爆発が、隆文の作った目くらましを吹き飛ばす。
「うーん。よくさあ。芸術は爆発だ! なんて言うけど、俺としては折角作った物を壊すってどうかと思ってたんだよね」
けど、と龍之介は楽し気に話す。
「うん。たまにはこういうのも悪くないね」
爆発した中心部分を見ながら呟く。
そこには体の所々に火傷を負って膝をつく隆文の姿があった。
服は焼け焦げ、特に右袖の部分は肩口から完全になくなっていた。
何より酷いのは火傷の他の傷だ。
おそらく現実の手榴弾と同じように、心臓の内部に何か鋼片のようなものを仕込んでいたのだろう。
それが炸裂し、隆文の体に大小様々な傷をつけたというところだ。
楽しそうにする龍之介に対し、隆文はすでに満身創痍。
息も相当上がっている。
……クソッ。避けきれなかった。いやそれよりも……
この状況だ。
圧倒的な劣勢。それ以外にない。
手札の質はそれほど変わらないだろう。数にしても同じだ。
ただ、ここまで差が開いているのは……
……気構え……覚悟の差か。
「……お前は、人を傷つけるとき。何を考えてるんだ」
「んー? いや。特には」
強いて言うならそうだな。
「この子はどんな
歩き回りながら自論を展開していく龍之介。
「他の連中はさ。倫理だの法律だのに縛られてる。んなもん勿体ないよ。世界はこーんなに面白おかしいことで溢れているのにさ」
「他人を、害した時点で……法の裁きを受けろよ」
「えー。そんなことしたらもう探求が出来なくなるじゃん」
不満そうに話す龍之介に、隆文は拳を握る。
……なっさけねえ……!
自分には力がある。
目の前で人の尊厳を踏み躙る輩を黙らせるだけの力が。
それなのに、体の方が先に動けなくなっていた。
龍之介がこちらに近づいてくる。
「いやー。でも君には感謝だよ。こうして殺りあえる奴なんていなかったからさー」
だからさ。
「君は特別な加工を施して、俺の最高傑作にすることにするよ」
■■■■■□□□□□
その言葉に、心臓が跳ねた。
それは、明確な死の宣告。
隆文があれほど遠ざけようとしていたものが、目前にまで迫っていた。
……死ぬ? 誰が?
俺が? そう考え始めて、息がさらに荒くなる。
酸素が全身を巡る前に、二酸化炭素と共に外に吐き出される。
……違う。もう、分かってたことだろうが……ッ!
拳に込めた力が徐々に全身に廻ってくる。
命を懸けたバトルロワイヤル。
そこに身を投じるときに、全てを理解した上で、目標を定めた。
どうか。自分の知っているあの結末にならないようにする、と。
脚に力を入れ、立ち上がる。
考えろ。考えるんだ。
今の自分にできることを。
……雨生龍之介。殺人鬼。いや違う。コイツは……
自分の持つ知識を総動員して、目の前の相手を攻略する手立てを考える。
牽制で魔力弾を放つが、指弾に全てを相殺される。
……殺人は趣味と実益を兼ねたもの。本来コイツは魔術師向きの性格だ……
攻撃系のルーンカードを放つ。
大がかりな攻撃は防ぎ辛いのか、大きく距離をとって回避している。
が、ここで龍之介の表情が変わる。
今まで指弾や心臓爆弾で迎撃していたのが、急に回避に専念し始めた。
おそらくストックがなくなったのだろう。
……ッ、ここだ……!
