全に違っていた。

 

「ひとり〜、クワガタの名前決めようぜ〜……ってどしたの? 売れないギタリストのモノマネ?」

「ふっふっふ、はじめ。あなたの暴挙もここまでだよ」

「暴挙って、俺そんなことしたっけ?」

「もうはじめの影に隠れる存在じゃない。私は! ウルトラ・スーパー・ギタリストになる!」

「ふーん。頑張れ〜」

 

 こうして、まずはお兄ちゃんをギャフンと言わせるべく毎日六時間の練習を始めることにした。偶にギターを奪われ何となくの演奏でこちらがギャフンと言わされたりもしたけれど、負けじと腕を上げていった私。そして遂には動画投稿サイトで十万人近くのフォロワーを獲得するに至ったのだ。

 これならいける。このギターで輝かしい学生生活を手に入れ……! 

 

『あおーげばー、とおーとしー』

 

「はじめー、こっちで写真撮ろうぜ!」

「おっけ〜」

 

 ……アレェ? 

 

 

 ○

 

 

 高校一年、春。私、後藤ひとりは新しい生活に心躍らせていた。だって高校生だよ! JKだよ!! 華の女子高生! ……まあ、陰キャだから関係無いけど。でもそんな私でも高校では何か変わるかもしれない。

 

「……なーんて思ってた時期もあったなぁ」

 

 結局私は馬鹿で運痴でコミュ障で、引きこもり一歩手前のダメ人間なんだってことに変わりは無いんだ。私が輝けるのはネットの世界だけ。ここならコメントの皆が私を認めてくれる。ここには私と同じ根暗コミュ障が溢れてるんだ。

 

《この曲バンド組んで文化祭で弾きました!》

 

 バンド……? 文化祭……? 

 突如フラッシュバックする中学時代の記憶。文化祭でライブをすることを目標にバンドを組もうとひたむきに勧誘していたあの日々。ちゃんとCD机に置いてたしバンドグッズ持ち歩いてたしお昼のリクエストでもデスメタル流してたし。……結局誰も反応無かったけど。

 

「……いいなぁ、バンド組みたいなぁ」

「なにお前、バンド組みてーの?」

「ひっ!? ちょ、ちょっと、いきなり開けるのやめてよ……!」

 

 私の聖域、押し入れの襖がいきなり開け放たれる。我が家の暴君、はじめ様のお出ましだ。

 

「ご飯出来たから呼びに来たんだけど、全然反応ねーんだもん」

「あっ、ごめん……」

「てかバンド組みてーならそうすればいいじゃん」

「いや……だって私友達もいないし……」

「別に友達じゃなくていーじゃん」

「でも、私人に話しかけるとか無理だし……」

「えー、何かアピール出来そうなやつ持ってけば?」

「そんなの中学の時にもやってたし……」

「じゃあもっと目立つやつ持ってきなよ。ひと目で楽器やってんだなって分かるやつ」

「目立つやつでひと目で分かる……」

 

 ふと押し入れの奥に目を向ける。そこには私の相棒が横たわっていた。

 

「こ、これだーっ!」

「声デカ。まいいや、腹減ったし俺も食い行こ」

 

 上にジャージを羽織りギターケースを背負って鏡の前に立ってみる。わ、悪くない……! いや、かっこいい! 明らかに只者ではない感じが出ている。これなら目立つはずだ。

 

「ふ、ふふふ……今年の文化祭はもらった……! ど、どうはじめ? 似合ってる?」

 

 この非凡さ、お兄ちゃんもきっと興味を示すはず! 

 ……あれ、いない。

 

 

 ○

 

 

 翌日の放課後、私は公園のブランコに座って学校での出来事を整理していた。出来事と言っても何も起きなかったのだけど。

 

「おかしい……こんなに武装していったのに……」

 

 ギター、缶バッジ、Tシャツ、ラバーバンド、私の持ちうる限りを尽くしたというのに。普通、私も好きなんだ〜とか言って声掛けてくるよね? まさか敢えて話しかけられなかった……? 耐えられないよそんなの。

 

「行くぜ、俺のウルトラC!」

 

 隣の馬鹿はなんか凄い勢いでブランコ漕いでるし。危ないからギター避けとこ。

 ……はぁ、もう学校行きたくないな。やっぱりネットの世界が私の身の丈に合ってるのかも。

 そろそろ帰ろうと立ち上がると、公園の外に可愛い女の子の姿が見えた。歳は私と同じぐらいかな。あっ、目合っちゃった……と思ったら凄い勢いで逸らされた。私もすぐ逸らしちゃうからお互い様だけどちょっと悲しい。

 

「あーっと後藤選手、ここで飛び上がったァー!」

 

 ブランコから発射された後藤選手。空中で回転しながら女の子目掛けて飛んでいく。……えっ!? 

 

「ちょっ、危な……」

「えっ、な、何っ!?」

 

 私の心配を余所に、夕陽を背に華麗な三回転ひねりを決め女の子の目の前に着地する。正に百点満点の演技だった。

 

「……びっくりしたぁ。ちょっと、危ないじゃん!」

「ねーねー、さっきこっち見てたっしょ? 俺らになんか用事?」

「無視!?」

 

 お兄ちゃんに絡まれてる女の子を不憫に思いつつ、私は早々にその場を立ち去ることにした。奇行をしている時は連れだと思われたくない。

 

「えっとね、そっちの子に用事があったんだけど……」

「え、ひとりに〜?」

「私!?」

 

 まさかのご指名に驚いてしまう。な、何だろう、お前の連れだろ慰謝料払え的なこと? 恐る恐る女の子の方に近寄る。

 

「す、すみません! この人は煮るなり焼くなり好きにしちゃって大丈夫なんで……!」

「え、俺料理されんの? 多分甘辛い醤油ダレが美味いと思うよ、捌けるもんならやってみ?」

「捌けないし何の話!? って、あーもう時間無いよ! えっとひとりちゃんでいいんだよね? それギターだよね?」

「あっ、はい、そうです……」

 

 忙しない様子で女の子は私に話しかけてきた。ギター、ということはまさかバンド関係!? 

 

「どれぐらい弾けるの?」

「あっ、そこそこかと……」

「ネットだと結構有名らしいよー? 動画の再生数も結構いってるし」

「えっ、ホント!? 実はサポートギター探してたんだよ〜! お願い、今日だけでいいからやってくれないかな?」

「きょ、今日!?」

 

 そ、そんないきなり言われても心の準備が……! でも、ずっとバンドしたかったのに、ここで断っちゃったらもう一生出来ないかもしれない……。あぁ、でも流石にいきなり人前で演奏なんて出来ないよ! 

 

「いいよ〜」

「お兄ちゃん!?」

「ありがとう! じゃあ早速ライブハウスへGO!」

「GO〜!」

「私まだ何も言ってないのに!?」

 

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