ようやく訪れた絶好の機会。
ここを逃せば勝機は無くなる。
隆文は自分の両足に直接ルーンを刻む。
記す力は脚力強化の
瞬間。隆文は龍之介に向かって駆け出していた。
その速度は十メートル以上はあった間合いが一秒でゼロになるほど。
「え、ちょっマジ!?」
初めて。龍之介の表情に焦りが浮かんだ。
隆文はルーンカードを構える。
記されたルーンは
この勢いのまま龍之介に打撃を与えれば、確実に致命的な一撃となる――――
「――――あー。負けかあ」
龍之介が呟いた瞬間。隆文の拳が龍之介の鳩尾に入り、そのまま殴り飛ばした。
■■■■■□□□□□
殴られた龍之介はそのまま地面を転がり、大の字になった。
……いってぇ。
けど生きてる。龍之介は激痛が走る中、冷静に思う。
先ほどの隆文の一撃は、間違いなく自分を死に至らしめる一撃だったはずだ。
隆文と同じ、魔術師としては未熟な龍之介でもそれはわかる。
だというのに。結果は腹部に走る激痛だけ。
なんでだ? そう疑問に思う龍之介だったが、ふと。腹部に違和感を覚える。
見ると、そこからは血が流れ出ていた。
……おお。
それは鮮やかな赤だった。
雨生龍之介は『死』を探求している。
殺人もその手段でしかなかった。
いつしかそれに快楽を見出し、探求が疎かになりつつあった。
それが今。龍之介が探していた答えの一端がそこにあった。
……ああ。なんだ。
「最初から、俺の中にあったってわけね」
スッと、腹部を撫でる。
すると、先ほどまで流れ出ていた血が嘘のように消えていた。
それでも龍之介は満足気な表情で隆文を見る。
「そりゃそうだよなあ。同じ人間なんだし。おんなじもんが腹に詰まってるよなぁ」
ありがと、と隆文に礼を言う。
対する隆文は、何も言わずに龍之介を見つめていた。
龍之介はゆっくりと立ち上がる。
その姿からは、もう闘争の意志は感じられなかった。
晴れやかな。清々しいといった感じで、龍之介は頭を掻く。
「まあ実感はないんだけどね。これって幻術って奴でしょ?」
問う龍之介に、隆文は答えない。
隆文は直前で闘牛のルーンから、
効果は、対象の望む幻を見せるというもの。
強力なように聞こえるが、これを使用するにはまず相手のことを知る必要がある。
ほぼほぼ戦場では使い道のない、精々が日常で見たい夢を見る程度のことにしか役に立たない組み合わせ。
だが、隆文が使うなら話は別になる。
龍之介の探求する『死』のイメージを具現化する。
龍之介の殺人の衝動を知っているからこそ、このルーンの組み合わせが役に立った。
あまりにもリアルな幻。それは、龍之介に『死』のイメージを植え付け納得させるには十分だった。
それでも龍之介は満足そうにしていた。
「あんだけ色んな人バラしておいてさ。結局。自分の中にあるものが一番だったなんて……灯台下暗しにもほどがあるって」
性質悪いよなあ。
そういうと、龍之介はふらふらとした足取りで隆文に背を向ける。
「……どこに行く」
「ん? ああ。安心しなよ。もう何もする気はないさ。やっと求めてたもんが見つかったんだから」
「ッ、んな言葉信用できるかよ……!」
一歩前に出ようとする隆文だったが、体の力が抜けて膝をつく。
それと同時に、眩暈が襲う。
「悪いけど。これ以上は邪魔されたくないんだ。ああ、安心してよ。別に死ぬような呪いじゃないからさ」
「テメッ、いつの間に……!」
「君が攻撃めっちゃしてきた時に」
コイツ、と悪態をつきながら、呪詛を解呪しようとする。
その間に、龍之介は街の闇の中へと歩を進める。
「本当。探し物は身近にあるって言うねえ」
完全に見えなくなるその前に、龍之介は立ち止まる。
「ねえ。君はさ――――」
何が望み?
それだけ言って、龍之介は何処かへ去っていった。
■■■■■□□□□□
消えていった龍之介の背中を、隆文は見つめ続けていた。
おそらくあの様子では、もう殺人が起こることはなさそうだという予感があった。
雨生龍之介は快楽殺人者ではあるが、決して馬鹿ではない。
己の求めるものが手に入ったのなら、それ以上の無駄な行動は起こさないだろう。
結果だけ見れば、隆文の初戦としてはある意味上々のものなのかもしれない――――
「クソがぁっ!!」
隆文は叫び、地面を拳で殴りつける。
勝つには勝ったのだろう。
だがそれは、自分の中の原作知識というものがあったからにすぎない。
例えていうなら、カンニングをして試験に合格しましたというようなものだ。
実力も何もあったものではない。完璧なイカサマ。チート行為。
最悪なのが、それらのチートを使っても助けられない命が大勢出てしまっているということ。
本来の歴史を変えようと行動しても、結局は元通りになってしまった部分があるということ。
そして何より――――未熟を言い訳にして自分から今の今まで動かなかったこと。
隆文はゆっくりと立ち上がる。
もう既にそこには誰もいない。
あちこちの道路が剥げていたり、抉れていたりするのが先ほどまで魔術戦があったことを示しているだけだ。
「……ああもう。クソッ」
思考が定まらぬまま、隆文はふらふらとその場から離れ家路についた。
こうして。隆文の初戦は、後味の悪い
しばらくして。近くの水場で腹を裂かれた若い男の遺体が発見されたとニュースが流れた。
リリスとテュフォン来たで。